カラダラッパー!

青西瓜(伊藤テル)

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【放課後】

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・【放課後】


 今日はどうしても遊びたい誘いがあるとアタルから言われて、今日は俺と紗栄子で二人きりの放課後。
 二人きりになると当然この話題になってしまうもので。
 紗栄子はプリプリと怒りながら、
「何でデマを流す人がいるんだろう! どういう悪人神経をこじらせているんだ!」
「何か恨みでもあるのかな……」
「だとしてもだよ! 恨みは直接晴らすべき! ハッキリ言うべきじゃん! これじゃ対決のしようがないよ!」
 語気を強めることができる紗栄子が羨ましい。
 俺はやっぱり気落ちしてしまう。
 溜息も止まらないし。
 そんな俺の顔を覗き込みながら紗栄子が、
「ショータも無理しちゃダメだからねっ、ショータが悲しい顔していると私も胸が苦しいから」
 いつも変な言い回しをする紗栄子から一直線のこの言葉。
 俺は不意に胸がドキッとした。
 そうか、紗栄子に心配され過ぎてしまうのも良くないな。
 だから。
「ありがとう、紗栄子。気にかけてくれて。でも大丈夫。俺は本当に大丈夫だから」
 と、強がろうにも、あんまり言葉が出てこなくて。
 結局その日はそのまま二人で帰路につくことにした。
 いつもは楽しく音楽の話で盛り上がるんだけども、何だか黙ってしまうことも多くて。
 紗栄子は何だかうんうん唸っている。
 というか俺も唸っている。というか俺は悩んでいる。
 結局そのまま別れて、俺は家につき、自分の部屋に直行して、つい誹謗中傷やデマのことを考えてしまう。
「何でそんなことをする人がいるんだろう」
 いや考えても答えは出ないことは知っている。
 でも考えずにはいられない。
「恨みでもあるのかな」
 何だか口から言葉が零れる。
 全部独り言だ。
 でもどんどんどんどんボロボロと零れてしまう。
 言葉にしないと、なんとか口から発して捨てないと、脳に溜まっていってしまいそうで、つい喋ってしまう。
「俺、何か悪いことしたかな」
 クラスメイトに幾度となく、塩対応してきた自分を思い出す。
 そうか、人が嫌がるようなことしてきたかもしれない。
「クラスメイトなのかもしれないな」
 なんとなくそう思うようになってきて、さらに憂鬱になってきた。
 ゴメン、今まで素っ気ない返事ばかりしちゃって。
 これはきっと自業自得だ。
 今までの俺の積み重ねなんだ。
 人とちゃんと関わってこなかった俺への罰なんだ。
 アタルと紗栄子を巻き込んでしまって申し訳無い。
 俺がいるせいで、二人にも迷惑がこうむってしまって。
「ちゃんとしていれば良かったな……」
 そんな後悔がずっと頭の上を浮かんで。
 分かってる。
 曲では強がっているくせに、実際はこんなんじゃ笑えないって。
 でも考えてしまうんだ。
 どうしようもないんだ。
 また、あの頃を思い出してしまうんだ。
 コンテストで最下位だったことをいじられて、塞ぎ込んでいたあの頃を。
 そんなことをずっと考えて、正直今日は全然眠れなかった。
 明日から土日で学校は休みなのに、クラスメイトの顔が浮かんで心臓がバクバクしてくる。
 あの中に俺のことを悪く思っているヤツがいるんだ。
 ずっと冷たい顔をして本当にゴメンなさい。
 そして次の日。
 今日は三人で亀本商店街へ行き、改めて亀本商店街でのライブの話し合いをする。
 夜はほとんど寝れなかったので、何だか頭の中がどんよりしている。
 でも行かなきゃ。
 歯を磨いて、顔を洗って、ご飯を少し食べて、外に出ると、俺のことを紗栄子が待っていた。
「いつもより煮込み過ぎの鍋くらいに遅いから心配になって門の前まで来ちゃった!」
 そう明るく笑った紗栄子。
 紗栄子が元気そうなら何よりだ。
 でも俺が元気そうじゃないことが何よりも気になったらしく、
「ちょっとショータ! 大丈夫! 気分が悪いんだったら休んだほうがいいよ!」
 どうせ休んだところで気分は悪いままなわけだから、俺は亀本商店街へ行くことにした。
「大丈夫、ちょっと体調は良くないけども、すぐに治るから大丈夫。まだ眠いだけだよ」
「ならいいけど、何かあったらすぐに教えてね! ガリもタッパで持ってきたし!」
 何でガリをタッパで持ってくるんだろう、そんなハチミツレモンみたいな感じで言われても、と思いつつ、紗栄子と歩いているとアタルが俺たちのことを道中で待っていた。
 俺たちを見るなり、開口一番に、
「おはよう! というか翔太! 何か元気無さそうだけども大丈夫か! あっ! 紗栄子ちゃんは元気で良かった!」
「うん! 私は元気のトリプルアクセルだよ!」
 そう叫んだ紗栄子。
 誹謗中傷やデマに憤っている割には元気そうで心底羨ましい。
 でも俺は。
 なんて思っていると、アタルが俺の目を見ながら言った。
「もしかすると、間違いだったら申し訳無いんだけども、誹謗中傷やデマのこと、気にして寝れなかったの?」
「うっ……」
 今日も今日とて見破られる俺。
 でも漏れ出した声も幾分元気が無くて、自分で少し内心笑っちゃった。
 アタルは腕を組みながら、少し悩んでからこう言った。
「やっぱり気にしたら負けと思わなきゃ。そういう人は絶対現れるもんだからさ。それより自分たちが楽しく生きていこうよ!」
 それには少し違う態度をとる紗栄子。
「いやでも気になることは気になるもんね、何か直接ギッタンギッタンに叩きのめせたらいいのに!」
 それに対してアタルは首を横に振って、
「だから相手にしちゃダメなんだって。相手はつけあがって、どんどん攻めてくるよ」
「でもアタルくん。何もしないほうがどんどんつけあがるんじゃないの?」
「いやこういうモノは無視が一番効くんだよ。いやまあ曲にして少し反抗しちゃったけども、それ以上は言わない。それがリアル・ラッパーだから」
「う~ん、リアル・ラッパーなら勝負したいけどなぁ」
 でも俺からしたら二人共元気だ。すこぶる元気だ。
 俺もそう考えられるようになったら、どんなに楽か。
 やっぱりコンテストでいじられた経験が、どこか消極的な思考回路になってしまっているんだろうな。
 と思ったところでアタルがこう言った。
「でもそうやって悩んでくれるところが翔太の良さでもあるわけだから。翔太の言葉に魂が乗っかるのはそういうところだと思う」
 それには紗栄子も同調し、
「だよね! いろいろ思考してくれるショータは私たちの頭脳だから!」
 二人はニコニコしながらこっちを見てくれた。
 それに俺は正直救われた。
 俺のことを頼ってくれる人がいるということは、すごく励みになった。
 よしっ、今日の打ち合わせ、しっかり頑張っていこう! まずはそっちに集中だ!
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