七不思議解決譚

青西瓜(伊藤テル)

文字の大きさ
上 下
6 / 18

【06 オブジェ+】

しおりを挟む

・【06 オブジェ+】


 何だか壁太郎くんと打ち解けられた感じがして、すごく嬉しかったし、オブジェの方向性も完成して、超win-winってヤツだ。
 触るとスベスベして気持ち良くて、あとちょっと冷たくて夏に良い感じ。
 そして色も水色と青色のマーブルで、海底に沈んだ船から出てきた宝石のような輝きを持った感じ、という風に出来上がった設計図。
 改めて言葉でもそうイメージを伝えると、壁太郎くんが間髪入れず、
「じゃあちょっとサンゴ礁のような雰囲気があるといいかもしれないべ」
 と言ったので、私はサムズアップしながら、
「それだ!」
「イメージがここまでまとまれば作れるかもしれないべ」
 そう言って壁太郎くんは中庭のスペースに手をかざし、そのオブジェを出現させたのだ。
 そのオブジェが出現したその時だった。
「「「おー!」」」
 小さな悪魔のようなあやかしたちが感嘆の息を漏らした。
 何匹がすぐさまそのオブジェのほうへやって来て、ちゃんと濡れタオルで手を拭いてからペタペタと触り出した。
「「「これはこれは! すごいすごい!」」」
「「「こんなこんな! アートもありだよな!」」」
 なかなか好感触な様子。
 でも判定って誰がするんだろうと思っていると、他の小さな悪魔たちよりも一回り大きい悪魔がこう言った。
「同点決勝だ! 壁太郎! もう一枚壁を出せ! こっからマジの勝負だ!」
 壁太郎くんは言われるがまま、また壁を出し、その一回り大きい悪魔がまたさっきと同じように絵の具のついた筆を振って壁に色を付け始めた。
 さっきと一緒じゃん、と思っていたんだけども、使っている絵の具が黒や白、灰色などのモノクロのカラーだけで統一感があり、さらには色の飛び跳ねさせ方の技術というものが多分あって、それがすごく上手くて、何だか引き込まれそうな渦になっていた。
 ヤバイ、負けるかも、そう思ったその時だった。
「じゃあ緋色さん、一緒に考えるべ、次の手を」
 そう言われてハッとした。
 そうだ、このまま圧倒されて負けちゃダメだと。
 それに、それにだ。
 私は今、壁太郎くんに頼られている。
 この頼られているという感覚がすごく嬉しくて、すぐさまやる気が出てきた。
「壁太郎くん! 何か案はあるっ?」
 私が壁太郎くんの肩を優しく叩きながらそう言うと、壁太郎くんは頷きながら、
「同じ土俵に立たないという緋色さんの案、すごく良いと思うべ。だからこっちは美しさと機能美でいくべ」
「機能美?」
「そうだべ、僕、今なら小屋程度だけども家が作れるような気がするべ。アーティスティックな小屋というか家を作るべ。そのまま楽しく住めるような家を作るべ」
「何それ! 楽しそう!」
 私は壁の裏面にまた設計図を描き始めた。
 何だかどんどん案が出てくる。
 当たり前だ、二人で考えているんだから。
 どうせならさっき作ったオブジェを庭に飾っているような家というコンセプトにして、夏っぽい家を二人で考えて作り出した。
 壁は白い砂浜っぽくして四隅の柱はヤシの木ナイズ、外から見た屋根は新緑の山にして、家の中では星空にして、床は海辺っぽく、青と白が映えるように、窓は思い切って大きくして日の光がいっぱい入るように。
 そんな設計図を作り、壁太郎くんに壁、いや家を出現させてもらった。
 出現した直後、小さな悪魔たちがわいわい喜びながら、
「「「すごいすごい! これはこれは! 最高だ!」」」
 と言って、ちゃんと手を拭いてから、家の中へ入っていった。
 どんどん小さな悪魔たちがその家の中に入っていくもんだから、一回り大きい悪魔だけが壁の前にポツンと取り残された。
 その一回り大きい悪魔と私は目が合い、一応会釈してから、
「この、さっき作ったオブジェを庭に飾っている家というコンセプトです」
 と言うと、その悪魔は目を飛び出しながら、
「繋がってるのか! それはすごい! 負けだ!」
 と言うと、その悪魔が段々薄くなっていき、何だか空気中に溶け込むように消えていった。
 えっ、と思っていながら、家の中を見ると、小さな悪魔たちも嬉しそうな顔で消えていった。
「あの、どこ行ったの……?」
 と私が壁太郎くんに聞くと、
「小さな思念体のあやかしは、満足すると天国に還るんだべ」
「あっ、天国に行ったんだ……それなら良かった……」
 そう胸をなで下ろしたその時、私は思ったことがあったので、聞くことにした。
「壁太郎くんも満足すると天国に還るの?」
「それは、分からないべ……」
 そう俯いた壁太郎くん。
 何だか知っているような気がした。
 でも言いたくないみたいな。
 口にしたくはない、そんな感じだった。
 じゃあ踏み込むことは止めよう、そう思っていると壁太郎くんがこう言った。
「思念体は、だべ、僕のような元・人間のあやかしじゃない、思念体は、だべ」
 その言葉にビックリしてしまい、二人きりなのにちょっと大きな声で、
「壁太郎くんって元・人間なのっ?」
 と言ってしまうと、壁太郎くんは中庭のベンチに座ったので、私も隣に座った。
 すると壁太郎くんはゆっくりと語り出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

落語のような世界

青西瓜(伊藤テル)
児童書・童話
 サッカーに取り組んでいたが、ケガをして選手になる夢が絶たれた由宇。  やりたいことが無くなって虚ろにリハビリを繰り返していると、幼馴染の京子が暇つぶしにと落語のCDと落語の本を持ってくる。  最初は反発したが、暇過ぎて聞いてみると、まあ暇つぶしにはなった、と思う。  そのことを1週間後、次のお見舞いに来た京子へ言うと、それは入門編だと言う。  そして明日は落語家の輪郭亭秋芳の席が病院内で行なわれるという話を聞いていた京子が、見に行こうと由宇を誘う。  次の日、見に行くとあまりの面白さに感動しつつも、じゃあ帰ろうかとなったところで、輪郭亭秋芳似の男から「落語の世界へ行こう」と誘われる。  きっと輪郭亭秋芳の変装で、別の寄席に連れてってくれるという話だと思い、由宇と京子は頷くと、視界が歪む。  気が付いたら落語のような世界にワープしていた。

鎌倉西小学校ミステリー倶楽部

澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】 https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230 【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】 市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。 学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。 案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。 ……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。 ※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。 ※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

処理中です...