落語のような世界

青西瓜(伊藤テル)

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【16 一眼国】

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・【16 一眼国】


 陽くんはパクパクと、どんどん苺を食べていって、何だかほっこりしてしまった。
 食べたらすぐに苺がみのる光景も面白かった。
 陽くんも満足したようで、その場に座り込むと、京子が、
「じゃあ準備ができたら一緒に国へ行こう、途中までだったらついて行ってあげるから安心して」
 そうだ、途中まで、じゃないとダメだよな。
 最後までついて行ったら、きっと俺と京子が一眼国の者に捕まって、見世物小屋の中に入れられてしまう。
 でも、でもだ、俺にはちょっとした違和感があった。
 まだ物語が始まっていないような気がするのだ。
 大体物語を終わらせることにより、何か次に繋がる収穫がある。
 でもこの状態はまだ何にも次に繋がりそうなモノが手に入っていないのだ。
 だからこそ、陽くんにはついて行かなければならない。そう思っている。
「じゃあ僕、そろそろ帰るよ。桜のお兄ちゃん、ありがとうございました。変わった恰好のお兄ちゃんとお姉ちゃんはちょっとだけ付いてきてください。やっぱり道中が不安なので」
 京子はうんうん頷きながら、
「勿論! 途中まで一緒に行こう! 守ってあげるよ!」
 京子のほうが落語に詳しいので、やっぱり慎重に発言していると思う。
 必ず”途中まで”という言い方をしている。
 今回、陽くんは俺と京子が助けたけども、もし一眼国の見世物小屋へ行ったら、誰か助けてくれるなんて保証は無い。
 やっぱりあくまで”途中まで”を厳守しなければならないのかもしれない。
「じゃあ出発! あくまでクールに行クール!」
 京子が元気にそう言った。
 俺と京子で陽くんの手をそれぞれ握りながら、手を繋いで歩き出した。
 最初は普通の道中を歩いていたのに、急に陽くんがとある柳の木の下へ行くと、
「この柳の木の周りを3回転すると、世界が変わるんだ」
 と言い、言われた通り3回転すると、一気に目の前が霧に包まれ出した。
 京子は慌てながら、
「戻る時はまたここを3回転すればいいんだよね!」
 と言うと、陽くんはこくりと頷いて、
「そうだよ、だから大丈夫だよ」
 と言った。
 さて、というかもう一眼国のような、違う世界に来たのだから、そろそろかなと思って、京子のほうを見ると、京子が、
「じゃ! そろそろこの辺でお別れだね! あとは1人で帰れるよね!」
 と言うと、陽くんの握る手の握力が強くなり、
「まだダメ……僕はこの奥で捕まったんだから……」
 と涙目の上目遣いで訴えかけてきた。
 京子はほとほと困ったような表情をしたので、俺は思っていることを言うことにした。
「きっと落語はまだ終わっていないよ」
「えっ、陽くんを助けたらそれで終わりじゃないの?」
「いや、まだ輪郭亭秋芳に似た人物が出てきていないんだ」
「でも修功さんがそうじゃない」
「あれはあくまで『あたま山』の登場人物だ、見世物小屋の店主が輪郭亭秋芳ならこれで終わりだったけども、まだ出会っていないんだ」
 京子はう~んと唸ってから、
「じゃあ私たちは一眼国で捕まらないといけないということ?」
「捕まるかどうかは分からないけども、一眼国にきっと輪郭亭秋芳がいるはずなんだ。だからこの落語はまだ終わらない」
 と会話していると、陽くんが、
「そっか、お兄ちゃんとお姉ちゃんが捕まっちゃう可能性があるのか、でも僕、捕まえないでって言うから大丈夫!」
 それに京子がにっこりと微笑み、
「それなら大丈夫だ! 行こう! 由宇!」
 と言ったところで霧の向こう側から誰かの声がした。
「おぉ! 小さな子よ! 珍しい怪物を捕まえて来たな! あとで褒美をやるからな!」
 えっ、と思ったその時には俺は黒い布を被せられた。
 早くこの布をどけないと、と思ったのだが、布の上から縄のようなものでぐるぐる巻きにされているようで、すぐに身動きができなくなった。
 さらには何だか甘い香りがしたら、急に眠くなってきて、俺はそのまま眠りについてしまった。
 京子は逃げられたかな……そんなことを思いながら。

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