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【02 宣告】
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・【02 宣告】
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俺は病院にいた。
頭を打った可能性もあるので、精密検査をした。
その結果が膝の故障だった。
医者からはこう言われた。
「学校の体育などはできますが、もう激しい運動はできないかもしれませんね」
言われた時、正直意味が分からなかったので、俺は聞くことにした。
「つまり、プロを目指してサッカーをすることはできないということですか」
医者は少々言いづらそうに、咳払いをしてから、
「そういうことです」
と言った。
俺は頭の中が真っ白になり、何も考えることができなくなった。
隣に座っていたお母さんの泣く声が空っぽの脳内に響くだけだった。
俺は将来の目標を失った。
ずっとプロのサッカー選手になりたくて、4歳からずっとサッカーをしていた。
俺にはこれしかない、と思って、否、これ以外いらないと思ってやってきたが、急にその道が閉ざされてしまった。
さらにはこれから膝のリハビリをやらないといけないので、小学校にも行けない。
友達にも幼馴染にも会えない。
幸い、学区内の病院に入れたので、もしかしたら会いに来てくれるかもしれないが、でもそれはそれでどんな顔をしたらいいか、正直今は全く分からない。
お母さんも一旦帰り、俺は病室のベッドの上で、ボーっとしていると、誰か訪問者が来たらしく、カーテンが開いた。
「大丈夫、由宇?」
来てくれた人は幼馴染の京子だった。
家も近く昔から仲が良い。
最も、趣味は合わない感じなので、最近は少し疎遠になっていたけども。
「こんな時こそクールに行クールね」
そう言ってウィンクしてきた京子……こんな感じで何だかズレているヤツだが、根は良いヤツだということを知っている。
京子は持ってきていた紙のバッグをごそごそしながら、こう言った。
「これから暇でしょ、そんな時は落語聞いて楽しんで」
紙のバッグからCDプレーヤーと落語のCDと思われるモノ、さらには落語関係の本がごっそり出てきた。
今の時代にCDって、まあいいか、病室だもんな。
京子は落語が趣味で、同級生で落語が趣味ということは珍しいことなので、そのことはよく覚えていた。
でも、でもだ、
「突然落語なんて言われても、俺は今そんな気分じゃないんだ」
と溜息交じりにそう答えると、京子は小首を傾げながら、
「でもこんな時こそクールに行クールってヤツでしょ?」
「いや元々ありものの言葉みたいに言うなよ」
「落語は聞いてみると面白いよ」
「何だよ、京子、俺が弱っている時に自分の趣味に引き入れようとしてんのかよ」
自分で言ったすぐあとに、トゲのある言葉になってしまったことに気付いた。
でも実際そうだし……と思って、訂正することは止めた。すると、
「そんなつもりは無かったけども、そう思われてしまったということはそうなんだと思う。ゴメンなさい……」
と頭を下げた京子は、すぐさま出した落語グッズを紙のバッグに戻そうとしたので、俺は、
「いいよ、それ持って帰るとなると重いだろ。今日のとこは置いていっていいから」
「でも最終的には持って帰るわけだから……」
「じゃあちょっとだけ持って帰ったら? 来る度にちょっとずつ持って帰ればいいじゃん」
「そうさせてもらうね……」
と京子は何冊かあった本のうち、2冊を紙のバッグに戻した。
内心、俺はうまくいったと思った。
何故なら、まだ荷物がある状態にすれば、また京子はお見舞いに来てくれると思ったからだ。
最近俺がサッカーで忙しくて疎遠にはなっていたけども、やっぱり会いに来てくれることは嬉しいから。
ただ京子はずっと申し訳無さそうな表情をしているので、俺は後ろ頭を掻きながら、
「まあ気が向いたらCDくらい聞くからさ」
と言っておくと、京子の顔はパァと明るくなって、
「それがいいと思うよ! これはどれも初心者用だからどれから聞いても分かりやすいよ!」
実際、京子がまた来てくれた時、共通の話題が何も無いと話をすることが無いので、ちょっとくらいは落語を聞いておいたほうがいいだろう。
京子は笑顔でこっちに手を振りながら帰っていった。
さて、さてだ、落語か……正直未知過ぎるな……漠然と面白くないと思ってしまったら、どうしようと思えてきた。
面白くないと感じて、そのまま京子に面白くないと伝えたら場が凍り付いて、クール程度じゃ済まないだろうな。
どうか、面白くあってくれ!
そう思いながら俺は落語CDに手を伸ばした。
CDのジャケットを眺める。
ベテランのほうがいいのか、若手のほうがいいのか。
でも悩んでいても仕方ない、ここは直感に身を任し、ベテランの落語家のCDを聞くことにした。
CDには演目が2つだけ書いてあった。
『1 初天神』と『2 ねずみ』だ。
全体の長さは分からないけども、どうやら1本30分くらいあるのかな?
どっちから聞けばいいとかも分からないので、ここは順番に聞いていくことにした。
・【02 宣告】
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俺は病院にいた。
頭を打った可能性もあるので、精密検査をした。
その結果が膝の故障だった。
医者からはこう言われた。
「学校の体育などはできますが、もう激しい運動はできないかもしれませんね」
言われた時、正直意味が分からなかったので、俺は聞くことにした。
「つまり、プロを目指してサッカーをすることはできないということですか」
医者は少々言いづらそうに、咳払いをしてから、
「そういうことです」
と言った。
俺は頭の中が真っ白になり、何も考えることができなくなった。
隣に座っていたお母さんの泣く声が空っぽの脳内に響くだけだった。
俺は将来の目標を失った。
ずっとプロのサッカー選手になりたくて、4歳からずっとサッカーをしていた。
俺にはこれしかない、と思って、否、これ以外いらないと思ってやってきたが、急にその道が閉ざされてしまった。
さらにはこれから膝のリハビリをやらないといけないので、小学校にも行けない。
友達にも幼馴染にも会えない。
幸い、学区内の病院に入れたので、もしかしたら会いに来てくれるかもしれないが、でもそれはそれでどんな顔をしたらいいか、正直今は全く分からない。
お母さんも一旦帰り、俺は病室のベッドの上で、ボーっとしていると、誰か訪問者が来たらしく、カーテンが開いた。
「大丈夫、由宇?」
来てくれた人は幼馴染の京子だった。
家も近く昔から仲が良い。
最も、趣味は合わない感じなので、最近は少し疎遠になっていたけども。
「こんな時こそクールに行クールね」
そう言ってウィンクしてきた京子……こんな感じで何だかズレているヤツだが、根は良いヤツだということを知っている。
京子は持ってきていた紙のバッグをごそごそしながら、こう言った。
「これから暇でしょ、そんな時は落語聞いて楽しんで」
紙のバッグからCDプレーヤーと落語のCDと思われるモノ、さらには落語関係の本がごっそり出てきた。
今の時代にCDって、まあいいか、病室だもんな。
京子は落語が趣味で、同級生で落語が趣味ということは珍しいことなので、そのことはよく覚えていた。
でも、でもだ、
「突然落語なんて言われても、俺は今そんな気分じゃないんだ」
と溜息交じりにそう答えると、京子は小首を傾げながら、
「でもこんな時こそクールに行クールってヤツでしょ?」
「いや元々ありものの言葉みたいに言うなよ」
「落語は聞いてみると面白いよ」
「何だよ、京子、俺が弱っている時に自分の趣味に引き入れようとしてんのかよ」
自分で言ったすぐあとに、トゲのある言葉になってしまったことに気付いた。
でも実際そうだし……と思って、訂正することは止めた。すると、
「そんなつもりは無かったけども、そう思われてしまったということはそうなんだと思う。ゴメンなさい……」
と頭を下げた京子は、すぐさま出した落語グッズを紙のバッグに戻そうとしたので、俺は、
「いいよ、それ持って帰るとなると重いだろ。今日のとこは置いていっていいから」
「でも最終的には持って帰るわけだから……」
「じゃあちょっとだけ持って帰ったら? 来る度にちょっとずつ持って帰ればいいじゃん」
「そうさせてもらうね……」
と京子は何冊かあった本のうち、2冊を紙のバッグに戻した。
内心、俺はうまくいったと思った。
何故なら、まだ荷物がある状態にすれば、また京子はお見舞いに来てくれると思ったからだ。
最近俺がサッカーで忙しくて疎遠にはなっていたけども、やっぱり会いに来てくれることは嬉しいから。
ただ京子はずっと申し訳無さそうな表情をしているので、俺は後ろ頭を掻きながら、
「まあ気が向いたらCDくらい聞くからさ」
と言っておくと、京子の顔はパァと明るくなって、
「それがいいと思うよ! これはどれも初心者用だからどれから聞いても分かりやすいよ!」
実際、京子がまた来てくれた時、共通の話題が何も無いと話をすることが無いので、ちょっとくらいは落語を聞いておいたほうがいいだろう。
京子は笑顔でこっちに手を振りながら帰っていった。
さて、さてだ、落語か……正直未知過ぎるな……漠然と面白くないと思ってしまったら、どうしようと思えてきた。
面白くないと感じて、そのまま京子に面白くないと伝えたら場が凍り付いて、クール程度じゃ済まないだろうな。
どうか、面白くあってくれ!
そう思いながら俺は落語CDに手を伸ばした。
CDのジャケットを眺める。
ベテランのほうがいいのか、若手のほうがいいのか。
でも悩んでいても仕方ない、ここは直感に身を任し、ベテランの落語家のCDを聞くことにした。
CDには演目が2つだけ書いてあった。
『1 初天神』と『2 ねずみ』だ。
全体の長さは分からないけども、どうやら1本30分くらいあるのかな?
どっちから聞けばいいとかも分からないので、ここは順番に聞いていくことにした。
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