ボケまみれ

青西瓜(伊藤テル)

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【ニセ関西弁の前々女子 明石由香】

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・【ニセ関西弁の前々女子 明石由香】


 松雄くんの衝撃が忘れられないまま迎えた昼休み。
 啓太といつも通り教室で喋っていると、誰かがツカツカと勢い良く教室に入ってきて、僕たちのほうへ直行してきた。
 そして、
「アタシは明石由香! 通称シュカちゃんや! 松雄が自分のターンはもう終わりでええと言ったから前々精神でやってきたで!」
 それに対して啓太は、
「じゃあ今日と明日はシュカさんということか」
「それはちゃう! というかシュカちゃんな! アタシは今日で終わりや! おっと大丈夫やで! ちゃんと後方のメンバーには連絡したからな! 前倒しになるってな! まあっ! 連絡が得意な小百合ちゃんに任せただけやけどな!」
 すごい勢いで喋るな……このシュカさん、いやシュカちゃんという人は。
 まさに関西人という感じで合っているのだろうか、どこかイントネーションが変で本当の関西弁でも無さそうなんだけども。
 僕はそんなことを思ったが、啓太は、
「じゃあ朝の分が無くなった分、むしろシュカちゃん的には一緒にいるチャンスが減ってるけども、それでいいのか?」
「アタシはそんな細かいこと気にせぇへんねん! むしろ人生は前々でやったるねんて!」
 そう言って力強いガッツポーズを見せたシュカちゃん。
 というか確かに啓太の言う通り、自分を見せる時間が減っている……。
 啓太はシュカちゃんとは対照的に冷静にこう言った。
「シュカちゃんの関西弁は何かおかしいな、雰囲気というか何というか」
「あちゃーっ! やっぱ思てしまうかぁー! アタシは四歳までしか関西に住んでへんから間違った関西弁やねんて! 親が言うには! でもかまへん! かまへん! 別にこれでええやん! 伝わるやん!」
「まあ関西弁っぽいなぁ、ということは伝わるけども」
「それでええねん! 何か伝わってればそれで上等やん!」
 何かザックリとした子だなぁ、と思った。
 それと同時に、やっぱり何か違うなぁ、ということも伝わっていると思った。
 その『何か違うなぁ』が伝わることにより、それがノイズになっていそうだけども、とか思っていると、啓太が、
「というかシュカちゃんってどちらかと言うとツッコミじゃないのか? 関西弁っぽい言葉はツッコミが向いていると思うけども」
「そんなことないわ! 関西はボケも日本一やねんて! じゃあこっからめちゃくちゃボケてくでー!」
 そう言って腕をまくったシュカちゃん。
 それに対して啓太は、
「マイムが古いんだよ、古き良き、昭和の関西になってるから」
「そんなことないわ! これはアタシのルーティンやねん!」
「ほら、マインドがツッコミだろ。シュカちゃんは俺の相方候補からボケを選ぶべきだって」
「ちゃうちゃう! アタシは日本一のボケやねんから!」
 そう言いながら机をバンバン叩いたシュカちゃん。
 叩くとかも正直ツッコミみたいなアクションだなと思った。
「アタシはすごいボケやねんて! ものすごいボケをかますねんて!」
「いやなんだよ、そのボケをかますかます詐欺」
「そうそう関西人は儲かる詐欺に引っかかりやすいんやでー……って! コラコラー! 何を言わすねんて!」
「それノリツッコミだろ、完全にツッコミの考え方で喋っているから」
 そう会話する啓太とシュカちゃん。
 確かにシュカちゃんは全然ボケない、そのボケないことがボケかもしれないけども、それがじゃあ漫才で生かせるかどうかと言われると正直疑問だ、とか考えているとシュカちゃんが僕のことを指差しながら、
「じゃあこっからはコイツとボケ対決や! おもろいほうが勝ちやからな!」
 いや急に矛先がこっちを向いた! 一体何なんだ! 僕も、というか僕は何かボケないといけないのかっ?
 でも実際ここは流れ的に僕が早く何かボケたほうがいいだろうなぁ。
 お笑い的に考えると、シュカちゃんには一切ボケさせず、僕だけボケるほうが絶対面白いはずだ。
 どんなボケをしても、きっと啓太が面白くしてくれるはず。
 だから、
「よーしっ! 早く1億ポイントに達するぞー!」
 とボケてみると、すぐさま啓太がツッコんでくれた。
「いやポイント制ではないだろ、勝利が決まるまでのポイントの量も数えにくいし」
 僕は続けざまに、
「じゃあ1ポイント先取だ! 早くボケるぞー!」
「だとしたらもうボケているだろ、駿の勝ちだろ」
 と啓太がツッコむと、シュカちゃんががっくり肩を落としながら、
「負けてもうたわー!」
 と叫ぶと、啓太がすかさず、
「いや駿の言い値に乗っかって、負け宣言するなよ」
 シュカちゃんはハッとした表情を浮かべてから、
「そやそや! 向こうが勝手に言い出したことやないか!」
 そう言いながら僕を指差したので、その差した指をかわしながら、僕は
「指先からビーム出さないでよ! 鼻が凍っちゃうじゃん!」
 即、啓太が、
「何で冷凍ビームという想像なんだよ、ビーム出てないし」
 とツッコミをして、シュカちゃんが、
「いや全然アタシ、ボケれてへんやん!」
 と、自分で自分をツッコんだ。
 良かった、お笑い的にシュカちゃんがボケられないという流れが一番良いだろうから、それを理解した上で実践できて。
 シュカちゃんは体を震わせながら、こう言ってきた。
「やっぱりアタシは、ツッコミなんかい……?」
 啓太は間髪入れずに、
「いやそうだろ、シュカちゃんはどう考えてもツッコミだろ」
 と言うと、シュカちゃんは踵を返し、ゆっくり教室を出ていこうとしたので、啓太が、
「漫才大会での勝負、楽しみにしてるぞ」
 シュカちゃんはバッと振り返って、
「絶対負けへんからな!」
 と言って走って去っていった。
 啓太はシュカちゃんがいなくなってから、一息ついて、こう言った。
「ツッコミだったよな?」
「そうだね、僕もシュカちゃんはツッコミだと思うよ」
「というかやっぱり駿のボケいいじゃん」
 そう言って僕の肩を叩いてきた啓太。
 いやでも
「あれは適当に言っていただけで」
「でも実際、シュカちゃんにボケさせないようにボケ続けるというコンセプトを持っていたんだろ?」
「あっ、啓太も分かった? やっぱり分かった?」
「そりゃ勿論。というか絶対そっちのほうが面白いからな。ボケるボケる言っているヤツがボケる隙間を与えられないって。ほら、駿も考えてお笑い作れるんだから絶対俺とコンビ組んだほうがいいって」
 そう言って笑った啓太。
 いやでも
「う~ん、今回がたまたまかもしれないから」
 そのコンビを組む組まないの会話はこれで終了し、その後は、普通に最近あった面白いことなどの話をした。
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