カラダラッパー!

青西瓜(伊藤テル)

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【紗栄子の乱入】

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・【紗栄子の乱入】


 あれから俺たちは毎週金曜日に校庭でライブをするようになっていた。
 まあそれは野球部の練習が休みの日で、ピッチャーマウンドに人がいないからなんだけども。
 でも人は野球部が練習の日以上にいる。
 それがとても嬉しかった。
 そんなある日、いつものようにアタルがラップし終えた時だった。
「そんな綿飴のようにすぐに消えちゃいそうなラップしてて大丈夫なのかよ! おい!」
 声がした瞬間、一気に恥ずかしくなった。
 何故ならその声の正体が、幼馴染の紗栄子だったから。
「掃除でお尻っ? ヤツが出せるのは所詮クサい空気じゃん! 消臭剤の前では成すすべなく廃業!」
 紗栄子がまくしたてる様に何かを言うが、ちょっと言い回しが独特でイマイチ何を言いたいか要領を得ない。
 しかしアタルは何かを感じ取ったらしい。
「僕とディスり合いをしたいわけだね! 受けて立つ!」
 いやそうなのかな、一応俺は声を出した。
「紗栄子、何か適当にそういう感じで絡んでいるんだったら止めたほうがいいぞ。普通の人は即興で韻とか踏めないし」
「私は普通じゃない! 富士山すら恐れおののき、虹色の旗まで上げさせるイル・ラッパーだ!」
 その台詞を聞いた時に俺はビクンと体が揺れた。
 いや、決して意味が分からなくて、ではない。
 ”イル・ラッパー”という言い方だ。
 直訳すると病気のラッパーという意味だが、ラッパー用語ではめちゃくちゃカッコイイ・ラッパーという意味だ。
 そう、紗栄子はそんなラッパー用語が使えている、知っているということだ。
 もしや本当にラップが好きなのか、と思っているのは、やっぱり俺だけでは無かった。
「YEAH! 君はイル・ラッパー! こっちは最強カラダラッパー! いい勝負できそうだね!」
 アタルがビシッと紗栄子のほうを指差すと、それと全く同じようなタイミングで、シンクロしているかのように紗栄子もアタルのほうを指差した。
 これは……変な感性同士、共鳴しているというわけか。
 じゃあいいだろう。
 俺は、いつかタテノリ先生が乱入してきてもいいようにCDに入れてある、フリースタイル用トラックを流す!

《アタル》
カラダラッパーが自由に口から金言を即 瑞々しい汗出しまくる新鮮オール
覆うカラダのオーラで、そういう世界 僕のカラダは勿論、高級デカい
普通のラッパーじゃ出せない舞台 こんな名文は誰にも書けないくらい
君はどうやら、冴えない・つらい 僕は言葉掘り下げ、負けない・深い

【即興なんで、やや意味の無い文章になっているが仕方ない。それともいつも通りか】
【まあアタルのラップはある程度会場を盛り上げた、紗栄子は大丈夫か?】

《紗栄子》
独特を説く、お得な国産 オマエはいらないカラダばっかり呼ぶさ
国算社理、私は完璧に握るシャリ なんせ最高の寿司ラッパーだしっ
カラダなんて海苔で巻く価値も無い 勝ちは無い、かなりヤバイ
カラダよりも赤いマグロが良い 覚悟が意味、カラダなんてそこにあるだけだろ?

【紗栄子は寿司屋の娘。まさか寿司ラッパーだったとは】
【韻は甘いけども勢いがあるという印象。意外とちゃんとラップできてる】
【でもここはアタルが上手く返して、勝利を収めてほしいところだ】

《アタル》
カラダラッパーは覚悟が満載 カラダラッパーの気持ちを削除は反対
安泰じゃないから、鋭く、そう、跳び続ける 世界が潤うをー、追い続ける
潤沢な汗を発したい未来 危害嫌い、期待したい、頑張ると気合い・気合い
寿司があってカラダがあるから 共存すれば、どんどん増すカラー

【今回のアタルは固く韻を踏めたみたいだ】
【その分、変なことを言って笑わせる爆発力は薄まったけども、果たしてどうか】

《紗栄子》
結構やるじゃんカラダは お体大切にって言ってあげてもいいかな
そして健康になるならやっぱ寿司 そうしたらお尻からオナラを百発し
腸が動くは健康、心の洗浄 HeyYo、良い映像、夏には冷房
冬はアツアツのカラダを許可 そうさ、アタルくんの宝を許可

【やや支離滅裂な部分が多い紗栄子のラップだが、会場は大いに沸いた】
【アタルのカラダも上手く使っている印象もある】

 結果、会場はただただ盛り上がった。
 アタルと紗栄子は拳と拳をつけて、健闘を称えあった。
 何か本物のラッパーみたいだけども、内容が変なカラダと寿司だからなぁ。
 決してカッコ良くは無いんだよな。
 アタルが気合を入れて大きな声で喋り出した。
「君すごくやるね! 今度一緒に曲を作らないかっ!」
 えっ、紗栄子とやるの?
 いや紗栄子はたまに、というか結構ずっと何言ってるか分からないからな。
 特に俺に対して変なこと言いがちなんだよな。
 だから苦手なんだけども。
 さて、紗栄子はどう答えるか。
「別に、ショータがいいんだったら別にいいけども」
 えっ? まさかの選択権、俺っ?
 アタルはすごく嬉しそうな顔して俺のほうを見てくる。
 いやまあアタルが喜ぶ顔も見たいし、まあ良いと言ってやるか。
 どうせ一曲くらいだろ。
「まあ別にいいんじゃないの、紗栄子もそんな悪くなかったし」
 そう言うとアタル以上に紗栄子が喜びを爆発させた。
「やったぁぁぁぁぁあああああ! ショータ! ショータ! ショータ!」
 何で俺の名前を連呼するんだよ、何か恥ずかしいな。
 でも紗栄子がこんなに喜んでいるところ、久しぶりに見たな。
 最近の紗栄子はクラスでも一人でいて、メモみたいなの書いていることが多くて。
「じゃあ早速今日の放課後から一緒に曲を作ろう!」
「うん!」
 そう言って屈託の無い笑顔で笑いあったアタルと紗栄子。
 まあそんな顔が見れれば、それだけで十分かな。
 そういって何気に俺も満足げに頷いている時だった。
「ちょうどいいねぇ! フゥフゥフ~ゥ!」
 この世代差を感じさせる台詞、タテノリ先生だ。
 今度はタテノリ先生とラップバトルか?
 でもどうやら違うらしい。
 タテノリ先生が喋りだした。
「今度二人には昼休みのライブだけじゃなくて、全校生徒が集まる月一朝礼でもラップしないかという話になっているんだ! うおぉおぉぉぉ! って私テンションが上がって快諾しちゃったんだよ!」
 勝手に快諾したという話だった。
 タテノリ先生は続ける。
「ちょうど紗栄子ちゃんもラップに参加してさ、盛り上げちゃってよ!」
 アタルは拳を天にかざしながら、こう言った。
「勿論やります!」
 それにつられるように紗栄子も、
「私もやってみたい! トライを重ねて切りたいゴールテープ!」
 いやまあちょっと分かりづらいけども、やるということか。
 俺は曲作るだけだし。
「無論やってもいいけども」
 そして俺たちは体育館でやる月一朝礼で、ライブをやることになったのだ。
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