落語のような世界

青西瓜(伊藤テル)

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【03 落語】

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・【03 落語】


 聞き終えて最初に思ったこと、それは昔話だな、ということ。
 ただしちょっと皮肉の利いた昔話。
 初天神は子供と父親が主人公で、何でも買ってほしいとねだる子供の父親が、どうせねだられると思って連れていくことをしぶっていた天神祭に子供を連れて行くと、むしろ父親のほうが天神祭にテンションが上がって子供そっちのけで遊んでしまい、子供から「天神祭に父親なんて連れてくるんじゃなかった」と言われてしまう、という話だ。
 普通は父親が「子供なんて連れてくるんじゃなかった」となるところで、子供が「父親なんて連れてくるんじゃなかった」と言う。
 逆になる、という古典的なオチではあると思うけども、話し手の魅力なのか、とても聞き心地が良かった。
 ねずみは甚五郎という木彫りの彫り師が売れない旅館のために木彫りのねずみを作ってあげると、その木彫りのねずみが動き出して、評判の旅館に。それを妬んだ正面の旅館が別の彫り師から木彫りの虎を作ってもらうと、急にねずみが動かなくなる。どうしてだろうと思った甚五郎がねずみに話を聞くと「あれって虎だったんですか? 猫だと思って怯えていたら」と言うという話。
 虎の出来が悪くて、猫だと思って縮こまっていたという、かなり皮肉の利いた話だ。
 俺はどちらかと言うと、ねずみのほうが好きだなと思った。
 オチも意表をついていて、面白かった。
 総じて落語というものはそこそこ面白いとは思う。
 でもそれはそこそこだ。
 テレビやユーチューブで見るお笑いのように、大笑いする類ではない。
 あくまで物語としてまあ面白いかな、といった感じだ。
 同じ話を喋ることが落語らしいけども、話の鮮度なんて最初が一番で、そのあとは下がっていくだけなわけだから、どんどん面白味を失っていくような気がするんだけども。
 サッカーだってそう。
 戦術はアップデートしていくもの。
 同じ戦術ばかりしていたら対策されてしまい、最初は新しくてもどんどん負けが込んでいく。
 俺はCDを取り出すと、そのままベッドで横になった。
 窓側の角の席のもらえたので、俺は外を眺める。
 窓の外は信じられないくらいの青空で、こんな日はサッカーがしたいなって思った。
 でももう、することはないんだろうな。
 いや体育レベルの遊びのサッカーはできるだろうけども、本気の、勝ち負けを、人生を賭けたようなサッカーはもう。
 夜になり、味気の無いご飯を食べて、テレビにイヤホンを付けて見る。
 テレビではネタ番組が流れていて、俺はそれを見て、静かに笑った。
 やっぱり漫才やコントは面白いし、ピンネタも奇想天外でたまらない。
 ふと、ピンネタで落語をしている芸人は見たことないと思った。
 落語家はネタ番組の仕事を断っているのだろうか。
 いや、多分俺は単純に呼ばれていないだけだと思っている。
 だって面白さのレベルが違うから。
 確かに話の聞き心地という面では一切負けていない。
 でも笑いの量というか、面白さの爆発力は全然違う。
 そもそも落語って笑うモノではないのかもしれない。
 ただ物語を聞くだけの、朗読劇のようなモノなのかもしれない。
 だとしたら、う~ん、やっぱり俺はあんまりハマらないかな。
 普通にお笑い芸人がやる漫才やコントのほうが好きだなぁ。
 とは言え、物語として面白かったことも事実だから、次に京子が来た時はそのことを褒めようとは思っている。
 すぐにそう考えたのに、京子が次にお見舞いへ来てくれたのは、1週間後だった。
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