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【謝罪と謝罪】
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・【謝罪と謝罪】
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開口一番、アタルが叫んだ。
「ゴメン! 僕がバカみたいなこと言っていたせいでおかしくなっちゃって!」
正直、公園に行く道中、まずはアタルに謝罪しようと思っていたので、面食らってしまった。先に言われたから。
いやいやすぐにこっちも言おう。
「俺も、もっと楽しい雰囲気になるようなツッコミができれば良かったんだけども。紗栄子のことも、紗栄子と俺は幼馴染なわけだから、もっと落ち着かせれば良かったんだけども。ゴメン」
「そんな、翔太が謝ることは何も無いよ。本当にゴメンなさい」
じゃあ。
「止めようぜ。ゴメンの言い合いは。それよりも次の話をしようぜ」
俺がそう言うと、アタルは少し下を向いてから、
「とりあえずベンチに座ろう」
促されるまま二人でベンチに座った。
そしてアタルが語り出した。
「次の話もいいけども、その前に僕の過去の話をしていいかな」
アタルの過去。
転校が多くて、人の顔色を窺って生きてきたみたいなことは言っていたけども。
どうして、今、過去の話なんだろう。
でも聞いたほうがいいだろうなぁ。
「うん、分かった。アタルの話を聞きたいよ」
「ありがとう、じゃあ話すね」
そう言って、一息呼吸してからアタルは語り出した。
「僕分からないんだ。こうやって友達ができたこと無かったから」
衝撃的な一言だった。
なんとなくアタルは友達がいっぱいいるイメージだった。
その証拠にクラスメイトとは、いつも楽しそうにしているし。
アタルは続ける。
「いや会話するくらいの仲や一緒に遊ぶくらいの仲の人ならいたけども、こうやって自分のやりたいことと真摯に向き合えるような友達はいなくてさ」
そりゃまあ確かに、カラダラッパーと突然言い出して、それを遠目から見ている分にはいいけども、中に入って一緒にやる人はいなかっただろうなぁ。
「そもそも作ろうともしていなかったんだけどね、どうせまた転校してしまうと思って。でもこの小学校から転校することは多分無いと言われて、だからやっと本当の自分を出すことができたんだ」
「いろいろ苦悩があるんだな、いや俺は転校をしたことが無いから分からないけども。アタルは大変だったんだろうなということはそれなりに分かるよ」
「ありがとう。続けるね。僕にとって翔太と紗栄子ちゃんはかけがえのない友達で。ずっと仲良くしていきたいんだ。でもどうすればいいか分からないんだ」
そうか、そういう話か。
それなら。
「俺も分かんないよ」
「えっ?」
生返事をしたアタル。
俺は続ける。
「ずっと紗栄子と一緒にいるけども、全然分かんないよ。仲良くする方法。最近やっと急に仲良くなったって感じだし。多分方法って無いんだと思う。ずっと、何なら毎日悩みながら一緒に楽しんでいくしか方法は無いと思う。たまにぶつかったりして、自分なりのやり方と相手のやり方でごちゃごちゃになりながらも、同じ方角を目指せばいいんだと思う」
「方向、じゃなくて、方角?」
「そう、方角でいいと思うんだ。なんとなく同じ方角を向いていればそれでいいと思う。完璧にやりきろうと思うんじゃなくて、それぞれを尊重して生きていけばいいんだと思うよ」
これは、俺の思っている言葉だ。
今の今までちゃんと形にはなっていなかったけども、アタルの言葉を聞いて、そして今まさに喋りながら形にしていっている。
アタルは真剣に俺のほうを向いて、話を聞いてくれている。
俺は言う。
「いろんな考えがあって、いろんな方向があって、それらをゆっくり重ねていけばいいと思うんだ。まだまだこれからなんだから。まだ始まったばかりなんだから。そんなに急いでも、最短距離で行こうとしても難しいと思うよ。大丈夫、俺も紗栄子もこの街を出て行くわけじゃないんだから。アタルだってそうなんだろう? ずっとこの街にいてくれるんだろ? それならいつでも機会はある、大丈夫。ゆっくり歩んでいこうよ」
結局、あんまりまとまった言葉にならなかったな。
でもこれでいいかもしれない。
この今にも綻びそうな言葉だって、今を切り取った大切な瞬間だ。
その瞬間をアタルと一緒に感じられるって、幸せなことだと思う。
アタルはゆっくり頷いて、そして俺の顔を見ながらこう言った。
「ありがとう。僕、ちょっと急ぎ過ぎていたかもしれない。これからもよろしくお願いします。翔太」
「勿論だ。これからもよろしくな、アタル。で、これからどうする?」
「どうするって?」
「紗栄子の寿司屋に行ってみてもいいし。いやそれだと急ぎ過ぎかな?」
アタルはどう言うかなと思って、少しドキドキしていると、
「でも、ここは勢いに乗って紗栄子ちゃんと話したいかな。ちゃんと尊重するということを伝えたいんだ」
「いや別に尊重しなくてもいいだろ、それぞれのやり方をぶつければいい話で」
と俺が言ったところでアタルがフフッと笑って、
「難しいね! 友達との会話は! というか翔太がゆっくりすればいいと言ったのに、突然紗栄子ちゃんの寿司屋に行くとかさぁ!」
そう言って俺の肩をイタズラっぽく押した。
まあ。
「何が正解かどうか分からないからな。俺は俺で今思ったことを喋っているだけだ。で、どうすんの?」
「行くよ! 今すぐ話したい! 何故なら僕が今すぐ話したいと思っているから!」
「じゃあ行こうか」
俺とアタルは紗栄子の寿司屋に向かって歩き出した。
・【謝罪と謝罪】
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開口一番、アタルが叫んだ。
「ゴメン! 僕がバカみたいなこと言っていたせいでおかしくなっちゃって!」
正直、公園に行く道中、まずはアタルに謝罪しようと思っていたので、面食らってしまった。先に言われたから。
いやいやすぐにこっちも言おう。
「俺も、もっと楽しい雰囲気になるようなツッコミができれば良かったんだけども。紗栄子のことも、紗栄子と俺は幼馴染なわけだから、もっと落ち着かせれば良かったんだけども。ゴメン」
「そんな、翔太が謝ることは何も無いよ。本当にゴメンなさい」
じゃあ。
「止めようぜ。ゴメンの言い合いは。それよりも次の話をしようぜ」
俺がそう言うと、アタルは少し下を向いてから、
「とりあえずベンチに座ろう」
促されるまま二人でベンチに座った。
そしてアタルが語り出した。
「次の話もいいけども、その前に僕の過去の話をしていいかな」
アタルの過去。
転校が多くて、人の顔色を窺って生きてきたみたいなことは言っていたけども。
どうして、今、過去の話なんだろう。
でも聞いたほうがいいだろうなぁ。
「うん、分かった。アタルの話を聞きたいよ」
「ありがとう、じゃあ話すね」
そう言って、一息呼吸してからアタルは語り出した。
「僕分からないんだ。こうやって友達ができたこと無かったから」
衝撃的な一言だった。
なんとなくアタルは友達がいっぱいいるイメージだった。
その証拠にクラスメイトとは、いつも楽しそうにしているし。
アタルは続ける。
「いや会話するくらいの仲や一緒に遊ぶくらいの仲の人ならいたけども、こうやって自分のやりたいことと真摯に向き合えるような友達はいなくてさ」
そりゃまあ確かに、カラダラッパーと突然言い出して、それを遠目から見ている分にはいいけども、中に入って一緒にやる人はいなかっただろうなぁ。
「そもそも作ろうともしていなかったんだけどね、どうせまた転校してしまうと思って。でもこの小学校から転校することは多分無いと言われて、だからやっと本当の自分を出すことができたんだ」
「いろいろ苦悩があるんだな、いや俺は転校をしたことが無いから分からないけども。アタルは大変だったんだろうなということはそれなりに分かるよ」
「ありがとう。続けるね。僕にとって翔太と紗栄子ちゃんはかけがえのない友達で。ずっと仲良くしていきたいんだ。でもどうすればいいか分からないんだ」
そうか、そういう話か。
それなら。
「俺も分かんないよ」
「えっ?」
生返事をしたアタル。
俺は続ける。
「ずっと紗栄子と一緒にいるけども、全然分かんないよ。仲良くする方法。最近やっと急に仲良くなったって感じだし。多分方法って無いんだと思う。ずっと、何なら毎日悩みながら一緒に楽しんでいくしか方法は無いと思う。たまにぶつかったりして、自分なりのやり方と相手のやり方でごちゃごちゃになりながらも、同じ方角を目指せばいいんだと思う」
「方向、じゃなくて、方角?」
「そう、方角でいいと思うんだ。なんとなく同じ方角を向いていればそれでいいと思う。完璧にやりきろうと思うんじゃなくて、それぞれを尊重して生きていけばいいんだと思うよ」
これは、俺の思っている言葉だ。
今の今までちゃんと形にはなっていなかったけども、アタルの言葉を聞いて、そして今まさに喋りながら形にしていっている。
アタルは真剣に俺のほうを向いて、話を聞いてくれている。
俺は言う。
「いろんな考えがあって、いろんな方向があって、それらをゆっくり重ねていけばいいと思うんだ。まだまだこれからなんだから。まだ始まったばかりなんだから。そんなに急いでも、最短距離で行こうとしても難しいと思うよ。大丈夫、俺も紗栄子もこの街を出て行くわけじゃないんだから。アタルだってそうなんだろう? ずっとこの街にいてくれるんだろ? それならいつでも機会はある、大丈夫。ゆっくり歩んでいこうよ」
結局、あんまりまとまった言葉にならなかったな。
でもこれでいいかもしれない。
この今にも綻びそうな言葉だって、今を切り取った大切な瞬間だ。
その瞬間をアタルと一緒に感じられるって、幸せなことだと思う。
アタルはゆっくり頷いて、そして俺の顔を見ながらこう言った。
「ありがとう。僕、ちょっと急ぎ過ぎていたかもしれない。これからもよろしくお願いします。翔太」
「勿論だ。これからもよろしくな、アタル。で、これからどうする?」
「どうするって?」
「紗栄子の寿司屋に行ってみてもいいし。いやそれだと急ぎ過ぎかな?」
アタルはどう言うかなと思って、少しドキドキしていると、
「でも、ここは勢いに乗って紗栄子ちゃんと話したいかな。ちゃんと尊重するということを伝えたいんだ」
「いや別に尊重しなくてもいいだろ、それぞれのやり方をぶつければいい話で」
と俺が言ったところでアタルがフフッと笑って、
「難しいね! 友達との会話は! というか翔太がゆっくりすればいいと言ったのに、突然紗栄子ちゃんの寿司屋に行くとかさぁ!」
そう言って俺の肩をイタズラっぽく押した。
まあ。
「何が正解かどうか分からないからな。俺は俺で今思ったことを喋っているだけだ。で、どうすんの?」
「行くよ! 今すぐ話したい! 何故なら僕が今すぐ話したいと思っているから!」
「じゃあ行こうか」
俺とアタルは紗栄子の寿司屋に向かって歩き出した。
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