落語のような世界

青西瓜(伊藤テル)

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【17 目が覚めて】

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・【17 目が覚めて】


 俺が目を開けると、そこは檻の中だった。
 檻の外では1つ目の人間たちがニヤニヤしながら、じっとこっちを見ていた。
 そのうちの1人がこう言い始めた。
「目が覚めたな、これから俺様の見世物小屋のエースはオマエたちだぁ、2つ目小僧なんて珍しい、珍しい」
 俺様という一人称に驚き、バッと声がしたほうを見ると、そこには1つ目の輪郭亭秋芳がいた。
 1つ目ということ以外、完全に輪郭亭秋芳だ。
 そうか、やっぱりここからこの落語は始まるんだ。
 他の落語もそうだった。終わりから始まる。だからこの一眼国に捕まったところから始まるんだ。
 俺は周りを見渡すと、京子がまだ眠っていたので、俺は京子のことを揺すると目を覚まし、こう言った。
「あっ……やっぱり捕まっちゃったんだ……どうしよう……」
 そう言って肩を落としたので、俺は、
「おい、見世物小屋の店主、2つ目小僧は一体だけでいいだろう、俺をずっと檻に入れていいから京子の、こっちの女子のほうは解放してくれ」
 すると京子はすぐさま、
「そんな! 私だけ助かるなんてダメだよ! 私は由宇と一緒にいるんだから!」
 俺は間髪入れずに、
「そう、そうなんだよ、京子は俺と一緒じゃないとダメらしいんだ。だから京子だけ1人で逃げ出すなんてことはしない。俺を常時檻の中に入れて、京子は要所要所で外に出してあげてほしいんだ。お手洗いやお風呂の時とか寝る時とか、それくらいはしてくれてもいいだろ、それともあれか? この国は女性に対しても厳しい、アップデートのしていない国なのか?」
 すると輪郭亭秋芳に似た見世物小屋の店主は、
「まあそれくらいいいだろう、何故ならこの国はアップデートしまくっている国だからな」
 と言い合ったところで、大きな声が聞こえた。陽くんだ。
「ダメだって! 見世物小屋自体ダメだって! 早くお兄ちゃんとお姉ちゃんを解放してよ! お兄ちゃんとお姉ちゃんは僕を助けてくれたんだよ!」
 すると店主は、
「ダメだ、コイツらは金儲けできる。解放してほしければコイツらよりも珍しい怪物を捕まえてこい」
「そんな! そんなぁ! お兄ちゃんとお姉ちゃんは僕の命の恩人なのに! こんなことになったら僕、死んでも死にきれないよ! 僕なんでもするから! なんでもするからお兄ちゃんとお姉ちゃんを助けて下さい!」
「小さい子が何でもするって言ってもなぁ、どうせ何もできないだろう」
「本当に何でもする! 何でもするからぁ!」
「あー、うるさい、うるさい、どっか行け、どっか行け」
 と陽くんはあしらわれた。
 でもまずそう言ってくれることが嬉しい。
 いや待てよ、これなら、と思って俺は行動に移すことにした。
「すみません、この見世物小屋は閉じることはあるんですか、夜になると閉店するみたいな」
「そりゃするよ、某コンビニのような24時間営業なんて馬鹿げているからなぁ、うちはブラック企業じゃないからな」
 こうやって2つ目の人間を問答無用で捕まえて見世物小屋に入れるなんて、ブラックもブラックだが、そんなことは今、どうでもいい。
「じゃあ陽くん、夜になったら遊びに来てくれないかな、それくらいいいですよね」
「いや、この子がオマエを解放させるかもしれない、ダメだ」
「陽くんは檻の外からでいいんです。俺の檻には鍵を閉めた状態にすればいいじゃないですか」
「頑丈な鍵はまあ俺が持っているしな、それならいいだろう」
「じゃあ陽くん、毎日遊びに来てもらっていいかな、あとボールというか松ぼっくりみたいなモノがあれば持ってきてほしいんだ」
 俺がそう言うと店主が、
「内職でもする気か? そんなもんでは稼げないぞぉ?」
 とププゥと吹き出すように笑った。
 陽くんは真面目な表情で、
「分かったよ、お兄ちゃん! 松ぼっくりを持ってお兄ちゃんの元へ遊びに行くよ!」
 京子は僕のほうを見ながら、
「何か案があるんだね、私は由宇に全て任せるよ、頑張ってね、由宇」
「任せてくれ、この落語の世界は常にヒントに溢れている。きっと陽くんのあの台詞はヒントのはずなんだ」
「……でも、松ぼっくりの内職で本当に解放されるのかな……そんなすごいモノ作れる? やっぱり私も夜ここにいようか? 私って結構手先器用なほうだから」
「ううん、大丈夫だから。京子は夜ゆっくり休んでほしい」
「分かった、由宇のこと信じているから」
 そんな会話をしたあとは、だらだらと檻の中で座っているだけ。
 時折、京子はお手洗いのため、見張り付きで外に出させてもらって、用を足したらまた従順に戻ってくるだけ。
 正直体力的には何もキツくないけども、ずっと何かに見られているって精神的に疲れるもので。
 それもニヤニヤと、嫌な笑みを浮かべて見てくるもんだから、かなり辛かった。
 やっぱりそうだな、こういう時は”体を動かすことが一番”だ。
 夜になり、ちょっとした明かりだけ付けてもらっている。
「遊びに来たよ! お兄ちゃん!」
 陽くんがやって来て、すぐさま大量の松ぼっくりを檻の隙間から、こちらに流してくれた。
「ありがとう、陽くん、じゃあこれ1個返すね」
 と言って松ぼっくりを陽くんのほうに1個流した。
「あっ、僕も内職するということだね、うん、何でもするよ、僕はお兄ちゃんのためなら命だってかけられるからね!」
 そう言って微笑んだ陽くん。
 それならば”かけてもらおう”。
「陽くん、何でもするって言っていたよね」
「勿論! お兄ちゃんのためなら鍵を壊すくらいにムキムキになるよ!」
「いやそんなことはしなくてもいいんだけども、ちょっと見ていてほしいんだ」
「お兄ちゃんのことはいくらでも見てられるよ! 尊敬のまなざしで!」
「そうか、それなら良かった」
 と俺は言いながら松ぼっくりを手に取り、ポーンと真上に投げて、そのまま頭の上に乗せた。
「すごい! お兄ちゃん!」
 俺は頭の上で松ぼっくりをリフティングした。
 ボールじゃないので、跳ね方は毎回違うが、それはそれでゲーム性があって楽しい。
 勝負はここからだ、まず俺ができないと話にならないから。
 松ぼっくりを膝、爪先、さらにカカトの裏でリフティングし、さらには松ぼっくりが飛んでいる間に足を回転させたり、体自体回ったり。
 その度に陽くんから歓声と拍手が巻き起こった。
 まあこんな感じかなといったところで、松ぼっくりを手に持ってストップ。
 松ぼっくりを見ると、そんなにボロボロにもなっていない。
 ソフトなタッチでできていた証拠だ。
「陽くん、新しい見世物としてこれを練習してほしいんだ」
「すごい! 僕やってみたい! というかやる! だってカッコイイもん!」
 そこから俺は陽くんに松ぼっくりリフティングをコーチングしていった。
 陽くんは物覚えが良く、また足に柔軟性があり、一日でグングン成長していった。
 そして俺と陽くんで作戦を立てて、明日を迎えた。
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