落語のような世界

青西瓜(伊藤テル)

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【11 目が覚める】

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・【11 目が覚める】


「ねずみが動かない!」
 俺はそんな耳をつんざくデカい声に驚いて目を覚ました。
 何だねずみが動かないって、一体何なんだと思いながら周りを見渡すと、なんと隣のベッドで京子が寝ていてさらに心臓が止まるくらいにビックリした!
「京子! どうしたんだ!」
 京子は眠たそうに目をこすりながら、
「由宇って朝早いんだねぇ」
 と言って笑った。
 いやいや!
「何で京子が俺の隣で寝ているんだよ! 他にベッドの部屋あっただろ!」
「だって広すぎて寂しいじゃん、というか朝から大きな声を出しすぎ。クールに行クール」
「いやいや! いやいやいや! いやぁぁぁあああああああああああ!」
 俺はめちゃくちゃデカい声が出た!
 だって!
「あのスイートルームじゃぁぁあああああああああん! ここぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「クールに行クール、クールに行クール」
 そう言って、落ち着け落ち着けといった感じに手で押さえる動作をする京子。
 いやいやいや!
「京子! 落語の世界のままだ!」
「そりゃそうでしょ、私はこれが現実だって気付いていたから、聡明でしょっ」
「いや何かオマエの落ち着いた感じ腹立つわ!」
 と言ったところで部屋のチャイムが鳴って、何だと思ってドアを開けると、
「お客様! 大きな声を出しましたよね! 大声センサーが反応しました! どうしたんですか!」
「いや、えっと、まあなんか、驚くことがあって、でも、大丈夫です」
 と、どう説明しても訝しがられるので、そう言っておくとホテルマンがホッと胸をなで下ろしながら、
「そちらは大丈夫だったようですね、でも今、うちの旅館が大変で、ねずみが動かなくなったんですよ、せっかくなんで見ますか?」
 何だ、せっかくなんで見ますか? って。
 いやでもこれ、まさしくねずみの物語通りでは。
 京子のほうを見ると強く頷いたので、俺と京子は旅館の玄関へ行くことにした。
 すると、旅館の玄関には木彫りのねずみがいて、全く動いていなかった。
 京子がしゃがんでねずみを撫でながら、
「可哀想……でも大丈夫だからねっ」
 と言った。
 俺はそれよりも正面の旅館を見ると、そこにはなんと! 輪郭亭秋芳がいたのだ!
「輪郭亭秋芳!」
 俺はそう言いながら輪郭亭秋芳に近付くと、そいつは慌てながら、
「ちょっ、ちょっ、人違いだろう! 俺様の名前は修司(しゅうじ)だ! 秋芳なんて名前は知らん!」
 いざ、きちんと修司と名乗る人を見ると、確かに輪郭亭秋芳とは違い、成金のようなデカいヒゲを蓄えている。
 すると、ねずみ旅館側のホテルマンが、
「この人は修司さんですよ、私どもの旅館の正面で旅館を営む修司さんで間違いないですよ」
「ほらほら! 近しい人間がそう言っているんだ! 間違いないだろ!」
 輪郭亭秋芳に似た男、修司……何なんだ、何でこんなに輪郭亭秋芳に似た男が現れるんだ。
 まだ夢が覚めていないことの消化だって終わっていないのに、謎がどんどん出てくる。
 どう考えても輪郭亭秋芳はこの世界に関わっている。
 だけども存在は未だに見えない。
 一体何なんだ、この世界は。
 京子は正面の旅館の少し低い位置を指差し、こう言った。
「あっ! 木彫り!」
 すると修司さんは自慢げにこう言った。
「そうそうそう! いいだろう! 俺が作らせた木彫りの虎だ! 縁起の良い虎を飾れば繁盛間違いなしだ!」
 木彫りの虎、まさしく落語『ねずみ』のままだ。
 そしてその落語通り、その虎はどう見ても猫にしか見えない。
 だからこの旅館の木彫りのねずみは止まっているわけだ。
 俺はすぐに木彫りのねずみへ、
「おい、ねずみ、あれは木彫りの虎だ、猫ではない。だから止まる必要は無いんだぞ」
 しかし、ねずみは動き出さない。
 どうやらこの状態になったら、木彫りのねずみを彫った甚五郎の言葉にしか反応しないらしい。
 というわけで、俺はホテルマンに、
「この木彫りのねずみを彫ったのは、甚五郎さんですよね。甚五郎さんのことを呼んでくれませんか?」
 ホテルマンは嬉しそうに、
「おっ! 甚五郎さん・作、って分かりますか! お目が高い! 甚五郎さんを呼べばいいんですね! 分かりました! 呼びましょう!」
 ホテルマンは普通にポケットからスマホを取り出し、電話をし始めた。
 スマホあるんかいも思うし、甚五郎さんもスマホ持っているんだとも思うし。
 このタイミングで一応俺は自分のスマホを確認してみたが、やっぱり圏外で、使える機種や契約が違うということか? まあそんなことはどうでもいいや。
 修司さんは勝ち誇った表情で客引きをしている。
 早くこの木彫りのねずみに伝えたい。あれは木彫りの虎で猫ではないということを。
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