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【カラダラッパー!】

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「僕はカラダラッパーのアタル! 朝倉アタルだ! だから! それっ! そういうこと! だ!」
 ……台詞の切れ味悪……さて、何でこんなことになってしまったのか、心の中で早急に反省会だ。


・【カラダラッパー!】


 この世界は音楽で溢れている。
 それもそのはず。
 俺はいつもスマホで音楽を聴いているからだ。
 J-POP、ロック、パンク、アニメソングにラップ、童謡まで全てランダムで聞きまくる。
 『小学五年生なのにスマホを持っていていいね』なんて言われることもあるが、正直音楽を再生できればなんでもいい。
 スマホは両親が忙しいので、連絡用に持たされているだけだ。
 ……まあ、もう一個だけ他の使い道があるけども、それを誰かに言ってもしょうがないので別にいい。
「月野、またスマホ聴いているんだな」
 ……。
「おい、月野っ」
 ……。
「おい! 月野翔太! 聞こえているだろ! オマエ、学校では外の音が聞こえるイヤホンしてるって言ってただろ!」
 俺はイヤホンを外し、しむけんの方向を見た。
「……何だよ、しむけん」
「今日転校生来るって知ってるっ?」
「知ってるわ、昨日ホームルームで言っていただろ」
 そう、そのせいで外の世界の音がうるさくなって、正直迷惑だ。
 しむけんは何故か呆れるように、こう言った。
「何だよ、忘れてると思った。全然盛り上がってないからさ」
「周りが盛り上がって、うるさくてしょうがないわ」
「なぁなぁ、男子だと思う? 女子だと思う?」
「そんなこと考えて何が面白いんだよ、どっちだろうが関係無いだろ」
 そう俺がしむけんに対して言うと、しむけんは驚愕しながら激しく顔を横に振り、叫んだ。
 相変わらずコイツはリアクションがデカいな。
「男子だったら友達になりたいし! 女子だったら仲良くなりたいよ!」
「いやどっちにしろ親密になりたいんじゃん、じゃあ一緒だろ」
「いやでも仲良くなる種類が違うというかさ! とにかく心持ちが違うんだよ! 分かるだろっ?」
「全然分かんない、どっちにしろ俺は仲良くしない、はい、この話は終わり」
 そう言って俺はまたイヤホンを付けて音楽を聴き始めた。
 ホント転校生くらいでガタガタ言って情けない。
 もっとドッシリ構えることはできないのか。
 いやまあ、しむけんは無理だろうけども。
「もう何が何やら!」
 そう叫びながら、細かくジャンプをして騒ぎまくる、しむけん。
 いやもうオマエが何が何やらだよ。
 落ち着け。
 そうこうしているうちに、朝のホームルームになって、先生が転校生を呼び込むタイミングになった。
 大盛り上がりのうちのクラス。
 いや全員しむけんか。
「待ってました!」
「いよーっ!」
「どんな顔か見せてー!」
「男子? 女子? どっちっ!」
「転校生ーっ!」
 叫びまくりだ。
 というか最後の『転校生ーっ!』ってヤツなんだよ。
 意味ある言葉を投げかけろよ。
「さぁ! さぁ! さぁ! ついに転校生がうちのクラスにやって来るぞー! みんな準備はいいかーっ!」
 いやうちのクラスの担任、タテノリ先生もめちゃくちゃ煽るなぁ。
 そんなんだから彼氏ができないんだよ。
 いっつもフラれた、フラれた、と、小五に愚痴るんだよ。
「転校生登場まで! 60! 59! 58! ・・・」
 いやいやいや、カウントダウンが長い長い。
 大晦日でもそんなに長くない。
 東京五輪の開会式開始までのカウントダウンじゃないと割が合わないわ。
「32! 31! 30! さんじゅぅぅぅううう? ここで中間! 29! 28! ・・・」
 いやいや今の変な台詞のカットインのせいで、また長くなった。
 30の何に疑問があるんだよ。
 そもそもきちんとした一秒のタイムを刻まず、早口でカウントダウンしろ。
「10! 9! 8!」
 とタテノリ先生が言ったその時だった。
「遅ぇぇぇええええええええええええ!」
 と言いながら教室の扉が開いた。
 そして小柄な男子生徒がツカツカと教室の中に入って来てこう言った。
「アタル! 僕は朝倉アタルだ! カラダラッパーとして世界中を笑わせてやるぜっ!」
 急な登場と謎の台詞にクラス中は静まり返った。
 あんなに盛り上がっていたのに、本人登場したらまさかの仕打ちだ。
 俺は可哀相だったので、全員やっていたカウントダウンには参加しなかったが、ここは一人で拍手をすると、
「ありがとう! 君は優しいね! ありがとう!」
 と言いながら、このアタルというヤツはこっちを向いて手を振った。
 まあ手を振り返すことはしないけども、そのまま拍手をしていると、
「そこの君! 一定のリズムで手を叩いてくれないか!」
 と言われたので、まあちょうどノリの良いラップの曲を聴いていたので、その曲に合わせて手を叩くと、
「良いね! エイトビート! サンキュー! ここから僕の自己紹介ラップ!」

《朝倉アタル》
僕の名前は朝倉アタル ここから僕が自分を語る
いつかなるぜ、カラダラッパーに 僕はいつでも高らかっだーい!
腕が鳴る、足が鳴る、御多幸益々 数々ある動きで体中がアツアツ
確約楽しいことは全部! 繋げ続ける僕の言葉演武
でん部も最高、まるで玄武 でもスピードは最高潮の天狗!
鼻高々僕は自分が超自慢だし! いくらでもこうなる勝利乱打し!
安泰なのにまた攻め続ける 大抵の良いモノは手で作れる
頭脳も明朗、つまり帝王 HeyYO、掴み続ける成功!

 急なラップ。
 しかも変な詞。
 でも大変だ。
 うちのクラスは馬鹿なんだ。
「ふぅぅううううううう! 何か急にキタぁぁぁああああああ!」
 というタテノリ先生の叫びに呼応するかのように盛り上がるうちのクラス。
 全員拍手をしているが、俺だけは手が止まった。
 というか固まった。
 何それ……カラダラッパーって……えっ? 馬鹿なんですか?
「すごい転校生キタ!」
「超天才!」
「逆にカッコイイ!」
「最高すぎ」
「転校生ーっ!」
 叫びまくりだな。
 というか最後の『転校生ーっ!』ってヤツなんなんだよ、えっ? 馬鹿なんですか?
 とにかく熱狂している。
 W杯で初優勝みたいな興奮状態だ。
 いやいや、全然アレな歌詞だっただろ。
 良いこと言ってそうで、ただのカラダだっただろ。
「というわけでよろしくぅぅ!」
 そう言ってウィンクをしたアタルとかいう転校生。
 何か、正直このタイミングで嫌な予感がしていた。
 俺の日常がぶっ壊されるんじゃないかと思ってしまった。
 いやまあその通りだったんだけども。
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