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【6オクターブのオナラを出す男 奈良輪松雄】
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・【6オクターブのオナラを出す男 奈良輪松雄】
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啓太といつも通り登校していると、目の前から鼓笛隊のような音が鳴り始めた。
澄んだ笛のメロディに、スネアドラムのような太鼓の音がリズミカルに鳴らされている。
一体何なんだと僕も啓太も思ったみたいで、自然に抜き足差し足忍び足のように、音を立てずに、警戒しながらゆっくり歩いていくと、突然その音が止まり、一拍開いてから『プゥ~~~~』というオナラのような音が鳴った。
その緊張と緩和というか、行進曲のような曲から急にオナラという落差にズッコけてしまうと、目の前から誰かに話し掛けられた。
「ワイは奈良輪松雄、今日の相方候補だ、よろしプゥ~」
と言いながら『プゥ~』のタイミングでオナラを出した、松雄くん。
いやいやいや、そんな、まさか、自由自在にオナラを出すなんて。
啓太は後ろ頭を掻きながら、こう言った。
「そうか、松雄だったか。小二以来だな。鼓笛隊も昔より豪華になったな」
いや昔から鼓笛隊付きの小学生って何?
でもそんな基本的なことをすっ飛ばして、啓太と松雄くんは会話する。
「ワイのオナラも豪華になったからな。鼓笛隊に負けないくらいのオナラは出せるようになったぞ」
「いいよ、別に。オナラボケは正直欲していないからさ。俺には一番の相方候補もいるしな」
そう言いながら僕のほうを見た啓太。
いやいや僕は多分相方はやらないけども、とか思っていると松雄くんが、
「まあワイのオナラのポテンシャルを全部聞いてからにしな」
と自信満々に言い切った。
何だかその自信は羨ましいと思った。
僕もそのくらいの強気があれば、すぐに啓太とコンビを組むこともできたのにな……と思った時にハッとした。
組むこともできたって、僕はコンビを組みたいってことなのかな? いやでも表舞台に立つほうじゃないし……。
でも、もし、でも、もし、僕に勇気があればコンビを組んで、漫才の練習に励んだのかな?
う~ん、僕はどう考えているのか正直自分の事なのに、自分でも分からない……と悩んでいる刹那、空からまるでオルガンのような、天から降り注ぐ天使の音色が聞こえてきて、僕はバッと上を見ると、松雄くんは笑ってからこう言った。
「ハッハッハ! 天を見上げるだろう! そうだろう! そうだろう! ワイのオナラは空から降り注ぐこともできるようになったのだ!」
そこで啓太が一歩踏み込んでからツッコむ。
「いやどういう原理だよ! オナラで人知を超えるなよ!」
「そしてワイのオナラの香りはミントの香りだ!」
「オナラが芳香剤ってどういうことだよ! だからってオマエのオナラで充満したいとは思わないな!」
すごい。
オナラもすごいけども、こんな未知の能力に対して、すぐさま順応してバシバシとツッコんでいく啓太もすごい。
啓太は面食らったり、怯んだり、しないのだろうか。
「啓太よ。ワイのオナラは学校じゃ狭すぎるからな。外でワイのオナラを堪能しつくせ!」
「いや! 実際の漫才大会は体育館でやるんだよ! 本番が狭すぎたらもうアウトだろ!」
「その時は無臭のオナラに切り替えるから大丈夫だ」
「だからってオナラが出たという事実は、オナラという存在は消えないだろ! 全体的に迷惑掛かるだろ!」
ガンガンツッコんでいく啓太はやっぱりカッコイイと思う。
この物怖じをしない力強さは魅力的だ。
だからこそ、この松雄くんとか、菜乃ちゃんみたいにどんどんボケていく相方がいいのではないだろうか、と考えてしまう。
「ワイのオナラはそれだけじゃないんだ! 喰らえ! 濃縮オナラ! の! にぎりっぺ!」
そう言って松雄くんは自分のオナラを握り、啓太の手の近くで手を開いた。
いやにぎりっぺって大体、相手の鼻の近くで開くのでは、と思っていると啓太が叫んだ。
「熱ぅぅううううううううううううううううううう!」
「どうだ! ワイの濃縮オナラは激熱のオナラなんだ! すごい技だろう!」
「いや! 漫才するにあたってマジで熱い必要は全く無いんだよ! そういうのは演技でどうにかするんだよ!」
というかオナラが熱いって何?
いやまあたまに僕も熱いオナラが出ることあるけども。
それを意図的に出すって、すごい、いやすごいのか、いやすごいだろうけども、あとそれを濃縮オナラと呼んでいる感性も気になる。
「どうだ! 啓太! ワイを相方にする気にはなったか!」
「いやもう全然大丈夫だし、オマエは漫才大会に出ないほうがいい」
「何故だ! ワイのオナラが光らないからか! 光り出すオナラはまだ研究中なんだよ!」
「能力が足りないなぁーじゃないんだよ、オナラで漫才して勝てるとは到底思えないだけだよ」
光り出すオナラを研究中ってすごいこと言うな、この松雄くんって。
漫才大会よりも目指すべき大会があるんじゃないだろうか、大会というか学会だけども。
「駿、松雄は無視して学校に向かおうぜ」
そう言って啓太は松雄くんの横をするりと抜けて、鼓笛隊もかわして、歩み出した。
実際に横をすり抜けて思ったけども、鼓笛隊は二十人くらいいて大所帯だったなぁ。
・【6オクターブのオナラを出す男 奈良輪松雄】
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啓太といつも通り登校していると、目の前から鼓笛隊のような音が鳴り始めた。
澄んだ笛のメロディに、スネアドラムのような太鼓の音がリズミカルに鳴らされている。
一体何なんだと僕も啓太も思ったみたいで、自然に抜き足差し足忍び足のように、音を立てずに、警戒しながらゆっくり歩いていくと、突然その音が止まり、一拍開いてから『プゥ~~~~』というオナラのような音が鳴った。
その緊張と緩和というか、行進曲のような曲から急にオナラという落差にズッコけてしまうと、目の前から誰かに話し掛けられた。
「ワイは奈良輪松雄、今日の相方候補だ、よろしプゥ~」
と言いながら『プゥ~』のタイミングでオナラを出した、松雄くん。
いやいやいや、そんな、まさか、自由自在にオナラを出すなんて。
啓太は後ろ頭を掻きながら、こう言った。
「そうか、松雄だったか。小二以来だな。鼓笛隊も昔より豪華になったな」
いや昔から鼓笛隊付きの小学生って何?
でもそんな基本的なことをすっ飛ばして、啓太と松雄くんは会話する。
「ワイのオナラも豪華になったからな。鼓笛隊に負けないくらいのオナラは出せるようになったぞ」
「いいよ、別に。オナラボケは正直欲していないからさ。俺には一番の相方候補もいるしな」
そう言いながら僕のほうを見た啓太。
いやいや僕は多分相方はやらないけども、とか思っていると松雄くんが、
「まあワイのオナラのポテンシャルを全部聞いてからにしな」
と自信満々に言い切った。
何だかその自信は羨ましいと思った。
僕もそのくらいの強気があれば、すぐに啓太とコンビを組むこともできたのにな……と思った時にハッとした。
組むこともできたって、僕はコンビを組みたいってことなのかな? いやでも表舞台に立つほうじゃないし……。
でも、もし、でも、もし、僕に勇気があればコンビを組んで、漫才の練習に励んだのかな?
う~ん、僕はどう考えているのか正直自分の事なのに、自分でも分からない……と悩んでいる刹那、空からまるでオルガンのような、天から降り注ぐ天使の音色が聞こえてきて、僕はバッと上を見ると、松雄くんは笑ってからこう言った。
「ハッハッハ! 天を見上げるだろう! そうだろう! そうだろう! ワイのオナラは空から降り注ぐこともできるようになったのだ!」
そこで啓太が一歩踏み込んでからツッコむ。
「いやどういう原理だよ! オナラで人知を超えるなよ!」
「そしてワイのオナラの香りはミントの香りだ!」
「オナラが芳香剤ってどういうことだよ! だからってオマエのオナラで充満したいとは思わないな!」
すごい。
オナラもすごいけども、こんな未知の能力に対して、すぐさま順応してバシバシとツッコんでいく啓太もすごい。
啓太は面食らったり、怯んだり、しないのだろうか。
「啓太よ。ワイのオナラは学校じゃ狭すぎるからな。外でワイのオナラを堪能しつくせ!」
「いや! 実際の漫才大会は体育館でやるんだよ! 本番が狭すぎたらもうアウトだろ!」
「その時は無臭のオナラに切り替えるから大丈夫だ」
「だからってオナラが出たという事実は、オナラという存在は消えないだろ! 全体的に迷惑掛かるだろ!」
ガンガンツッコんでいく啓太はやっぱりカッコイイと思う。
この物怖じをしない力強さは魅力的だ。
だからこそ、この松雄くんとか、菜乃ちゃんみたいにどんどんボケていく相方がいいのではないだろうか、と考えてしまう。
「ワイのオナラはそれだけじゃないんだ! 喰らえ! 濃縮オナラ! の! にぎりっぺ!」
そう言って松雄くんは自分のオナラを握り、啓太の手の近くで手を開いた。
いやにぎりっぺって大体、相手の鼻の近くで開くのでは、と思っていると啓太が叫んだ。
「熱ぅぅううううううううううううううううううう!」
「どうだ! ワイの濃縮オナラは激熱のオナラなんだ! すごい技だろう!」
「いや! 漫才するにあたってマジで熱い必要は全く無いんだよ! そういうのは演技でどうにかするんだよ!」
というかオナラが熱いって何?
いやまあたまに僕も熱いオナラが出ることあるけども。
それを意図的に出すって、すごい、いやすごいのか、いやすごいだろうけども、あとそれを濃縮オナラと呼んでいる感性も気になる。
「どうだ! 啓太! ワイを相方にする気にはなったか!」
「いやもう全然大丈夫だし、オマエは漫才大会に出ないほうがいい」
「何故だ! ワイのオナラが光らないからか! 光り出すオナラはまだ研究中なんだよ!」
「能力が足りないなぁーじゃないんだよ、オナラで漫才して勝てるとは到底思えないだけだよ」
光り出すオナラを研究中ってすごいこと言うな、この松雄くんって。
漫才大会よりも目指すべき大会があるんじゃないだろうか、大会というか学会だけども。
「駿、松雄は無視して学校に向かおうぜ」
そう言って啓太は松雄くんの横をするりと抜けて、鼓笛隊もかわして、歩み出した。
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