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【07 壁太郎くんの過去】
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・【07 壁太郎くんの過去】
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「僕は元々人間だべ、闇に引き込まれてあやかしになった、人間だべ」
落ち着いて喋る声とは不釣り合いに震える壁太郎くんの肩を優しく手で押さえて、
「いいよ、喋りたくなかったら喋らなくて。自分のペースで歩んでいこう!」
「ううん、今伝えておきたいんだべ、聞いてくるべ?」
「聞くのはいくらでも聞くよ! 聞くの大好き聞き上手さんだからね!」
そうできるだけ明るく私が言うと、壁太郎くんはニッコリ微笑んでから、また語り出した。
「僕は小学校では同級生と上手くいかず、壁を作ってしまい、通えなくなって。その後、家でも両親から厳しい言葉を掛けられて。神経質とか、努力が足りないとか、そんなことを言われて、心が参ってしまって、家族とも壁を作ってしまって」
「それは辛かったと思う、なんて、簡単に口にしちゃってゴメン。でも何か言いたいんだ、だから私ちょっと喋っていい?」
そう聞くと、ゆっくりと頷いた壁太郎くん。
私は意を決して喋り出した。
「努力が足りないとかそんなの、自分にしか分からないところに言及するなんておかしいよね。自分には自分のパロメーターみたいなことがあって、それぞれ違うのに。そこに対してとやかく言うのは家族でも違うと思うよ。私だったら嫌な気持ちになって、財布の中身をちょっとくすねちゃうかも」
「財布の中身をくすねるところは少しどうかと思うべけど、共感してくれてありがとうだべ。あの頃に会いたかったべ」
「途中で私が割って入ったからだけども、何で壁太郎くんは闇に引き込まれちゃったの?」
「ずっとそんなことを考えていると怨念が煮詰まって、そうなってしまうんだと思うべ。多分。僕もそうなってしまっただけだからよく分からないけども、長い長い考える時間があったからそう解釈しているべ」
長い長い考える時間。きっと壁太郎くんってこうやってずっと小学校にいるんだろうなぁ、と思った。
この七不思議もずっと前からあるらしいし。
そうだ、
「壁太郎くんって、この小学校から出ることはできないの?」
「少なくても今は出られないべ、闇に引き込むあやかしの引力が強くてこの小学校周辺からは出られないんだべ」
ということは闇に引き込むあやかしという元凶のような存在を倒せば、壁太郎くんは自由に行動できるようになるということ?
それならば、
「なおさら闇に引き込むあやかしを倒さないとダメだね! 改心させることができるかなっ?」
「闇に引き込むあやかしは改心とかは多分難しいべ。やるからには倒すしかないべ」
「そっか、じゃあまあ一応はその路線でいくとして、壁太郎くんはさっきの小さな悪魔たちみたいに天国へ行きたい? 私的には一緒にこの小学校を飛び出して遊びたいけども」
「考えたことも無かったべ。でもきっと天国には行けないべ」
「何で!」
私は目を丸くするほどビックリしてしまった。
壁太郎くんは淡々と答える。
「人間時代に後悔の念が、恨みの念が、大きい人間ほど巨大な能力を使えるんだべ。でも巨大な能力を使えるということはその分、闇に見出されているということなので、多分天国には行けないべ」
私は何か納得がいかなくて、つい大きな声で、
「そんなことない! 壁太郎くんは絶対に天国に行けるし! 楽しいこともいっぱいできる! ずっと私と一緒に小学校の幸せを守って私が卒業したら一緒に中学校へ行って中学校の平和を保とう!」
壁太郎くんは遠くを見ながら、
「そうだといいべね」
と言ったので、私は壁太郎くんの手を握りながら、
「絶対そうだよ!」
と言った。
すると壁太郎くんは恥ずかしそうに手を振り払って笑った。
橙色の、夕暮れの光と重なったその笑顔は神々しかった。
壁太郎くんは立ち上がって、
「じゃあそろそろ飼育室に行くべ。しっかり経験を積んでいくべ」
「そうだね」
と言って私も立ちあがったその時だった。
どこからともなく突風が吹いてきて、飛ばされそうになった。
でもすぐに私の腕を壁太郎くんが掴んでくれて、少なくても倒れることは無かった。
壁太郎くんの腕の力は強く、まさしく壁のようだった。
「なんてことだべ……」
「どうしたの、壁太郎くん」
「闇に引き込むあやかしの手下、トースだべ」
えっ、と思っていると私の目の前に、一人の少年が出現した。
髪の毛も瞳も青色の、まるで風のような少年だった。
「俺は何もかも飛ばすあやかしです! トースです!」
何もかも飛ばすということはプリントを飛ばしてしまう七不思議だ!
・【07 壁太郎くんの過去】
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「僕は元々人間だべ、闇に引き込まれてあやかしになった、人間だべ」
落ち着いて喋る声とは不釣り合いに震える壁太郎くんの肩を優しく手で押さえて、
「いいよ、喋りたくなかったら喋らなくて。自分のペースで歩んでいこう!」
「ううん、今伝えておきたいんだべ、聞いてくるべ?」
「聞くのはいくらでも聞くよ! 聞くの大好き聞き上手さんだからね!」
そうできるだけ明るく私が言うと、壁太郎くんはニッコリ微笑んでから、また語り出した。
「僕は小学校では同級生と上手くいかず、壁を作ってしまい、通えなくなって。その後、家でも両親から厳しい言葉を掛けられて。神経質とか、努力が足りないとか、そんなことを言われて、心が参ってしまって、家族とも壁を作ってしまって」
「それは辛かったと思う、なんて、簡単に口にしちゃってゴメン。でも何か言いたいんだ、だから私ちょっと喋っていい?」
そう聞くと、ゆっくりと頷いた壁太郎くん。
私は意を決して喋り出した。
「努力が足りないとかそんなの、自分にしか分からないところに言及するなんておかしいよね。自分には自分のパロメーターみたいなことがあって、それぞれ違うのに。そこに対してとやかく言うのは家族でも違うと思うよ。私だったら嫌な気持ちになって、財布の中身をちょっとくすねちゃうかも」
「財布の中身をくすねるところは少しどうかと思うべけど、共感してくれてありがとうだべ。あの頃に会いたかったべ」
「途中で私が割って入ったからだけども、何で壁太郎くんは闇に引き込まれちゃったの?」
「ずっとそんなことを考えていると怨念が煮詰まって、そうなってしまうんだと思うべ。多分。僕もそうなってしまっただけだからよく分からないけども、長い長い考える時間があったからそう解釈しているべ」
長い長い考える時間。きっと壁太郎くんってこうやってずっと小学校にいるんだろうなぁ、と思った。
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そうだ、
「壁太郎くんって、この小学校から出ることはできないの?」
「少なくても今は出られないべ、闇に引き込むあやかしの引力が強くてこの小学校周辺からは出られないんだべ」
ということは闇に引き込むあやかしという元凶のような存在を倒せば、壁太郎くんは自由に行動できるようになるということ?
それならば、
「なおさら闇に引き込むあやかしを倒さないとダメだね! 改心させることができるかなっ?」
「闇に引き込むあやかしは改心とかは多分難しいべ。やるからには倒すしかないべ」
「そっか、じゃあまあ一応はその路線でいくとして、壁太郎くんはさっきの小さな悪魔たちみたいに天国へ行きたい? 私的には一緒にこの小学校を飛び出して遊びたいけども」
「考えたことも無かったべ。でもきっと天国には行けないべ」
「何で!」
私は目を丸くするほどビックリしてしまった。
壁太郎くんは淡々と答える。
「人間時代に後悔の念が、恨みの念が、大きい人間ほど巨大な能力を使えるんだべ。でも巨大な能力を使えるということはその分、闇に見出されているということなので、多分天国には行けないべ」
私は何か納得がいかなくて、つい大きな声で、
「そんなことない! 壁太郎くんは絶対に天国に行けるし! 楽しいこともいっぱいできる! ずっと私と一緒に小学校の幸せを守って私が卒業したら一緒に中学校へ行って中学校の平和を保とう!」
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と言ったので、私は壁太郎くんの手を握りながら、
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と言った。
すると壁太郎くんは恥ずかしそうに手を振り払って笑った。
橙色の、夕暮れの光と重なったその笑顔は神々しかった。
壁太郎くんは立ち上がって、
「じゃあそろそろ飼育室に行くべ。しっかり経験を積んでいくべ」
「そうだね」
と言って私も立ちあがったその時だった。
どこからともなく突風が吹いてきて、飛ばされそうになった。
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