上 下
2 / 20

【02 宣告】

しおりを挟む

・【02 宣告】


 俺は病院にいた。
 頭を打った可能性もあるので、精密検査をした。
 その結果が膝の故障だった。
 医者からはこう言われた。
「学校の体育などはできますが、もう激しい運動はできないかもしれませんね」
 言われた時、正直意味が分からなかったので、俺は聞くことにした。
「つまり、プロを目指してサッカーをすることはできないということですか」
 医者は少々言いづらそうに、咳払いをしてから、
「そういうことです」
 と言った。
 俺は頭の中が真っ白になり、何も考えることができなくなった。
 隣に座っていたお母さんの泣く声が空っぽの脳内に響くだけだった。
 俺は将来の目標を失った。
 ずっとプロのサッカー選手になりたくて、4歳からずっとサッカーをしていた。
 俺にはこれしかない、と思って、否、これ以外いらないと思ってやってきたが、急にその道が閉ざされてしまった。
 さらにはこれから膝のリハビリをやらないといけないので、小学校にも行けない。
 友達にも幼馴染にも会えない。
 幸い、学区内の病院に入れたので、もしかしたら会いに来てくれるかもしれないが、でもそれはそれでどんな顔をしたらいいか、正直今は全く分からない。
 お母さんも一旦帰り、俺は病室のベッドの上で、ボーっとしていると、誰か訪問者が来たらしく、カーテンが開いた。
「大丈夫、由宇?」
 来てくれた人は幼馴染の京子だった。
 家も近く昔から仲が良い。
 最も、趣味は合わない感じなので、最近は少し疎遠になっていたけども。
「こんな時こそクールに行クールね」
 そう言ってウィンクしてきた京子……こんな感じで何だかズレているヤツだが、根は良いヤツだということを知っている。
 京子は持ってきていた紙のバッグをごそごそしながら、こう言った。
「これから暇でしょ、そんな時は落語聞いて楽しんで」
 紙のバッグからCDプレーヤーと落語のCDと思われるモノ、さらには落語関係の本がごっそり出てきた。
 今の時代にCDって、まあいいか、病室だもんな。
 京子は落語が趣味で、同級生で落語が趣味ということは珍しいことなので、そのことはよく覚えていた。
 でも、でもだ、
「突然落語なんて言われても、俺は今そんな気分じゃないんだ」
 と溜息交じりにそう答えると、京子は小首を傾げながら、
「でもこんな時こそクールに行クールってヤツでしょ?」
「いや元々ありものの言葉みたいに言うなよ」
「落語は聞いてみると面白いよ」
「何だよ、京子、俺が弱っている時に自分の趣味に引き入れようとしてんのかよ」
 自分で言ったすぐあとに、トゲのある言葉になってしまったことに気付いた。
 でも実際そうだし……と思って、訂正することは止めた。すると、
「そんなつもりは無かったけども、そう思われてしまったということはそうなんだと思う。ゴメンなさい……」
 と頭を下げた京子は、すぐさま出した落語グッズを紙のバッグに戻そうとしたので、俺は、
「いいよ、それ持って帰るとなると重いだろ。今日のとこは置いていっていいから」
「でも最終的には持って帰るわけだから……」
「じゃあちょっとだけ持って帰ったら? 来る度にちょっとずつ持って帰ればいいじゃん」
「そうさせてもらうね……」
 と京子は何冊かあった本のうち、2冊を紙のバッグに戻した。
 内心、俺はうまくいったと思った。
 何故なら、まだ荷物がある状態にすれば、また京子はお見舞いに来てくれると思ったからだ。
 最近俺がサッカーで忙しくて疎遠にはなっていたけども、やっぱり会いに来てくれることは嬉しいから。
 ただ京子はずっと申し訳無さそうな表情をしているので、俺は後ろ頭を掻きながら、
「まあ気が向いたらCDくらい聞くからさ」
 と言っておくと、京子の顔はパァと明るくなって、
「それがいいと思うよ! これはどれも初心者用だからどれから聞いても分かりやすいよ!」
 実際、京子がまた来てくれた時、共通の話題が何も無いと話をすることが無いので、ちょっとくらいは落語を聞いておいたほうがいいだろう。
 京子は笑顔でこっちに手を振りながら帰っていった。
 さて、さてだ、落語か……正直未知過ぎるな……漠然と面白くないと思ってしまったら、どうしようと思えてきた。
 面白くないと感じて、そのまま京子に面白くないと伝えたら場が凍り付いて、クール程度じゃ済まないだろうな。
 どうか、面白くあってくれ!
 そう思いながら俺は落語CDに手を伸ばした。
 CDのジャケットを眺める。
 ベテランのほうがいいのか、若手のほうがいいのか。
 でも悩んでいても仕方ない、ここは直感に身を任し、ベテランの落語家のCDを聞くことにした。
 CDには演目が2つだけ書いてあった。
 『1 初天神』と『2 ねずみ』だ。
 全体の長さは分からないけども、どうやら1本30分くらいあるのかな?
 どっちから聞けばいいとかも分からないので、ここは順番に聞いていくことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

オムツの取れない兄は妹に

rei
大衆娯楽
おねしょをしてしまった主人公の小倉莉緒が妹の瑞希におむつを当てられ、幼稚園に再入園させられてしまう恥辱作品。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

時間泥棒【完結】

虹乃ノラン
児童書・童話
平和な僕らの町で、ある日、イエローバスが衝突するという事故が起こった。ライオン公園で撮った覚えのない五人の写真を見つけた千斗たちは、意味ありげに逃げる白猫を追いかけて商店街まで行くと、不思議な空間に迷いこんでしまう。 ■目次 第一章 動かない猫 第二章 ライオン公園のタイムカプセル 第三章 魚海町シーサイド商店街 第四章 黒野時計堂 第五章 短針マシュマロと消えた写真 第六章 スカーフェイスを追って 第七章 天川の行方不明事件 第八章 作戦開始!サイレンを挟み撃て! 第九章 『5…4…3…2…1…‼』 第十章 不法の器の代償 第十一章 ミチルのフラッシュ 第十二章 五人の写真

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

処理中です...