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【02 歯車は動き出す】
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・【02 歯車は動き出す】
・
「アハハハハハハ!」
人間の笑い声だった。
甲高い声からしてきっと女性。
この世界に僕以外の人間がいるのか、と思って周りを見渡すと、霧の向こうから一人の女性が現れた。
その女性は僕よりちょっとだけ高い身長で、顔は僕に少し似ているが、輪郭も体もシャープで、モデルのようにカッコ良かった。
恰好は体操服のような、ジャージだった。
その女性は僕を指差しながら、
「アハハハハハハ!」
と笑っている。
でも僕の顔を指差しているわけではない。
指を差している場所は僕の手だ。
僕は自分の手を見ると、手がミョウガ色に染まっていた。いっぱいミョウガを食べたからだ。
まるで『何でそんなものをいっぱい食べたの?』といった感じに、少しバカにするように笑うその女性に僕は少しムッとしてしまい、
「笑ってないで言いたいことがあったら言えばいい」
とハッキリ言ってみると、その女性は、
「シャキャアパラパラパラパラパ!」
と言った。
いや”言った”と脳内で思ったけども、本当にそう言ったのか? とは思った。
でもリスニングした通りに反芻すると『シャキャアパラパラパラパラパ!』だ。
もしかすると、この女性は日本語を喋ることができない?
そんな、意思疎通が取れないなんて、と思って、肩を落としてしまうと、その女性は急に笑うことを止めて、こっちに寄ってきた。
僕はどうすればいいか分からず、一歩だけ後ろにおののくと、その女性は距離を一気に詰めて、僕の肩を優しく叩いた。
「チャキャカカカカパパパ……」
さっきの無礼を謝るような上目遣いで、僕の顔を覗き込んできた。
どうやらこの女性には気持ちを察する能力はあるみたいだ。
だから、僕は感情を込めやすいように日本語でそのまま言うことにした。
「まあとっさに笑っちゃうことってあるよね、でもそんな顔しなくて大丈夫だから。君はどこから来たんだい?」
「コチャ……」
そう言って塔の方角を指差した女性。
塔から来たということは、やっぱり塔の中には入ったほうがいいのだろうか。
やっぱり塔は何らかの手掛かりがある場所らしい。
でも急に入ることはやっぱりまだ怖い。
もう少し散策してからだ、と思っていると、女性はおそるおそるこう言った。
「アテル?」
あてる……? 急に言葉の並びが日本語みたいになった。
何だろうと思い、
「どうしたの? 何か言えることがあるのかい?」
「あってる?」
「あってる?」
僕はオウム返ししてしまった。
今までは昔の合成音声が機械的に喋っているイントネーションだったのに、今度は日本語の『合ってる?』のようなイントネーションでそう言った、この女性。
僕は少し興奮しながら、
「日本語喋られるのっ?」
と聞くと、その女性は頷きながら、
「うん、私、日本語分かったよ」
とハッキリと日本語のイントネーションでそう言った。
「すごい!」
僕はつい大きな声でそう叫んでしまうと、その女性は、
「アタシはリーエ、君の名前は?」
「ヒロというんだ、よろしくお願いします、リーエさん」
「ちょっと、硬いよ。きっと同い年だろうから普通にリーエでいいよ」
最初の台詞が嘘のように、流暢に日本語を喋るリーエ。
この流れがまた、少しゲームっぽく感じた。
この自分の、主人公の都合に良い感じが。
それならば、
「リーエ、君は一体誰なんだい?」
するとリーエは少し小首を傾げてから、
「まあ案内ってとこかな」
と言って笑った。
案内人、ということはリーエがゲームマスターということかな。
「このゲームはどうなったらクリアになるんだい?」
「ゲームって! ゲーム感覚で人生を生きてると足元すくわれるよ!」
「そういうことじゃなくて、だってこの世界はさ」
と僕が間髪入れずに喋ると、それを遮るようにリーエが、
「それは分からないよ、だってアタシも記憶が無いからね」
「アタシも……ということは、僕も記憶が無いことを知っているということだね」
「おっ、いいねぇ~、いいねぇ~」
と満面の笑みを浮かべたリーエ。
怪しい。どう考えても怪しい。
リーエは記憶が無いフリをしているのでは、と思ったところで、一瞬頭がズキンと痛くなった。
その一回だけで終わったけども、やっぱり頭には何らかの異常があるみたいだ。どこかで頭をぶつけたのだろうか。
「リーエ、自分は案内人といったけども、じゃあどう案内してくれるのかい?」
「もう! それくらい自分で考えてよ! 自分で考えられない人間はいずれ壁にぶち当たるよ!」
そう無邪気に揺れて笑っているリーエ。
まあ言っていることはもっともだけども、
「だからって手掛かりはリーエしかいないんだから、今のところ」
「とりあえずさ! ミョウガばっかり食い漁ることは止めようよ! カッコ悪いよ! ミョウガって薬味だよ!」
そう言って口に手を当てながら、クスクス笑っているリーエ。
いやでも、
「小川の魚を獲ろうと頑張ったけども、つかみ取りできなかったんだって」
「つかみ取りぃっ?」
そう語尾を上げて笑ったリーエ。
いちいち何だかムカつくな。
じゃあ、
「リーエは小川の魚を捕まえられるのかい? 笑ってるんだったらできるはずだよね」
「おっ、そうやってやらせるパターンねぇ~、それはいいんじゃないの? じゃっ、やったげる」
そう言ってリーエは僕から離れて、塔に向かって歩き出した。
それについて行くと、リーエは僕が歩いて行った通り、塔の入り口が見えたら右回りに塔を伝って小川のところまで来た。
・【02 歯車は動き出す】
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「アハハハハハハ!」
人間の笑い声だった。
甲高い声からしてきっと女性。
この世界に僕以外の人間がいるのか、と思って周りを見渡すと、霧の向こうから一人の女性が現れた。
その女性は僕よりちょっとだけ高い身長で、顔は僕に少し似ているが、輪郭も体もシャープで、モデルのようにカッコ良かった。
恰好は体操服のような、ジャージだった。
その女性は僕を指差しながら、
「アハハハハハハ!」
と笑っている。
でも僕の顔を指差しているわけではない。
指を差している場所は僕の手だ。
僕は自分の手を見ると、手がミョウガ色に染まっていた。いっぱいミョウガを食べたからだ。
まるで『何でそんなものをいっぱい食べたの?』といった感じに、少しバカにするように笑うその女性に僕は少しムッとしてしまい、
「笑ってないで言いたいことがあったら言えばいい」
とハッキリ言ってみると、その女性は、
「シャキャアパラパラパラパラパ!」
と言った。
いや”言った”と脳内で思ったけども、本当にそう言ったのか? とは思った。
でもリスニングした通りに反芻すると『シャキャアパラパラパラパラパ!』だ。
もしかすると、この女性は日本語を喋ることができない?
そんな、意思疎通が取れないなんて、と思って、肩を落としてしまうと、その女性は急に笑うことを止めて、こっちに寄ってきた。
僕はどうすればいいか分からず、一歩だけ後ろにおののくと、その女性は距離を一気に詰めて、僕の肩を優しく叩いた。
「チャキャカカカカパパパ……」
さっきの無礼を謝るような上目遣いで、僕の顔を覗き込んできた。
どうやらこの女性には気持ちを察する能力はあるみたいだ。
だから、僕は感情を込めやすいように日本語でそのまま言うことにした。
「まあとっさに笑っちゃうことってあるよね、でもそんな顔しなくて大丈夫だから。君はどこから来たんだい?」
「コチャ……」
そう言って塔の方角を指差した女性。
塔から来たということは、やっぱり塔の中には入ったほうがいいのだろうか。
やっぱり塔は何らかの手掛かりがある場所らしい。
でも急に入ることはやっぱりまだ怖い。
もう少し散策してからだ、と思っていると、女性はおそるおそるこう言った。
「アテル?」
あてる……? 急に言葉の並びが日本語みたいになった。
何だろうと思い、
「どうしたの? 何か言えることがあるのかい?」
「あってる?」
「あってる?」
僕はオウム返ししてしまった。
今までは昔の合成音声が機械的に喋っているイントネーションだったのに、今度は日本語の『合ってる?』のようなイントネーションでそう言った、この女性。
僕は少し興奮しながら、
「日本語喋られるのっ?」
と聞くと、その女性は頷きながら、
「うん、私、日本語分かったよ」
とハッキリと日本語のイントネーションでそう言った。
「すごい!」
僕はつい大きな声でそう叫んでしまうと、その女性は、
「アタシはリーエ、君の名前は?」
「ヒロというんだ、よろしくお願いします、リーエさん」
「ちょっと、硬いよ。きっと同い年だろうから普通にリーエでいいよ」
最初の台詞が嘘のように、流暢に日本語を喋るリーエ。
この流れがまた、少しゲームっぽく感じた。
この自分の、主人公の都合に良い感じが。
それならば、
「リーエ、君は一体誰なんだい?」
するとリーエは少し小首を傾げてから、
「まあ案内ってとこかな」
と言って笑った。
案内人、ということはリーエがゲームマスターということかな。
「このゲームはどうなったらクリアになるんだい?」
「ゲームって! ゲーム感覚で人生を生きてると足元すくわれるよ!」
「そういうことじゃなくて、だってこの世界はさ」
と僕が間髪入れずに喋ると、それを遮るようにリーエが、
「それは分からないよ、だってアタシも記憶が無いからね」
「アタシも……ということは、僕も記憶が無いことを知っているということだね」
「おっ、いいねぇ~、いいねぇ~」
と満面の笑みを浮かべたリーエ。
怪しい。どう考えても怪しい。
リーエは記憶が無いフリをしているのでは、と思ったところで、一瞬頭がズキンと痛くなった。
その一回だけで終わったけども、やっぱり頭には何らかの異常があるみたいだ。どこかで頭をぶつけたのだろうか。
「リーエ、自分は案内人といったけども、じゃあどう案内してくれるのかい?」
「もう! それくらい自分で考えてよ! 自分で考えられない人間はいずれ壁にぶち当たるよ!」
そう無邪気に揺れて笑っているリーエ。
まあ言っていることはもっともだけども、
「だからって手掛かりはリーエしかいないんだから、今のところ」
「とりあえずさ! ミョウガばっかり食い漁ることは止めようよ! カッコ悪いよ! ミョウガって薬味だよ!」
そう言って口に手を当てながら、クスクス笑っているリーエ。
いやでも、
「小川の魚を獲ろうと頑張ったけども、つかみ取りできなかったんだって」
「つかみ取りぃっ?」
そう語尾を上げて笑ったリーエ。
いちいち何だかムカつくな。
じゃあ、
「リーエは小川の魚を捕まえられるのかい? 笑ってるんだったらできるはずだよね」
「おっ、そうやってやらせるパターンねぇ~、それはいいんじゃないの? じゃっ、やったげる」
そう言ってリーエは僕から離れて、塔に向かって歩き出した。
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