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【12 床を滑らせる七不思議】

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・【12 床を滑らせる七不思議】


 さて次は、床を滑りやすくして転ばそうとしてくる七不思議か、体力測定を挑んでくるという七不思議か、どっちがいいかという相談を三人でし始めた。
 壁太郎くん曰く、
「体力測定を挑んでくる七不思議の力也は体力を消費するから、まだ余裕がある今のうちに闘っておいたほうがいいべ」
 それに対して、トースくんは、
「床を滑りやすくする程度なら俺が吹き飛ばしてしまえば一発なのです! だから床を滑りやすくする七不思議のガガから闘ったほうがいいです!」
 両者ともに私が分かりやすいように、七不思議名のあとに個々の名前を言ってくれているなぁ、二人とも優しいなぁと思っていると、どこからともなく声がしてきた。
「我を雑魚扱いするなんてダメだぜ! トースごときに我は負けないぜ!」
 声がするほうを見ると、遠くの廊下に腕を組んで立っている男子がいる。
 話の流れ的にきっと、あの男子はガガくんという七不思議のあやかしだ。
「さぁ! 既にここの廊下は我の魔力によって磨いた状態になったぜ! ツルツル地獄を味わうといいぜ!」
 本当かな、と思って歩き出そうとした時、靴と廊下の接地面に違和感を抱いた。
 というかもう本当にツルツルで、まるで灯油をこぼした廊下という感じで、簡単に滑って転びそうだ。
 これ、ゆっくり歩くことも難しいと思っていると、トースくんが叫んだ。
「近付くまでもないです! 俺がガガを吹き飛ばします!」
 と言ってガガくんへ手をかざしたその時だった。
「わぁぁぁああああああああああ!」
 トースくんは後方へ倒れるように滑って転んだ。
 そこから数秒してから、ガガくんが「おっと」と一瞬よろけたけども、耐えた感じだった。
 私は慌てながら、
「トースくん! どうしたのっ?」
 と言うと、トースくんは自分で後頭部をさすりながら、
「何か倒れちゃったんです……」
 と言ったところで、壁太郎くんが、
「きっと作用反作用で、自分で風を放った時の勢いで後ろへのジェット噴射のように倒れてしまったんだべ」
 私はどうしようとおろおろしながら、
「トースくんは風を発する時、もしかすると自分の足で踏ん張ってるの?」
「そっか、床がツルツルで踏ん張りが利かないわけですか。うん、風を放つ時は踏ん張ってますよ。だからこんな床じゃダメです」
「それならトースくん! 発想を飛ばして廊下を元の床に戻てくれないかな!」
「それもダメです……床がツルツルになっているという発想が既に飛んでいる状態なので、そこから戻すだと正すことになるので俺の能力が作用しないんです」
 ということはこんなツルツルな床のまま勝負しないといけないというわけか。
 しかも相手は自由に動……いていない、そう言えばガガくんも全然動いていない、これはもしかして、と思い、
「ガガくんから攻撃してきてもいいんだよ! そんなビビってないで!」
 と大きな声を出して少し挑発してみると、
「我は待つぜ! 何故なら壁太郎の三時間が過ぎれば夜に近付く! 夜になればあやかしの魔力は上がるが、壁太郎は魔力が無くなり、もぬけの殻になるぜ! その時を狙うぜ!」
「つまりガガくんも動けないということ?」
「動けないというか動かないぜ! 動く必要が無いんだぜ!」
 どうやら床がツルツルになっていることにより、ガガくん自身も行動が制限されているらしい。
 確かにトースくんのちょっとの風が当たっただけで、態勢を崩していたもんなぁ。
 ということは近付けばチャンスはあるということ、でも一体どうやって、やっぱりゆっくり歩いていくしかないか。
 でもそれだとガガくんだってゆっくり逃げられるんじゃないか?
 やっぱり一気に近付かないとダメっぽい。
 この廊下をフィギュアスケートのように滑っていければ……そうだ!
「トースくん! 発想を飛ばして、私の靴底をツルツルにしてくれないっ?」
「それは思い切った発想ですね、それならできますよ。緋色さんの靴底、発想を飛ばし、ツルツルにします!」
 あっ、靴底ツルツルになったっぽい、何だか重心を前にしただけでゆっくりと前に進み始めている。
 これならば、
「壁太郎くん! 私進むから止められなくなったら壁を出して物理的に止めて! そうやって私の動きを援助して!」
「分かったべ!」
 私はスケートの要領でぐんぐん滑っていき、一気にガガくんへの距離を詰めた。
 ガガくんは慌てて歩き出したけども、歩きづらそうにちょっと横へ移動するだけ。
「壁太郎くん、一旦壁出して! 方向転換する!」
「ここだべ!」
 ジャストタイミングでクッション質の壁を出してくれた。
 それに捕まって一呼吸を置いてから、またガガくんへ向かって直進する。
「こんなことになるなんて聞いてないぜっ!」
 ガガくんは逃げようとするが、焦って足がもつれ、その場に倒れ込んだ。
 そんな倒れたガガくんのお腹へ、私の猛スピードで滑ってきた足がヒットし、私も倒れそうになったけども、壁太郎くんがクッション質の壁を出してくれて大丈夫だった。
 ガガくんのほうは苦しみながら、
「ダメだぁぁああ! 自分磨きをずっとしてきたけども、一人だけじゃどうしようもないぜぇぇえええ!」
 と言うと、廊下がツルツルの状態からまた元の床に戻った。
 うっ、そうなると逆に靴底がツルツルの私が歩きづらい。
 普段の床は木製で凹凸があるから、つまずいて転びやすいというか。
 でも床が元に戻ったおかげですぐさま壁太郎くんもトースくんも近寄ってきてくれた。
 ガガくんは私たちを倒れた状態で見上げながら、
「やっぱり自分を磨くには仲間がいないとダメなんだぜ、分かったぜ、我も仲間に入れてほしいぜ。そしてこれを我の集大成と位置付けるぜ」
 また友達が増えた! と思って、私はバンザイしていると、壁太郎くんが、
「でも実際、僕たちの仲間になるということは闇あやかし様と対決するということだべ? 本当にいいんだべ?」
「構わないぜ、我はもう自分が納得するほど自分で磨いたぜ、あとは仲間と一緒にその磨いたテクニックを見せつける番だぜ。集大成って今言ったぜ? トースもそうなんだぜ?」
「俺もそうですよ! まあそれは緋色さんと壁太郎のほうが強いと思ったからですけどね!」
「じゃあ一緒に行くべ。もう全てを終わらせるべ」
 そうだ、闇に引き込むあやかしを倒して終わらせれば、みんなこの小学校の周辺から好きに動くことができるはず。
 今はどうやら闇の引力でここにいるみたいだけども、倒せばきっと一緒に外で遊ぶこともできると思う。
 でも、その前に、
「私の靴底、どうすればいいかな……ここからはもしかすると裸足?」
「それなら我が靴底を磨き直して、凹凸のある靴底に戻すぜ!」
 私はガガくんに靴を渡すと、すぐにガガくんは手で靴底を磨き始めた。
「はいっ、できたぜ!」
 あまりの早業に私はポカンと開いた口が塞がらない。
 そんな私にトースくんが、
「じゃあ急ぎましょう! 壁太郎の時間もあります! みんな体力は大丈夫ですかっ?」
 壁太郎くんは小さく、だけども力強く頷き、
「僕は大丈夫だべ」
 ガガくんは元気に挙手しながら、
「腹は少し痛いけどもこれくらいなんてことないぜ!」
 腹が痛いのは本当に申し訳無いな、でも闘いの最中だったから許してと思いながら、
「私も全然大丈夫だよ!」
 と答えた。
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