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【19 世界に戻る】
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・【19 世界に戻る】
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「よしっ、じゃあ実戦だ! ゲーム形式で勝負だ! 競技用にこの松ぼっくりを使う!」
俺は今、この街で松ぼっくりサッカーを流行らせていた。
ボールが松ぼっくりなだけの、あとは全部サッカーとルールが一緒。
まあオフサイドみたいな難しいルールは省いているけども。
京子は疲れた子供たちに甘酒や苺を振る舞う、さながらマネージャーだ。
俺は試合の時は審判をして、周りを楽しませることに徹しつつも、トーナメントを勝ち上がったチームには俺が選抜した子供と俺が参加して、チャンピオン防衛戦をやる。
今回もしっかりチャンピオンを防衛したところで、負けたチームの子供がこう言った。
「ルールを決めた人に勝てないのは当たり前じゃないか」
「そうそう、だからオマエたちはルールを決めるような、偉い大人になるんだぞ」
「そんな卑怯な大人なんてむしろ子供だい!」
ちゃんと落語の物語のような台詞を言ってくれて嬉しい。
さて、そろそろだな、と思って、京子へ唯一黙っていた台詞をついに言うことにした。
この台詞が俺にとってのサゲ、つまり落語のオチだ。
この世界の松ぼっくりサッカーの発展を見届けたい気持ちもあるが、そろそろ帰りたいという気持ちのほうが強いからな。
上手くいけば、きっと突然の帰郷になるので、俺は勿論、京子も他の関わった方々と別れの挨拶ができないことになるが、そういうことも全て京子は了承してくれているので、やることにした。
俺は京子の目を見ながら、手を4回叩いたら、この台詞を言ってほしいと言っていた台詞があるので、京子の目を見ながら手を4回叩いた。
一瞬驚いた表情をした京子だったが、意を決したような顔になり、神妙に言った。
「そう言えば、松ぼっくりサッカーなんて流行らせて、何でこんなことしているの?」
上手くいけばこれで終わり、心臓も高鳴ってくる。
でも俺は戻りたい。
またつらいリハビリがあったとしても、サッカーはやっぱりできないとなったとしても、俺の世界は向こうの世界だから。
ありがとう、この落語のような世界、この世界のおかげで膝が完治した状態でサッカーのようなモノができたから。
”のような”ばかりだけども、借り物のような感じだけども、それでもすごく楽しかった。
俺はしっかり、噛まないようにこう言った。
「それは元の世界に戻るためさ」
京子は生唾を飲み込んでから、
「どういうこと?」
と言うと、俺はここがオチですよ、というような顔をしながら、
「こうやって元サッカープレーヤーの俺がサッカーに戻れば、まさしく元に戻る、いる世界も元に戻るんじゃないかな、ってね、お後がよろしいようで」
と言った刹那、世界が歪みだした。
あっ、本当に戻るんだ、と思った。
正直このオチはどうかなと思ったけども、落語って『やかん』のように、そこがオチ? みたいな落語もあるから、どうやらいけたみたいだ。
次に目が覚めた時、俺は病院のベッドで寝ていた。
周りを見渡すと4つ部屋の病室から、個室の病室に移動していて、その個室に簡易的なベッドが置かれていて、そこに京子が寝ていた。
とりあえずナースコールを鳴らすと、看護師と医者がやって来た。何か妙に笑顔で。
何だろうと思っていると、医者が何か喋ろうとしたのを押しのけるように看護師がこう言った。
「奇跡が起きました!」
「いやまあそうなんだが、そんな焦るな、君」
医者が看護師をなだめるように肩を叩いた。
でも看護師はテンションが下がらないといった感じ。
この大きな声で京子も目が覚めて、俺のほうをじっと見ている。
医者は深く深呼吸をしてから喋り始めた。
「今日、輪郭亭秋芳さんの落語会に行っていましたよね」
今日……ということはまだ1日も経っていないんだ。
「そこで急にお友達の子と一緒に倒れて、すぐさま検査した結果、君の膝は完治していました」
えっ。
「こんなことあるのかと思って、寝ている間に精密検査を行ない、血液検査も行ないました。でもです、でもというか、でもなんです。由宇くん、君の膝は完治していました。ここから一応経過観察とリハビリも行ないますが、きっと、いいえ、君はまた、激しい、プロを目指すようなサッカーができるようになります」
「嘘!」
と声を出したのは京子だった。
俺は自分の膝を触り、また膝を曲げ伸ばしして、あの違和感が無くなっていることを確認した。
「やったぁぁぁああ!」
京子が自分のベッドから降りて、ベッドの上で上体を起こしていた俺の肩に抱きついた。
「京子、俺」
「うん! きっと! あの世界のおかげだよ!」
「そうだな!」
「輪郭亭秋芳さんのおかげだよぉ!」
医者と看護師は疑問符を頭上に浮かべているが、それよりも、まず。
「すみません、外出の許可を出してくれませんか。激しい運動はまだしないので、お願いします」
すると医者は、
「まっ、まあ、輪郭亭秋芳さんに、何か、お礼でも、あるんですか? ならまあいいでしょうけども、まだこの辺にいるといいですね」
すると看護師が、
「ここ輪郭亭秋芳さんの地元だから、ぶらついてるかもしれませんね!」
と言った。
「じゃ、ちょっとすみません、夕方までには必ず帰って来るので」
と言って俺はベッドから降りて、京子も、
「クールに行クールね!」
「まあ今はホットのホントでいいけどな!」
俺と京子は急いで病院から出て、スマホを起動し、SNSで『輪郭亭秋芳』と検索した。
すると5分前に地元での目撃情報があり、もう1回最新情報を検索し直すと、30秒前には近くの公園で輪郭亭秋芳が発信していた。
「行こう! 京子!」
「勿論!」
俺と京子はその公園へ走り出した。
いくら走っても膝は痛くならなかった。
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「よしっ、じゃあ実戦だ! ゲーム形式で勝負だ! 競技用にこの松ぼっくりを使う!」
俺は今、この街で松ぼっくりサッカーを流行らせていた。
ボールが松ぼっくりなだけの、あとは全部サッカーとルールが一緒。
まあオフサイドみたいな難しいルールは省いているけども。
京子は疲れた子供たちに甘酒や苺を振る舞う、さながらマネージャーだ。
俺は試合の時は審判をして、周りを楽しませることに徹しつつも、トーナメントを勝ち上がったチームには俺が選抜した子供と俺が参加して、チャンピオン防衛戦をやる。
今回もしっかりチャンピオンを防衛したところで、負けたチームの子供がこう言った。
「ルールを決めた人に勝てないのは当たり前じゃないか」
「そうそう、だからオマエたちはルールを決めるような、偉い大人になるんだぞ」
「そんな卑怯な大人なんてむしろ子供だい!」
ちゃんと落語の物語のような台詞を言ってくれて嬉しい。
さて、そろそろだな、と思って、京子へ唯一黙っていた台詞をついに言うことにした。
この台詞が俺にとってのサゲ、つまり落語のオチだ。
この世界の松ぼっくりサッカーの発展を見届けたい気持ちもあるが、そろそろ帰りたいという気持ちのほうが強いからな。
上手くいけば、きっと突然の帰郷になるので、俺は勿論、京子も他の関わった方々と別れの挨拶ができないことになるが、そういうことも全て京子は了承してくれているので、やることにした。
俺は京子の目を見ながら、手を4回叩いたら、この台詞を言ってほしいと言っていた台詞があるので、京子の目を見ながら手を4回叩いた。
一瞬驚いた表情をした京子だったが、意を決したような顔になり、神妙に言った。
「そう言えば、松ぼっくりサッカーなんて流行らせて、何でこんなことしているの?」
上手くいけばこれで終わり、心臓も高鳴ってくる。
でも俺は戻りたい。
またつらいリハビリがあったとしても、サッカーはやっぱりできないとなったとしても、俺の世界は向こうの世界だから。
ありがとう、この落語のような世界、この世界のおかげで膝が完治した状態でサッカーのようなモノができたから。
”のような”ばかりだけども、借り物のような感じだけども、それでもすごく楽しかった。
俺はしっかり、噛まないようにこう言った。
「それは元の世界に戻るためさ」
京子は生唾を飲み込んでから、
「どういうこと?」
と言うと、俺はここがオチですよ、というような顔をしながら、
「こうやって元サッカープレーヤーの俺がサッカーに戻れば、まさしく元に戻る、いる世界も元に戻るんじゃないかな、ってね、お後がよろしいようで」
と言った刹那、世界が歪みだした。
あっ、本当に戻るんだ、と思った。
正直このオチはどうかなと思ったけども、落語って『やかん』のように、そこがオチ? みたいな落語もあるから、どうやらいけたみたいだ。
次に目が覚めた時、俺は病院のベッドで寝ていた。
周りを見渡すと4つ部屋の病室から、個室の病室に移動していて、その個室に簡易的なベッドが置かれていて、そこに京子が寝ていた。
とりあえずナースコールを鳴らすと、看護師と医者がやって来た。何か妙に笑顔で。
何だろうと思っていると、医者が何か喋ろうとしたのを押しのけるように看護師がこう言った。
「奇跡が起きました!」
「いやまあそうなんだが、そんな焦るな、君」
医者が看護師をなだめるように肩を叩いた。
でも看護師はテンションが下がらないといった感じ。
この大きな声で京子も目が覚めて、俺のほうをじっと見ている。
医者は深く深呼吸をしてから喋り始めた。
「今日、輪郭亭秋芳さんの落語会に行っていましたよね」
今日……ということはまだ1日も経っていないんだ。
「そこで急にお友達の子と一緒に倒れて、すぐさま検査した結果、君の膝は完治していました」
えっ。
「こんなことあるのかと思って、寝ている間に精密検査を行ない、血液検査も行ないました。でもです、でもというか、でもなんです。由宇くん、君の膝は完治していました。ここから一応経過観察とリハビリも行ないますが、きっと、いいえ、君はまた、激しい、プロを目指すようなサッカーができるようになります」
「嘘!」
と声を出したのは京子だった。
俺は自分の膝を触り、また膝を曲げ伸ばしして、あの違和感が無くなっていることを確認した。
「やったぁぁぁああ!」
京子が自分のベッドから降りて、ベッドの上で上体を起こしていた俺の肩に抱きついた。
「京子、俺」
「うん! きっと! あの世界のおかげだよ!」
「そうだな!」
「輪郭亭秋芳さんのおかげだよぉ!」
医者と看護師は疑問符を頭上に浮かべているが、それよりも、まず。
「すみません、外出の許可を出してくれませんか。激しい運動はまだしないので、お願いします」
すると医者は、
「まっ、まあ、輪郭亭秋芳さんに、何か、お礼でも、あるんですか? ならまあいいでしょうけども、まだこの辺にいるといいですね」
すると看護師が、
「ここ輪郭亭秋芳さんの地元だから、ぶらついてるかもしれませんね!」
と言った。
「じゃ、ちょっとすみません、夕方までには必ず帰って来るので」
と言って俺はベッドから降りて、京子も、
「クールに行クールね!」
「まあ今はホットのホントでいいけどな!」
俺と京子は急いで病院から出て、スマホを起動し、SNSで『輪郭亭秋芳』と検索した。
すると5分前に地元での目撃情報があり、もう1回最新情報を検索し直すと、30秒前には近くの公園で輪郭亭秋芳が発信していた。
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「勿論!」
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