生きるゲーム

青西瓜(伊藤テル)

文字の大きさ
上 下
14 / 16

【14 大きな怪物】

しおりを挟む

・【14 大きな怪物】


 回廊を抜けると、また大きな部屋に繋がっていた。
 また霧が出てきている。
 後ろを振り返ると、やっぱり今来ていたはずの回廊が無く、霧に包まれている状態。
 でももうこんな状況には慣れた。
 きっと怪物が出てきて、それをかわすだけだ、と思っていると、すぐに僕とリーエの目の前にその怪物が現れた。
 ただし、その怪物は今までの二メートルくらいの怪物ではなく、五メートルはあるような、大きな大きな怪物だった。
 大きい分、一度に進む一歩がデカく、相対的にスピードが速い。
 さらに鈍器も振り下ろす感じではなくて、薙ぎ払うように、屈んでから横に殴るので、攻撃の範囲が広い。
「リーエ、大丈夫か! 動けるっ?」
「勿論、今回は呪われていないよ!」
 じゃあもうこの勝負は分かった。
 どこかにもう一体いて、それを相打ちさせればいいんだ。
 ただ薙ぎ払う時、床をこするように振るので、しゃがんでかわすことはできない。
 だからもしかしたら寸前で一歩前に出て、鈍器の範囲じゃなくて、腕の範囲に入らないといけないかもしれない。
 だけどもそれはまず怪物を二体、目視してからだ。
 僕とリーエは一緒に逃げ始めた。
 霧は行った場所の霧が晴れるようになっていて、まずこの大きな部屋の霧が全部晴れるように走り回った。
 すると、この部屋の全貌が分かった。その時に絶望した。
 なんと、この部屋には大きな怪物が一体しかいなかったからだ。
 同士討ちを狙えない、そう分かったその時、心臓の脈拍が明らかに上がってきた。
 緊張と恐怖、怪物は僕とリーエをまとめて殴ろうと、近付いてきてはバンバン鈍器を振り回す。
 僕とリーエは逃げ惑うだけで何もできない。
 体格差もあるし、きっと足にしがみついたとて、止められないだろうし。
 周りを見渡しても、道具になるような、ヒントになりそうなモノも何も無い、円状の部屋。
 こんなこと今まで無かったのに、と思ったけども、あくまで僕はこの世界がクリアできるものだと思い込んでいただけなんだと分かった。
 僕とリーエはこの怪物に殴られて終わるだけなんだ、そう思ったその時に考えたことは、なんとかリーエだけは助け出したいと思った。
「リーエ、あくまでこの世界は僕を倒そうとしているだけだから! 僕がこの怪物の攻撃を受ける! そうしたらきっとリーエは無事で終わるはずだ!」
「そんな! そんなのはダメだよ!」
「リーエ! リーエなら僕の気持ち、分かっているだろう! 僕はリーエのことを大切に思っている! だから僕がこの攻撃を受けて終わらせる!」
「ダメだって! 死んじゃうよ! こんな攻撃喰らったらひとたまりもないよ!」
「でも文字の謎解きの時だって、僕を、僕の写真をどうにかしようとしていたじゃないか! だから僕が死ねばこの世界は終わるんだよ! きっとそうすればリーエも案内人じゃなくて、この世界から出られるよ!」
「ダメだって! そんなことは絶対させないから!」
 そう言ってリーエは僕と怪物の間に立った。
「リーエ!」
 そう言って僕はリーエの肩を掴んでどかそうとしたが、リーエはビクともしない。
 そりゃ僕よりも体格がいいけども、それ以上に何だか、妙な硬さを感じた。
「ヒロ、命令して、きっとアタシはできるはず」
「じゃあ命令だ! 僕が死んで終わらせる!」
「それじゃない! そうじゃない!」
 怪物はどんどん僕とリーエに近付いてくる。
 僕は脳内をフル回転させる。
 きっとリーエのこれがヒントなんだ、どこかに答えがあるんだ。
 僕が死ぬことは間違いで、リーエが闘うことが正解なんだ。
 でもリーエが闘うってどうやって?
 体格差は僕とリーエの比じゃない、あの怪物からしたら僕もリーエも小人だ。
 何か武器が無いと闘えない。ノコギリでも持ってくれば良かった。
 いやあんなノコギリよりも、もっと鋭利な武器があれば……鋭利? 鋭い?
 そうか、リーエの能力は通じ合うじゃないんだ!
「リーエ! 爪を鋭くして!」
「おっ、いいねぇ~、いいねぇ~」
 こんな緊張感のある場面ではありえないほど、柔らかい声を出したリーエが手を挙げると、その手の爪はナイフのように尖くなった。
「アタシは鋭い! だから刺す!」
 リーエは自分の体を弾丸のようにして怪物に飛び込み、そのまま怪物のスネを貫いた。
 すると怪物はその場に前のめりに倒れ込み、リーエは笑いながら、
「シャキ~ン!」
 と言ってから、怪物の背中の上に立ち、心臓らしき場所に爪を刺した。
 すると怪物は幻だったかのように半透明になり、そのまま消えていった。
 どこからともなく、また階段が出現し、ここはこれでクリアというわけか。
 僕はリーエを見ながら、
「リーエは、鋭いだったんだね。通じ合っていると思ったら勘が鋭かったというわけか。そしてそのリーエという名前も逆にするとエーリ、鋭利だったんだね」
「逆にするというか、頭を捻るとね」
 そう言ったリーエの爪はいつの間にかいつもの人間の爪に戻っていた。
「いこうか、ヒロ、もう分かったはずだよね。物事は考えることが大切ということを」
「そうだね、どんな時も思考を止めないということが必要なんだね」
 僕とリーエは階段を上がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

すぐケガしちゃう校長先生を止める話

青西瓜(伊藤テル)
児童書・童話
 この小学校の生徒会長には大切な仕事があった。  それは校長先生を守ること。  校長先生は少し特殊な個性や能力を持っていて、さらにそれを使ってすぐケガしちゃうし、大声で泣いてしまうのだ。  だから生徒会長は校長先生のお守りをしないといけないのだ。  それを補助してくれるはずの生徒副会長の桜さんも天然ボケがすごい人で、今日も今日とてハチャメチャだ。  これは僕と校長先生と桜さんの話。

鎌倉西小学校ミステリー倶楽部

澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】 https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230 【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】 市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。 学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。 案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。 ……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。 ※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。 ※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)

シンクの卵

名前も知らない兵士
児童書・童話
小学五年生で文房具好きの桜井春は、小学生ながら秘密組織を結成している。  メンバーは四人。秘密のアダ名を使うことを義務とする。六年生の閣下、同級生のアンテナ、下級生のキキ、そして桜井春ことパルコだ。  ある日、パルコは死んだ父親から手紙をもらう。  手紙の中には、銀貨一枚と黒いカードが入れられており、カードには暗号が書かれていた。  その暗号は市境にある廃工場の場所を示していた。  とある夜、忍び込むことを計画した四人は、集合場所で出くわしたファーブルもメンバーに入れて、五人で廃工場に侵入する。  廃工場の一番奥の一室に、誰もいないはずなのにランプが灯る「世界を変えるための不必要の部屋」を発見する五人。  そこには古い机と椅子、それに大きな本とインクが入った卵型の瓶があった。  エポックメイキング。  その本に万年筆で署名して、正式な秘密組織を発足させることを思いつくパルコ。  その本は「シンクの卵」と呼ばれ、書いたことが現実になる本だった。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

みかんちゃんの魔法日和〜平和な世界で暮らす、魔法使いの日常

香橙ぽぷり
児童書・童話
この世界と似ているけれど、神様の存在も知られていて、 神の使いである魔法使いも、普通の人を助けながら一緒に暮らす、平和な世界。 普通の人と同じ学校に通っている 10歳の魔法使い、みかんちゃんの日常物語です。 時系列で並べているため、番外編を先にしています。 ☆ふしぎな夜のおひなさま (ひな祭り) 朝に見ると、毎日のように、ひな人形が動いた跡があると、 同じ学校の1年生から相談されます。 一体何が起きているのか、みかんちゃんは泊まり込みで調査します。 14歳の時から、個人的に書いている作品。 特に起点もなく、主人公さえいれば成り立つ話なこともあり、最長です。 学校用の作品は当時の年齢や、伝わりやすさを意識して書いていましたが、 これは私がわかれば…、思いっきり好きなように!と考えて書いていたため、 他の作品よりも設定に凝りまくっていたり、クラスメートなどのキャラクター数が多かったりと、わかりにくいところがあります。 私の代表作なので載せておきます。 ファンタジー要素の他に、友情とか、親子愛とか、物を大切に思う気持ちとか、 いろんな愛情を盛り込みたいと考えているので、タグにも入れました。 恋愛要素も少しはありますが、恋に限定してはいないので、タグで誤解を与えたらすみません。

【完】ことうの怪物いっか ~夏休みに親子で漂流したのは怪物島!? 吸血鬼と人造人間に育てられた女の子を救出せよ! ~

丹斗大巴
児童書・童話
 どきどきヒヤヒヤの夏休み!小学生とその両親が流れ着いたのは、モンスターの住む孤島!? *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆*   夏休み、家族で出掛けた先でクルーザーが転覆し、漂流した青山親子の3人。とある島に流れ着くと、古風で顔色の悪い外国人と、大怪我を負ったという気味の悪い執事、そしてあどけない少女が住んでいた。なんと、彼らの正体は吸血鬼と、その吸血鬼に作られた人造人間! 人間の少女を救い出し、無事に島から脱出できるのか……!?  *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* 家族のきずなと種を超えた友情の物語。

落語のような世界

青西瓜(伊藤テル)
児童書・童話
 サッカーに取り組んでいたが、ケガをして選手になる夢が絶たれた由宇。  やりたいことが無くなって虚ろにリハビリを繰り返していると、幼馴染の京子が暇つぶしにと落語のCDと落語の本を持ってくる。  最初は反発したが、暇過ぎて聞いてみると、まあ暇つぶしにはなった、と思う。  そのことを1週間後、次のお見舞いに来た京子へ言うと、それは入門編だと言う。  そして明日は落語家の輪郭亭秋芳の席が病院内で行なわれるという話を聞いていた京子が、見に行こうと由宇を誘う。  次の日、見に行くとあまりの面白さに感動しつつも、じゃあ帰ろうかとなったところで、輪郭亭秋芳似の男から「落語の世界へ行こう」と誘われる。  きっと輪郭亭秋芳の変装で、別の寄席に連れてってくれるという話だと思い、由宇と京子は頷くと、視界が歪む。  気が付いたら落語のような世界にワープしていた。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

処理中です...