最強勇者の物語2

第5章 アグトリア動乱

総攻撃

8月11日午前10時になった。

ヌエドは先陣を務めたバギデの部隊を後方に下がらせると、その代わりにヌエド自身が率いる直属部隊を率いてバギデが布陣していた場所まで出てきた。

ヌエドの陣地の中にはマグリオもいた。

マグリオがヌエドに言った。

「ヌエド様、我が部隊の準備は完了致しました。」

ヌエドがマグリオに言った。

「そうか、ご苦労。こちらの準備も終わった所だ。」

マグリオがヌエドに言った。

「ヌエド様、もう一度諸将にこの作戦について伝令を送ってはどうでしょうか？」

ヌエドがマグリオに言った。

「みなにはすでに何度も伝えている。この上に伝令を送る必要があるのか？」

マグリオがヌエドに言った。

「ヌエド様、今回の作戦は各部隊同士の連携が重要となります。各部隊がバラバラに動いてしまえばまず成功はありません。ですのでくどすぎるぐらいでちょうど良いかと。」

ヌエドがマグリオに言った。

「そうだな、分かった。それでは伝令を出すとしよう。」

ヌエドはすぐに伝令を集めた。

ヌエドの元に伝令達が集まった。

ヌエドが伝令達に言った。

「くどくなるがこう伝えて欲しい。くれぐれも慌てずに冷静に動かれますように！秩序ある動きをお願いすると。」

ヌエドの言葉を聞いた伝令達が諸将に伝える為に走って出ていった。

するとヌエドがマグリオに言った。

「マグリオ！よろしく頼むぞ！」

マグリオがヌエドに言った。

「はっ！お任せください。」

マグリオも自分の部隊へと戻っていった。

その後ヌエドは自分の部下達を集めた。

そして部下達に大きな声で言った。

「よし、今度は我々が攻めかかる！！こたびの作戦を成功させる事ができるかどうかは皆が落ち着いて行動できるかにかかっている。どうか皆の力を貸して欲しい。」

ヌエドの部下達が口々に言った。

「ヌエド様！勿論でございます。」

「今度こそドロメを倒しましょう。」

「みんな、今度の作戦必ず成功させようぜ！！」

ヌエドが大きな声で部下達に言った。

「ではドロメを倒しに行くぞ！！」

部下達が大きな声で言った。

「おおー！」

そしてヌエドの直属部隊は土塁を攻略するべく前進を開始した。

ヌエドの直属部隊が土塁の近くまで進んでいった。

すると土塁の上よりたくさんの矢が飛んできた。

ヌエドが大きな声で指示を出した。

「慌てるな！！板に身を隠しながらゆっくり進め！！」

ヌエドの部下達は大きな木の板を数人がかりで持ち、それを先頭にして木の板で矢を防ぎながら固まって十人単位で前方にゆっくり進んでいった。

ビヘイブ要塞の守備兵達はこれを近づけまいと弓矢での攻撃を加えた。

だがヌエドの部下達は木の板に隠れながら慎重に進んでいったので、なかなか矢を当てる事ができなかった。

土塁の前までやってくるとヌエドの部下達は木の板同士を繋げて横に並べていき矢よけとした。

一方のマグリオの部隊も前進して攻撃を開始していた。

「板に隠れながらゆっくり進むんだ！！」

マグリオの部下達も前面に大きな木の板を出して進んでいった。

そして掘の手前で木の板を並べて繋いでいき矢よけとした。

そしてマグリオの部下達は矢よけより出て掘を降りていった。

そして土塁を一気にかけ上がろうとした。

もちろん土塁の上からは守備兵達が弓矢や投石などで激しい攻撃を加えていた。

落石や弓矢の攻撃を食らったマグリオの部下達は次々に倒れていった。

ビヘイブ要塞の南側の土塁の各所でヌエドの直属部隊そしてマグリオの部隊とビヘイブ要塞守備兵との間で激しい攻防戦が行われた。

午前11時になった。

依然としてヌエドの直属部隊そしてマグリオの部隊とビヘイブ要塞の守備軍との間で激しい戦闘が続いていた。

そしてヌエドは味方の士気をあげる為に、後方から最前線の近くまで出て来ていた。

ヌエドが大きな声で指示を出していた。

「穴を掘ってその土で掘を少しづつ埋めていくのだ。」

ヌエドの部下がヌエドに言った。

「ヌエド様！！前に出過ぎです。もう少し後方にお下がりください。」

ヌエドが部下に言った。

「奥に引っ込んでいては指揮がとりにくい。それに指揮官が部下の後ろにずっと隠れている訳にもいかんだろう！」

するとヌエドが突然ふらつきだした。

部下が不審に思ってヌエドに尋ねた。

「ヌエド様？」

ヌエドは何も答えずにその場に倒れ込んでしまった。

「ヌエド様！！」

すぐにヌエドの部下達がヌエドに駆け寄った。

部下達が倒れ込んだヌエドを抱き起こした。

するとヌエドは苦痛に顔を歪めていた。

ヌエドの胸元に矢が刺さっており、傷口から血が流れ出していた。

するとヌエドが苦しそうに部下に言った。

「このくらい大丈夫だ。」

ヌエドは自力で立ち上がろうとした。

だが数歩歩いた所で再び倒れ込んでしまった。

部下達が再び駆け寄ってヌエドを抱き起こし、呼び掛けた。

「ヌエド様！！」

だが今度は何度呼び掛けても反応がなかった。

部下の一人が大声で他の者達に言った。

「ヌエド様は重症だ！すぐに回復せねばまずい。ヌエド様をお運びするぞ！！」

「分かった！！」

ヌエドは部下達に抱えてられて後方に下がっていった。

そして土塁の前で戦っていたヌエドの部下達も慌てて土塁より後退していった。

ヌエドの直属部隊は急いで戦闘を中止すると後退を始めた。

一方マグリオの部隊は引き続き土塁に激しい攻撃を仕掛けていた。

マグリオの部下がマグリオに言った。

「マグリオ様、土塁の上からの反撃によって被害が大きくなりつつあります。」

マグリオが部下に言った。

「分かったいる。だがこちらはまだ油がまかれていない。油がまかれてしまえば、土塁の突破は困難を極めるだろう。だからその前に土塁を突破したいのだ。」

するとマグリオの元に伝令が慌ててやって来た。

「一大事です。」

マグリオがその伝令に尋ねた。

「どうした？」

伝令がマグリオに言った。

「ヌエド様が負傷されました。」

マグリオが伝令に尋ねた。

「何？ヌエド様が？本当か？」

伝令がマグリオに言った。

「はっ！敵が放った矢が当たり、重症を負われたとの事です。」

マグリオが伝令に言った。

「なんという事だ！！それでヌエド様のご容態は？」

伝令がマグリオに言った。

「分かりません、それ以上の情報は入ってきておりません！！」

マグリオが部下に指示を出した。

「すぐに中止させろ！」

部下がマグリオに尋ねた。

「はっ？何をでしょうか？」

マグリオが部下に言った。

「ただちに戦闘を中止しろ！！」

部下がマグリオに尋ねた。

「よ、宜しいのですか？」

マグリオが部下に言った。

「もはや戦闘どころではない！戦闘を中止してすぐに後退せよ！良いな！」

部下がマグリオに言った。

「はっ！」

マグリオの部隊もすぐに戦闘を中止して後退していった。

マグリオの部隊だけではなく他のヌエド軍の部隊にもヌエドが重症を負ったとの知らせが入り動揺が広がっていた。

8月11日の正午頃、ブリンガフの所にもヌエドが負傷したとの情報がもたらされていた。

ブリンガフが部下に尋ねた。

「ヌエド様が倒れただと？」

部下がブリンガフに言った。

「ヌエド様が敵の放った矢によって重症を負われたとの事です。」

ブリンガフが部下に言った。

「なんという事だ！」

すると別の部下がブリンガフの所にやって来た。

そしてブリンガフに言った。

「ブリンガフ様、マグリオ様が参られました。」

ブリンガフが部下に言った。

「何？すぐに通せ！」

マグリオがブリンガフの元に通された。

ブリンガフがマグリオに尋ねた。

「マグリオ殿、私も聞き及んでおります。ヌエド様が負傷されたとの事。それでヌエド様のご容態はどうなのですか？」

だがマグリオは黙り込んで何も言わなかった。

「・・・・・・・・・。」

ブリンガフが大きな声で言った。

「まさか？！！」

マグリオがブリンガフに言った。

「申し上げにくいのですが、ヌエド様は亡くなられました。」

ブリンガフが驚きながらマグリオに言った。

「な、何という事だ！！！」

マグリオが言いづらそうにブリンガフに言った。

「それでブリンガフ殿？こうなってしまってはここで戦いを続ける訳にいかなくなった。今後の方針を決める必要がございます。ここは一旦ビヘイブ要塞の包囲を解き後退すべきと考えますがブリンガフ殿？如何であろうか？」

ブリンガフが大声で言った。

「はあー！！ヌエド様！！！」

ブリンガフは大声をあげた後で冷静を取り戻すとマグリオに言った。

「こうなってしまっては仕方ありません。了解した。」

マグリオがブリンガフに言った。

「ありがとうございます。ブリンガフ殿。ではこれで失礼します。」

マグリオはそう言うと去っていった。

マグリオは各部隊にヌエドの死亡と退却する意向を伝えた。

諸将はこの申し出を了承し、ヌエド軍の各部隊は急遽後退する事が決まった。

各部隊が大急ぎで退却準備を始めた。

一方こちらはヌエドの陣地であった。

ヌエドの亡骸を囲むように部下達が泣いていた。

ヌエドの亡骸は陣地の中の机の上に寝かされていた。

ヌエドの部下達が口々に言った。

「ヌエド様、お守りできず申し訳ありません。」

「ヌエド様！我々はこの後どうすればよいのでしょうか？」

するとヌエドの部下の一人がヌエドの亡骸の前で小さな声で言った。

「ヌエド様、ブリンガフ様とミレピオ様の部隊が後退を始めました。マグリオ様も両部隊の撤退が完了しだい後退を始めるとの事です。」

ヌエドの亡骸から声が返ってきた。

「バキデ殿はどうだ？」

部下がヌエドの亡骸に言った。

「バキデ殿はすでに撤退を完了させております。」

ヌエドの亡骸から声が返ってきた。

「よし、分かった、ではそのまま続けてくれ。」

部下が小さな声で言った。

「ヌエド様？？まだ続けるのですか？」

ヌエドの亡骸から声が返ってきた。

「ここはまだ敵の視界に写る。だからこのまま続けてくれ。止める時はまた合図を出す。」

その部下は頷くとヌエドから離れていった。

時間が8月9日の正午に戻る。

トリガード宮殿の大広間ではヌエド軍に参加している諸将達が軍議を開いていた。

メルクンガがヌエドに言った。

「ヌエド様、一つ策を思いつきました。宜しいでしょうか？」

ヌエドがメルクンガに言った。

「うむ、構わぬ、言ってくれ。」

メルクンガがヌエドに作戦を提案した。

「まずビヘイブ要塞から離れた場所に部隊を配置しておきます。そして残りの部隊でビヘイブ要塞を包囲致します。」

ヌエドがメルクンガに言った。

「うむ。」

メルクンガが言った。

「そしてビヘイブ要塞への攻撃を行います。ある程度攻撃を加えた後で包囲を解き後退するのです。そうすればドロメはこの機を逃すまいと要塞から出撃して我々を追撃するでしょう。」

メルクンガが続けて言った。

「そして我々は後退しながらドロメを先ほど部隊を配置した場所まで誘い出すのです。そしてのこのこやって来たドロメを包囲撃滅する策です。いかがでしょうか？」

ヌエドがメルクンガに言った。

「策としては悪くないとは思う。ただ」

メルクンガがヌエドに尋ねた。

「ただ？なんでしょうか？」

ヌエドがメルクンガに言った。

「ドロメも我々の待ち伏せは警戒しているはずだ。ましてやあのカスパーがいるのだ。簡単に付いてくるとはとても思えない。」

メルクンガがヌエドに言った。

「はい、ですのでビヘイブ要塞を攻撃した直後にとある情報を流そうと考えているのです。」

ヌエドがメルクンガに尋ねた。

「ほうどんな情報だ？」

メルクンガがヌエドに言った。

「ヌエド様が戦場で倒れ亡くなったとの情報を流すのです。」

ヌエドがメルクンガに言った。

「なんだと？」

メルクンガがヌエドに言った。

「ヌエド様にも死んだふりをして頂きたいのです。そして全軍でヌエド様が死んでしまったと慌てている演技をして欲しいのです。その後で慌てて包囲を解き後退する様子をドロメに見せるです。さすればドロメも出てくるのではないでしょうか？」

ヌエドがメルクンガに言った。

「はっはっは、面白い策だな？」

ミレピオが剣幕な顔でメルクンガに言った。

「メルクンガ殿、いくらなんでも不謹慎すぎます！！我々はドロメを倒すために話し合いをしているのです。ヌエド様を死なせる為ではありません！！冗談でも言っていい事と悪い事があります！！」

メルクンガがミレピオに言った。

「ミレピオ殿、冗談でありません。本気で言っております。」

ミレピオが怒った様子でメルクンガに言った。

「なお悪いではありませんか？ヌエド様への礼を欠いております！」

ヌエドがミレピオに言った。

「ミレピオ、そう怒るな！お前の気持ちは有難いが、俺はなかなか良い策だと思っておるのだ。勝利する為に必要ならば死んだふりやその情報を流すくらい一向に構わない。」

ミレピオがヌエドに言った。

「ヌエド様がそう言われるのなら構いませんが。」

するとブリンガフがヌエドに尋ねた。

「確かに演技は必要と思いますが、全軍で演技をする必要がありましょうか？敵の目の前で演技を見せる訳ではないのでしょう？」

ヌエドがブリンガフに言った。

「いやそれぐらいは必要だろう。なにせ我々はカスパーを騙さなければならないのだからな。指揮官が倒れたというのに他の者達が平然としていては怪しまれるかもしれん。慎重に事を進めるに越した事はない。」

ブリンガフがヌエドに言った。

「なるほど分かりました。」

マグリオがメルクンガに言った。

「ヌエド様の死亡情報が流れれば、確かにドロメが出てくるかもしれません。ですが味方が動揺して士気が下がります。最悪兵達が逃亡するような事態もありえます。そのような状況下で撤退戦を行うのは無謀としか思えませぬが？」

メルクンガがマグリオに言った。

「確かに何の準備も無しにやれば無謀となります。全軍が大混乱に陥ってろくに戦う事もできぬまま敗走してしまうでしょう。ですが事前にこの作戦内容を兵達にしっかり伝達しておけばそのような事態は防げるのではないですか？」

マグリオがメルクンガに言った。

「なるほどそれならば兵達の動揺を最小限に抑えられるかもしれんが。」

マグリオがヌエドに尋ねた。

「仮にこの策を使うとすると、殿(しんがり)が重要になりますな？」

ヌエドがマグリオに言った。

「そうだな、殿(しんがり)の部隊がうまくドロメ盗賊軍を誘い出さなければならないからな。よし！」

マグリオがヌエドに尋ねた。

「ヌエド様、もしやまた御自身で囮役をされるおつもりですか？」

ヌエドがマグリオに言った。

「ほうマグリオ？よく分かったな？この策を使うならば俺が囮役をするのが適任だろう？」

マグリオがヌエドに言った。

「ヌエド様、我らへのお気づかいはありがたく思っております。ですが、一臣下として申し上げます。どうか殿(しんがり)の役目はご辞退くださいませ！」

ヌエドがマグリオに言った。

「マグリオ？俺では務まらぬと思うか？」

マグリオがヌエドに言った。

「そのような事は思っておりませぬ。ですがヌエド様をお守りするのも臣下の大事な務めでございます。どうか我々に手柄を立てる機会をお譲りくださいませ。」

ヌエドがマグリオに言った。

「そうだな、分かった。部下の手柄を横取りするなど大将失格だからな。今回はおとなしくしていよう。」

マグリオがヌエドに言った。

「はっ！ありがとうございます。」

ヌエドがメルクンガに言った。

「メルクンガ殿、良き献策をして頂き感謝致します。非常に面白い策だ。」

マグリオがメルクンガに言った。

「この策ならばドロメが出てくるやもしれませんな。」

ヌエドはドロメ軍をビヘイブ要塞から誘き出すために自らの死亡情報を流し、ドロメにとって絶好の攻撃チャンスと見せる事でドロメ盗賊軍を誘い出そうとしていた。