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【16 声】
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・【16 声】
・
誰かの声が聞こえる。
女子の声だ。
でもリーエではない。
違う女子が泣く声。
初めてじゃない。
この声を聞いたのは。
別の声も聞こえる。
男子の声。
三人くらいいるのか?
この声も聞いたことがある。
階段を登り終えると、そこは学校だった。
後ろを振り返ると、あの塔の階段ではなくて、学校の、木造チックな階段。
女子の泣く声と男子三人の声は、この、目の前の教室から聞こえる。
この教室は僕の通っている教室だ。
僕は慎重に、教室を覗くとそこには、机に座っている女子の原田さんに対して、笑いながらスマホで映像を撮る男子三人、岸部くん、諫早くん、高本くんがいた。
「おいバカ、こっち見ろよ」
「カメラ目線しろよ、カス」
「つーか実は撮られたいんじゃね? ネットにアップされることがもう快感なんじゃねぇ?」
「「「ハハハハ!」」」
イジメだ。
血が頭にカッとのぼったその時、僕の脳内に頭痛が響いた。
最初は怒ったからだと思ったが、どうやらそれが全てではなかったらしい。
記憶が、元に戻ったんだ。
僕、この状況に既に遭っている。
そうだ、僕は原田さんがイジメられている現場に出くわして、無我夢中で助けようと思って飛び出して。
でも三人の男子、岸部くん・諫早くん・高本くんにボコボコにされて、最後に近くにあった教室共有の電子辞書で頭を殴られたんだ……あっ、そうか、電子辞書なんだ、リーエは……そう言えば電子辞書の音声にそっくりだ、リーエの声は……きっと電子辞書の鈍な部分で殴られて、だから鈍が敵で……いや、そんなこと今はどうでもいい、まず原田さんを助けなければ。
僕はスマホで動画を撮り始めた。
まずイジメられている様子を隠し撮りし、頃合いを見て、僕は叫んだ。
「オマエたちのイジメは僕が録画していたぞ!」
すぐさま僕のほうを見た岸部くん・諫早くん、高本くんは僕へ向かって猛然と走ってきた。
僕はその場から逃げ出したように見せかけて、教室の扉の影にしゃがんで隠れた。
三人がこっちへ向かって突っ込んできたところで足を伸ばして、三人をコケさせた。
三人はスマホを持っていたり、電子辞書を持っていたりしていて、手で受け身が取れず、案の定前のめりに転んだので、顔を抑えて動けない。
僕は教室の中に戻って、原田さんの元へ行き、手を握って職員室へ走り出した。
職員室の前まで行き、ふと原田さんに、
「ゴメン、迷惑じゃない?」
と言うと、原田さんが僕に抱きつきながら、
「ありがとう! 小嶋くん!」
と言ってくれた。
その大きな声に反応して、職員室から先生方が出てきて――。
原田さんは先生と喋っている。
その間に僕は岸部くんや諫早くん、高本くんのSNSを見つけて、アップロードされていた原田さんの映像をダウンロードした。
これでSNSが消されても、ちゃんとした証拠も残った。
そのことを先生へ伝えると、先生は僕の手際の早さにビックリしていた。
岸部くんと諫早くんと高本くんは一応病院に運ばれたらしい。
だからもしこの三人がまだその辺にいたら原田さんと一緒に帰って守ろうと思っていたんだけども、もう大丈夫らしいし、原田さんのお母さんが車で迎えに来たみたいなので、僕は一人で教室に戻った。
廊下には諫早くんが持っていた電子辞書がそのまま置かれていた。
電子辞書を立ち上げようと電源を入れたけども、動かなかった。
なんとか起動しないかどうか電池を一旦抜いてみたりしていると、先生がやって来て、
「小嶋もそろそろ帰りなさい。今日のところは感謝だな。先生も気付けなくて申し訳無かった」
「たまたまですよ」
「……電子辞書、壊れたのか?」
「はい、何か諫早くんが武器として持っていたようで」
「じゃあ私が修理に出しておく」
「いや」
と、つい僕が先生の手をかわしてしまうと、先生は、
「まあそろそろ買い替え時かもしれないし、修理じゃなくて新しいのを買ってもらうか。校長先生に言っておくわ」
「あっ、はい」
「だからその電子辞書は小嶋が好きにしていいぞ、電子辞書を一番使っていたのは小嶋だもんな。修理できたら自分のモノにしていいからな」
「はい」
「じゃっ、小嶋も帰るように。後のことは先生がしっかりやっておくから小嶋もちゃんと明日……明日じゃないわ、月曜日になったら学校に来るようにな。きっと原田は小嶋に会いたいはずだぞ」
「分かりました」
先生は去っていった。
僕も帰らなきゃ。
修理できたら自分のモノにしていいか……でも電子辞書はモノなんかじゃなくて……僕の大切な友達で……。
僕は電子辞書を持って家へ帰った。
勿論、修理に出すつもりだ。
明日は休日だし、近くの電気屋へ持っていこう。
いや型番を調べて、製造業者に連絡したほうがいいかもしれない。
いろんなことを思考して、絶対に修理してやるんだ。
またリーエに会うために。
(了)
・【16 声】
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誰かの声が聞こえる。
女子の声だ。
でもリーエではない。
違う女子が泣く声。
初めてじゃない。
この声を聞いたのは。
別の声も聞こえる。
男子の声。
三人くらいいるのか?
この声も聞いたことがある。
階段を登り終えると、そこは学校だった。
後ろを振り返ると、あの塔の階段ではなくて、学校の、木造チックな階段。
女子の泣く声と男子三人の声は、この、目の前の教室から聞こえる。
この教室は僕の通っている教室だ。
僕は慎重に、教室を覗くとそこには、机に座っている女子の原田さんに対して、笑いながらスマホで映像を撮る男子三人、岸部くん、諫早くん、高本くんがいた。
「おいバカ、こっち見ろよ」
「カメラ目線しろよ、カス」
「つーか実は撮られたいんじゃね? ネットにアップされることがもう快感なんじゃねぇ?」
「「「ハハハハ!」」」
イジメだ。
血が頭にカッとのぼったその時、僕の脳内に頭痛が響いた。
最初は怒ったからだと思ったが、どうやらそれが全てではなかったらしい。
記憶が、元に戻ったんだ。
僕、この状況に既に遭っている。
そうだ、僕は原田さんがイジメられている現場に出くわして、無我夢中で助けようと思って飛び出して。
でも三人の男子、岸部くん・諫早くん・高本くんにボコボコにされて、最後に近くにあった教室共有の電子辞書で頭を殴られたんだ……あっ、そうか、電子辞書なんだ、リーエは……そう言えば電子辞書の音声にそっくりだ、リーエの声は……きっと電子辞書の鈍な部分で殴られて、だから鈍が敵で……いや、そんなこと今はどうでもいい、まず原田さんを助けなければ。
僕はスマホで動画を撮り始めた。
まずイジメられている様子を隠し撮りし、頃合いを見て、僕は叫んだ。
「オマエたちのイジメは僕が録画していたぞ!」
すぐさま僕のほうを見た岸部くん・諫早くん、高本くんは僕へ向かって猛然と走ってきた。
僕はその場から逃げ出したように見せかけて、教室の扉の影にしゃがんで隠れた。
三人がこっちへ向かって突っ込んできたところで足を伸ばして、三人をコケさせた。
三人はスマホを持っていたり、電子辞書を持っていたりしていて、手で受け身が取れず、案の定前のめりに転んだので、顔を抑えて動けない。
僕は教室の中に戻って、原田さんの元へ行き、手を握って職員室へ走り出した。
職員室の前まで行き、ふと原田さんに、
「ゴメン、迷惑じゃない?」
と言うと、原田さんが僕に抱きつきながら、
「ありがとう! 小嶋くん!」
と言ってくれた。
その大きな声に反応して、職員室から先生方が出てきて――。
原田さんは先生と喋っている。
その間に僕は岸部くんや諫早くん、高本くんのSNSを見つけて、アップロードされていた原田さんの映像をダウンロードした。
これでSNSが消されても、ちゃんとした証拠も残った。
そのことを先生へ伝えると、先生は僕の手際の早さにビックリしていた。
岸部くんと諫早くんと高本くんは一応病院に運ばれたらしい。
だからもしこの三人がまだその辺にいたら原田さんと一緒に帰って守ろうと思っていたんだけども、もう大丈夫らしいし、原田さんのお母さんが車で迎えに来たみたいなので、僕は一人で教室に戻った。
廊下には諫早くんが持っていた電子辞書がそのまま置かれていた。
電子辞書を立ち上げようと電源を入れたけども、動かなかった。
なんとか起動しないかどうか電池を一旦抜いてみたりしていると、先生がやって来て、
「小嶋もそろそろ帰りなさい。今日のところは感謝だな。先生も気付けなくて申し訳無かった」
「たまたまですよ」
「……電子辞書、壊れたのか?」
「はい、何か諫早くんが武器として持っていたようで」
「じゃあ私が修理に出しておく」
「いや」
と、つい僕が先生の手をかわしてしまうと、先生は、
「まあそろそろ買い替え時かもしれないし、修理じゃなくて新しいのを買ってもらうか。校長先生に言っておくわ」
「あっ、はい」
「だからその電子辞書は小嶋が好きにしていいぞ、電子辞書を一番使っていたのは小嶋だもんな。修理できたら自分のモノにしていいからな」
「はい」
「じゃっ、小嶋も帰るように。後のことは先生がしっかりやっておくから小嶋もちゃんと明日……明日じゃないわ、月曜日になったら学校に来るようにな。きっと原田は小嶋に会いたいはずだぞ」
「分かりました」
先生は去っていった。
僕も帰らなきゃ。
修理できたら自分のモノにしていいか……でも電子辞書はモノなんかじゃなくて……僕の大切な友達で……。
僕は電子辞書を持って家へ帰った。
勿論、修理に出すつもりだ。
明日は休日だし、近くの電気屋へ持っていこう。
いや型番を調べて、製造業者に連絡したほうがいいかもしれない。
いろんなことを思考して、絶対に修理してやるんだ。
またリーエに会うために。
(了)
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