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【01 霧の中】
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・【01 霧の中】
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あれ、僕は……と、真っ先に一人称が出てしまうくらいに分からない場所で倒れていた。頭には硬くて四角い石を枕にして。
若葉とは真逆の、にぶい色した草の上で寝ていた僕は上体を起こしてから、立ち上がった。
浅黒い土の上に立った僕は学校の上履きを履いていた。
周りは霧がかかっていて、遠くはおろか、近くもあんまり見えやしない。
霧がかかると何故か風景の色は抑えられて、まるで水墨画の世界のようになるが、まさにそんな感じだ。
湿度は高く、気温もそれなりにあり、ムワっとした何かが腐っているような土の匂いがした。
これは夢なのか現実なのか、試しに頬をつねってみると痛いが、夢でも痛い時ってあるしな。
この状況に身の覚えは無い。
こんなところに倒れているまでの記憶が不確かだ。
多分学校にいたはず、だから上履きを履いているはず、とは思うのだが、それ以上は掘り下げられなかった。
もしかすると誰かに襲われて、連れ去られてしまったのかもしれない。
でも手足を縄で縛られているわけではないので、こうやって立ち上がり、歩くことができる。
周りに他の人がいる気配も無い。
ならば動いてみよう。
多分それしかない。
僕は霧の中をあてもなく、歩き出した。
自分としては真っ直ぐ歩いているつもり。
霧の中だから確証は無いけども。
すると目の前に鼠色の塔のようなモノが急に現れた。
牛久大仏ほどに高い塔なのに、近付くまで、そんなものがあるなんて分からなかった。
入り口はとりあえず僕の正面の1か所っぽい。
まあ後ろに回り込めば、たくさんあるかもしれないけども。
僕はこの塔には入らず、その周りを歩くことにした。
塔を目視できる距離で進んでいくと、近くに小川があって、そこで魚が泳いでいるようだった。
小川に手を伸ばしてみると、ひんやりと冷たく、さらさらしていて、工業廃水で汚染されている感じではなかった。
小川の位置はしっかり覚えて、また塔の周りを歩いていくと、どうやら一周したらしく、正面の入り口まで周ってきた。
次は、小川の下流に向かって歩いていこうと思い、また塔を伝って、あの小川の場所まで行き、川の流れに合わせて歩いていくことにした。
濃い霧によって、すぐに塔は見えなくなり、見えているものはこの小川だけ。
空から光は差し込んでいないはずなのに、妙に小川がきらきらと輝き、その違和感が何だか怖かった。
小川には、常に、一種類の魚だけが泳いでいた。
いやそんな見比べているわけでも、魚に対して知識があるわけではないけども、多分一種類だ。
そんなことあるのかな、と思いながら進んでいくと、目の前に何かが見えてきて、僕は目を丸くした。
何故ならそれは、さっきの鼠色の塔だったからだ。
小川が一周している……? いや理論上それはありえない。
流れるプールのような仕組みが無ければ、流れが一周しているなんてありえない。
これはやっぱり夢なのか、と思ったら、急に眠くなってきた。
そうか、これは夢なのか、そんなことを思いながら、僕は小川の傍で横になった。
小川からやって来る涼しい風が何だか心地良かった。
ふと気が付き、目を覚ました場所の近くに小川は無かった。
でも霧の中だった。
あの時、僕が起きた場所と同じ場所に僕は倒れていた。
その証拠に、僕の頭には硬くて四角い石が枕のように置いてあった。
「またここだ……」
つい声が出てしまう。
まるでゲームだ。
セーブポイントでセーブしなかったせいで、スタートに戻されたような感覚。
これは誰かが作ったゲームの世界?
でもそんなことが、そしてそんな状況が作り出せるのか?
そもそも誰が何のために? 何故、主人公が僕なのか?
きっとこうなる前に何があったのかが重要なんだけども、何故か思い出せない。
記憶喪失というヤツなのか、ということは、僕はどこかで頭をぶつけたのだろうか、と考えると、確かに頭が痛いような気もする。
でもそれは気のせいなのかもしれない、いや精神的なモノなのかもしれない、とにかくずっと頭の中にも霧がかかっているような、そんな気持ちだ。
頭の中でぐるぐる考えていると、何だかお腹がすいてきた。
というかお腹がすくんだ、と当たり前のことを思ってしまって、何だか恥ずかしい。いや一人だから恥ずかしがる必要も無いけども。
僕が最初に浮かんだのが、小川にいた魚。
でも魚なんて獲れるかなと思いつつも、僕はまず四角い石を目印に真っ直ぐ歩き、案の定、鼠色の塔が出てきたらそこを右回りで伝っていくというさっきと同じルートを辿ると、やっぱり小川があった。
そこの魚をつかみ取りするしかないのかな、と思い、上履きと靴下を脱ぎ、足を捲って、川の中に入った。
川の水深は僕の膝くらい、流れも穏やかなので溺れるという心配は無さそう。
でも小川の中の魚はすばしっこく、また川幅もそれなりにあるので、いくらでも逃げてしまう。
僕は運動神経が良いほうではないので、全く歯が立たない。
段々疲れてきた時、また眠くなってきた。
ある程度はずっと感じていたんだけども、まぶたが強制的に閉じてしまうほどのこの眠気は急激に来る。
もしかするとゲームで言うとこのHPが減ってきているのかもしれない。
さっきは気苦労で、今度は魚獲りで疲れて。
僕は小川の中で眠ることは嫌なので、すぐさま川から上がったんだけども、それと同時に眠くなり、まだ足元が川に浸かっている状態でそのまま寝てしまった。
目を覚めると、またあの四角い石の枕で寝ていた。
すぐさま足元を確認すると、靴下は勿論、上履きも履いた状態で、この世界の法則を確信した。
眠くなるとゲームオーバーでスタート地点に戻される、と。
きっと食べ物を食べることによって、眠くなることを阻止できるのだろう。
普通食べ物を食べたら眠くなるけども、多分そうではないと思う。
僕はまず魚以外で食べられるものを探した。
するとスタート地点の近くにミョウガが生えていることを発見した。
ミョウガ、蕎麦などに入れる薬味。
正直独特の香りが苦手なんだけども、今は背に腹は代えられない。
僕はそのミョウガを食べると、あからさまにずっと感じていた眠気が薄っすら消えていった。
僕の仮定は間違いない、と思ってミョウガを我慢してバクバク食べていくと、眠気は完全に無くなった。
これでこの世界を探索できる、と思って、また動き出そうとしたその時だった。
・【01 霧の中】
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あれ、僕は……と、真っ先に一人称が出てしまうくらいに分からない場所で倒れていた。頭には硬くて四角い石を枕にして。
若葉とは真逆の、にぶい色した草の上で寝ていた僕は上体を起こしてから、立ち上がった。
浅黒い土の上に立った僕は学校の上履きを履いていた。
周りは霧がかかっていて、遠くはおろか、近くもあんまり見えやしない。
霧がかかると何故か風景の色は抑えられて、まるで水墨画の世界のようになるが、まさにそんな感じだ。
湿度は高く、気温もそれなりにあり、ムワっとした何かが腐っているような土の匂いがした。
これは夢なのか現実なのか、試しに頬をつねってみると痛いが、夢でも痛い時ってあるしな。
この状況に身の覚えは無い。
こんなところに倒れているまでの記憶が不確かだ。
多分学校にいたはず、だから上履きを履いているはず、とは思うのだが、それ以上は掘り下げられなかった。
もしかすると誰かに襲われて、連れ去られてしまったのかもしれない。
でも手足を縄で縛られているわけではないので、こうやって立ち上がり、歩くことができる。
周りに他の人がいる気配も無い。
ならば動いてみよう。
多分それしかない。
僕は霧の中をあてもなく、歩き出した。
自分としては真っ直ぐ歩いているつもり。
霧の中だから確証は無いけども。
すると目の前に鼠色の塔のようなモノが急に現れた。
牛久大仏ほどに高い塔なのに、近付くまで、そんなものがあるなんて分からなかった。
入り口はとりあえず僕の正面の1か所っぽい。
まあ後ろに回り込めば、たくさんあるかもしれないけども。
僕はこの塔には入らず、その周りを歩くことにした。
塔を目視できる距離で進んでいくと、近くに小川があって、そこで魚が泳いでいるようだった。
小川に手を伸ばしてみると、ひんやりと冷たく、さらさらしていて、工業廃水で汚染されている感じではなかった。
小川の位置はしっかり覚えて、また塔の周りを歩いていくと、どうやら一周したらしく、正面の入り口まで周ってきた。
次は、小川の下流に向かって歩いていこうと思い、また塔を伝って、あの小川の場所まで行き、川の流れに合わせて歩いていくことにした。
濃い霧によって、すぐに塔は見えなくなり、見えているものはこの小川だけ。
空から光は差し込んでいないはずなのに、妙に小川がきらきらと輝き、その違和感が何だか怖かった。
小川には、常に、一種類の魚だけが泳いでいた。
いやそんな見比べているわけでも、魚に対して知識があるわけではないけども、多分一種類だ。
そんなことあるのかな、と思いながら進んでいくと、目の前に何かが見えてきて、僕は目を丸くした。
何故ならそれは、さっきの鼠色の塔だったからだ。
小川が一周している……? いや理論上それはありえない。
流れるプールのような仕組みが無ければ、流れが一周しているなんてありえない。
これはやっぱり夢なのか、と思ったら、急に眠くなってきた。
そうか、これは夢なのか、そんなことを思いながら、僕は小川の傍で横になった。
小川からやって来る涼しい風が何だか心地良かった。
ふと気が付き、目を覚ました場所の近くに小川は無かった。
でも霧の中だった。
あの時、僕が起きた場所と同じ場所に僕は倒れていた。
その証拠に、僕の頭には硬くて四角い石が枕のように置いてあった。
「またここだ……」
つい声が出てしまう。
まるでゲームだ。
セーブポイントでセーブしなかったせいで、スタートに戻されたような感覚。
これは誰かが作ったゲームの世界?
でもそんなことが、そしてそんな状況が作り出せるのか?
そもそも誰が何のために? 何故、主人公が僕なのか?
きっとこうなる前に何があったのかが重要なんだけども、何故か思い出せない。
記憶喪失というヤツなのか、ということは、僕はどこかで頭をぶつけたのだろうか、と考えると、確かに頭が痛いような気もする。
でもそれは気のせいなのかもしれない、いや精神的なモノなのかもしれない、とにかくずっと頭の中にも霧がかかっているような、そんな気持ちだ。
頭の中でぐるぐる考えていると、何だかお腹がすいてきた。
というかお腹がすくんだ、と当たり前のことを思ってしまって、何だか恥ずかしい。いや一人だから恥ずかしがる必要も無いけども。
僕が最初に浮かんだのが、小川にいた魚。
でも魚なんて獲れるかなと思いつつも、僕はまず四角い石を目印に真っ直ぐ歩き、案の定、鼠色の塔が出てきたらそこを右回りで伝っていくというさっきと同じルートを辿ると、やっぱり小川があった。
そこの魚をつかみ取りするしかないのかな、と思い、上履きと靴下を脱ぎ、足を捲って、川の中に入った。
川の水深は僕の膝くらい、流れも穏やかなので溺れるという心配は無さそう。
でも小川の中の魚はすばしっこく、また川幅もそれなりにあるので、いくらでも逃げてしまう。
僕は運動神経が良いほうではないので、全く歯が立たない。
段々疲れてきた時、また眠くなってきた。
ある程度はずっと感じていたんだけども、まぶたが強制的に閉じてしまうほどのこの眠気は急激に来る。
もしかするとゲームで言うとこのHPが減ってきているのかもしれない。
さっきは気苦労で、今度は魚獲りで疲れて。
僕は小川の中で眠ることは嫌なので、すぐさま川から上がったんだけども、それと同時に眠くなり、まだ足元が川に浸かっている状態でそのまま寝てしまった。
目を覚めると、またあの四角い石の枕で寝ていた。
すぐさま足元を確認すると、靴下は勿論、上履きも履いた状態で、この世界の法則を確信した。
眠くなるとゲームオーバーでスタート地点に戻される、と。
きっと食べ物を食べることによって、眠くなることを阻止できるのだろう。
普通食べ物を食べたら眠くなるけども、多分そうではないと思う。
僕はまず魚以外で食べられるものを探した。
するとスタート地点の近くにミョウガが生えていることを発見した。
ミョウガ、蕎麦などに入れる薬味。
正直独特の香りが苦手なんだけども、今は背に腹は代えられない。
僕はそのミョウガを食べると、あからさまにずっと感じていた眠気が薄っすら消えていった。
僕の仮定は間違いない、と思ってミョウガを我慢してバクバク食べていくと、眠気は完全に無くなった。
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