最強勇者の物語2

しまうま弁当

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第5章 アグトリア動乱

復活阻止

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8月14日の午後5時になった。

ヌエド軍はビヘイブ要塞の南側に集結していた。

バギデの部隊とヌエドの直属部隊がビヘイブ要塞に睨みを効かせていた。

その間にミレピオの部隊が救護活動に専念していた。

ヌエドの直属部隊はビヘイブ要塞からの攻撃に備えていた。

ヌエドの部下がヌエドに報告をしていた。

「ヌエド様、要塞からの攻撃はありません。」

ヌエドが部下に言った。

 「ご苦労、引き続き警戒を怠ってはならぬぞ。」

部下がヌエドに言った。

「はっ!」

するとヌエドの元にミレピオの部下がやって来た。

ミレピオの部下がヌエドに言った。

「ヌエド様、負傷者の救護は順調に進んでおりますが、ポーションが底を尽きつつあります。ポーションの融通をお願いしたいとの事です。」

ヌエドがミレピオの部下に言った。

「分かった、あるだけのポーションを渡そう。そうミレピオに伝えてくれ。」

ミレピオの部下がヌエドに言った。

「はっ!ありがとうございます。」

ヌエドがミレピオの部下に尋ねた。

「それでメルクンガ殿とマグリオは見つかったか?」

ミレピオの部下が申し訳なさそうにヌエドに言った。

「ヌエド様、申し訳ありません。メルクンガ殿、マグリオ様は依然として発見できていません。」

ヌエドが残念そうにミレピオの部下に言った。

「そうか、分かった。わざわざご苦労だった。」

ヌエドが大きな声で言った。

「誰かポーションを持ってきてくれ。」

ヌエドの指示によって部下数人が出ていった。

そしてすぐにポーションの袋を抱えて戻ってきた。

そしてミレピオの部下にポーションの入った袋を渡したのだった。

ミレピオの部下はヌエドに一礼するとヌエドの陣地より出ていった。

その部下が出ていった後でヌエドは何も言わずにしばらくの間震えていた。

そしてヌエドが突然立ち上がって陣地の外に出ていこうとした。

ヌエドの部下がヌエドに尋ねた。

「ヌエド様、一体どちらに行かれるのですか?」

ヌエドが部下に言った。

「俺もマグリオを探しに行ってくる。」

部下がヌエドに言った。

「ヌエド様、お待ちください!要塞の中にはドロメが籠っているのです。もしヌエド様まで救護活動に加わってしまったら、ドロメから攻撃を受けた場合対処ができなくなってしまいます。」

ヌエドが大きな声で部下達に言った。

「このままではマグリオの死が確定してしまうだろう!!」

部下の一人が大きな声でヌエドに言った。

「ヌエド様、どうかこの場にお留まりください!」

ヌエドが大きな声でその部下に言った。

「マグリオをみすみす死なせよと申すか!!」

部下の一人がヌエドに言った。

「ヌエド様、お気持ちは分かります。ですがドロメの軍勢はまだ要塞の中で健在なのです。いつ軍勢を繰り出してこちらを攻撃してくるか分かりません。どうか冷静な対応をお願いします。」

ヌエドは自分の手で自分の顔を数回叩いた。

ヌエドは落ち着きを取り戻すと部下達に言った。

「みなすまない、見苦しい所を見せた。」

部下の一人がヌエドに言った。

「いえ、お気持ちはよく分かります。」

午後5時半を過ぎた頃ヌエドの陣地にミレピオ本人がやって来た。

ミレピオがヌエドに言った。

「ヌエド様?」

ヌエドがミレピオに言った。

「ミレピオか?救護活動は良いのか?」

ミレピオがヌエドに言った。

「救護活動がほぼ完了いたしました。ですがマグリオ様とメルクンガ殿の遺骸がどこにも見当たらないのです。」

ヌエドがミレピオに言った。

「くそ、となると遺体を持ち去ったか土の中にでも埋められたか。」

ヌエドがミレピオに尋ねた。

「どれほどの者達を救護できた?」

ミレピオがヌエドに言った。

「およそ200名ほどです。生存者の救護はほぼ完了しました。」

ヌエドは空を見上げた。

日はだいぶ傾いていた。

そしてヌエドは目を瞑って考え込んだ。

しばらくしてヌエドが小さ声で呟いた。

「すまぬマグリオ、メルクンガ殿。」

そしてヌエドがミレピオに尋ねた。

「ポーションはいくつ残っている?」

ミレピオがポーションの入った袋を開けてヌエドに見せながら言った。

「はっ、残り二つにございます。」

ヌエドがミレピオに言った。

「その二つも重症の者に使ってやってくれ。」

ミレピオがヌエドに言った。

「ですがこの二つはマグリオ様とメルクンガ殿の分でございます。まだ四つの鐘(四時間経過)にはなっておりませんし。なぜそのような事を言われるのですか?」

ヌエドがミレピオに言った。

「救護活動をここで打ち切るつもりだ。」

ミレピオがヌエドに尋ねた。

「ヌエド様!マグリオ様やメルクンガ殿を諦めるのですか?」

ヌエドが苦しそうな表情でミレピオに言った。

「もうすぐ日が暮れる。敵地の真っ只中で暗い中捜索を続けるのは危険すぎる。これ以上は無理だ。」

ミレピオはヌエドの苦しそうな顔を見ると何も言えなくなり黙り込んでしまった。

ポーションを使って死者の復活させる事はかなり難しい事であった。

まず復活させるには遺体が必要であり、遺体がない状態で使用しても無意味であった。

さらにポーションで死者を復活させられるタイムリミットが存在した。

死んでしまった時刻から四時間以内にポーションを遺体に振りかける必要があったのだ。

四時間を過ぎてしまった場合は復活させるのは無理であり、四時間は復活リミットとなっていた。

回復魔法で復活させる場合でも同じように遺体が必要であり、タイムリミットが存在した。

それ故にグロッケンは復活を阻止するためにマグリオとメルクンガの遺体を土の中に埋めたのだった。

土の中に埋めるというやり方は、復活阻止の方法としてかなり有効な方法だった。

ヌエドが二人の救護を諦めた理由はいくつかあった。

まず救護活動を行っていた場所がビヘイブ要塞の目の前であり、救護活動が長引けばヌエド軍が攻撃される危険性が大きくなるからであった。

この時ヌエド軍の半数が救護と偵察を行っており、戦闘を行えるのは半数に過ぎなかった。

戦闘になれば不利なのは明らかであり、できる限り短時間で済ませなければならなかった。

もう一つはポーションが貴重品だった事である。

ヌエド軍全体でポーションの数が圧倒的に不足していたのだ。

戦闘で傷つく兵士達の数に対してポーションの数が不足しており、救護活動を行うときはポーションで誰を救うかという問題が常につきまとっていた。

ヌエドは指揮官ばかりを優先して助ければ、一般の兵士達にとって不公平であると考えていたのだ。

部隊指揮官ばかりを優遇はできない。

ヌエドにとってはマグリオとメルクンガを諦めるというのは苦渋の決断であったが、助けられる命にポーションを使おうと考えたのであった。

するとヌエドがミレピオに言った。

「ミレピオ、少し話をしてもよいか?」

ミレピオがヌエドに尋ねた。

「はい、何でしょうか?」

ヌエドがミレピオに言った。

「ドロメとの講和は可能だと思うか?」

ミレピオが驚いてヌエドに言った。

「な、何を言われるのですか?ヌエド様?」

ヌエドがミレピオに言った。

「俺が判断を誤りたくさんの者達を死なせてしまった。マグリオ、ケイス、メルクンガ殿、そして部下だった者達を。これ以上俺のせいでみなを死なせる訳にはいかん。それ故にドロメを講和を結ぼうと考えているのだ。最悪俺の命と引き換えにしてでもみなの助命を頼むつもりだ。」

ミレピオがヌエドに大きな声で言った。

「ヌエド様それはなりません!ドロメが一度裏切った我々を許すとお思いですか?許すはずがありません。どのみち全員が殺されてしまいます。ドロメがそれほど寛容であればヌエド様は挙兵などされなかったはずです。ドロメにむざむざ殺されるぐらいなら私はドロメと戦って死にたいと思います。」

ヌエドがミレピオに言った。

「死にたいなどと言わないでくれ!」

ミレピオがヌエドに言った。

「申し訳ありません。」

ヌエドがミレピオに言った。

「いやこちらこそすまない。少し弱気になっていたようだ。ミレピオ、お前のいう事は正しい。ドロメは決して俺達を許さないだろう。」

ヌエドがミレピオに尋ねた。

「だがバキデ殿やブリンガフ殿は果たしてこの後も俺についてきてくれるだろうか?」

ミレピオがヌエドに言った。

「断言はできませぬが、ついてきて頂けるかと?ヌエド様の蜂起をバギデ殿もブリンガフ殿も歓迎しておりました。」

ヌエドがミレピオに言った。

「そうか歓迎してくれていたか。」

するとミレピオがヌエドに尋ねた。

「ヌエド様?一つお尋ねしても宜しいですか?」

ヌエドがミレピオに聞き返した。

「なんだ?」

ミレピオがヌエドに尋ねた。

「ヌエド様はいつからドロメを討とうと考えていたのですか?」

ヌエドがミレピオに言った。

「そうだな、ドロメ盗賊団に入る前ぐらいからだな。」

ミレピオがヌエドに言った。

「ドロメ盗賊団に加わる前から挙兵を考えていたのですか?」

ヌエドがミレピオに言った。

「そうだ、そういえばミレピオには話した事は無かったな。テリード村を知っているか?」

ミレピオがヌエドに言った。

「はい、一年前に廃村になった村ですね。確かドロメに潰された村だと。」

ヌエドがミレピオに言った。

「俺はそこの出身なんだ。マグリオもだ。俺の部下にはテーリド村出身の者達も多いんだ。」

ミレピオがヌエドに尋ねた。

「ではヌエド様が以前率いていたテリード団というのは?」

ヌエドがミレピオに言った。

「テーリド団というのはテーリド村の自警団のようなものだ。」

ミレピオがヌエドに尋ねた。

「ではトリガード僧兵修道会の下部組織だったのですか?」

ヌエドがミレピオに言った。

「いや俺達は司祭や僧兵達とは折り合いが悪くてな。事あるごとに反発していたもんだ。僧兵達との喧嘩もちょくちょくやってた。」

ミレピオがヌエドに言った。

「では自警団というのは?」

ヌエドがミレピオに言った。

「自分達で勝手にそう呼んでただけだ。テリード自警団略してテリード団とな。まあならず者の集まりと言ったほうが実態に近かっただろうな。」

ヌエドがミレピオに言った。

「でも俺達は俺達なりにテーリド村が大好きだったんだ。どんな事があっても守りたいと心の底から思っていた。そんな時だった。このトリガードにドロメが現れたのは。」

ヌエドがミレピオに言った。

「ドロメは自分の配下を連れてトリガード中を荒らしまわった。そしてトリガードの各村を攻撃していった。ドロメ自身がトリガードの支配者になるためにな。ドロメの攻勢の前に僧兵達は次々に敗走していった。ドロメが瞬く間にトリガードの大半を手中に収めてしまった。」

ヌエドがミレピオに言った。

「その一方でたくさんの人々が住み慣れた村からの避難を余儀なくされた。そして避難した人々はほとんどが僧兵達が立て籠っていたデクリータ城塞へと逃げ込んだ。デクリータ城塞が神殿側のトリガード教区最後の拠点となっていたからな。」

ヌエドがミレピオに言った。

「テーリド村の村人達もデクリータ城塞に避難していたんだ。俺達テーリド団は何とかドロメを倒せないかと考えた。だが当時のドロメ盗賊団の勢いは凄かった。とてもではないが村の自警団ごときがかなう相手ではなかった。そこで一計を案じたんだ。」

ヌエドがミレピオに言った。

「まずドロメに味方してドロメ盗賊団の組織の中に入り込む。そしてデクリータ城塞にドロメが釘付けにされている間に反乱を起こして内部から潰すつもりだった。だがデクリータ城塞の戦いはすぐに終わってしまった。ドロメの容赦ない攻撃によってデクリータ城塞がすぐに陥落してしまったんだ。ドロメはデクリータ城塞に避難していた人々を容赦なく皆殺しにした。それ以来ずっとドロメに反逆する機会を伺っていたんだ。」

ミレピオがヌエドに尋ねた。

「まさかヌエド様のご家族も?」

ヌエドがミレピオに言った。

「ああ、俺の家族は全員がデクリータ城塞でドロメに殺された。両親も兄弟もな。そして俺達テリード団は住民のいなくなったテリード村を燃やした。ドロメへの復讐をみなで誓ったんだ。そして挙兵の機会を伺い続けて、ようやくその機会が訪れたという訳だ。」

ミレピオがヌエドに言った。

「それでヌエド様はドロメを憎んでいらっしゃるのですね。」

ヌエドがミレピオに言った。

「まあデクリータ城塞の戦いで家族を失ったのは俺達だけではないがな。バギデ殿にしてもブリンガフ殿にしても親しい者達をデクリータ城塞の戦いで失くしたと聞いている。」

ミレピオがヌエドに言った。

「そうでしたか。」

ヌエドがミレピオに言った。

「さあ少し話が長くなってしまったが、バギデ殿とブリンガフ殿を呼んでくれ。」

ミレピオがヌエドに言った。

「はっ!」

そしてバギデとブリンガフがヌエドの陣地にやって来た。

バギデとブリンガフは用意された椅子に腰をかけた。

ブリンガフがヌエドに尋ねた。

「ヌエド様、マグリオ様とメルクンガ殿は見つかったのですか?」

ヌエドがブリンガフとバギデに言った。

「いやまだ見つかっておらぬ。それでブリンガフ殿、バギデ殿、救護活動を打ち切ろうと思うのだ。」

バギデがヌエドに尋ねた。

「なんですと?ヌエド様、メルクンガ殿やマグリオ様を見捨てるおつもりですか?」

ブリンガフがヌエドに尋ねた。

「ヌエド様、そう判断された理由をお聞かせ願いますか?」

ヌエドがブリンガフに言った。

「すでに日没が近くなっている事と、救護できる者の救助がほぼ完了した事だ。」

ブリンガフがヌエドに言った。

「ならばやむを得ないでしょう。私としては異存はありません。」

バギデがブリンガフに言った。

「ブリンガフ殿まで、メルクンガ殿を見捨てるつもりか?」

ブリンガフがバギデに言った。

「バギデ殿、もちろんメルクンガ殿やマグリオ殿が助かって欲しいと私も思っております。ですが我々の目の前にはビヘイブ要塞があり、ドロメが息を潜めているのです。日没後に救護活動をしていれば、ドロメが攻撃を仕掛けてくる可能性は高いと思います。救護できる者達の救護が終わった以上暗くなる前にここを離れるべきでしょう。」

バギデがブリンガフに言った。

「だがメルクンガ殿やマグリオ殿を見捨てるというのは。」

ブリンガフがバギデに言った。

「バギデ殿、お気持ちは分かります。ただヌエド様も思い悩んだ末にこのご判断されたはずです。救護のためとはいえ、今生きている者達を危険にさらす事は果たして良い判断といえるのでしょうか?」

バギデがブリンガフに言った。

「そうですな。分かりました。このバギデも承知致します。」

ブリンガフがヌエドに言った。

「ヌエド様、マグリオ殿、メルクンガ殿の事本当に残念でございます。」

ヌエドがブリンガフとバギデに言った。

「ブリンガフ殿、バギデ殿、このような事態を招き本当にすまぬ。」

ヌエドはそう言うと深々と頭を下げた。

この様子を見たブリンガフがヌエドに言った。

「頭を上げてください。ヌエド様。」

バギデも頷いた。

ヌエドが頭を上げた。

ブリンガフがヌエドに言った。

「ヌエド様、偵察を行ってきましたが、いくつか分かった事がございます。報告させて貰っても宜しいでしょうか?」

ヌエドがブリンガフに言った。

「お願いする。」

ブリンガフがヌエドに言った。

「どうも我々は勘違いをしていたようなのです。」

ヌエドがブリンガフに聞き返した。

「勘違いとは?」

ブリンガフがヌエドに言った。

「さきほどの戦いであのお溶ろけ、いやヴィスパがヌエド様を裏切ってメルクンガ殿を挟撃したと考えておりました。」

ヌエドがブリンガフに言った。

「ああ、マグリオからヴィスパ殿が裏切ったとの知らせを受けている。」

ミレピオがブリンガフに尋ねた。

「ヴィスパ殿が我々を裏切ってメルクンガ殿を背後から襲ったのではないのですか?」

ブリンガフがミレピオに言った。

「それがどうも違うようでして。ヴィスパはヌエド様を裏切った訳では無さそうです。先ほど部下達を連れてメロポリ村方面の偵察をして参りました。するとビヘイブとメロポリの中間辺りでたくさんの者達が殺されていたのです。調べたところその殺された者達はヴィスパの部下達でした。」

ミレピオが驚いて言った。

「なんと?」

ブリンガフがみなに言った。

「生き残ったヴィスパの部下数人を発見して救護致しました。その者達の証言によると、メロポリ村の村人に襲われたと言っているのです。」

バギデがブリンガフに尋ねた。

「どういう事なのだ?」

ブリンガフがバギデに言った。

「これは推測になりますが、敵はメロポリ村の村人と偽ってヴィスパの部隊に近づき、ヴィスパが油断した所を襲撃したのではないでしょうか?つまりドロメの別動隊が南からやって来て、ヴィスパの部隊を襲撃したのではないかと。」

ヌエドがブリンガフに尋ねた。

「つまりヴィスパ殿は裏切っていないのだな?」

ブリンガフがヌエドに言った。

「ええ、断定はできませんが恐らく裏切っておりません。」

ヌエドが申し訳なさそうにみなに言った。

「そうか、ヴィスパ殿が裏切ったと決めつけていた。ヴィスパ殿にはすまぬ事をしてしまったな。」

ヌエドがブリンガフに尋ねた。

「してヴィスパ殿の遺体は?」

ブリンガフがヌエドに言った。

「ヌエド様、申し訳ありません。発見する事はできませんでした。状況の把握をするだけで手一杯でございました。」

ヌエドがブリンガフに言った。

「そうか。」

ブリンガフがヌエドに言った。

「確かにヴィスパは裏切ってはおりませんが、今回の敗戦は奴がちゃんと対応していれば、充分に防げた事態です。どうせ後方に退却して油断していたのでしょう。せめて奇襲攻撃を受けた時に伝令の一人でもメルクンガ殿に出していれば、メルクンガ殿もマグリオ殿も死なずに済んだかもしれません。」

するとミレピオがヌエドに尋ねた。

「しかしこれは一体どういう事なのでしょうか?ドロメは全戦力をビヘイブに集結させているはずでしょう?なぜドロメの増援部隊が来るのですか?」

ヌエドがミレピオに言った。

「確かに、おかしな話だ。」

ヌエドは少しの間考え込んだ。

そして納得した様子でみなに言った。

「そうかドロメの奴、ジフロル殿と和睦したのか。」

ミレピオがヌエドに尋ねた。

「ヌエド様、どういう事でしょうか?」

ヌエドがミレピオに言った。

「ドロメはバトロアでジフロル殿と和睦して、バトロアに残していた兵力をこちらに呼び戻したのだ。それならばドロメの援軍が現れた事の説明がつく。問題はドロメの増援部隊の規模だな。」

ヌエドがブリンガフに尋ねた。

「ブリンガフ殿はドロメの別動隊の規模はどのくらいだと思われるか?」

ブリンガフがヌエドに言った。

「そうですな、すぐにビヘイブ要塞に入ってしまいましたから断定するのは難しいですが。ただそれほど少数とは思えません。少なくとも三千、多くて五千と言った所でしょうか?バトロアの抑えに部隊を残していたのならその程度は必要でしょう。」

ヌエドがブリンガフに言った。

「となるとドロメの戦力は最低でも七千という訳か。だとするとやはりここに留まるのは危険だな。すぐに撤退を開始すべきだな。」

ブリンガフがヌエドに言った。

「ええ。そうですな。」

するとバギデがヌエドに尋ねた。

「ヌエド様、それはどういう事でしょうか?」

ヌエドがバギデに言った。

「これまではドロメの数倍の兵力を有していた故に包囲作戦をとる事ができていた。だがドロメに増援がやって来た事で数的有利は覆されてしまった。ドロメはビヘイブ要塞に七千以上の兵力を有している訳だ。我々もほぼ七千の戦力だ。攻城側の戦力は防衛側より多くの戦力で攻めるのが鉄則だ。敵と同数の戦力しか有していない我々はここに留まる事は不利だという事だ。もうすぐ日も暮れてしまうしな。」

バギデがヌエドに言った。

「なるほど。」

ヌエドがみなに言った。

「よって一旦グリーロ川の東岸まで後退しようと思う。」

ブリンガフがヌエドに言った。

「となると問題はカスパーですな。あのカスパーが簡単に撤退させてくれるとは思えません。恐らく追撃を仕掛けてくるかと。」

ヌエドがみなに言った。

「それならば一つ考えがある。」
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