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【いいや、いいや、帰宅しよう】
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・【いいや、いいや、帰宅しよう】
・
「いや帰ろうとしないでよ!」
俺のランドセルをガッと掴むアタル。
俺は振り返ってこう言った。
「音楽室で最後だから、あとはほら、体育館もデカいから分かるでしょ」
「まだ体育館の用具室の説明もされていない!」
「それはもう体育館の中に併設されているから案内する必要も無いだろ」
「というかユニット組んでよ!」
ものすごい勢いで頭を下げるアタル。
この下を向いている隙に逃げようかなと思ったが、それはあまりにも不誠実なので、ちゃんと話をすることにした。
いやまあすぐに帰ろうとしたことが一番不誠実だったけども、あれは現実逃避だ。
アタルは叫ぶ。
「ユニット組んでくれたっていいじゃないか! 人生でしょ!」
「いや人生でしょって何だよ、俺の人生を主語にするのならばユニット組まない人生だ」
「理由を述べて! できるだけカラダを絡ませながら!」
「カラダを絡ませることはアタルの役目であって俺の役目ではない。理由は悪目立ちしたくないからだ」
そう、悪目立ち。
それさえしなければ、平穏通り生活できる。
アタルは何か焦りながら、必死に言ってくる。
「悪目立ちって何さっ! どういうことっ?」
「要は変なことして目立ちたくないということ」
「ユニット組むことは変なことじゃないよ! 僕がカラダラッパーだからっ?」
「いや、この際カラダラッパーは関係無い。ただ目立つことが嫌なんだよ」
目立つことが嫌だ。
俺の信条と言っていい。
もう目立つことは嫌なのだ。
「何か昔目立って嫌なことがあったのっ?」
「うっっ!」
相変わらず勘が鋭い。
そして相変わらず声が出てしまう。
今まで俺は”話し掛けるな”という感じの雰囲気を作って、誰も俺に深く関わろうとしてこなかったから、なんとかなっていたが、こうも押されてしまうと、俺は弱いほうなのかもしれない。
いや、あの時だってそうだった。
だから調子に乗ってしまったんだ。
アタルは続ける。
「その反応、絶対翔太は何か隠しているよね!」
「いいだろ、俺の話は」
「ううん! 僕は翔太の話が聞きたい! もっともっと翔太のこと知りたいよ!」
そんな風に突っかかってくるのは、しむけん以来だな。
しむけんは昔からの幼馴染だからそうだけども、アタルは今日出会ったばかりだ。
それなのに、こんなに聞いてくるなんて。
「僕の推理を話していい?」
「……別にアタルが勝手に喋る分にはどうでもいいよ」
なんて、そんなこと普段だったら絶対言わない。
俺は無視して帰るはずだ。
俺だって知りたい。
アタルのこと知りたいんだ。
馬鹿みたいなこと言い出して、実は真面目で、そして勘が鋭くて頭の良いアタルのことが知りたい。
アタルは語り出した。
「小学五年生でこんなに音楽が好きな人は親の教育がなければそうならない。つまり親の趣味に影響を受けて音楽が好きになったんだ!」
そう言って俺を自信満々に指差した。
いやいやもう、
「その通りだよ。俺の父親は音楽関係の仕事をしていて、昔のCDとかがたくさんあったんだ」
「やっぱり! じゃあ翔太は歌とか上手いのかなっ!」
「うっっっ!」
「そのリアクション! じゃあ!」
俺は俯いた。
上手くないんだ。
歌なんて全然上手くないんだ。
証拠があるから。
「歌は上手くないよ、全くダメだったんだ」
「……ダメだったってどういう意味? コンテストでも受けたの?」
「アタルは何でも分かるな、その通りだ」
俺は一呼吸を置いて喋り出した。
「俺は父親におだてられてコンテストに出て、そこでボロ負けしたことがあるんだ」
静寂。
でも俺は最後まで喋り続ける。
「そのことが同級生にバレて、毎日毎日いじり通されて。学校では調子乗ってよく歌っていたから多分それで嫉妬されていて、そのコンテストでボロ負けだったことをいいことに、ずっといじられたんだ」
「そんなことが……」
「だからそれを期に悪目立ちは辞めようと思ったんだ。もう何もやりたいくないんだ。また負けるから」
アタルは口を真一文字にして、ぐっと構えていた。
一体どういう感情なのだろうか。
何か言おうとしているような気がする。
少しの間、そしてアタルは重い口を開いた。
「でも、音楽は好きなままなんだねっ」
俺はハッとした。
確かに今も変わらず音楽は好きだ。
アタルは続ける。
「翔太はコンテストで負けたからやりたくないわけじゃないんだね、そのあとにいろいろ言われたことが嫌なんだね」
そうだ、そうか、自分の中でそのへんがごちゃごちゃしていた。
俺はずっとコンテストで負けたから悪目立ちは嫌だと思っていた。
でも違った。
人に言われたことが嫌だったんだ。
だから今も音楽は好きで。
アタルは言った。
「何か言ってくるヤツは僕がディスって撃退するよ! そんな周りの言ってくるヤツの声で自分の気持ちを塞がないで!」
そうか、アタルにいろいろ喋りたくなるのはこういうことか。
アタルは俺を馬鹿にしない。
周りは俺を塩対応とか言って、どこか馬鹿にしていたが、アタルは真っすぐ俺の心を突いてくる。
ふと思った。
応えたい、と。
アタルの気持ちに応えたい、と。
「絶対翔太を楽しいと言わせる! だから僕とユニットを組んでほしいんだっ!」
「……いいよ、別に楽しくなくて……まあ適当に遊ぼうぜ、アタル。ユニット組んでやるよ」
俺が鼻の頭をかきながらそう言うと、アタルは拳を突き上げ、ジャンプしながら叫んだ。
「やったぁぁぁぁああああああああああああああ!」
どうなるか分からないし、また馬鹿にされるかもしれない。
でもアタルとならなんとかなるような気がした。
……だっていきなりカラダラッパーと言い出すようなヤツだ。
何かなるに決まっている。
・【いいや、いいや、帰宅しよう】
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「いや帰ろうとしないでよ!」
俺のランドセルをガッと掴むアタル。
俺は振り返ってこう言った。
「音楽室で最後だから、あとはほら、体育館もデカいから分かるでしょ」
「まだ体育館の用具室の説明もされていない!」
「それはもう体育館の中に併設されているから案内する必要も無いだろ」
「というかユニット組んでよ!」
ものすごい勢いで頭を下げるアタル。
この下を向いている隙に逃げようかなと思ったが、それはあまりにも不誠実なので、ちゃんと話をすることにした。
いやまあすぐに帰ろうとしたことが一番不誠実だったけども、あれは現実逃避だ。
アタルは叫ぶ。
「ユニット組んでくれたっていいじゃないか! 人生でしょ!」
「いや人生でしょって何だよ、俺の人生を主語にするのならばユニット組まない人生だ」
「理由を述べて! できるだけカラダを絡ませながら!」
「カラダを絡ませることはアタルの役目であって俺の役目ではない。理由は悪目立ちしたくないからだ」
そう、悪目立ち。
それさえしなければ、平穏通り生活できる。
アタルは何か焦りながら、必死に言ってくる。
「悪目立ちって何さっ! どういうことっ?」
「要は変なことして目立ちたくないということ」
「ユニット組むことは変なことじゃないよ! 僕がカラダラッパーだからっ?」
「いや、この際カラダラッパーは関係無い。ただ目立つことが嫌なんだよ」
目立つことが嫌だ。
俺の信条と言っていい。
もう目立つことは嫌なのだ。
「何か昔目立って嫌なことがあったのっ?」
「うっっ!」
相変わらず勘が鋭い。
そして相変わらず声が出てしまう。
今まで俺は”話し掛けるな”という感じの雰囲気を作って、誰も俺に深く関わろうとしてこなかったから、なんとかなっていたが、こうも押されてしまうと、俺は弱いほうなのかもしれない。
いや、あの時だってそうだった。
だから調子に乗ってしまったんだ。
アタルは続ける。
「その反応、絶対翔太は何か隠しているよね!」
「いいだろ、俺の話は」
「ううん! 僕は翔太の話が聞きたい! もっともっと翔太のこと知りたいよ!」
そんな風に突っかかってくるのは、しむけん以来だな。
しむけんは昔からの幼馴染だからそうだけども、アタルは今日出会ったばかりだ。
それなのに、こんなに聞いてくるなんて。
「僕の推理を話していい?」
「……別にアタルが勝手に喋る分にはどうでもいいよ」
なんて、そんなこと普段だったら絶対言わない。
俺は無視して帰るはずだ。
俺だって知りたい。
アタルのこと知りたいんだ。
馬鹿みたいなこと言い出して、実は真面目で、そして勘が鋭くて頭の良いアタルのことが知りたい。
アタルは語り出した。
「小学五年生でこんなに音楽が好きな人は親の教育がなければそうならない。つまり親の趣味に影響を受けて音楽が好きになったんだ!」
そう言って俺を自信満々に指差した。
いやいやもう、
「その通りだよ。俺の父親は音楽関係の仕事をしていて、昔のCDとかがたくさんあったんだ」
「やっぱり! じゃあ翔太は歌とか上手いのかなっ!」
「うっっっ!」
「そのリアクション! じゃあ!」
俺は俯いた。
上手くないんだ。
歌なんて全然上手くないんだ。
証拠があるから。
「歌は上手くないよ、全くダメだったんだ」
「……ダメだったってどういう意味? コンテストでも受けたの?」
「アタルは何でも分かるな、その通りだ」
俺は一呼吸を置いて喋り出した。
「俺は父親におだてられてコンテストに出て、そこでボロ負けしたことがあるんだ」
静寂。
でも俺は最後まで喋り続ける。
「そのことが同級生にバレて、毎日毎日いじり通されて。学校では調子乗ってよく歌っていたから多分それで嫉妬されていて、そのコンテストでボロ負けだったことをいいことに、ずっといじられたんだ」
「そんなことが……」
「だからそれを期に悪目立ちは辞めようと思ったんだ。もう何もやりたいくないんだ。また負けるから」
アタルは口を真一文字にして、ぐっと構えていた。
一体どういう感情なのだろうか。
何か言おうとしているような気がする。
少しの間、そしてアタルは重い口を開いた。
「でも、音楽は好きなままなんだねっ」
俺はハッとした。
確かに今も変わらず音楽は好きだ。
アタルは続ける。
「翔太はコンテストで負けたからやりたくないわけじゃないんだね、そのあとにいろいろ言われたことが嫌なんだね」
そうだ、そうか、自分の中でそのへんがごちゃごちゃしていた。
俺はずっとコンテストで負けたから悪目立ちは嫌だと思っていた。
でも違った。
人に言われたことが嫌だったんだ。
だから今も音楽は好きで。
アタルは言った。
「何か言ってくるヤツは僕がディスって撃退するよ! そんな周りの言ってくるヤツの声で自分の気持ちを塞がないで!」
そうか、アタルにいろいろ喋りたくなるのはこういうことか。
アタルは俺を馬鹿にしない。
周りは俺を塩対応とか言って、どこか馬鹿にしていたが、アタルは真っすぐ俺の心を突いてくる。
ふと思った。
応えたい、と。
アタルの気持ちに応えたい、と。
「絶対翔太を楽しいと言わせる! だから僕とユニットを組んでほしいんだっ!」
「……いいよ、別に楽しくなくて……まあ適当に遊ぼうぜ、アタル。ユニット組んでやるよ」
俺が鼻の頭をかきながらそう言うと、アタルは拳を突き上げ、ジャンプしながら叫んだ。
「やったぁぁぁぁああああああああああああああ!」
どうなるか分からないし、また馬鹿にされるかもしれない。
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