生きるゲーム

青西瓜(伊藤テル)

文字の大きさ
上 下
2 / 16

【02 歯車は動き出す】

しおりを挟む

・【02 歯車は動き出す】


「アハハハハハハ!」
 人間の笑い声だった。
 甲高い声からしてきっと女性。
 この世界に僕以外の人間がいるのか、と思って周りを見渡すと、霧の向こうから一人の女性が現れた。
 その女性は僕よりちょっとだけ高い身長で、顔は僕に少し似ているが、輪郭も体もシャープで、モデルのようにカッコ良かった。
 恰好は体操服のような、ジャージだった。
 その女性は僕を指差しながら、
「アハハハハハハ!」
 と笑っている。
 でも僕の顔を指差しているわけではない。
 指を差している場所は僕の手だ。
 僕は自分の手を見ると、手がミョウガ色に染まっていた。いっぱいミョウガを食べたからだ。
 まるで『何でそんなものをいっぱい食べたの?』といった感じに、少しバカにするように笑うその女性に僕は少しムッとしてしまい、
「笑ってないで言いたいことがあったら言えばいい」
 とハッキリ言ってみると、その女性は、
「シャキャアパラパラパラパラパ!」
 と言った。
 いや”言った”と脳内で思ったけども、本当にそう言ったのか? とは思った。
 でもリスニングした通りに反芻すると『シャキャアパラパラパラパラパ!』だ。
 もしかすると、この女性は日本語を喋ることができない?
 そんな、意思疎通が取れないなんて、と思って、肩を落としてしまうと、その女性は急に笑うことを止めて、こっちに寄ってきた。
 僕はどうすればいいか分からず、一歩だけ後ろにおののくと、その女性は距離を一気に詰めて、僕の肩を優しく叩いた。
「チャキャカカカカパパパ……」
 さっきの無礼を謝るような上目遣いで、僕の顔を覗き込んできた。
 どうやらこの女性には気持ちを察する能力はあるみたいだ。
 だから、僕は感情を込めやすいように日本語でそのまま言うことにした。
「まあとっさに笑っちゃうことってあるよね、でもそんな顔しなくて大丈夫だから。君はどこから来たんだい?」
「コチャ……」
 そう言って塔の方角を指差した女性。
 塔から来たということは、やっぱり塔の中には入ったほうがいいのだろうか。
 やっぱり塔は何らかの手掛かりがある場所らしい。
 でも急に入ることはやっぱりまだ怖い。
 もう少し散策してからだ、と思っていると、女性はおそるおそるこう言った。
「アテル?」
 あてる……? 急に言葉の並びが日本語みたいになった。
 何だろうと思い、
「どうしたの? 何か言えることがあるのかい?」
「あってる?」
「あってる?」
 僕はオウム返ししてしまった。
 今までは昔の合成音声が機械的に喋っているイントネーションだったのに、今度は日本語の『合ってる?』のようなイントネーションでそう言った、この女性。
 僕は少し興奮しながら、
「日本語喋られるのっ?」
 と聞くと、その女性は頷きながら、
「うん、私、日本語分かったよ」
 とハッキリと日本語のイントネーションでそう言った。
「すごい!」
 僕はつい大きな声でそう叫んでしまうと、その女性は、
「アタシはリーエ、君の名前は?」
「ヒロというんだ、よろしくお願いします、リーエさん」
「ちょっと、硬いよ。きっと同い年だろうから普通にリーエでいいよ」
 最初の台詞が嘘のように、流暢に日本語を喋るリーエ。
 この流れがまた、少しゲームっぽく感じた。
 この自分の、主人公の都合に良い感じが。
 それならば、
「リーエ、君は一体誰なんだい?」
 するとリーエは少し小首を傾げてから、
「まあ案内ってとこかな」
 と言って笑った。
 案内人、ということはリーエがゲームマスターということかな。
「このゲームはどうなったらクリアになるんだい?」
「ゲームって! ゲーム感覚で人生を生きてると足元すくわれるよ!」
「そういうことじゃなくて、だってこの世界はさ」
 と僕が間髪入れずに喋ると、それを遮るようにリーエが、
「それは分からないよ、だってアタシも記憶が無いからね」
「アタシも……ということは、僕も記憶が無いことを知っているということだね」
「おっ、いいねぇ~、いいねぇ~」
 と満面の笑みを浮かべたリーエ。
 怪しい。どう考えても怪しい。
 リーエは記憶が無いフリをしているのでは、と思ったところで、一瞬頭がズキンと痛くなった。
 その一回だけで終わったけども、やっぱり頭には何らかの異常があるみたいだ。どこかで頭をぶつけたのだろうか。
「リーエ、自分は案内人といったけども、じゃあどう案内してくれるのかい?」
「もう! それくらい自分で考えてよ! 自分で考えられない人間はいずれ壁にぶち当たるよ!」
 そう無邪気に揺れて笑っているリーエ。
 まあ言っていることはもっともだけども、
「だからって手掛かりはリーエしかいないんだから、今のところ」
「とりあえずさ! ミョウガばっかり食い漁ることは止めようよ! カッコ悪いよ! ミョウガって薬味だよ!」
 そう言って口に手を当てながら、クスクス笑っているリーエ。
 いやでも、
「小川の魚を獲ろうと頑張ったけども、つかみ取りできなかったんだって」
「つかみ取りぃっ?」
 そう語尾を上げて笑ったリーエ。
 いちいち何だかムカつくな。
 じゃあ、
「リーエは小川の魚を捕まえられるのかい? 笑ってるんだったらできるはずだよね」
「おっ、そうやってやらせるパターンねぇ~、それはいいんじゃないの? じゃっ、やったげる」
 そう言ってリーエは僕から離れて、塔に向かって歩き出した。
 それについて行くと、リーエは僕が歩いて行った通り、塔の入り口が見えたら右回りに塔を伝って小川のところまで来た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

落語のような世界

青西瓜(伊藤テル)
児童書・童話
 サッカーに取り組んでいたが、ケガをして選手になる夢が絶たれた由宇。  やりたいことが無くなって虚ろにリハビリを繰り返していると、幼馴染の京子が暇つぶしにと落語のCDと落語の本を持ってくる。  最初は反発したが、暇過ぎて聞いてみると、まあ暇つぶしにはなった、と思う。  そのことを1週間後、次のお見舞いに来た京子へ言うと、それは入門編だと言う。  そして明日は落語家の輪郭亭秋芳の席が病院内で行なわれるという話を聞いていた京子が、見に行こうと由宇を誘う。  次の日、見に行くとあまりの面白さに感動しつつも、じゃあ帰ろうかとなったところで、輪郭亭秋芳似の男から「落語の世界へ行こう」と誘われる。  きっと輪郭亭秋芳の変装で、別の寄席に連れてってくれるという話だと思い、由宇と京子は頷くと、視界が歪む。  気が付いたら落語のような世界にワープしていた。

カラダラッパー!

青西瓜(伊藤テル)
児童書・童話
 過去の経験から目立たないように生きていくことにした主人公・月野翔太のクラスに『カラダラッパー』を初手で名乗る・朝倉アタルという転校生がやって来た。  あんなヤツにはなりたくないと思いながらアタルのことを見ていた翔太だが、ひょんなことからアタルに「どこに何の教室があるか紹介してほしい」と頼まれて、まあ別にいいかと思い、学校の紹介をすることに。  そこで翔太のリアクションから察し、翔太が曲作りをしていることをアタルが言い当てる。  アタルはなんとか頼み込んで、曲を聞かせてもらい、アタルは「カラダラッパーのDJになって」と懇願する。  そこで翔太が過去に歌のコンテストで恥をかいて、目立つことをしたくなくなったと言う。  しかしアタルはめげず説得すると、クラスメイトたちには秘密で一緒に活動することに。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

平安学園〜春の寮〜 お兄ちゃん奮闘記

葉月百合
児童書・童話
 小学上級、中学から。十二歳まで離れて育った双子の兄妹、光(ひかる)と桃代(ももよ)。  舞台は未来の日本。最先端の科学の中で、科学より自然なくらしが身近だった古い時代たちひとつひとつのよいところを大切にしている平安学園。そんな全寮制の寄宿学校へ入学することになった二人。  兄の光が学校になれたころ、妹の桃代がいじめにあって・・・。  相部屋の先輩に振り回されちゃう妹思いのお兄ちゃんが奮闘する、ハートフル×美味しいものが織りなすグルメファンタジー和風学園寮物語。  小学上級、中学から。

リトル・ヒーローズ

もり ひろし
児童書・童話
かわいいヒーローたち

シンクの卵

名前も知らない兵士
児童書・童話
小学五年生で文房具好きの桜井春は、小学生ながら秘密組織を結成している。  メンバーは四人。秘密のアダ名を使うことを義務とする。六年生の閣下、同級生のアンテナ、下級生のキキ、そして桜井春ことパルコだ。  ある日、パルコは死んだ父親から手紙をもらう。  手紙の中には、銀貨一枚と黒いカードが入れられており、カードには暗号が書かれていた。  その暗号は市境にある廃工場の場所を示していた。  とある夜、忍び込むことを計画した四人は、集合場所で出くわしたファーブルもメンバーに入れて、五人で廃工場に侵入する。  廃工場の一番奥の一室に、誰もいないはずなのにランプが灯る「世界を変えるための不必要の部屋」を発見する五人。  そこには古い机と椅子、それに大きな本とインクが入った卵型の瓶があった。  エポックメイキング。  その本に万年筆で署名して、正式な秘密組織を発足させることを思いつくパルコ。  その本は「シンクの卵」と呼ばれ、書いたことが現実になる本だった。

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

言葉ビルダー

青西瓜(伊藤テル)
児童書・童話
『語変換の術』を使って村をビルドしていく。 誤変換の術とは、モノを漢字に変換して、その言葉の漢字をバラバラにして、 違う言葉を作るだけで別のモノに変換する術のこと。

処理中です...