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【17 闇に引き込むあやかしの七不思議】

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・【17 闇に引き込むあやかしの七不思議】


 ガガくんは私を背負ってビームをかわしていく。
 どうしても危ない時は壁太郎くんが壁を使ってくれたり、トースくんがガガくんを風で押し出してかわさせる。
 また壁太郎くんは壁が移動の邪魔にならないようにすぐ消してくれるが、どうやらガガくんは少々逃げること・かわすことが苦手みたいだ。
 ガガくんが私に言う。
「我は体ばかり磨いて頭がそんな良くないぜ! うまく指示を出してほしいぜ!」
「う、うん!」
 と返事したものの、闇に引き込むあやかしは速度を超越している。
 簡単に言えば、どんどん先回りしてワープし、ワープした直後にすぐビームを放ってくれるのだ。
 それにあんまり疲れている様子も無い。むしろ私たちのほうが疲れている。
 そろそろ壁太郎くんの三時間も終わってしまう。
 今、壁太郎くんが動けなくなったら危険だ。
 壁太郎くんの壁が今、一番の守備力になっているので、これが無くなったら終わりだ。
 何か、何か考えなければ。
 少なくても逃げ切り勝ちは無い、でもどこか違和感が。
 何で闇に引き込むあやかしは突然私たちの目の前に出現して、ゼロ距離からビームを発さないんだろうか。
 何か条件があるのか……! そうだ!
「闇に引き込むあやかしは影から一歩も出ていない! 太陽光が弱点だ!」
 そう言った刹那、闇に引き込むあやかしは明らかに嫌がった表情をした。間違いない、これが弱点だ。ならば、
「壁太郎くん! 鏡の壁を作って! その鏡の壁をトースくんがうまい角度になるよう飛ばして闇に引き込むあやかしに当てて!」
「分かったべ!」
 壁太郎くんはどんどん小さな鏡の壁を出現させた。
 それをトースくんが狙って、というより多分アトランダムに風で浮かせた。
 でもそのランダム性のせいでなおさら反射した光を防ぎづらいといった感じだ。
 壁太郎くんは疲れたのか、小さな鏡の壁を出すことをやめたけども、状況としてはかなり良さそうだ。
 私はさらにガガくんへ指示を出す。
 闇に引き込むあやかしがワープしてきたところに光があるように、光との直線状の近くに立つように移動してほしい、と。
 だんだん闇に引き込むあやかしはワープすることが億劫になってきている。
 勝てると思ったその時だった。
 闇に引き込むあやかしは笑いながら、口を開いた。
「まあ今回はオマエたちのために一時休戦としましょうか!」
 あっ、ヤバイ、それをやられたら……。
「オマエたちにしっかり休んで体力回復するチャンスをあえて与え・・・」
 と言いかけたその時だった。
 壁太郎くんが一気に鏡の壁を出した。
 光の反射する速度は早い。いわゆる光速というヤツだ。
 一気に光が連鎖し、闇に引き込むあやかしに大量の光が直撃した。
「あぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!」
 壁太郎くんが言う。
「自分のこと強いと思っているヤツはいっつもそうだべ、人のことをずっとバカにして余裕があるところを見せたがるべ。そんなこと言わずさっさと逃げれば良かったんだべ。僕が疲れたと思ったべ? 違う、ずっと計算していたんだべ」
「まさか! まさかぁぁ! こんなザコたちにやられるなんてぇぇぇぇええええ! それでいいのかぁぁあああ! それでいいのかぁぁぁあああああああ!」
「いいんだべ、もう決めたんだべ。やっぱり小学校は平和なほうがいいんだべ、そうだべ?」
 それに対してトースくんは笑顔で頷き、
「勿論です! もうこんなことは終わりにするんです!」
 ガガくんもニカッと笑って、
「自分磨きして良かったぜ! こんな最高の瞬間に立ち会えるなんて嬉しいぜ! これで緋色は幸せだよなっ!」
 私は満面の笑みで、
「ありがとう! みんな! これでこの小学校はもっと最高になるし! そんな最高の小学校をみんなで守っていこうよ!」
 と言ったところで、苦しんでいる闇に引き込むあやかしが高笑いを上げた。
「アハハハハハハ! バカだ! バカだ! 人間なんてみんなバカなんだ! 最後の最後でこんな最高の瞬間に立ち会えるなんて最高なあやかし人生だったなぁ!」
 一体何なんだ、もしかするとまだ何かあるのか、第二形態というヤツか? と思って、気を引き締めると、闇に引き込むあやかしが叫んだ。
「私が消滅するとな! この三人のあやかしも消滅するんだよ!」
「えっ」
 私は生返事してしまった。闇に引き込むあやかしは続ける。
「アタシの強い闇の引力があるからこそ生きていられるんだよ、って言っただろ! アタシの強力な磁場のおかげで生きていたんだよ! この人型のあやかしたちはなぁ! なぁ! テメェら! テメェらは言っていなかったのかっ?」
 私は訳が分からず、でも何だか分かるような気がして、手足が震えてきた。
 壁太郎くんやトースくんやガガくんが道中に話していたよく分からない会話。
 当人同士だけが分かっているだけのあの会話。
 その真相ってそういうこと?
 じゃっ! じゃあ!
「何で闇に引き込むあやかし退治を手伝ってくれていたのっ?」
「だって小学校は子供たちが幸せであるべきだべ」
「僕たちはいらない存在なんです」
「そういうことだぜ!」
 そう言って三人は私に対して笑顔で手を振っている。
 三人の姿は闇に引き込むあやかしと共に薄く透明に近くなっている。
 そんな、そんな聞いていない、聞いていないというかそうか、聞いたらきっと私が迷うと思って言わないでいてくれたんだ、でもそんな、そんなことある? やっと仲良くなったのに、すぐお別れなんてありえないよ、これからずっと一緒に遊ぶと思っていた、小学校を卒業したら一緒に中学校へ行ってとか思っていたのに、何で何で、何でこんな運命なの? いっつも私ってうまくいかない。環奈ちゃんとの縁も切れて、今度は壁太郎くんともトースくんともガガくんともお別れ? 無理、そんなの無理過ぎ、ダメだ、ダメだ、心が折れちゃうと思っていると、壁太郎くんが叫んだ。
「緋色ちゃんは笑顔が似合うべ! 笑って送ってほしいべ!」
 トースくんも拳を強く握って言う、
「緋色! 次会う時があったら、その時も仲良くしてほしいです!」
「緋色! 我のように自分磨きをするんだぜ! そうすればもっともっと幸せになるぜ!」
 三人、そして闇に引き込むあやかしは消えていった。
 私は一気に失意のどん底になった。
 私のせいであの三人や他の人型のあやかしを殺してしまったということ……? そんな……。
 空を見上げると、夕暮れは夜に近付き始めて、空が紫色になってきた。
 あぁ、時間は進んでいる、進み始めている、だからもう本当にいないんだ、と思ったその時だった。
「緋色ちゃん、早く帰る準備しなさい」
 振り返るとそこには用務員のおじさんが立っていた。
「はい」
 声をなんとか振り絞って返事して、私は家へ帰る準備をした。
 こんな濃密な時間を過ごしたことは無かった。
 こんな残酷な時間を過ごしたことは無かった。
 私のやったことは正しかったのだろうか。
 でも小学校はこれで平和になった、はず。
 なった、はず。
 いいや、これからだ。
 これからさらに私が頑張らないといけないんだ。
 でも、私って、何で頑張っているんだっけ……?
 きっと幻だったあの環奈ちゃんを思い出す。
 私ってウザいんじゃないかな。
 私なんていたって、もう……。
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