ボケまみれ

青西瓜(伊藤テル)

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【漫才大会】

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・【漫才大会】


 漫才大会は学年関係無く、抽選で選ばれた組に分かれて漫才を行なう予選があり、そしてそこで勝ち上がった組で決勝を闘う。
 一番若い組は小学二年生のコンビがいて、三・四・五、そして六年生もいたんだけども、決勝へ上がった組は全員僕たちと同じ五年生だった。
 しかも相手は全員啓太の相方候補だったメンバーだったのだ。
 ちょいバカくん灰田勉くんと連絡癖の大戸小百合ちゃんのコンビ、オナラの奈良輪松雄くんとポジティブの荒岩奈津ちゃんのコンビ、寿司職人の親差源三郎くんと秀才の梶木川涼くんのコンビ、ボケまくり古村真乃ちゃんと関西弁の明石由香ちゃんのコンビ、そして僕たちのコンビの5組で決勝を争うことになった。
 予選から決勝までには昼食タイムがあったので、そこで啓太と最後の確認をした。
 啓太はこう言った。
「じゃあ自信のあるほうのネタを決勝に残せたから、あとはもうのびのびと漫才するだけだな」
「それと、やっぱりあれだよね。啓太の願い事。優勝したら啓太の幼馴染と会えるんだよね」
「そのことは気にしなくてもいいよ。それよりも今は自分たちの漫才を全力でやるだけだから」
「ううん、僕はやっぱり友達として、相方としても、啓太の願いを叶えるためにこの漫才大会に出たわけだから、そのことは重要だよ」
 啓太は軽く息をついてから、こう言った。
「いやいや、そんなことより俺は駿との漫才を楽しみたいんだよ。確かに目標はある。でも漫才大会の優勝は小学六年生になった時も狙えるわけだから、今は駿との漫才をしっかり遊びたいんだ」
「そりゃ僕も啓太との漫才を楽しみたいけども、目標は目標として持っていたほうがより楽しめると思うんだっ」
 啓太はニッコリと微笑みながら、
「確かになっ、よしっ、じゃあ漫才大会優勝も楽しむことも、誰よりもやってやるぞ!」
「勿論!」
 昼食は早めに食べ終えて、漫才を通しで最後の練習をして、ついに決勝戦が始まった。
 まずはちょいバカくん灰田勉くんことハイくんと連絡癖の大戸小百合ちゃんことサユちゃんのコンビだ。
 あんまりこんなこと考えちゃダメなんだけども、ウケ過ぎないように、と願った。

2人「はいどうも、よろしくお願いします!」
ハイ「最近膝痛いんだよね」
サユ「いや押さえている場所、肘ですよ」
ハイ「じゃあどっちも痛い」
サユ「整体師に連絡しますか?」
ハイ「整体師は怖いんで、遊園地に連絡してほしい!」
サユ「遊園地に連絡して、どうする気なんですか?」
ハイ「いやもう遊ぶけども」
サユ「膝痛い時は歩かないほうがいいですよ」
ハイ「だからジェットコースターに乗って移動するから大丈夫」
サユ「あれは決めたレール上しか動かないですよ、それなら自家用ジェット機に連絡しますか?」
ハイ「えっ? 遊園地内をジェット機で移動できるの?」
サユ「いやニューヨークの整体師に行けます」
ハイ「だから整体師は怖いから!」
サユ「でも痛い場合は治したほうがいいですよ」
ハイ「オレ、イケメンだから治るの早かったりしないかな?」
サユ「顔面治癒とかは無いと思います。ちょっと話が通じないのでハイくんの両親に連絡しますね」
ハイ「ちょっとやめて! 両親にだけは連絡しないで!」
サユ「何でですか?」
ハイ「両親は俺よりバカなんだよね!」
サユ「そんなことないでしょう!」
2人「どうもありがとうございました!」

 ハイくんのちょいバカさを前面に打ち出しつつも、サユちゃんの連絡ツッコミも冴えていた。
 会場の掴みもまずまずといったところ。
 大爆発をしていなかったところは個人的には良かったけども、そういう考えはあんまり良くないだろうなぁ。
 さて、すぐに次のコンビがネタをする。
 オナラの奈良輪松雄くんとポジティブの荒岩奈津ちゃんのコンビだ。

2人「はいどうも、よろしくお願いします!」
松雄「プゥ~」
奈津「早速オナラをこいた! めでたい感じがするね! 正月だね!」
松雄「オナラのことほぎ、プゥ~」
奈津「新年と共にオナラもことほぐとは! 一富士・二鷹・三茄子よりもめでたい可能性出てきたね!」
松雄「一屁士・二屁・三ナス屁、プゥ~」
奈津「全部オナラ関係になっちゃった! 覚えやすくて有難いね!」
松雄「プゥ~」
奈津「ここにきて単独のオナラが出た! オナラ一発でも十分映えますね!」
松雄「天から降り注ぐオナラの音色、ファァ~」
奈津「教会オルガンだ! 天使が見えるような気がしてくるね!」
松雄「ブビビビビ」
奈津「ここにきてオーソドックスな汚い音色が出た! いろんな一面を見せてくれるね! 綺麗なだけじゃない! ダーティな一面カッコイイ!」
松雄「バジル」
奈津「ハーブっぽい音! というか実際にバジルの香りがしてきた! 今すぐパスタ食べたいです!」
松雄「バルブ」
奈津「バルブ! 主に蛇口などのことだ! 捻ると水が出る蛇口などのことだ!」
松雄「あっ……」
奈津「おっと! どうしたんだい! 聞こう! ここはみんなで聞こうじゃないか!」
松雄「お尻から オナラじゃなくて お水出る」
奈津「お尻がバルブとなりぃ! でも5・7・5でカッコ良かったよ! もういいよ!」
2人「ありがとうございました!」

 粗いと言えば粗い漫才なんだけども、奈津ちゃんことなっちゃんの楽しそうな感じがパーティ感を醸し出し、終始会場もウケていた。
 ぐっとこのコンビが優勝を引き寄せた感じ。
 う~ん、負けないように、ミスしないように僕たちは頑張らないと。
 次は寿司職人の親差源三郎くんと秀才の梶木川涼くんのコンビ、あんなグイグイしたボケと梶木川涼くんが組むなんて思わなかったなぁ。

2人「はいどうも、よろしくお願いします!」
親差「てやんでぇい! べらんめぇい! 寺でYEAH!」
 涼「確かに友達がいっぱいいる時の寺はテンションが上がるけども、そんなにYEAHと言う場所では本来ないよ」
親差「寿司職人の弟子でぇい! 気軽にオヤッサンと呼ぶでぇい!」
 涼「弟子ならオヤッサンではない、まあ別にオヤッサンと呼ぶけどさ」
親差「てやんでぇい! べらんめぇい! 部屋でYEAH!」
 涼「何で弱いボケを天丼するんだ、寺のほうが部屋よりパワーワードでしょ」
親差「オヤッサンは天丼より寿司でぇい!」
 涼「でも寿司というお笑いの技術は無いから」
親差「男子の酢飯を放つんだでぇい!」
 涼「知らないワードを放り込むな、酢飯までなら寿司じゃないし」
親差「酢飯! 酢飯! 生温かい男子の酢飯を放つんだでぇぇぇええええい!」
 涼「だから魚の部分はどうしたんだよ! 寿司なら魚の話もしようよ!」
親差「魚は魚クサいから嫌いでぇい……」
 涼「じゃあ酢飯職人になるといいよ!」
親差「酢飯職人なんてないから、稼ぐために寿司職人をやるでぇい……」
 涼「そんな悲しい裏事情聞きたくなかったよ! いいよ! 子供の時は無邪気に酢飯職人を目指そうよ!」
親差「オヤッサンはもう子供じゃないでぇい、メキメキな大人なんだでぇい……」
 涼「えっ、もしかするともう独り立ちしている、とか?」
親差「証拠見せるでぇい……てやんでぇい! べらんめぇい! 寺にあるテレビで野球中継見るオトナに混ざっているでぇい!」
 涼「いや全然大人の証拠になっていない! そんなこと叫ぶヤツ全然子供だから! もういいよ!」

 序盤テンションの高かったオヤッサンが、途中で低いテンションになって、その分、梶木川涼くんが激しいツッコミになるという起伏もあって、思った以上にしっかりとしたネタだった。
 オヤッサンの良さを梶木川涼くんが生かすようにネタ作りをしたに違いない。
 このコンビもウケていて、正直ちょっと怖くなってきたけども、もう今さらといった感じでもある。
 今さら怖くなったところで、もう予選だって終わっているわけだし、予選は勝てたわけだから啓太と、そして自分を信じて頑張るしかないんだ。
 次のコンビはボケまくり古村真乃ちゃんと関西弁の明石由香ちゃんのコンビ。

2人「はいどうも、よろしくお願いします」
真乃「なのー! 真乃ちゃんなのー!」
由香「明石由香でシュカちゃんやでー!」
真乃「はいどうも、よろしくお願いしますなの!」
由香「うん、まあ挨拶はナンボしてもええからな」
真乃「本当によろしくお願いしますなの!」
由香「まあまあ、ええわええわ」
真乃「ガチでよろしk」
由香「もうええわ! 挨拶はもうええわ!」
真乃「漫才が終わっちゃったの……ありがとうございましたなのー」
由香「その”もうええわ”ちゃうわ! ザイマンはこっからやろ!」
真乃「もうネタは何も覚えていないの」
由香「なんでやねん! どういうことやねん!」
真乃「綺麗サッパリで、もう風呂上りなの」
由香「何で気分爽快のサッパリになってんねん! 慌てろや!」
真乃「汗出したらまたお風呂入らないといけないの」
由香「いやまずお風呂入ってへんからな! 自分!」
真乃「舞台はお風呂みたいなもんなの」
由香「舞台はお風呂ちゃうわ! もっと真剣に挑めや! のんびりすんなや!」
真乃「なのー! なのなのなのなのぉぉおおおおー!」
由香「いや急になんやねん、エンジンふかしとんのか、これからやる気満々か」
真乃「すごいヘソのゴマとれたの……!」
由香「いやまったりお風呂やないか! もうええわ!」

 真乃ちゃんのテンションとシュカちゃんのテンションが合わさって、すごく勢いのある漫才だった。
 オチ前に『何だろう』と引き付ける部分もあって、会場も今日一でウケている。
 どうしようと思っても仕方ない、それを越えるよう頑張らないと。
 舞台袖で啓太が笑いながらこう言った。
「後は本当に楽しむだけだな、最高の漫才見せてやろうぜ」
 僕は小さく頷いた。
 本当はもっと大きくリアクションしたほうが良かったのかもしれないけども、自分の呼吸を整えることに精一杯だった。
 大丈夫、きっとできる、予選だってうまくいったんだ、絶対うまくいくはず、というかうまくいかせるんだ。

2人「はいどうも、よろしくお願いします」
 駿「もし学校に一つ、何か増改築できるとしたら、何を増改築する?」
啓太「何視点の誰なんだよ、いやまあ俺ならまったりできる喫茶店とかあったら嬉しいけども」
 駿「僕は学校に翼を付けたいんだ」
啓太「いや翼なんて付けてどうするんだよ、飛べるようになるのか?」
 駿「その手羽先が美味い」
啓太「食べるんかい、それなら喫茶店とかにしろよ、学校とは言え翼を食べるのは気が引けるだろ」
 駿「いやでも学校の翼ということは、めちゃくちゃ大きいから。食べられる部分は多いから」
啓太「そりゃ相対的にはそうかもしれんけども、将来的には無くなるだろ。それなら喫茶店がいいだろ」
 駿「学校の翼は普通の翼に比べて美味しいと思うんだよね」
啓太「味の話なんだ。いやそれなら絶対鶏とか鴨とかのほうが美味いと思うけども」
 駿「きっと味噌味」
啓太「そんなことないだろ」
 駿「きっと磯味」
啓太「磯味が食べたいなら、学校にワカメを増改築しろよ」
 駿「嫉妬、イヌたち」
啓太「いや! 翼があって羨ましいなぁじゃないんだよ! イヌも翼を食べたいなぁじゃないんだよ!」
 駿「でも学校に翼があれば、野良の動物もモグモグ食べられるから。外に翼ってあるものだから」
啓太「野良が口に付けたヤツの共存は食でしたくないわ!」
 駿「それは見解の相違だね、見解の相違ポイントをあげるよ」
啓太「何だよそれ! 集めたら何かなるんか!」
 駿「コーヒー一杯と交換できます」
啓太「いや学校に喫茶店できてんじゃん! もういいよ!」

 僕と啓太の漫才は終わった。
 短い時間なりに、ボケとツッコミの台詞が早くなる部分を作ったり、要素と要素を組み合わせて巧い流れにしたりと、工夫はしたつもり。
 ウケの量も悪くない感じ、果たして優勝は誰になるのか。
 小学四年生以上の生徒が順番に、面白かった組の箱にボールを入れていく、最終的に同時に数えるんだけども、つい自分の組に入ったボールの数を数えてしまう僕。
 啓太は意外というか何というか、目を瞑って祈っていた。
 ついに結果発表の時、箱に手を入れて、一個一個ボールを出していく漫才でツッコミを担当したほう。
 だから僕たちは啓太がそのボールを出す役目を担った。
 まず最初にボールが無くなったのは、ハイくんとサユちゃんのコンビ。
 ハイくんは大きく悔しがって、サユちゃんはすぐさまどこかに連絡をしていた。
 次にボールが無くなったコンビは、松雄くんとなっちゃんのコンビ、そしてオヤッサンと梶木川涼くんのコンビが同時に、だった。
 それぞれ肩を落としていたが、なっちゃんだけはすごく嬉しそうに会場へ向かって手を振っていた。さすがポジティブ。
 最後は僕たちのコンビと真乃ちゃんとシュカちゃんのコンビ、果たして結果は。
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