新撰組八犬伝

七味春五郎

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近藤勇の最期

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 その処刑は、板橋宿――平尾、にて執り行われた。
 夜間、である。
 この時代、板橋宿は、江戸四宿の一つとして繁栄していた。中山道では、日本橋の次に来る宿場町で、川越街道の起点ともなっている。上宿、仲宿、平尾宿、とに別れている。
 このうち、上宿にある大木戸からが、御府内、であった。

 深更にも関わらず、近隣の町民が集まっている。板橋宿は、刑場ではない。本来なら付近の下手人は、小塚原に送られ、裁判にかけられるところである。
 みな、この高名な武士の正体を、知らないのだ。
 竹で組まれた、簡易な刑場で、白布が敷きつめられている。その中央に、下手人が鎮座していた。そして、その下手人の目の前には、人の頭部がすっぽり入るほどの穴が開いており、布はご丁寧にその穴の中まで差し入れられているのである。
 仁右衛門は、刑場からはかなり離れた小籔の中から、体格のいい下手人からまんじりとも目が離せず、そのときを固唾を飲んで見守っていた。傍らには、土方歳三の他、佐藤彦五郎ら数名がいた。これらは、天然理心流日野道場の面々である。
 三つの篝火が、下手人の面貌をメラメラと照らしだす。新政府軍の兵士が、男を囲い、見下ろしていた。白装束にこそ着替えているが、切腹すらかなわない。が、下手人は泰然として、手を股に置いている。その心境を映す物は、なにもなかった。
 やがて、下手人が何かを口にし、大人しく首を差し出す段になった。
 土方がこらえきれずに飛び出しそうになる。仁右衛門らは懸命に押しとどめた。

 赤熊(しゃぐま)とよばれる赤毛の軍帽をかぶった男(色からして、土佐藩士だろう)は、下手人を土壇場にうずくらませると、大きく刀をふりかぶった。篝火に照らされる刀身――そして、仁右衛門の位置からは、下手人の髷しか見えぬと言うのに、その夢の中では確かに男が顔を上げ、きっ、と自分を見ている気がした。
 やがて、赤熊は裂帛の気合いとともに、刀を最上段からふりおろす。
 仁右衛門は思わず、夢の中で叫んでいた。
「近藤さん!」
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