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【ライブ!】
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・【ライブ!】
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当日。体育館。舞台袖。
袖からチラリと見ると、ちゃんと両親は来ているらしい。
というか結構真ん前で腕組みながらいた。
ただそれにやりづらさは感じない。
むしろかましてやりたい気持ちでいっぱいだ。
アタルはテンション高めに最後の挨拶をした。
「よしっ! あとはベストを尽くすだけ! カラダいっぱい最高のジャンプ力を見せよう!」
それに紗栄子も同調し、
「勿論! 最高のジャンプ力と最高の咀嚼力で寿司を食べて行こう!」
俺は少し笑いながら、
「いやまあジャンプも寿司も食べないけども、自分たちらしくラップして歌おうぜ」
自然と三人でそれぞれの肩を回し、円陣のような恰好をし、
「「「おー!」」」
と叫んだ。
司会者のタテノリ先生が叫ぶ。
「ジャジャジャジャーン! ついにカラダラッパーの集大成的ライブの始まりだぞぃ! では! 早速! 翔太とアタルが出会った時の驚きを歌にした! 『心』です! どうぞぃ!」
やっぱりタテノリ先生はノリに世代差を感じるなと思いつつ、俺たちは舞台上に走っていった。
トラックはもう放送委員のしむけんが流している。
カラダの中の『心』をテーマにした曲なので、ピアノに水面や水滴、波紋の音などで静かに前奏が始まるが、一気に熱いビートが流れ出し、ピアノも激しくなる。
『心』
《翔太》
撃たれた衝撃波 広がった光景だ
みるみるうちに心を浸食 飛び出していく速度は神速
撃たれた衝撃波 広がった光景だ
染まっていくカラダの色に 挟まったんだ宝の栞
《アタル》
これから僕は、冒険の始まり やっていくんだ、挑戦を開催
敗退せずにコンテニュー 心は日々をめくり飛んでる
ある日出会った最高の親友 それは最上の新種
優しいけども、つっけんどん 彼の心に膜を覆う”面倒”
僕はそれを取っ払いたくて そんな膜に突破がしたくて
何度もウザったく関わった その結果ついに語らった
仲良くなって、また翔太って クールだけども、あまおうだって
まるでいちごのような甘酸っぱさ その爽やかさは破格だな
《紗栄子》
そうそうそれは分かるよ分かる ショータとは話すと分かる
笑う姿が可愛くて、ただ見るね でもそんな顔見れるのまたいつで?
《翔太》
いや俺が真面目に歌い出したんだから 真面目にラップしてくれ
どうでもいいだろ、俺のみてくれ ちょうどいい締めくれ
《アタル》
とにかく翔太は心が優しいし 溢れているよ、言葉は才気に
気になってしまう翔太の言動に いると僕らの昇華を先導し
縁遠い人にも気遣うところも 困っている人には蜜出す心も
やっぱり翔太はあまおうなんだ 半端ゼロ、素晴らしい考えを
《翔太》
いや会った時の衝撃の話 それが今回の課題
いちごの話はどうでもいい 一期一会で密になる、とか
甘いの比喩は止めてほしい ハッキリ言って恥ずかしい
俺はアタルに出会い驚いた カラダラッパーという概念轟いた
《紗栄子》
そして私は寿司ラッパー ほら、私の寿司を食いたいかぁ
私は言葉を生み、開花 翔太と一緒にいたくて咲いた
私のことも褒めてほしい どんどん言葉で越えてほしい
私以上の私を言葉で教えて 例えば私は何が取り柄で?
《翔太》
じゃあもう分かった、二人とも褒める それでこの曲は終える
アタルの明るさに俺は助けられた そのおかげで明日へ舞えた
紗栄子の台詞はいつも面白い 気持ちの中は多い富
カラダラッパーに寿司ラッパー 半端無いな、案が沸いた
《アタル・紗栄子》
撃たれた衝撃波 広がった光景だ
みるみるうちに心を浸食 飛び出していく速度は神速
撃たれた衝撃波 広がった光景だ
染まっていくカラダの色に 挟まったんだ宝の栞
《翔太》
「いや最後まともに歌うのかよ」
《アタル・紗栄子・翔太》
yeah!
【あえてここはおふざけの曲から入った】
【ライブのお客さんにリラックスしてほしいからだ】
【俺たちの最後のライブだと知らない人もいるが、知っている人は知っているから】
【楽しくやっていくということを示したかった】
【いやまあ最後のライブにするつもりはないけども】
【両親は余裕そうに拍手をしている】
【この表情を絶対にマジで盛り上がっている表情にしてやる】
また次の曲が始まる。
その前奏部分でアタルが喋り出す。
「次の曲は音楽が好きという気持ちを込めた『耳』という曲です! よろしくお願いします!」
遊び心を入れて、おもちゃっぽいサウンドのトラック。
まだこの辺は自己紹介を兼ねているような曲なので、楽し気な感じでやっている。
『耳』
《翔太》
耳を澄まさなくても 聞こえてくる
駆け巡るメロディ 人生を背負い
耳を澄まさなくても 分かるんだ
駆け巡るリリック 耳に意味くる
《アタル》
ちょっとふざけた音楽家 本格派よりも、こんな歌
耳は不思議だね、塞げない だから聞こえちゃうね、僕らのふざけアリ
無駄世界かもしんないけど傾けて 僕は音楽にただ飢えて
だから自分でも音楽を始めちゃう まだこの世に無い描く
ただただ闘うカラダラッパーだ まだまだ瞬く宝は葉っぱだ
いつか大きな花を咲かせたいんだ ライブをもっともっと沸かせたいんだ
韻を繋ぎ、人と繋がり もう無い暗がり、全部無いんだ、後悔・疑い
僕はこの音楽を信じてラップする いや仲間たちを信じてラップする!
《翔太》
耳を澄まさなくても 聞こえてくる
駆け巡るメロディ 人生を背負い
耳を澄まさなくても 分かるんだ
駆け巡るリリック 耳に意味くる
《紗栄子》
寿司ラッパー、耳飾りはシャリ はい、ここまでは意味が無い語り
こういう冗談も悪くない耳障り? 嫌でしょ、毎日が意味ばかり
でもまあこの辺でやっとく有意義 私たちが言う意味
無いかもしれない、でも言うんだ 改めて言葉を知るんだ
言葉の深さまるでしじみ汁風だ 寿司に貝出汁、とりま食うか?
そんな感じで耳に寿司をねじ込む 耳は肥えたかな、栄養
そういうことじゃない、ズレている? 違和感はもっと増えている?
それなら適当に笑ってほしい 私の音楽は楽しいもんだ!
《翔太》
耳を澄まさなくても 聞こえてくる
駆け巡るメロディ 人生を背負い
耳を澄まさなくても 分かるんだ
駆け巡るリリック 耳に意味くる
【自分たちのスタンスを歌う曲】
【俺たちのライブを初めて聞く人もいると思うので、二曲目はこんな感じにした】
【最初から熱すぎると後で、もたれるので、今はまだこのくらい】
【両親はまだまだ別にといった感じだが、ハッキリ言ってここからだ】
また次の曲の前奏の間にアタルが言う。
「次は僕たちがネットで誹謗中傷を受けている気持ちを書いた曲『拳』です!」
トラックは一転、太いベースに骨太なドラム。
オールドスクール型の攻撃的なトラックだ。
『拳』
《翔太》
これは音楽の殴り書き 弾ける熱い覇気
絶対に負けない スタンスは曲げない
これは音楽の殴り書き 弾ける熱い愛
絶対に負けない スタンスは変えるわけない
《紗栄子》
寿司も握るし、拳も握る 全部やり尽くして勝利を握る
生きるために闘うつもり そして未来へ繋がる動き
へい、パンチラインおまち うるさいアンチマシンを絶ち
私の人生はネタだがバカじゃない かますクールなボケは愛
冗談で笑ってほしいけども バカにはするなよ、このヘドロ
人のことをバカにするは最低 そんな発想はすぐさましな改定
分からないなら言葉の拳 分かってくれたらココアを用意
寿司にココアも悪くない? 新しい組み合わせだってまずくない!
《翔太》
これは音楽の殴り書き 弾ける熱い覇気
絶対に負けない スタンスは曲げない
これは音楽の殴り書き 弾ける熱い愛
絶対に負けない スタンスは変えるわけない
《アタル》
どんどん口から繰り出すパンチ 言葉で釣りだす安易
最後のブローは重い難解 でも本当はみんなと踊り合いたい
言葉の拳で語るもいいが やっぱり笑うが破格の意味だ
カラダが喜ぶ大笑い みんな楽しむ言葉が良い
ワッハッハなラッパーだ 真っ裸が宝だ
無防備に笑い合いたい 面白味の無い破壊はいない
拳は握って突き上げるモノ 大物を釣り上げる鼓動
釣り上げたマグロはみんなで寿司に それはまるで金貨得る意味
《翔太》
これは音楽の殴り書き 弾ける熱い覇気
絶対に負けない スタンスは曲げない
これは音楽の殴り書き 弾ける熱い愛
絶対に負けない スタンスは変えるわけない
【ここで会場は一気に盛り上がった】
【なんとなく掴んだような気がした】
【両親もちょっと面食らったような感じだ】
【次が最後の曲、ここまできたらもう駆け抜けよう】
またアタルが前奏の間に喋る。
「最後はこの三人でいたい、この三人の仲は永遠だ、という曲『手と足』です!」
ちょっと優し気な雰囲気の前奏。
オルゴールの音色と軽めのドラム。
ハープが主旋律だが、前奏が終わると一転。
ブラスバンドの音色が入って、音が派手になり、ドラムも強く前に出てくる。
フィナーレとファンファーレを合わせたような楽曲。
『手と足』
《翔太》
並んだ足は動かない つまらない負を破壊
青臭くていいんだ 澄んだ湖のほとり
繋いだ手は離さない 俺たちはまだ若い
青臭くていいんだ また見上げる空
《アタル》
永遠なんて嘘か、いや本当だ まあ確かにそれより今尊重だ
でも未来の絆も間違い無くて ずっとみんなと会いたい、まず手
今だ手を握手、ハンドクラップ 幸せを手繰る&苦楽
どんな山もみんなとなら乗り越え 光り輝くような木霊の色で
自然には逆らわないが逆らいたい 去る運命ならただ裂きたい
それは僕にとっては不自然だから死活 あぁ、不味い縁が幅利かす
どうなろうと永遠だが、足は踏ん張る つまらない行き先はつんざく
手は伸ばす、繋がっていて 僕たちの未来は塞がっていない
《翔太》
並んだ足は動かない つまらない負を破壊
青臭くていいんだ 澄んだ湖のほとり
繋いだ手は離さない 俺たちはまだ若い
青臭くていいんだ また見上げる空
《紗栄子》
一生一緒って私が決めたらそういうこと 寿司はネタシャリそして醤油ごと
全部あって私の人生なんだ それがあるから私は新鮮なんだ
真剣なんだ、全てと拍手 ミスったって不得手も握手
良いも悪いも全部私のモノ 言われたっていい、若い心
達観していなくて当たり前だ みんながいなきゃ明かり絶えた
私の人生は一人も欠けたくない こんなに良い人、あげたくない
ワガママ上等、宝だ行動 今の気持ちは、ただただ騒動
衝動的じゃない、芯にあること 私の心が真に泣くほど
《アタル》
並んだ足は動かない つまらない負を破壊
青臭くていいんだ 澄んだ湖のほとり
《紗栄子》
繋いだ手は離さない 私たちはまだ若い
青臭くていいんだ また見上げる空
《翔太》
俺はずっと仲間たちといたい このメンバーに愛を誓い
近い場所で歌っていたい したくないんだ、停滞
手痛いんだ、いなくなると 味わいたい、今苦楽を
共にして火を灯したい 友といたいは、おかしいことか
終わりの言葉はまだ早い 俺はまだまだカラダ舞い
踊りたい、小躍りしたい 仲間といれば、心に気合い
未来もいたい、期待じゃない 勝ち取るんだ、したい課題
俺はまだまだ残りたい どこかじゃなくて、ここにいたい
《紗栄子》
並んだ足は動かない つまらない負を破壊
青臭くていいんだ 澄んだ湖のほとり
《アタル》
繋いだ手は離さない 俺たちはまだ若い
青臭くていいんだ また見上げる空
《翔太》
並んだ足は動かない つまらない負を破壊
青臭くていいんだ 澄んだ湖のほとり
繋いだ手は離さない 俺たちはまだ若い
青臭くていいんだ また見上げる空
【会場は万雷の拍手で埋め尽くされた】
【大きく手を振るアタルと紗栄子、俺も手を挙げて拍手に応える】
拍手が収まってきたところでアタルが言った。
「実は今日で僕たちのライブは最後ということになっています。何故なら翔太がニューヨークに引っ越してしまうから」
会場はざわついているが、アタルは構わず喋る。
「でも最後にする気はありません! 僕は翔太とずっと一緒にやっていたい! だからこういう曲を作りました!」
ここで紗栄子が割って入り、
「そう! 私はずっとずっとショータと一緒にいたい! 私とショータは地蔵と笠の関係でずっと一緒なんだから!」
その言葉に会場がまた沸き上がる。
俺も何か喋らなければと思ったタイミングで、誰かが声を張り上げ、手を挙げ、舞台上に上ってきた。
いや誰かじゃない。
俺が一番知っている。
そう、俺の父親だ。
俺の父親が急に舞台上にやって来て、俺に近付いてきたのだ。
一体何なんだと思いつつも、俺は、
「何だよ、何の用だよ」
と言うと、父親はこう言った。
「オレはオマエに用は無い、マイクを貸せ」
俺に用が無いという言葉にイラつきつつも、何だか目がマジだったので、マイクを貸すと父親はこう言った。
「どうもー! 翔太の父親の遊助でぇーす! 翔太をニューヨークに連れて行く張本人でぇーす!」
そう言うと、会場から徐々にブーイングが鳴り出して、そのブーイングは大きな渦になっていった。
そのブーイングしている会場へ余裕そうに拍手をしている父親。
一体何をする気だと思っていると、
「じゃあさっ、放送室の子、ビート鳴らして頂戴!」
と言うと、放送室にいるしむけんがフリースタイル用のトラックを流し始めた。
何かあった時の用心に用意していたけども、まさかこんなことを父親が言い出すなんて。
「翔太はどうでもいいんだ、オレはアタルくんに話を聞きたいぜ、HEY!」
と言ってからあからさまにビートに乗り出して、ついにはラップを始めた。
《遊助》
HEY,YO 清聴 君のおかげで翔太は音楽に傾倒
まずは感謝し、でもこのままは反対 やっぱり本物の音楽を学ばせたい
ただ変えたい親心なんだ、分かるかな? ただ歌が好きなだけじゃヤダ
本場はいいぜ、知るんだぜ、耳で それがオレの意志で、アンダースタンド?
【ラップなんてしたことないだろうに、それでもこれくらいはできてしまうことが才能なんだろう】
【それなりのラップになっている父親にちょっと驚きつつも、今はアタルに託すしかない】
【何故ならマイクは渡してしまったから】
【何だか不安そうに俺に近付いてきた紗栄子に俺は目配せをして、大丈夫とアイコンタクトした】
《アタル》
アンダースタンド! 理解しました! でも翔太のいない未来イヤイヤ!
というかハッキリ言って本物って何? できるんですか、ホントの手合い
踏む場数、からの、すぐ沸かす そのほうが自然な成長、つつがなく産む破格
日本のままで一攫千金 仲間たちといるで一択、全員
【アタルが物怖じせず、しっかりラップしてくれていることが嬉しい】
【というかアタルがこんなヤツに負けるわけないか】
【頑張ってくれ! アタル!】
《遊助》
一攫千金、ならばお金の話しようか ハッキリ言って口出すのはそもそも異様だ
翔太が日本にいるならお金はどうする? 用があったらオレたちが往復? WHAT!
カットしたいな無駄なお金は ならばオレらと一緒が答えだ
生活するためのお金は誰が出す? そこをクリアしなければ、ダメだカス!
【そうだ、これを言われるとぐうの音も出ない】
【結局子供とは親にお金で縛られているんだ】
【アタルもちょっと喰らった表情をして、ちょっと迷いが出ている顔】
【父親は不敵に笑っている】
【1小節、2小節とビートが過ぎていく】
【父親が手を挙げて勝利のポーズをとろうとしたその時だった】
《紗栄子》
じゃあ私の家に居候させてあげる! 寿司とか美味しいモノを分ける!
パパそれでいいでしょ! 家族が増えることが早まっただけ!
どうせショータは私の家族になるし! それは確信! 隠しはしない!
ほらほら! パパも舞台上に上がってきて! 今いるコイツが敵で!
【と言いながら父親を指差した紗栄子】
【そのあからさまな攻撃性に怯んだ父親】
【その間に紗栄子の父親が舞台上に上がってきた】
「MCヨボヨボから提言じゃぁ~い!」
【紗栄子の父親がデカい声で叫びつつ、紗栄子からマイクを受け取った】
【マイクを受け取っていない段階でもめちゃくちゃ声の通るヨボヨボだったな、今の】
《MCヨボヨボ》
ショータくんが家族になるのは嬉しいぞぃ 喜んで引き取ってあげるぞぃ
むしろ楽しくなりそうだから 願うほどにショータくんがほしいぞぃ
多分ショータくんがいなくなると 紗栄子の元気はゼロになるぞぃ
ならばショータくんがいたほうが 家族的に明らかに得するぞぃ
【韻が全て”ぞぃ”というストロングスタイル】
【ただ会場は沸いている】
【この流れに乗ってまた、アタルがラップを開始した】
《アタル》
僕も親に頼めば何かしてくれるはず 翔太の人生に何か、増える・足す
勿論、翔太には出世払いで でも僕たちと一緒ならすぐ手叩いて
笑えるようなスターになる 翔太の出世は僕らの出世、つかまり合う
でもそれはすぐ傍にいなければならない だから抗い、逆らい、闘い!
【アタルのラップで今日一番の拍手】
【でもまだ何だか余裕たっぷりに笑う父親】
【父親はマイクを改めて強く握ってこう言った】
「気に入った!」
その言葉に会場中がキョトンとした。
一体どういうことだろうと思っていると、
「よく分かった。翔太がそこまで慕われているなら仕方ない。お金の話もクリアできそうだ。まあ元々お金はあるから養育費をアンタの家に振り込むよ。翔太をよろしくお願いします」
と言いながら、紗栄子の父親に頭を下げた父親。
俺は正直驚愕してしまった。
父親が誰かに頭を下げているところを初めて見たからだ。
紗栄子の父親は笑いながら、
「養育費をもらったら完全に得してしまうぞぃ、まあここは喜んで得させてもらうぞぃ、ここが商売人の怖いところだぞぃ、いよぉ~」
最後の”いよぉ~”は何だったんだろうと思いつつも、何だか話が好転しそうだ。
いや、というか、
「本当にいいのかよ、これで」
と俺が言うと、父親が笑ってからこう言った。
「良いに決まってるだろ、どうやらオマエらの音楽は遊びじゃなかったからな。本気の場でこそ本物は輝く。ここには十分本物があったよ」
そして俺は引っ越さなくても良くなった。
話の通り、俺は紗栄子の家で生活させてもらうようになった。
紗栄子の父親は毎月の養育費の額を見て「やっぱり家政婦雇うこともできる額だぞぃ~、これは余らせて返さないいけないぞぃ~」と言っていた。
紗栄子と同じ屋根の下で暮らすのは、最初はちょっと気恥ずかしかったけども、結構すぐに慣れた。
登校は2人で行き、学校でも基本的には2人でいて。
イジってくるクラスメイトもいるけども、淡い程度でそこまで言われない。冗談程度のノリだ。
放課後になれば、またアタルを入れて3人で活動する。
いつも通りの作詞作曲だけども、今日はいつもと違う、ことは俺と紗栄子しか知らない。
曲作りも一段落ついたところで、俺は紗栄子にフリースタイル用のトラックを流してもらった。
アタルはすぐさま反応して、
「おっ、ここでちょっとフリスタで遊ぶ?」
と言ったところで、俺は歌ラップを開始した。
《翔太》
いつもありがとう、アタル すぐに俺の気持ちが分かる
優しくて明るい 危ういところも無く、語るし
言葉は知識に溢れ 俺の中にも良い意味が増え
俺を成長させてくれて感謝し 一緒に居れば安泰
【ここまでは作ってきたけども、さぁ、アタルはなんて言うのか】
【こんなに次の言葉が楽しみな人間っていないな、って思う】
【いや紗栄子も好きだけどもね】
《アタル》
安泰だなんて僕を参拝 してくれてありがとう、乾杯
元来僕はただのボケなのに 僕の中の水田の米は富み
これからもみんなで 良い寿司とカラダを作っていきたい
敬意・愛持って言い合いでいいかい? もういいかい、じゃなくてもう一回!
【そう言いながら人差し指一本を僕に見せたアタル】
【そうだな、褒め合いはもう1ターンしようか】
【ここからは俺もフリースタイルだ】
《翔太》
一回でも二回でも三回でも安泰 何度でも乾杯、誰もしない反対
案内する喜びのアイランド 登っていこう、新しい階段を
一歩一歩着実に、確実に ノートは見直し用に書く知識
感謝の気持ちを予習復習 俺らは同じ場所で呼吸する
【それなりに押韻できたし、言葉も出たし、それは良かった】
【この同じ場所に今、居れることがすごく嬉しくて】
《アタル》
呼吸は大切、それがカラダだ 宝だ、しないアワアワ
落ち着き行動、押し売りNoNo 僕は勿論、推し好き相当
翔太と紗栄子を推薦します 僕のテンションは噴煙近く
燃え盛るマグマの応援だ 常に青春で沸く青も不変だ
トラックをフィードアウトさせた紗栄子。
ラップを介さずに言いたい言葉が浮かんだので、俺はそれを言う。
「アタル、そして紗栄子、毎日ありがとう。2人のおかげで俺は今もこうして楽しんで生きていける。これからもよろしくお願いします」
すると、アタルは元気いっぱいにジャンプしながら、
「僕のほうこそ、これからもどんどんよろしくお願いします! 楽しくラップしていこう!」
紗栄子も笑顔で、
「勿論私からも毎日よろしくお願いします! というか次は! 小学生限定ライブの全国大会だね!」
そう、俺とアタルと紗栄子は、出場者を小学生で限定したライブの全国大会に出るため、動画審査を送ったのだ。
あとは審査されるだけだけども、全国大会に出場するかもしれないので、今日もラップを磨く。
こうやって一緒にいることが日常になって、本当に嬉しい。
全ての人に感謝なんて言葉は、大人になっても俺は言わないと思っていたけども、今は本当に出会った人々に感謝している。
与えられた時間はきっと永遠じゃない。
そもそもすぐに切れてしまうことにもなりかねなかった。
でもアタルと紗栄子、そしていろんな方々のおかげで今、俺はこうしてここにいる。
だから今この場にいる間は全力でやり遂げなければならないと思う。
というかこの2人となら、その全力だっていつも楽しいさ。
楽しいからやっている、今はそれだけだ。
(了)
・【ライブ!】
・
当日。体育館。舞台袖。
袖からチラリと見ると、ちゃんと両親は来ているらしい。
というか結構真ん前で腕組みながらいた。
ただそれにやりづらさは感じない。
むしろかましてやりたい気持ちでいっぱいだ。
アタルはテンション高めに最後の挨拶をした。
「よしっ! あとはベストを尽くすだけ! カラダいっぱい最高のジャンプ力を見せよう!」
それに紗栄子も同調し、
「勿論! 最高のジャンプ力と最高の咀嚼力で寿司を食べて行こう!」
俺は少し笑いながら、
「いやまあジャンプも寿司も食べないけども、自分たちらしくラップして歌おうぜ」
自然と三人でそれぞれの肩を回し、円陣のような恰好をし、
「「「おー!」」」
と叫んだ。
司会者のタテノリ先生が叫ぶ。
「ジャジャジャジャーン! ついにカラダラッパーの集大成的ライブの始まりだぞぃ! では! 早速! 翔太とアタルが出会った時の驚きを歌にした! 『心』です! どうぞぃ!」
やっぱりタテノリ先生はノリに世代差を感じるなと思いつつ、俺たちは舞台上に走っていった。
トラックはもう放送委員のしむけんが流している。
カラダの中の『心』をテーマにした曲なので、ピアノに水面や水滴、波紋の音などで静かに前奏が始まるが、一気に熱いビートが流れ出し、ピアノも激しくなる。
『心』
《翔太》
撃たれた衝撃波 広がった光景だ
みるみるうちに心を浸食 飛び出していく速度は神速
撃たれた衝撃波 広がった光景だ
染まっていくカラダの色に 挟まったんだ宝の栞
《アタル》
これから僕は、冒険の始まり やっていくんだ、挑戦を開催
敗退せずにコンテニュー 心は日々をめくり飛んでる
ある日出会った最高の親友 それは最上の新種
優しいけども、つっけんどん 彼の心に膜を覆う”面倒”
僕はそれを取っ払いたくて そんな膜に突破がしたくて
何度もウザったく関わった その結果ついに語らった
仲良くなって、また翔太って クールだけども、あまおうだって
まるでいちごのような甘酸っぱさ その爽やかさは破格だな
《紗栄子》
そうそうそれは分かるよ分かる ショータとは話すと分かる
笑う姿が可愛くて、ただ見るね でもそんな顔見れるのまたいつで?
《翔太》
いや俺が真面目に歌い出したんだから 真面目にラップしてくれ
どうでもいいだろ、俺のみてくれ ちょうどいい締めくれ
《アタル》
とにかく翔太は心が優しいし 溢れているよ、言葉は才気に
気になってしまう翔太の言動に いると僕らの昇華を先導し
縁遠い人にも気遣うところも 困っている人には蜜出す心も
やっぱり翔太はあまおうなんだ 半端ゼロ、素晴らしい考えを
《翔太》
いや会った時の衝撃の話 それが今回の課題
いちごの話はどうでもいい 一期一会で密になる、とか
甘いの比喩は止めてほしい ハッキリ言って恥ずかしい
俺はアタルに出会い驚いた カラダラッパーという概念轟いた
《紗栄子》
そして私は寿司ラッパー ほら、私の寿司を食いたいかぁ
私は言葉を生み、開花 翔太と一緒にいたくて咲いた
私のことも褒めてほしい どんどん言葉で越えてほしい
私以上の私を言葉で教えて 例えば私は何が取り柄で?
《翔太》
じゃあもう分かった、二人とも褒める それでこの曲は終える
アタルの明るさに俺は助けられた そのおかげで明日へ舞えた
紗栄子の台詞はいつも面白い 気持ちの中は多い富
カラダラッパーに寿司ラッパー 半端無いな、案が沸いた
《アタル・紗栄子》
撃たれた衝撃波 広がった光景だ
みるみるうちに心を浸食 飛び出していく速度は神速
撃たれた衝撃波 広がった光景だ
染まっていくカラダの色に 挟まったんだ宝の栞
《翔太》
「いや最後まともに歌うのかよ」
《アタル・紗栄子・翔太》
yeah!
【あえてここはおふざけの曲から入った】
【ライブのお客さんにリラックスしてほしいからだ】
【俺たちの最後のライブだと知らない人もいるが、知っている人は知っているから】
【楽しくやっていくということを示したかった】
【いやまあ最後のライブにするつもりはないけども】
【両親は余裕そうに拍手をしている】
【この表情を絶対にマジで盛り上がっている表情にしてやる】
また次の曲が始まる。
その前奏部分でアタルが喋り出す。
「次の曲は音楽が好きという気持ちを込めた『耳』という曲です! よろしくお願いします!」
遊び心を入れて、おもちゃっぽいサウンドのトラック。
まだこの辺は自己紹介を兼ねているような曲なので、楽し気な感じでやっている。
『耳』
《翔太》
耳を澄まさなくても 聞こえてくる
駆け巡るメロディ 人生を背負い
耳を澄まさなくても 分かるんだ
駆け巡るリリック 耳に意味くる
《アタル》
ちょっとふざけた音楽家 本格派よりも、こんな歌
耳は不思議だね、塞げない だから聞こえちゃうね、僕らのふざけアリ
無駄世界かもしんないけど傾けて 僕は音楽にただ飢えて
だから自分でも音楽を始めちゃう まだこの世に無い描く
ただただ闘うカラダラッパーだ まだまだ瞬く宝は葉っぱだ
いつか大きな花を咲かせたいんだ ライブをもっともっと沸かせたいんだ
韻を繋ぎ、人と繋がり もう無い暗がり、全部無いんだ、後悔・疑い
僕はこの音楽を信じてラップする いや仲間たちを信じてラップする!
《翔太》
耳を澄まさなくても 聞こえてくる
駆け巡るメロディ 人生を背負い
耳を澄まさなくても 分かるんだ
駆け巡るリリック 耳に意味くる
《紗栄子》
寿司ラッパー、耳飾りはシャリ はい、ここまでは意味が無い語り
こういう冗談も悪くない耳障り? 嫌でしょ、毎日が意味ばかり
でもまあこの辺でやっとく有意義 私たちが言う意味
無いかもしれない、でも言うんだ 改めて言葉を知るんだ
言葉の深さまるでしじみ汁風だ 寿司に貝出汁、とりま食うか?
そんな感じで耳に寿司をねじ込む 耳は肥えたかな、栄養
そういうことじゃない、ズレている? 違和感はもっと増えている?
それなら適当に笑ってほしい 私の音楽は楽しいもんだ!
《翔太》
耳を澄まさなくても 聞こえてくる
駆け巡るメロディ 人生を背負い
耳を澄まさなくても 分かるんだ
駆け巡るリリック 耳に意味くる
【自分たちのスタンスを歌う曲】
【俺たちのライブを初めて聞く人もいると思うので、二曲目はこんな感じにした】
【最初から熱すぎると後で、もたれるので、今はまだこのくらい】
【両親はまだまだ別にといった感じだが、ハッキリ言ってここからだ】
また次の曲の前奏の間にアタルが言う。
「次は僕たちがネットで誹謗中傷を受けている気持ちを書いた曲『拳』です!」
トラックは一転、太いベースに骨太なドラム。
オールドスクール型の攻撃的なトラックだ。
『拳』
《翔太》
これは音楽の殴り書き 弾ける熱い覇気
絶対に負けない スタンスは曲げない
これは音楽の殴り書き 弾ける熱い愛
絶対に負けない スタンスは変えるわけない
《紗栄子》
寿司も握るし、拳も握る 全部やり尽くして勝利を握る
生きるために闘うつもり そして未来へ繋がる動き
へい、パンチラインおまち うるさいアンチマシンを絶ち
私の人生はネタだがバカじゃない かますクールなボケは愛
冗談で笑ってほしいけども バカにはするなよ、このヘドロ
人のことをバカにするは最低 そんな発想はすぐさましな改定
分からないなら言葉の拳 分かってくれたらココアを用意
寿司にココアも悪くない? 新しい組み合わせだってまずくない!
《翔太》
これは音楽の殴り書き 弾ける熱い覇気
絶対に負けない スタンスは曲げない
これは音楽の殴り書き 弾ける熱い愛
絶対に負けない スタンスは変えるわけない
《アタル》
どんどん口から繰り出すパンチ 言葉で釣りだす安易
最後のブローは重い難解 でも本当はみんなと踊り合いたい
言葉の拳で語るもいいが やっぱり笑うが破格の意味だ
カラダが喜ぶ大笑い みんな楽しむ言葉が良い
ワッハッハなラッパーだ 真っ裸が宝だ
無防備に笑い合いたい 面白味の無い破壊はいない
拳は握って突き上げるモノ 大物を釣り上げる鼓動
釣り上げたマグロはみんなで寿司に それはまるで金貨得る意味
《翔太》
これは音楽の殴り書き 弾ける熱い覇気
絶対に負けない スタンスは曲げない
これは音楽の殴り書き 弾ける熱い愛
絶対に負けない スタンスは変えるわけない
【ここで会場は一気に盛り上がった】
【なんとなく掴んだような気がした】
【両親もちょっと面食らったような感じだ】
【次が最後の曲、ここまできたらもう駆け抜けよう】
またアタルが前奏の間に喋る。
「最後はこの三人でいたい、この三人の仲は永遠だ、という曲『手と足』です!」
ちょっと優し気な雰囲気の前奏。
オルゴールの音色と軽めのドラム。
ハープが主旋律だが、前奏が終わると一転。
ブラスバンドの音色が入って、音が派手になり、ドラムも強く前に出てくる。
フィナーレとファンファーレを合わせたような楽曲。
『手と足』
《翔太》
並んだ足は動かない つまらない負を破壊
青臭くていいんだ 澄んだ湖のほとり
繋いだ手は離さない 俺たちはまだ若い
青臭くていいんだ また見上げる空
《アタル》
永遠なんて嘘か、いや本当だ まあ確かにそれより今尊重だ
でも未来の絆も間違い無くて ずっとみんなと会いたい、まず手
今だ手を握手、ハンドクラップ 幸せを手繰る&苦楽
どんな山もみんなとなら乗り越え 光り輝くような木霊の色で
自然には逆らわないが逆らいたい 去る運命ならただ裂きたい
それは僕にとっては不自然だから死活 あぁ、不味い縁が幅利かす
どうなろうと永遠だが、足は踏ん張る つまらない行き先はつんざく
手は伸ばす、繋がっていて 僕たちの未来は塞がっていない
《翔太》
並んだ足は動かない つまらない負を破壊
青臭くていいんだ 澄んだ湖のほとり
繋いだ手は離さない 俺たちはまだ若い
青臭くていいんだ また見上げる空
《紗栄子》
一生一緒って私が決めたらそういうこと 寿司はネタシャリそして醤油ごと
全部あって私の人生なんだ それがあるから私は新鮮なんだ
真剣なんだ、全てと拍手 ミスったって不得手も握手
良いも悪いも全部私のモノ 言われたっていい、若い心
達観していなくて当たり前だ みんながいなきゃ明かり絶えた
私の人生は一人も欠けたくない こんなに良い人、あげたくない
ワガママ上等、宝だ行動 今の気持ちは、ただただ騒動
衝動的じゃない、芯にあること 私の心が真に泣くほど
《アタル》
並んだ足は動かない つまらない負を破壊
青臭くていいんだ 澄んだ湖のほとり
《紗栄子》
繋いだ手は離さない 私たちはまだ若い
青臭くていいんだ また見上げる空
《翔太》
俺はずっと仲間たちといたい このメンバーに愛を誓い
近い場所で歌っていたい したくないんだ、停滞
手痛いんだ、いなくなると 味わいたい、今苦楽を
共にして火を灯したい 友といたいは、おかしいことか
終わりの言葉はまだ早い 俺はまだまだカラダ舞い
踊りたい、小躍りしたい 仲間といれば、心に気合い
未来もいたい、期待じゃない 勝ち取るんだ、したい課題
俺はまだまだ残りたい どこかじゃなくて、ここにいたい
《紗栄子》
並んだ足は動かない つまらない負を破壊
青臭くていいんだ 澄んだ湖のほとり
《アタル》
繋いだ手は離さない 俺たちはまだ若い
青臭くていいんだ また見上げる空
《翔太》
並んだ足は動かない つまらない負を破壊
青臭くていいんだ 澄んだ湖のほとり
繋いだ手は離さない 俺たちはまだ若い
青臭くていいんだ また見上げる空
【会場は万雷の拍手で埋め尽くされた】
【大きく手を振るアタルと紗栄子、俺も手を挙げて拍手に応える】
拍手が収まってきたところでアタルが言った。
「実は今日で僕たちのライブは最後ということになっています。何故なら翔太がニューヨークに引っ越してしまうから」
会場はざわついているが、アタルは構わず喋る。
「でも最後にする気はありません! 僕は翔太とずっと一緒にやっていたい! だからこういう曲を作りました!」
ここで紗栄子が割って入り、
「そう! 私はずっとずっとショータと一緒にいたい! 私とショータは地蔵と笠の関係でずっと一緒なんだから!」
その言葉に会場がまた沸き上がる。
俺も何か喋らなければと思ったタイミングで、誰かが声を張り上げ、手を挙げ、舞台上に上ってきた。
いや誰かじゃない。
俺が一番知っている。
そう、俺の父親だ。
俺の父親が急に舞台上にやって来て、俺に近付いてきたのだ。
一体何なんだと思いつつも、俺は、
「何だよ、何の用だよ」
と言うと、父親はこう言った。
「オレはオマエに用は無い、マイクを貸せ」
俺に用が無いという言葉にイラつきつつも、何だか目がマジだったので、マイクを貸すと父親はこう言った。
「どうもー! 翔太の父親の遊助でぇーす! 翔太をニューヨークに連れて行く張本人でぇーす!」
そう言うと、会場から徐々にブーイングが鳴り出して、そのブーイングは大きな渦になっていった。
そのブーイングしている会場へ余裕そうに拍手をしている父親。
一体何をする気だと思っていると、
「じゃあさっ、放送室の子、ビート鳴らして頂戴!」
と言うと、放送室にいるしむけんがフリースタイル用のトラックを流し始めた。
何かあった時の用心に用意していたけども、まさかこんなことを父親が言い出すなんて。
「翔太はどうでもいいんだ、オレはアタルくんに話を聞きたいぜ、HEY!」
と言ってからあからさまにビートに乗り出して、ついにはラップを始めた。
《遊助》
HEY,YO 清聴 君のおかげで翔太は音楽に傾倒
まずは感謝し、でもこのままは反対 やっぱり本物の音楽を学ばせたい
ただ変えたい親心なんだ、分かるかな? ただ歌が好きなだけじゃヤダ
本場はいいぜ、知るんだぜ、耳で それがオレの意志で、アンダースタンド?
【ラップなんてしたことないだろうに、それでもこれくらいはできてしまうことが才能なんだろう】
【それなりのラップになっている父親にちょっと驚きつつも、今はアタルに託すしかない】
【何故ならマイクは渡してしまったから】
【何だか不安そうに俺に近付いてきた紗栄子に俺は目配せをして、大丈夫とアイコンタクトした】
《アタル》
アンダースタンド! 理解しました! でも翔太のいない未来イヤイヤ!
というかハッキリ言って本物って何? できるんですか、ホントの手合い
踏む場数、からの、すぐ沸かす そのほうが自然な成長、つつがなく産む破格
日本のままで一攫千金 仲間たちといるで一択、全員
【アタルが物怖じせず、しっかりラップしてくれていることが嬉しい】
【というかアタルがこんなヤツに負けるわけないか】
【頑張ってくれ! アタル!】
《遊助》
一攫千金、ならばお金の話しようか ハッキリ言って口出すのはそもそも異様だ
翔太が日本にいるならお金はどうする? 用があったらオレたちが往復? WHAT!
カットしたいな無駄なお金は ならばオレらと一緒が答えだ
生活するためのお金は誰が出す? そこをクリアしなければ、ダメだカス!
【そうだ、これを言われるとぐうの音も出ない】
【結局子供とは親にお金で縛られているんだ】
【アタルもちょっと喰らった表情をして、ちょっと迷いが出ている顔】
【父親は不敵に笑っている】
【1小節、2小節とビートが過ぎていく】
【父親が手を挙げて勝利のポーズをとろうとしたその時だった】
《紗栄子》
じゃあ私の家に居候させてあげる! 寿司とか美味しいモノを分ける!
パパそれでいいでしょ! 家族が増えることが早まっただけ!
どうせショータは私の家族になるし! それは確信! 隠しはしない!
ほらほら! パパも舞台上に上がってきて! 今いるコイツが敵で!
【と言いながら父親を指差した紗栄子】
【そのあからさまな攻撃性に怯んだ父親】
【その間に紗栄子の父親が舞台上に上がってきた】
「MCヨボヨボから提言じゃぁ~い!」
【紗栄子の父親がデカい声で叫びつつ、紗栄子からマイクを受け取った】
【マイクを受け取っていない段階でもめちゃくちゃ声の通るヨボヨボだったな、今の】
《MCヨボヨボ》
ショータくんが家族になるのは嬉しいぞぃ 喜んで引き取ってあげるぞぃ
むしろ楽しくなりそうだから 願うほどにショータくんがほしいぞぃ
多分ショータくんがいなくなると 紗栄子の元気はゼロになるぞぃ
ならばショータくんがいたほうが 家族的に明らかに得するぞぃ
【韻が全て”ぞぃ”というストロングスタイル】
【ただ会場は沸いている】
【この流れに乗ってまた、アタルがラップを開始した】
《アタル》
僕も親に頼めば何かしてくれるはず 翔太の人生に何か、増える・足す
勿論、翔太には出世払いで でも僕たちと一緒ならすぐ手叩いて
笑えるようなスターになる 翔太の出世は僕らの出世、つかまり合う
でもそれはすぐ傍にいなければならない だから抗い、逆らい、闘い!
【アタルのラップで今日一番の拍手】
【でもまだ何だか余裕たっぷりに笑う父親】
【父親はマイクを改めて強く握ってこう言った】
「気に入った!」
その言葉に会場中がキョトンとした。
一体どういうことだろうと思っていると、
「よく分かった。翔太がそこまで慕われているなら仕方ない。お金の話もクリアできそうだ。まあ元々お金はあるから養育費をアンタの家に振り込むよ。翔太をよろしくお願いします」
と言いながら、紗栄子の父親に頭を下げた父親。
俺は正直驚愕してしまった。
父親が誰かに頭を下げているところを初めて見たからだ。
紗栄子の父親は笑いながら、
「養育費をもらったら完全に得してしまうぞぃ、まあここは喜んで得させてもらうぞぃ、ここが商売人の怖いところだぞぃ、いよぉ~」
最後の”いよぉ~”は何だったんだろうと思いつつも、何だか話が好転しそうだ。
いや、というか、
「本当にいいのかよ、これで」
と俺が言うと、父親が笑ってからこう言った。
「良いに決まってるだろ、どうやらオマエらの音楽は遊びじゃなかったからな。本気の場でこそ本物は輝く。ここには十分本物があったよ」
そして俺は引っ越さなくても良くなった。
話の通り、俺は紗栄子の家で生活させてもらうようになった。
紗栄子の父親は毎月の養育費の額を見て「やっぱり家政婦雇うこともできる額だぞぃ~、これは余らせて返さないいけないぞぃ~」と言っていた。
紗栄子と同じ屋根の下で暮らすのは、最初はちょっと気恥ずかしかったけども、結構すぐに慣れた。
登校は2人で行き、学校でも基本的には2人でいて。
イジってくるクラスメイトもいるけども、淡い程度でそこまで言われない。冗談程度のノリだ。
放課後になれば、またアタルを入れて3人で活動する。
いつも通りの作詞作曲だけども、今日はいつもと違う、ことは俺と紗栄子しか知らない。
曲作りも一段落ついたところで、俺は紗栄子にフリースタイル用のトラックを流してもらった。
アタルはすぐさま反応して、
「おっ、ここでちょっとフリスタで遊ぶ?」
と言ったところで、俺は歌ラップを開始した。
《翔太》
いつもありがとう、アタル すぐに俺の気持ちが分かる
優しくて明るい 危ういところも無く、語るし
言葉は知識に溢れ 俺の中にも良い意味が増え
俺を成長させてくれて感謝し 一緒に居れば安泰
【ここまでは作ってきたけども、さぁ、アタルはなんて言うのか】
【こんなに次の言葉が楽しみな人間っていないな、って思う】
【いや紗栄子も好きだけどもね】
《アタル》
安泰だなんて僕を参拝 してくれてありがとう、乾杯
元来僕はただのボケなのに 僕の中の水田の米は富み
これからもみんなで 良い寿司とカラダを作っていきたい
敬意・愛持って言い合いでいいかい? もういいかい、じゃなくてもう一回!
【そう言いながら人差し指一本を僕に見せたアタル】
【そうだな、褒め合いはもう1ターンしようか】
【ここからは俺もフリースタイルだ】
《翔太》
一回でも二回でも三回でも安泰 何度でも乾杯、誰もしない反対
案内する喜びのアイランド 登っていこう、新しい階段を
一歩一歩着実に、確実に ノートは見直し用に書く知識
感謝の気持ちを予習復習 俺らは同じ場所で呼吸する
【それなりに押韻できたし、言葉も出たし、それは良かった】
【この同じ場所に今、居れることがすごく嬉しくて】
《アタル》
呼吸は大切、それがカラダだ 宝だ、しないアワアワ
落ち着き行動、押し売りNoNo 僕は勿論、推し好き相当
翔太と紗栄子を推薦します 僕のテンションは噴煙近く
燃え盛るマグマの応援だ 常に青春で沸く青も不変だ
トラックをフィードアウトさせた紗栄子。
ラップを介さずに言いたい言葉が浮かんだので、俺はそれを言う。
「アタル、そして紗栄子、毎日ありがとう。2人のおかげで俺は今もこうして楽しんで生きていける。これからもよろしくお願いします」
すると、アタルは元気いっぱいにジャンプしながら、
「僕のほうこそ、これからもどんどんよろしくお願いします! 楽しくラップしていこう!」
紗栄子も笑顔で、
「勿論私からも毎日よろしくお願いします! というか次は! 小学生限定ライブの全国大会だね!」
そう、俺とアタルと紗栄子は、出場者を小学生で限定したライブの全国大会に出るため、動画審査を送ったのだ。
あとは審査されるだけだけども、全国大会に出場するかもしれないので、今日もラップを磨く。
こうやって一緒にいることが日常になって、本当に嬉しい。
全ての人に感謝なんて言葉は、大人になっても俺は言わないと思っていたけども、今は本当に出会った人々に感謝している。
与えられた時間はきっと永遠じゃない。
そもそもすぐに切れてしまうことにもなりかねなかった。
でもアタルと紗栄子、そしていろんな方々のおかげで今、俺はこうしてここにいる。
だから今この場にいる間は全力でやり遂げなければならないと思う。
というかこの2人となら、その全力だっていつも楽しいさ。
楽しいからやっている、今はそれだけだ。
(了)
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