最強勇者の物語2

しまうま弁当

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第5章 アグトリア動乱

使者

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7月25日の正午過ぎバトロア鉱山西側の丘陵地帯のバルムスの陣地である。

バルムスの部隊は留守居として丘陵地帯に留まっていた。

バルムスの陣地ではバトロア鉱山からミルゲ方面を確認しにいっていた盗賊が戻って報告をしていた。

バルムスが部下に尋ねた。

「ミルゲ砦の周囲の様子はどうなっている?」

部下がバルムスに言った。

「はっ、ミルゲ砦周辺では依然激しい戦闘が続いております。戦況はあまり芳しくありません。我々の右翼部隊が後退を余儀なくされております。左翼部隊は一進一退の状況です。」

バルムスが部下に言った。

「そうか分かった。報告ご苦労だった。」

するとバルムスの陣地に昨夜ドロメの奇襲を知らせてくれた商人のバーシスがやって来た。

そしてバルムスに言った。

「バルムス殿、少しいいですかな?」

バルムスがバーシスに尋ねた。

「おやバーシス殿?どうかされましたか?」

バーシスがバルムスに言った。

「実はお耳に入れたい情報がございまして。」

バルムスがバーシスに言った。

「ほう、どのような情報です?」

バーシスがバルムスに言った。

「それがドロメ盗賊団の本拠地のトリガードで謀反が起こったようです。」 

バルムスはバーシスに尋ねた。

「それは本当なのですか?」

バーシスがバルムスに言った。

「どうやら本当のようです。先ほどトリガードにいる商人仲間から情報が入りました。ドロメの部下のヌエドという者がトリガードで謀反を起こしたようです。」

バルムスがバーシスに言った。

「ドロメ盗賊団にとっては一大事ですが、我々にとっては有利な展開となりましたな。」

バーシスがバルムスに尋ねた。

「というと?」

バルムスがバーシスに言った。

「ドロメ盗賊団は我々と対峙しています。ですがドロメ盗賊団の背後が脅かされればドロメ盗賊団は対応に迫られます。このままバトロアでの攻勢を続けるか、それとも攻勢は無理と判断して撤退あるいは停戦をするかを。攻勢を続ける場合は二正面作戦を行う事になりドロメ盗賊団としては非常に苦しくなるでしょう。逆に我々にとってはバトロアでの負担が軽くなります。上手くいけばこの戦いを終わせる事ができるかもしれません。」

バーシスがバルムスに尋ねた。

「なるほど。ドロメ盗賊団はどう動きますかね?」

バルムスがバーシスに言った。

「ドロメ盗賊団の内情までは分かりかねますが、ドロメ盗賊団の中に全うな判断力を持った者がいるのなら撤退なり停戦をするはずです。戦力をすり減らした状態で二正面作戦など無謀すぎます。」

すると陣地の中にバルムスの部下が一人入ってきた。

バルムスはその部下に尋ねた。

「ん、どうした?何か敵に動きがあったか?」

その部下がバルムスに言った。

「それがカスパーと名乗る者が丘の下にやって来ております。ドロメ団長の使者としてやってきたそうで、おやっさんと停戦交渉をしたいと言っているのです。」

バルムスが部下に言った。

「ほう、停戦交渉か。」

バーシスがバルムスに言った。

「どうやらドロメ盗賊団の中にも全うな判断力を持った者がいるようですな。」

その部下がバルムスに尋ねた。

「どうしますか?」

バルムスが部下に指示した。

「すぐに会おう。ここに通してくれ!」

部下がバルムスに言った。

「はっ!」

バーシスがバルムスに言った。

「では私は戻ります。また何か情報が入ったら知らせます。」

バーシスはそう言うと陣地から出ていった。

それからすぐにバルムスの部下が丘の下に下りていって、陣地を構えている丘の上までカスパーを案内した。

カスパーは丘の上にやって来るとすぐにバルムスの陣地に通された。

カスパーは陣地の中に入るとバルムスに深々と頭を下げた。

カスパーがバルムスに言った。

「この度は突然の来訪にも関わらずお会い頂きありがとうございます。ドロメ団長の使者としてやって来ました。ドロメ盗賊団のカスパー・ブライスと申します。よろしくお願いします。」

バルムスがカスパーに言った。

「こちらこそご足労頂きありがとうございます。ジフロル盗賊団のバルムス・アルコと申します。どうぞよろしく。」

カスパーがバルムスに言った。

「突然の来訪となってしまった事は申し訳ございません。重ねて謝罪致します。」

バルムスがカスパーに言った。

「貴殿は使者としていらしたのだ。気に病まれる必要はありません。」

カスパーがバルムスに言った。

「有難うございます。」

バルムスがカスパーに言った。

「ただ少々お待ち頂く事になりますが。」

カスパーがバルムスに尋ねた。

「と申されますと?」

バルムスがカスパーに言った。

「おやっさんは今立て込んでおりまして。」

カスパーがバルムスに尋ねた。

「ジフロル様は出かけられているのですか?」

バルムスがカスパーに言った。

「ええ、出払っております。」

カスパーがバルムスに尋ねた。

「なるほどジフロル様は我々の別動隊を討伐する為に出払っているのですね?」

バルムスがカスパーに言った。

「それにはお答え致しかねます。」

カスパーがバルムスに言った。

「アルコ殿、教えて頂く事はできないでしょうか?」

バルムスがカスパーに言った。

「申し訳ないがそれは無理です。ブライス殿が停戦交渉にこられたと言っても貴方達とはまだ交戦状態にあります。我々の機密情報を貴方に教える訳にはいきません。こちらからおやっさんに伝令を送りますので、ここでお待ちください。」

カスパーがバルムスに言った。

「ええ、それは分かっております。ですが無理を承知でお願い致します。ドロメ様はバトロアを引き渡す用意がございます。」

バルムスがカスパーに尋ねた。

「ほう?バトロアを?」

カスパーがバルムスに言った。

「ジフロル様はバトロアから逃げてきた人達の要請を受けてこの戦いを始めたのではありませんか?」

バルムスがカスパーに言った。

「ええ、確かにおやっさんはバトロアから逃げてきた者達の要請を受けてこの戦いを始めました。」

カスパーがバルムスに言った。

「やはりそうですか。それならばもう我々と戦う理由は無くなったのではありませんか?ドロメ様は停戦を望まれております。そしてドロメ様はバトロアをジフロル様に引き渡すおつもりです。つまりジフロル様は目的を達成された事になります。」

バルムスがカスパーに尋ねた。

「確かにバトロアを引き渡してもらえるならば我々には戦いを続ける理由は無くなります。ですがブライス殿?具体的にどうされたいのです?ここでお待ちになるつもりはなさそうですが?」

カスパーがバルムスに言った。

「ええ、差し出がましいとは思いますが、ジフロル様の所に連れていってもらえないでしょうか?もし別動隊が戦闘をしているならば、私がドロメ様の命令を皆に伝えます。」

この時カスパーは二つの問題を片付けねばならなかった。

まず謀反を起こしたヌエドとジフロル盗賊団との共闘の阻止である。

カスパーはそのために少しでも早く停戦交渉を始める必要性があった。

そのためにジフロル団長に会おうとしたのだった。

もう一つの問題はロイとガブロの部隊に停戦命令を知らせる事であった。

ドロメ団長がバトロアを諦めた以上もはやジフロル軍との戦闘に意味は無くなり、カスパーとしてはすぐにでも停戦命令を伝えたかった。

だがロイが伝令を送らなかった為に別動隊の居場所がカスパーには分からなかった。

そこで高地を確保しているジフロル盗賊団に教えてもらおうと考えたのだった。

バルムスがカスパーに尋ねた。

「ブライス殿が攻撃を止めてくれるという事ですか?」

カスパーがバルムスに言った。

「はい、その通りです。」

バルムスは少し考えた後でカスパーに言った。

「分かりましたブライス殿。我々としても仲間を死なせたいとは思いません。おやっさんの所にご案内します。」

カスパーがバルムスに言った。

「感謝致します。」

バルムスがカスパーに言った。

「では状況をお話します。我々はミルゲ砦への奇襲を事前に察知し、おやっさんを含めた我々の部隊の大部分はミルゲ砦の救援に向かいました。その後ミルゲ砦の部隊との合流に成功し、あなた方の別動隊と対峙しました。二時間ほど前にあなた方の別動隊との戦闘が始まりました。現在も激しい戦闘が続いております。」

カスパーがバルムスに言った。

「ならば急いだ方がいいですな。」

バルムスがカスパーに言った。

「ええ。すぐにおやっさんの元に案内致します。」

バルムスとカスパーはすぐに陣地の外に出た。

すると陣地のすぐ外にはバルムスの部下数人が馬に乗って待機していた。

更に二頭の馬が用意されていた。

この様子を見たカスパーがバルムスに尋ねた。

「アルコ殿、私の行動を読んでいたのですか?」

バルムスがカスパーに言った。

「ブライス殿、買いかぶりすぎです。きっと部下が気を回してくれたのでしょう。」

バルムスは用意された馬にまたがるとカスパーに言った。

「それよりも急ぎましょう!」

カスパーがバルムスに言った。

「ええ、そうですな。ではお借りします。」

カスパーはそう言うと用意された馬にまたがった。

バルムスがカスパーに言った。

「我々が先導しますので、ついてきてください。」

カスパーがバルムスに言った。

「分かりました。」

バルムスは部下数人と共には馬に乗ってジフロル団長の元に向かい、カスパーもそれに続いた。
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