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【09 天神祭】
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・【09 天神祭】
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「さぁ! 一緒に天神祭へレッツゴー!」
道夫くんは大きな声で拳を突き上げながらそう言った。
面倒臭そうな顔をする秀道は、やっぱりどう見ても輪郭亭秋芳だ。身長こそ低いものの、それ以外は全てそうだ。
京子はそんな秀道のことよりも、自分がワクワクしきってしょうがないといった感じだ。
俺たち4人で街を歩いていくと、徐々に夏祭りのような雰囲気がしてきた。
神社の鳥居を抜けると、そこは出店がいっぱいある夏祭りといった感じだった。
店は独楽や凧もあるが、チョコバナナもあるような、まんま輪郭亭秋芳の『初天神』だ。
カステラ焼きの甘い香りも充満していると思ったら、焼きそばのソースの香ばしさもある。
どう考えても現代仕様の江戸時代、あっ、ハンドスピナーを売っているくじもある。
それらに目を輝かせている道夫くんと、そして秀道。
秀道はすぐにチョコバナナを指差してこう言った。
「これ美味しそうだな! よし! 俺は俺の金で俺のために買おう!」
すると道夫くんが驚きながら、
「ちょっとお父さん! 最初の一口は僕にくれるよね!」
「いいやこんな珍しいモノ、誰にもやらん! 俺が食べるんだからな! ハハハ! 何だこのチョコバナナって! 棒丸出しじゃないか! 丸出しの棒だな!」
「丸出しの棒って何さ! 食べ物をそんな美味しくなさそうに言わないで!」
このあたりのやりとりは、輪郭亭秋芳の落語と一緒だ。
道夫くんは激しくイヤイヤして首を横に振り、お父さんの秀道は道夫くんの顔を手で押さえて、近寄らせないようにしている。
「おい、大将、チョコバナナというヤツをくれ! この! ピンクのヤツ!」
「そんな可愛い色は子供のモノだい!」
「そんなことないぞ、道夫。今の時代、色は好きに選べるんだ。お父さんがピンクを選んだって何も不思議じゃない。ちゃんとアップデートするようにな!」
本当に目の前で輪郭亭秋芳の落語が展開されている。
これはもうただの劇だ。完全に演じているようだ。
それに俺は京子に対して、
「これ、輪郭亭秋芳の落語そのものだよな?」
「そうだねぇ、落語の世界に入れて楽しいねっ」
と言って笑った。
まあ楽しいと言えば楽しいけどさ。
結局こんな調子で輪郭亭秋芳の落語の再放送を見ているような気分。
秀道はヒートアップし、道夫くんもヒートアップし、ついに道夫くんからあの台詞が出た。
「チェー! 天神祭にお父さんなんて連れてこなきゃ良かった!」
その言葉を聞いた京子は「キャーッ」と黄色い声援を上げた。
そんなアーティストのライブみたいな感覚で叫ばれても、と思っていると、秀道はムッとした表情で道夫くんを睨んで、こう言った。
「何だよ、その言い草、俺様が連れて来たんだぞ! オマエは俺様のおまけなんだよっ!」
その言葉に肩をビクンと震わせた道夫くんは怖がってしまい、京子に抱きついた。
いや何だか様子がおかしい。
オチまできたんだから、これで終わりなはずなのに、この物語はまだ全然終わっていない。
というか、そうか、そりゃそうだ、落語は話だから自分の決めたところで終わるけども、これは地続きの現実だ、いや現実じゃなくて夢だけども、とにかく今を生きているという状態なので、終わらないんだ。
俺はどうすればいいか、キョロキョロしていると、秀道が大きく溜息をついてからこう言った。
「本当マジでどういう意味だよ、俺様を連れて来なきゃ良かったって、逆なんだよ、何でオマエがそんな偉そうなんだよ。先生なんていって子供たちを連れてきて天狗になっていたのか? 誰もオマエのことなんてそもそも先生なんて思ってないんだよ、なぁ、由宇と京子だっけ?」
それに対して京子は首を横に振り、
「ううん、道夫くんはこの世界について教えてくれた先生ではあります。とにかくそんなカッカッしないで落ち着いて下さい。こういう時こそクールに行クールです」
いやこんな時にそんなふざけた言葉ダメだろと思ったんだが、秀道は、
「クールに行クール? まあちょっと怒り過ぎたかもしれないがなぁ」
と何故か少し抑えることに成功したので、どういうことだ、と思った。
俺は少し静観していると、秀道が、
「まあなぁ、誰かが巧いこと言ってくれれば気持ちがもっと落ち着くかもしれないがなぁ」
と言いながら、俺のほうをチラチラと見始めた。
何だそれ、自分で怒ってるくせに誰かに何かを言ってもらうことが正解だなんて自分で振ってきて。
でもまあ確かに俺も何か言わないといけないな、と思って、俺は思っていることを言うことにした。
「秋芳……秀道、さん、誰もが誰かを連れてきているという感覚なんだと思います。何故ならこの人生の主人公は常に自分ですから、自分の主観になって当然だと思います」
「ほほう、自分をメインに考えるとということか、で、つまり、どういうことなんだ?」
こっちがメインという英語を使わないで喋ったのに、向こうが普通に英語を言うし、どういうことなんだ、と詰められてしまうし。
こういうある種、文学的な屁理屈は通用しないらしい。
やっぱり落語らしく、あっと驚くオチを言ったり、いやそうか、じゃあ、
「まあ連れてきたら普通に秀道さん、出店という名の釣り人にに釣られてしまっていますね、魚のように釣り上げられちゃって、お金も巻き上げられちゃって」
「ハハハハ! 面白いこと言うな! オマエは! 気に入った!」
どうやら合っていたらしい。
いわゆる言葉遊びだけども、これでとりあえずは合っていたみたいだ。
ただ気に入ったとは言われたけども、このあとどうなるんだろうか。
すると秀道さんはこう言った。
「実はな太鼓持ちした時に旅館のタダ券というモノをもらったんだが、うちの妻様が”ねずみ”嫌いでな。そこの旅館のタダ券をやるよ。あんな壁の薄い長屋よりも寝やすいはずだ。3日分あるから楽しんできな」
そう言って俺にねずみ旅館と書かれた旅館の券を渡した。
俺はそれを受け取ると秀道さんは、
「ねずみ旅館はこの鳥居をくぐる前の道を右に行くとすぐあるぞ、立地最高だから天神祭にもまた来れるだろうな。なんせ天神祭は1ヵ月やっているからな」
俺と京子は秀道さんと道夫くんと別れて、旅館に向かって歩き出した。
京子は興奮した目でこう言った。
「ねずみ旅館って! 絶対落語の”ねずみ”だよね! 木彫りのねずみが動くという!」
ねずみは甚五郎という木彫りの彫り師が売れない旅館のために木彫りのねずみを作ってあげると、その木彫りのねずみが動き出して、評判の旅館に。それを妬んだ正面の旅館が別の彫り師から木彫りの虎を作ってもらうと、急にねずみが動かなくなる。どうしてだろうと思った甚五郎がねずみに話を聞くと「あれって虎だったんですか? 猫だと思って怯えていたら」と言うという話。
またしても落語の話だ。
本当にこの世界は落語で溢れている、と言っても、寝たら終わりだろうから、最後にねずみが動いているところを見て終わりなんだろうな。
・【09 天神祭】
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「さぁ! 一緒に天神祭へレッツゴー!」
道夫くんは大きな声で拳を突き上げながらそう言った。
面倒臭そうな顔をする秀道は、やっぱりどう見ても輪郭亭秋芳だ。身長こそ低いものの、それ以外は全てそうだ。
京子はそんな秀道のことよりも、自分がワクワクしきってしょうがないといった感じだ。
俺たち4人で街を歩いていくと、徐々に夏祭りのような雰囲気がしてきた。
神社の鳥居を抜けると、そこは出店がいっぱいある夏祭りといった感じだった。
店は独楽や凧もあるが、チョコバナナもあるような、まんま輪郭亭秋芳の『初天神』だ。
カステラ焼きの甘い香りも充満していると思ったら、焼きそばのソースの香ばしさもある。
どう考えても現代仕様の江戸時代、あっ、ハンドスピナーを売っているくじもある。
それらに目を輝かせている道夫くんと、そして秀道。
秀道はすぐにチョコバナナを指差してこう言った。
「これ美味しそうだな! よし! 俺は俺の金で俺のために買おう!」
すると道夫くんが驚きながら、
「ちょっとお父さん! 最初の一口は僕にくれるよね!」
「いいやこんな珍しいモノ、誰にもやらん! 俺が食べるんだからな! ハハハ! 何だこのチョコバナナって! 棒丸出しじゃないか! 丸出しの棒だな!」
「丸出しの棒って何さ! 食べ物をそんな美味しくなさそうに言わないで!」
このあたりのやりとりは、輪郭亭秋芳の落語と一緒だ。
道夫くんは激しくイヤイヤして首を横に振り、お父さんの秀道は道夫くんの顔を手で押さえて、近寄らせないようにしている。
「おい、大将、チョコバナナというヤツをくれ! この! ピンクのヤツ!」
「そんな可愛い色は子供のモノだい!」
「そんなことないぞ、道夫。今の時代、色は好きに選べるんだ。お父さんがピンクを選んだって何も不思議じゃない。ちゃんとアップデートするようにな!」
本当に目の前で輪郭亭秋芳の落語が展開されている。
これはもうただの劇だ。完全に演じているようだ。
それに俺は京子に対して、
「これ、輪郭亭秋芳の落語そのものだよな?」
「そうだねぇ、落語の世界に入れて楽しいねっ」
と言って笑った。
まあ楽しいと言えば楽しいけどさ。
結局こんな調子で輪郭亭秋芳の落語の再放送を見ているような気分。
秀道はヒートアップし、道夫くんもヒートアップし、ついに道夫くんからあの台詞が出た。
「チェー! 天神祭にお父さんなんて連れてこなきゃ良かった!」
その言葉を聞いた京子は「キャーッ」と黄色い声援を上げた。
そんなアーティストのライブみたいな感覚で叫ばれても、と思っていると、秀道はムッとした表情で道夫くんを睨んで、こう言った。
「何だよ、その言い草、俺様が連れて来たんだぞ! オマエは俺様のおまけなんだよっ!」
その言葉に肩をビクンと震わせた道夫くんは怖がってしまい、京子に抱きついた。
いや何だか様子がおかしい。
オチまできたんだから、これで終わりなはずなのに、この物語はまだ全然終わっていない。
というか、そうか、そりゃそうだ、落語は話だから自分の決めたところで終わるけども、これは地続きの現実だ、いや現実じゃなくて夢だけども、とにかく今を生きているという状態なので、終わらないんだ。
俺はどうすればいいか、キョロキョロしていると、秀道が大きく溜息をついてからこう言った。
「本当マジでどういう意味だよ、俺様を連れて来なきゃ良かったって、逆なんだよ、何でオマエがそんな偉そうなんだよ。先生なんていって子供たちを連れてきて天狗になっていたのか? 誰もオマエのことなんてそもそも先生なんて思ってないんだよ、なぁ、由宇と京子だっけ?」
それに対して京子は首を横に振り、
「ううん、道夫くんはこの世界について教えてくれた先生ではあります。とにかくそんなカッカッしないで落ち着いて下さい。こういう時こそクールに行クールです」
いやこんな時にそんなふざけた言葉ダメだろと思ったんだが、秀道は、
「クールに行クール? まあちょっと怒り過ぎたかもしれないがなぁ」
と何故か少し抑えることに成功したので、どういうことだ、と思った。
俺は少し静観していると、秀道が、
「まあなぁ、誰かが巧いこと言ってくれれば気持ちがもっと落ち着くかもしれないがなぁ」
と言いながら、俺のほうをチラチラと見始めた。
何だそれ、自分で怒ってるくせに誰かに何かを言ってもらうことが正解だなんて自分で振ってきて。
でもまあ確かに俺も何か言わないといけないな、と思って、俺は思っていることを言うことにした。
「秋芳……秀道、さん、誰もが誰かを連れてきているという感覚なんだと思います。何故ならこの人生の主人公は常に自分ですから、自分の主観になって当然だと思います」
「ほほう、自分をメインに考えるとということか、で、つまり、どういうことなんだ?」
こっちがメインという英語を使わないで喋ったのに、向こうが普通に英語を言うし、どういうことなんだ、と詰められてしまうし。
こういうある種、文学的な屁理屈は通用しないらしい。
やっぱり落語らしく、あっと驚くオチを言ったり、いやそうか、じゃあ、
「まあ連れてきたら普通に秀道さん、出店という名の釣り人にに釣られてしまっていますね、魚のように釣り上げられちゃって、お金も巻き上げられちゃって」
「ハハハハ! 面白いこと言うな! オマエは! 気に入った!」
どうやら合っていたらしい。
いわゆる言葉遊びだけども、これでとりあえずは合っていたみたいだ。
ただ気に入ったとは言われたけども、このあとどうなるんだろうか。
すると秀道さんはこう言った。
「実はな太鼓持ちした時に旅館のタダ券というモノをもらったんだが、うちの妻様が”ねずみ”嫌いでな。そこの旅館のタダ券をやるよ。あんな壁の薄い長屋よりも寝やすいはずだ。3日分あるから楽しんできな」
そう言って俺にねずみ旅館と書かれた旅館の券を渡した。
俺はそれを受け取ると秀道さんは、
「ねずみ旅館はこの鳥居をくぐる前の道を右に行くとすぐあるぞ、立地最高だから天神祭にもまた来れるだろうな。なんせ天神祭は1ヵ月やっているからな」
俺と京子は秀道さんと道夫くんと別れて、旅館に向かって歩き出した。
京子は興奮した目でこう言った。
「ねずみ旅館って! 絶対落語の”ねずみ”だよね! 木彫りのねずみが動くという!」
ねずみは甚五郎という木彫りの彫り師が売れない旅館のために木彫りのねずみを作ってあげると、その木彫りのねずみが動き出して、評判の旅館に。それを妬んだ正面の旅館が別の彫り師から木彫りの虎を作ってもらうと、急にねずみが動かなくなる。どうしてだろうと思った甚五郎がねずみに話を聞くと「あれって虎だったんですか? 猫だと思って怯えていたら」と言うという話。
またしても落語の話だ。
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第六章 スカーフェイスを追って
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