上 下
7 / 11

【07 夏休みにも呼び出されて ~サッカー観戦~】

しおりを挟む

・【07 夏休みにも呼び出されて ~サッカー観戦~】


 夏休みに入った直後だった。
 なんと校長先生が僕の家に電話を掛けてきて、近くのサッカースタジアムでサッカーを観戦しようというお誘いがあったのだ。
 嫌な予感しかしなかったけども、校長先生はもうチケットを買ってしまったらしく、無駄にするのも良くないので、僕は行くことにした。
 現地集合らしいので、僕は最寄りの駅で電車を待っていると、聞き覚えのある声が、
「やっぱり妻夫木くんだ! 妻夫木くんも呼ばれたんだね! 嬉しい!」
 その声の方向を見ると、そこには笑顔で手を振る桜さんがいた。
「あっ、桜さんも校長先生に誘われたわけだね」
「そうなの! というか本当に嬉しい! 妻夫木くんも一緒だなんて!」
 そりゃまあ校長先生と二人きりよりも、同い年の人がいたほうがいいだろうなぁ。
 僕と桜さんは二人で電車に乗った。
 車両がもうガラガラで、僕と桜さん二人きりだったので、ある程度声を出しても大丈夫そうだ。
 桜さんは背中にしょっていたリュックサックを前にして、膝の上に置いて、中からポッキーを取り出した。
「妻夫木くんにもあげる!」
「ありがとう」
 と言って、受け取ろうとすると、その僕の手をひょいとかわして、桜さんはポッキーの先端を僕の口に持っていって、
「私が持ってるから妻夫木くん、リスみたいに可愛くサクサク食べてよ!」
「リスってサクサク食べたっけ? ハムスターじゃない、それなら」
「うん! どっちでもいい! どっちでもいいからサクサク食べてよ!」
「どっちでもいいてっ、いやまあ何か変だから普通に食べるよ」
 そう言ってまた受け取ろうとすると、その手をまたおひょいとかわした。
「妻夫木くん! これは私のポッキーなんだから私の意向通りにしてもらいます!」
「いやでも何かちょっと恥ずかしいよ」
「大丈夫! 他に人はいないので!」
 確かにそうなんだけども、何だか内から込み上げてくる恥ずかしさが……。
 いやまあいいか、サクサク食べるかっ。
 そう思って僕は桜さんが持っているポッキーをサクサク食べると、桜さんはムズかゆいような何か変な笑顔をしながら、
「可愛い! 妻夫木くん可愛い!」
 と言ってキャッキャ喜び出した。
 いや。
「可愛いってイジリかた止めてよ、たまにするけども、そういうイジリかたはそのあとどう言えばいいか分からないよ」
 そう言うと首をかしげながら、う~んと唸って、桜さんは
「イジってるわけじゃないんだけどなぁ~……」
「いやイジってるじゃないか、男子を可愛いなんて言うなんてバカにしているくらいだよ」
 僕がそう言うと、急に大きな声で
「そんなつもりはない! 褒め言葉!」
 と言ったので、
「じゃあ嫌な意味ではないんだねっ」
「そうそう! 褒め言葉だったの! すっ! ……だから、あの……えっと、うん、あれだから」
 と急に弱々しくモゴモゴ喋り出した桜さん。
 ”すっ”って何だろう? まあいいや。
「じゃあ可愛いって言われた時は喜べばいいんだねっ」
「そうそう! 喜んでくれると私も嬉しい!」
 そう満面の笑みで言った桜さん。
 じゃあ。
「褒めてくれてありがとう、桜さん」
 そうお礼を言うと、桜さんはまたムズかゆそうな笑顔で、口元をムニャムニャさせながら、
「もう! 妻夫木くんったら!」
 と、やたら上機嫌そうにした。
 よく分からないけども、上機嫌ならなによりだ。
 目的の駅、初田ガルライFCスタジアム前に着き、降りて、僕たちは集合場所であるスタジアムの正門前に行くと、校長先生がいた。
《やぁ》
 校長先生はユニフォームのレプリカを着ていた。
 どうやらこの初田ガルライFCというチームがかなり好きみたいだ。
 僕と桜さんは挨拶する。
「今日はよろしくお願いします」
「よろしくね! 校長先生!」
《実はワシ、初めてスタジアムに来たんだ。でも一人じゃ心細くて来てもらったわけだよ》
「あっ、初めてなんですね、ユニフォームのレプリカを着ていたんで常連だと思いましたよ」
 僕がそう言うと、校長先生がにっこりと微笑んでからこう言った。
《これは自分で作ったんだよ》
 えっ!
「自分で作ったんですかっ! というか自分で作っていいんですかっ!」
 と僕が驚きながらツッコむと、桜さんが僕の肩にポンと手を置いてこう言った。
「何でも作って良いに決まってるじゃない、あのポッキーも私の手作りだよ」
「いや! ポッキーも手作りだったのっ! じゃああれだよ! すごくおいしかったよ! ありがとう!」
 僕が頭を下げてお礼を言うと、桜さんはかなり満足げな表情になりながら、
「パッケージから手作りしちゃった」
 と言ったので、僕はもう校長先生の時よりも驚愕してしまった。
 というか。
「何でそんなこだわりをっ!」
「実は校長先生から妻夫木くんも誘う予定という話を聞いていて、妻夫木くんのために作ったんだっ」
 そう優しく微笑んだ桜さんに、何故か僕は胸がドキドキした。
 いやドキドキして当たり前か、テンション上がるもんな、僕のためにポッキーを作ってくれたなんて。
 というか。
「僕何も準備できなくてゴメン!」
 そう謝ると桜さんは、首を優しく横に振りながらこう言った。
「謝らなくていいよっ、私がしたくてしているだけだから。むしろ、謝るんだったらそれ以上の”ありがとう”がほしいっ」
 と言ったので、僕は感激した気持ちを伝えたくて、桜さんの手を強く握りながら、
「ありがとう! 最高の副会長だよ! 桜さん!」
 と言ってから手を離すと、桜さんは何でか顔を真っ赤にしながら、かつ、少し不満げにこう言った。
「副会長じゃなくてさ……他の言い方無いの……」
 他の言い方……副会長じゃさすがに距離が遠いかな……やっぱりここまで一緒にやって来たんだ。
 こういうべきかな。
「じゃっ、じゃあ、ありがとう、桜さん、最高の友達だねっ」
「まあ、今はそれでいいけど……」
 まだ何か不満そうだけども、なんとかいいみたいだ。良かった。
 しかしその桜さんの何倍も不満そうな顔がそこにはあった。
 校長先生だ。
《ユニフォーム作ったこと、もっと褒めてよ》
「あっ! すみません! いやでもユニフォーム作るってすごいですね!」
《まあいいけどねっ》
 ちょっとまだ機嫌が優れない校長先生。
 う~ん、どうしよう。
 そうだ。
「校長先生! スタジアムグルメというヤツ! 買うんで、みんなで食べましょう!」
 そう言うと、校長先生は一気に笑顔に戻った。
 まずはスタジアムの前に出展されているお店で、料理を買うことにした。
 そこの店員さんも皆、ユニフォームのレプリカを着ているのだけども、何かちょっと違う。
 いや、というか違うのは校長先生のほうだ、手作りなんだから。
 でもどこが、どう違うのかな……て!
「校長先生のユニフォーム! スポンサーが本物より多い!」
 僕のその言葉に反応して、桜さんも喋った。
 どうやら桜さんも校長先生のユニフォームと店員さんのユニフォームの違いを考えていたようだ。
「あっ! 本当だ! ”やまむら屋”という文字が校長先生のほうには入っている!」
《よく気付いたね》
「いや! スポンサーが多いのはダメでしょう! 変な企業を勝手に追加しちゃダメですよ!」
 僕がそうツッコむと、ムッとしながらこう言った。
《変な企業じゃないよ、これは実家の酒屋だよ》
「いやでも実家の酒屋を勝手に追加しちゃダメですよ!」
《希望込みだよ》
「まあ自分で作ったのならば、もうそれでいいのかもしれないですけどもっ」
 そして僕たちはたこ焼きを買って、スタジアムへ入っていった。
 階段を上って、サッカーコートが見える中に入った。
 観客席は意外と傾斜が強くて、何だか下に落ちそうになるような感覚にもなって。
 結構すごいなと思っていると桜さんが、
「ここのスタジアムの傾斜は28度だって。他のスタジアムは34度とかあるらしいよ」
「桜さんってサッカーのスタジアムに詳しいんだね」
「うん、私のパパがサッカー好きで、私もパパに連れてもらって結構他県にも行くんだよっ」
 知らない桜さんの一面を知れて、何だか嬉しくなっていると、隣で校長先生が震えていた。
《傾斜がすごい……怖い……うっ、うっ!》
「あっ! 校長先生! 泣かないで下さい!」
 と言っても、こうなったら止まらないモノで、
《うわぁぁああああああああああああああああああんん!》
 まだスタジアムの中にいる人たちは少なかったけども、大勢の人がこっちを見てしまって。
 僕はとっさに校長先生の口の中にたこ焼きを放り込むと、
《うっ、うっ……あっ、怖くない……って! うわぁぁああああああああああああああああん!》
 と一旦怖くなくなったはずなのに、また泣き出して何でだと思っていると、
《アツアツだよぉぉおおおおおおおおおおおおおお!》
 いやたこ焼きの熱さでまた改めて泣き出したのか!
 僕はたこ焼きを買う時、一緒に買っておいたペットボトルのメロンソーダを飲ませてあげると、
《助かった……うっ……うわぁぁん》
 と最後、何か小さく泣いたので、一体どうしたのだろうと思っていると、
《微炭酸がちょっとだけきた》
「微炭酸程度でもちょっと泣きそうになるんですかっ! というかあの! 傾斜大丈夫ですか!」
《傾斜はもう大丈夫だよ》
「逆に何で食べただけで傾斜の怖さも無くなるんですか!」
 僕は激しめにそうツッコむと、校長先生はニッコリ微笑んでから、
《それは自分でも分からないよ》
 と言ったので、じゃあこっちが考えてもしょうがないと思い、そのまま観客席に座って、試合開始を待った。
 そして試合も始まり、結果は3-2で応援していた初田ガルライFCが勝利した。
 校長先生は自作の旗をどこからともなく取り出して、振って、一回肩を脱臼するだけで終わったので、全然御の字です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

ニューハーフな生活

フロイライン
恋愛
東京で浪人生活を送るユキこと西村幸洋は、ニューハーフの店でアルバイトを始めるが

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

転職してOLになった僕。

大衆娯楽
転職した会社で無理矢理女装させられてる男の子の話しです。 強制女装、恥辱、女性からの責めが好きな方にオススメです!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

カジュアルセックスチェンジ

フロイライン
恋愛
一流企業に勤める吉岡智は、ふとした事からニューハーフとして生きることとなり、順風満帆だった人生が大幅に狂い出す。

処理中です...