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第5章 アグトリア動乱
正午
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正午になろうとしていた。
ミルゲ平原では両軍の激闘が続いていた。
ドロメ盗賊軍は別動隊による強襲から目をそらせる為に、残りの全軍をおとりとして総攻撃を仕掛けていた。
だが予想以上にドロメ盗賊軍は善戦をしていた。
特にガブロが率いるドロメ盗賊軍の左翼部隊はジフロル軍に猛攻を加えてアルガスの部隊を退却させるなど、大きな戦果を挙げていた。
だがジフロル軍もこの劣勢を挽回すべく動き出していた。
ジフロル団長が率いる二千人がミルゲ砦より出撃し東北東の方角に向かっていた。
一方こちらはドロメ盗賊軍の別動隊である。
ベルガの部隊はミルゲ砦から東北東の位置で、敵の予備部隊が出撃するのをひたすら待っていた。
この別動隊を預かるベルガに部下の盗賊が報告にきた。
「ベルガ様、ミルゲ砦より残りの部隊が出撃しました!」
ベルガが部下に言った。
「何?本当か!」
部下がベルガに言った。
「はっ!本当です。」
ベルガが嬉しそうに部下に言った。
「よし!!これでロイ様もお喜びだろう。」
部下がベルガに言った。
「どうしますベルガ様?すぐに移動を始めますか?」
ベルガが部下に言った。
「まだダメだ。早々に動いて敵に気づかれたら意味がない。敵がミルゲ砦より離れるまで待つんだ。」
部下がベルガに言った。
「はっ!」
ジフロル団長の部隊はベルガ達がいる方角へまっすぐに進んだ。
ベルガはミルゲ砦から出撃したジフロル団長の部隊がミルゲ砦から離れるまでじっと待っていた。
ベルガが部下に尋ねた。
「よしだいぶミルゲ砦より離れたな。もういいだろう。そろそろ移動を始めようと思うが、準備は整っているか?」
部下がベルガに言った。
「はっ!大丈夫です。」
すると別の部下がベルガに言った。
「ベルガ様一ついいでしょうか?」
ベルガが部下に言った。
「ん、なんだ?」
部下がベルガに言った。
「奴らこっちに向かってきてませんか?」
ベルガは部下に言われてようやく気づいたようだった。
ベルガが確認すると確かにジフロル団長の率いる部隊がまっすぐにベルガ達のいる方角に向かってきていた。
ベルガが大声で言った。
「くそ、しまった!奴ら俺達に気づいてやがったのか!!」
ベルガが大声で指示を出した。
「すぐに戦闘準備をしろ!」
だが戦闘準備を指示するのが遅すぎた。
ベルガが戦闘準備を指示した時にはジフロル団長率いる部隊は目と鼻の先まで迫っていた。
そしてベルガ達が戦闘準備を整えるより前にジフロル軍との戦闘が始まってしまった。
ジフロル軍の盗賊達がベルガの部隊に襲いかかった。
ベルガとベルガの部隊も果敢に戦った。
だが戦闘準備が間に合わず圧倒的に少数のベルガの部隊ではジフロル軍を支える事はできず数十分で壊滅してしまった。
ベルガ自身の奮戦も空しく、最期はジフロル軍の放った弓矢が胸に刺さり倒されてしまった。
生き残った盗賊達も西の方角へ敗走していった。
戦闘が終了しジフロル軍の盗賊がジフロル団長に言った。
「おやっさん、ドロメの別動隊を叩く事には成功しました。この後はどうしますか?」
ジフロル団長が部下に言った。
「すぐに出発準備を整えてくれ。」
部下がジフロル団長に言った。
「では?」
ジフロル団長が部下に言った。
「うむ、このままアルガス達の加勢に向かう。」
部下がジフロル団長に言った。
「はっ!承知しました。」
ジフロル団長が率いる部隊はすぐに準備を済ませると、南に向けて進軍を始めた。
一方こちらはガブロの部隊である。
ガブロは軍勢をミルゲ砦の西側に布陣させていた。
ガブロはミルゲ砦の西側の斜面の手前までやってくると大声で言った。
「さあてと、野郎共、ミルゲ砦に奪い取りに行くぞ!!」
ガブロの部下達が大声で言った。
「おお!!」
「よしこのガブロ様の後に続け!!」
ガブロはそう言うとミルゲ砦の西側の斜面を上り始めた。
ガブロの部下達もそれに続いた。
ミルゲ砦は小高い丘の上に建てられていたが、ミルゲ砦の西側と南側と東側の斜面は垂直近い角度になっており、高さも二十メートル近くあった。
斜面というよりは切り立った崖であった。
北側のみ緩い斜面になっており、ミルゲ砦の出入口も北側に設けられていた。
砦の北側はそれ故に攻めやすくなっていたが、その弱点を補う為に北側には深い空堀(水のないほり)が設けられていた。
ガブロ達は西側の崖のような斜面をのぼりはじめた。
もちろんブロイク率いるミルゲ砦の守備隊も黙っていなかった。
ミルゲ砦の外壁の上に並んで弓矢でガブロの部隊に攻撃を加えた。
崖のような斜面をのぼっていくガブロ達にたくさんの弓矢が降り注いだ。
何人ものドロメ軍の盗賊達が弓矢の餌食となり、斜面の下に転げ落ちていった。
これを見たドロメ盗賊軍の盗賊達はその場で止まってしまった。
この様子を見ていたガブロが大声を張り上げた。
「弓矢ごときで怯むんじゃねー!!気合いで登れ!!」
ガブロの部下達が大声で言った。
「おおー!!」
そしてガブロの部下達に闘志が戻り斜面を上り始めた。
一方のこちらはアルガスの部隊である。
アルガスは深手を負ったがポーションでの回復が間に合いすでに傷は癒えていた。
傷を治したアルガスはすぐにゼスタに所に戻った。
アルガスがゼスタに言った。
「すまないな、ゼスタ世話をかけた。」
ゼスタがアルガスに言った。
「水くさい事を言うな。全然構わないさ。」
アルガスがゼスタに尋ねた。
「今の状況はどうなっている?」
ゼスタがアルガスに言った。
「現在の状況だが、ガブロの部隊がミルゲ砦の西側より攻めかかっている。若がドロメの右翼部隊と交戦しており、一進一退の状況だ。」
アルガスがゼスタに言った。
「ガブロの部隊は我々を追撃してこなかったのか?」
ゼスタがアルガスに言った。
「ああ。追撃はせずに今ミルゲ砦に攻めかかっている。追撃してこなかった理由は分からないがな。どういうつもりだ?」
アルガスがゼスタに言った。
「そうだな、可能性としてオトリ攻撃を本物の攻撃に見せるために派手にやっているとかだな。」
ゼスタがアルガスに言った。
「なるほどオトリ攻撃を隠すためか。」
だがアルガスがゼスタに言った。
「いや恐らく深い意図なんてないんだろうよ。」
ゼスタがアルガスに尋ねた。
「なぜそう思う?」
アルガスがゼスタに言った。
「敵の左翼部隊を率いているのは鉄槌のガブロという男だ。直接戦ってみて感じたんだがかなり直情的な男だった。ガブロという男は策を巡らすような人間じゃない。だから何かの策を仕掛けているとは思えなくてな。」
ゼスタがアルガスに言った。
「なるほどな。」
アルガスがゼスタに言った。
「まああくまで私の意見だがな。ところで、我が部隊の状況はどうなっている?」
ゼスタがアルガスに言った。
「すでに再集結して部隊の再編も終わっている。」
アルガスがゼスタに言った。
「よしならば我々もガブロの部隊への戦闘に加わろう。この位置からなら側面攻撃も狙えるだろう。」
ゼスタがアルガスに言った。
「それは構わないが、お前は前に出てこなくていいぞ。指揮は俺がとる。」
アルガスがゼスタに言った。
「なんだと?」
ゼスタがアルガスに言った。
「まだ病み上がりだろう?」
アルガスがゼスタに言った。
「もう全快している。」
ゼスタがアルガスに言った。
「たまには俺に任せてくれ。それに病み上がりのお前を死なせたらおやっさんに何て言えばいいんだ?」
アルガスがゼスタに言った。
「ああ分かった。ではゼスタに任せる。頼むぞ!」
ゼスタがアルガスに言った。
「ああ、任せておけ!」
そしてアルガスの部隊は南に進んでガブロの部隊に側面攻撃を加えた。
一方こちらはアルガスが率いるジフロル軍の左翼部隊である。
アルガス率いる部隊はロイが率いる部隊と激しい白兵戦を続けていた。
アルガス率いる部隊とロイが率いる部隊は双方が押しては押し返しての状況が続いていた。
ロイはジフロル軍の左翼部隊を突破するべく、突撃の指示を出していた。
ドロメ盗賊軍の盗賊の一人が大声で言った。
「ひたすら前に進めー!!偽善者共を叩き潰せ!!」
ドロメ盗賊軍の盗賊達がそれに答えた。
「おおー!!」
そしてドロメ盗賊軍の盗賊達はジフロル軍にめがけて突撃を始めた。
対するジフロル軍の盗賊もこれを迎え撃った。
ジフロル軍の盗賊の一人が大声をあげた。
「ここが踏ん張り所だぞ!」
ジフロル軍の盗賊達も大きな声で答えた。
「おー!!」
ドロメ盗賊軍の右翼部隊はいたる所で突撃を行っていた。
その一つにレイドスの姿があった。
レイドスは最前線でドロメ盗賊軍と戦っていた。
するとレイドスにドロメ盗賊軍の盗賊が斬りかかってきた。
「死ねー!偽善者が!」
レイドスは自分のさしていた剣を抜いて斬りかかってきた盗賊の剣先をその剣で受け止めると、剣に力を込めて盗賊の剣を振り払った。
そして間髪入れずにその盗賊に自分の剣を振り下ろした。
その盗賊は避ける事ができずに深手を負って倒れた。
するとレイドスにドロメ軍の別の盗賊が斬りかかってきた。
レイドスはその盗賊の攻撃をかわすと腰を落として、その盗賊に足払いをした。
その盗賊は体勢を崩して倒れ込んだ。
レイドスはすぐにその倒れ込んだ盗賊に自分の剣を力をこめて突き刺した。
レイドスはその盗賊を倒したのだった。
そこにレイドスの部下達が駆けつけてきた。
レイドスの部下達はすぐに突撃をかけてきた盗賊達に反撃を行った。
駆けつけてきた部下の一人がレイドスに言った。
「若、前に出すぎです。あまり無茶はしないでください。」
レイドスが部下に言った。
「今は後ろでのんびりできる状況じゃないだろ?」
部下がレイドスに言った。
「まあ確かにそうですが。」
レイドスと部下達の奮戦によりドロメ盗賊軍の突撃を防ぐ事ができた。
すると突撃をかけてきたドロメの盗賊達が逃げ始めた。
それを見たレイドスが大きな声で言った。
「よしー!チャンスだ!ドロメの奴らを押し返すぞ!!」
ジフロル軍の盗賊達が大きな声で答えた。
「おおー!!」
ドロメ盗賊軍の突撃を凌いだレイドスの部隊が反転攻勢に出ようとしていた。
一方こちらはドロメ盗賊軍右翼部隊を率いているロイである。
ロイは部下から報告を聞いていた。
「ガブロ様が敵の右翼部隊を突破し、敵の右翼部隊は後退したのと事です。」
ロイが苦々しく部下に言った。
「ったくガブロの野郎、はやくこっち応援に来やがれ!ガブロの野郎が敵の左翼部隊に側面攻撃を仕掛ければ、こっちの完勝だっつうのにまったく!」
部下がロイに言った。
「とわ言えガブロ様はすごい戦いぶりですな。ドロメ様もお喜びになるでしょう。」
ロイが部下に言った。
「ああそうだな。」
ロイにとってはガブロの戦力をオトリとしか考えていなかった。
それゆえにこれは嬉しい誤算といえた。
ロイが部下に尋ねた。
「今度の突撃は成功したか?」
部下がロイに言った。
「それが敵の守りは固く、未だに突破できておりません。」
ロイが部下に言った。
「ちっ!五度目の突撃も失敗か。」
部下がロイに言った。
「申し訳ありません。ロイ様。」
ロイが部下に言った。
「ガブロはどうだ?まだ敵の左翼部隊に攻めかからないのか?」
部下がロイに言った。
「それが申し上げにくいのですが、ガブロ様はミルゲ砦を攻め始めたとの事です。」
ロイが部下に尋ねた。
「なんだと?ミルゲ砦を攻め始めただと?」
部下がロイに言った。
「はい。」
ロイが部下に言った。
「おい、それじゃあまさか敵の右翼部隊の追撃もしてないのか?」
部下がロイに言った。
「どうやらそのようです。」
ロイは大声で怒鳴った。
「あの脳なしは一体何をやってやがるんだ!追撃をかけなきゃ敵の右翼部隊が体勢を立て直して反撃してくるだけだろうが!」
部下がロイに尋ねた。
「どうされます?伝令を送って攻撃を止めさせますか?」
ロイが部下に言った。
「うーん、どうするかな?」
ロイはガブロに伝令を送るかどうか迷っていた。
ロイのこの戦いでの目的はミルゲ砦の奪取である。
ガブロが状況を見て動く事ができる人間でない事はロイも知っていた。
確かにガブロの行動は敵に挟撃されかねない危ない行動であったが、ガブロに勢いがあるのもまた事実であった。
このまま勢いに乗じてミルゲ砦を奪取できるのではないか。そんな期待を持っていたため伝令を送るかどうか迷ってしまったのである。
するとロイの元に部下が報告にやって来た。
「ロイ様、敵の左翼部隊が反転攻勢に出ました。我が部隊があちこちで押し返されております。」
ロイが部下に言った。
「ちっ!さすがに息切れしてきたか。」
すると別の部下が慌てて報告にきた。
「大変です、ロイ様、敵の新手です。敵の新手が現れました。」
するとロイは驚いた様子で聞き返した。
「本当か?」
その部下がロイに言った。
「はっ!およそ二千ほどの部隊がこちらに向かってきております。」
すると別の部下がロイに尋ねた。
「ロイ様、もしや敵の新手は我々の側面に回り込むつもりなのではありませんか?」
ロイが部下に言った。
「ああ、確かにその可能性はあるな。」
部下がロイに言った。
「それでは我々は敵に半包囲されてしまいます。」
ロイは部下に言った。
「分かっている。」
ロイの部隊も全力で戦っており、ジフロル団長の部隊への迎撃に出せる戦力は残っていなかった。
だがロイはこの時退却するかどうか判断を迷っていた。
それはガブロが予想以上の善戦をしていたからに他ならなかった。
このまま苦戦しつつも耐えていればガブロがミルゲ砦を奪取できるのではないか?その考えがまだ頭の中にあったからである。
ロイは部下に尋ねた。
「おい、ガブロの方はどうなっている?ミルゲ砦の方は攻略できそうなのか?」
部下がロイに言った。
「はっ!それがミルゲ砦より激しい反撃を受けており、あまり芳しくはないようです。」
そこに新たに伝令が入ってきた。
そしてロイに報告した。
「申し上げます。敵の右翼部隊が再び攻勢に転じたようです。ガブロ様の部隊が挟撃されております。」
これを聞いたロイは舌打ちをしながら言った。
「ちっ!やはりガブロの方も無理そうだな。」
この報告を聞いたロイはついに決断を下した。
「まあいい、これで作戦通りだしな。」
部下が訝しげに言った。
「ロイ様?」
そしてロイが部下に指示を出した。
「後退するぞ!」
部下がロイに尋ねた。
「後退するのですか?」
ロイが部下に大声で言った。
「そうだ!全軍を後退させろ!ガブロにも退却せよと伝令を出しておけ!」
ロイの部下達が一斉に言った。
「はっ!」
すぐにロイの部下達が退却を伝えに行った。
こうしてロイの部隊は退却を始めた。
ミルゲ平原では両軍の激闘が続いていた。
ドロメ盗賊軍は別動隊による強襲から目をそらせる為に、残りの全軍をおとりとして総攻撃を仕掛けていた。
だが予想以上にドロメ盗賊軍は善戦をしていた。
特にガブロが率いるドロメ盗賊軍の左翼部隊はジフロル軍に猛攻を加えてアルガスの部隊を退却させるなど、大きな戦果を挙げていた。
だがジフロル軍もこの劣勢を挽回すべく動き出していた。
ジフロル団長が率いる二千人がミルゲ砦より出撃し東北東の方角に向かっていた。
一方こちらはドロメ盗賊軍の別動隊である。
ベルガの部隊はミルゲ砦から東北東の位置で、敵の予備部隊が出撃するのをひたすら待っていた。
この別動隊を預かるベルガに部下の盗賊が報告にきた。
「ベルガ様、ミルゲ砦より残りの部隊が出撃しました!」
ベルガが部下に言った。
「何?本当か!」
部下がベルガに言った。
「はっ!本当です。」
ベルガが嬉しそうに部下に言った。
「よし!!これでロイ様もお喜びだろう。」
部下がベルガに言った。
「どうしますベルガ様?すぐに移動を始めますか?」
ベルガが部下に言った。
「まだダメだ。早々に動いて敵に気づかれたら意味がない。敵がミルゲ砦より離れるまで待つんだ。」
部下がベルガに言った。
「はっ!」
ジフロル団長の部隊はベルガ達がいる方角へまっすぐに進んだ。
ベルガはミルゲ砦から出撃したジフロル団長の部隊がミルゲ砦から離れるまでじっと待っていた。
ベルガが部下に尋ねた。
「よしだいぶミルゲ砦より離れたな。もういいだろう。そろそろ移動を始めようと思うが、準備は整っているか?」
部下がベルガに言った。
「はっ!大丈夫です。」
すると別の部下がベルガに言った。
「ベルガ様一ついいでしょうか?」
ベルガが部下に言った。
「ん、なんだ?」
部下がベルガに言った。
「奴らこっちに向かってきてませんか?」
ベルガは部下に言われてようやく気づいたようだった。
ベルガが確認すると確かにジフロル団長の率いる部隊がまっすぐにベルガ達のいる方角に向かってきていた。
ベルガが大声で言った。
「くそ、しまった!奴ら俺達に気づいてやがったのか!!」
ベルガが大声で指示を出した。
「すぐに戦闘準備をしろ!」
だが戦闘準備を指示するのが遅すぎた。
ベルガが戦闘準備を指示した時にはジフロル団長率いる部隊は目と鼻の先まで迫っていた。
そしてベルガ達が戦闘準備を整えるより前にジフロル軍との戦闘が始まってしまった。
ジフロル軍の盗賊達がベルガの部隊に襲いかかった。
ベルガとベルガの部隊も果敢に戦った。
だが戦闘準備が間に合わず圧倒的に少数のベルガの部隊ではジフロル軍を支える事はできず数十分で壊滅してしまった。
ベルガ自身の奮戦も空しく、最期はジフロル軍の放った弓矢が胸に刺さり倒されてしまった。
生き残った盗賊達も西の方角へ敗走していった。
戦闘が終了しジフロル軍の盗賊がジフロル団長に言った。
「おやっさん、ドロメの別動隊を叩く事には成功しました。この後はどうしますか?」
ジフロル団長が部下に言った。
「すぐに出発準備を整えてくれ。」
部下がジフロル団長に言った。
「では?」
ジフロル団長が部下に言った。
「うむ、このままアルガス達の加勢に向かう。」
部下がジフロル団長に言った。
「はっ!承知しました。」
ジフロル団長が率いる部隊はすぐに準備を済ませると、南に向けて進軍を始めた。
一方こちらはガブロの部隊である。
ガブロは軍勢をミルゲ砦の西側に布陣させていた。
ガブロはミルゲ砦の西側の斜面の手前までやってくると大声で言った。
「さあてと、野郎共、ミルゲ砦に奪い取りに行くぞ!!」
ガブロの部下達が大声で言った。
「おお!!」
「よしこのガブロ様の後に続け!!」
ガブロはそう言うとミルゲ砦の西側の斜面を上り始めた。
ガブロの部下達もそれに続いた。
ミルゲ砦は小高い丘の上に建てられていたが、ミルゲ砦の西側と南側と東側の斜面は垂直近い角度になっており、高さも二十メートル近くあった。
斜面というよりは切り立った崖であった。
北側のみ緩い斜面になっており、ミルゲ砦の出入口も北側に設けられていた。
砦の北側はそれ故に攻めやすくなっていたが、その弱点を補う為に北側には深い空堀(水のないほり)が設けられていた。
ガブロ達は西側の崖のような斜面をのぼりはじめた。
もちろんブロイク率いるミルゲ砦の守備隊も黙っていなかった。
ミルゲ砦の外壁の上に並んで弓矢でガブロの部隊に攻撃を加えた。
崖のような斜面をのぼっていくガブロ達にたくさんの弓矢が降り注いだ。
何人ものドロメ軍の盗賊達が弓矢の餌食となり、斜面の下に転げ落ちていった。
これを見たドロメ盗賊軍の盗賊達はその場で止まってしまった。
この様子を見ていたガブロが大声を張り上げた。
「弓矢ごときで怯むんじゃねー!!気合いで登れ!!」
ガブロの部下達が大声で言った。
「おおー!!」
そしてガブロの部下達に闘志が戻り斜面を上り始めた。
一方のこちらはアルガスの部隊である。
アルガスは深手を負ったがポーションでの回復が間に合いすでに傷は癒えていた。
傷を治したアルガスはすぐにゼスタに所に戻った。
アルガスがゼスタに言った。
「すまないな、ゼスタ世話をかけた。」
ゼスタがアルガスに言った。
「水くさい事を言うな。全然構わないさ。」
アルガスがゼスタに尋ねた。
「今の状況はどうなっている?」
ゼスタがアルガスに言った。
「現在の状況だが、ガブロの部隊がミルゲ砦の西側より攻めかかっている。若がドロメの右翼部隊と交戦しており、一進一退の状況だ。」
アルガスがゼスタに言った。
「ガブロの部隊は我々を追撃してこなかったのか?」
ゼスタがアルガスに言った。
「ああ。追撃はせずに今ミルゲ砦に攻めかかっている。追撃してこなかった理由は分からないがな。どういうつもりだ?」
アルガスがゼスタに言った。
「そうだな、可能性としてオトリ攻撃を本物の攻撃に見せるために派手にやっているとかだな。」
ゼスタがアルガスに言った。
「なるほどオトリ攻撃を隠すためか。」
だがアルガスがゼスタに言った。
「いや恐らく深い意図なんてないんだろうよ。」
ゼスタがアルガスに尋ねた。
「なぜそう思う?」
アルガスがゼスタに言った。
「敵の左翼部隊を率いているのは鉄槌のガブロという男だ。直接戦ってみて感じたんだがかなり直情的な男だった。ガブロという男は策を巡らすような人間じゃない。だから何かの策を仕掛けているとは思えなくてな。」
ゼスタがアルガスに言った。
「なるほどな。」
アルガスがゼスタに言った。
「まああくまで私の意見だがな。ところで、我が部隊の状況はどうなっている?」
ゼスタがアルガスに言った。
「すでに再集結して部隊の再編も終わっている。」
アルガスがゼスタに言った。
「よしならば我々もガブロの部隊への戦闘に加わろう。この位置からなら側面攻撃も狙えるだろう。」
ゼスタがアルガスに言った。
「それは構わないが、お前は前に出てこなくていいぞ。指揮は俺がとる。」
アルガスがゼスタに言った。
「なんだと?」
ゼスタがアルガスに言った。
「まだ病み上がりだろう?」
アルガスがゼスタに言った。
「もう全快している。」
ゼスタがアルガスに言った。
「たまには俺に任せてくれ。それに病み上がりのお前を死なせたらおやっさんに何て言えばいいんだ?」
アルガスがゼスタに言った。
「ああ分かった。ではゼスタに任せる。頼むぞ!」
ゼスタがアルガスに言った。
「ああ、任せておけ!」
そしてアルガスの部隊は南に進んでガブロの部隊に側面攻撃を加えた。
一方こちらはアルガスが率いるジフロル軍の左翼部隊である。
アルガス率いる部隊はロイが率いる部隊と激しい白兵戦を続けていた。
アルガス率いる部隊とロイが率いる部隊は双方が押しては押し返しての状況が続いていた。
ロイはジフロル軍の左翼部隊を突破するべく、突撃の指示を出していた。
ドロメ盗賊軍の盗賊の一人が大声で言った。
「ひたすら前に進めー!!偽善者共を叩き潰せ!!」
ドロメ盗賊軍の盗賊達がそれに答えた。
「おおー!!」
そしてドロメ盗賊軍の盗賊達はジフロル軍にめがけて突撃を始めた。
対するジフロル軍の盗賊もこれを迎え撃った。
ジフロル軍の盗賊の一人が大声をあげた。
「ここが踏ん張り所だぞ!」
ジフロル軍の盗賊達も大きな声で答えた。
「おー!!」
ドロメ盗賊軍の右翼部隊はいたる所で突撃を行っていた。
その一つにレイドスの姿があった。
レイドスは最前線でドロメ盗賊軍と戦っていた。
するとレイドスにドロメ盗賊軍の盗賊が斬りかかってきた。
「死ねー!偽善者が!」
レイドスは自分のさしていた剣を抜いて斬りかかってきた盗賊の剣先をその剣で受け止めると、剣に力を込めて盗賊の剣を振り払った。
そして間髪入れずにその盗賊に自分の剣を振り下ろした。
その盗賊は避ける事ができずに深手を負って倒れた。
するとレイドスにドロメ軍の別の盗賊が斬りかかってきた。
レイドスはその盗賊の攻撃をかわすと腰を落として、その盗賊に足払いをした。
その盗賊は体勢を崩して倒れ込んだ。
レイドスはすぐにその倒れ込んだ盗賊に自分の剣を力をこめて突き刺した。
レイドスはその盗賊を倒したのだった。
そこにレイドスの部下達が駆けつけてきた。
レイドスの部下達はすぐに突撃をかけてきた盗賊達に反撃を行った。
駆けつけてきた部下の一人がレイドスに言った。
「若、前に出すぎです。あまり無茶はしないでください。」
レイドスが部下に言った。
「今は後ろでのんびりできる状況じゃないだろ?」
部下がレイドスに言った。
「まあ確かにそうですが。」
レイドスと部下達の奮戦によりドロメ盗賊軍の突撃を防ぐ事ができた。
すると突撃をかけてきたドロメの盗賊達が逃げ始めた。
それを見たレイドスが大きな声で言った。
「よしー!チャンスだ!ドロメの奴らを押し返すぞ!!」
ジフロル軍の盗賊達が大きな声で答えた。
「おおー!!」
ドロメ盗賊軍の突撃を凌いだレイドスの部隊が反転攻勢に出ようとしていた。
一方こちらはドロメ盗賊軍右翼部隊を率いているロイである。
ロイは部下から報告を聞いていた。
「ガブロ様が敵の右翼部隊を突破し、敵の右翼部隊は後退したのと事です。」
ロイが苦々しく部下に言った。
「ったくガブロの野郎、はやくこっち応援に来やがれ!ガブロの野郎が敵の左翼部隊に側面攻撃を仕掛ければ、こっちの完勝だっつうのにまったく!」
部下がロイに言った。
「とわ言えガブロ様はすごい戦いぶりですな。ドロメ様もお喜びになるでしょう。」
ロイが部下に言った。
「ああそうだな。」
ロイにとってはガブロの戦力をオトリとしか考えていなかった。
それゆえにこれは嬉しい誤算といえた。
ロイが部下に尋ねた。
「今度の突撃は成功したか?」
部下がロイに言った。
「それが敵の守りは固く、未だに突破できておりません。」
ロイが部下に言った。
「ちっ!五度目の突撃も失敗か。」
部下がロイに言った。
「申し訳ありません。ロイ様。」
ロイが部下に言った。
「ガブロはどうだ?まだ敵の左翼部隊に攻めかからないのか?」
部下がロイに言った。
「それが申し上げにくいのですが、ガブロ様はミルゲ砦を攻め始めたとの事です。」
ロイが部下に尋ねた。
「なんだと?ミルゲ砦を攻め始めただと?」
部下がロイに言った。
「はい。」
ロイが部下に言った。
「おい、それじゃあまさか敵の右翼部隊の追撃もしてないのか?」
部下がロイに言った。
「どうやらそのようです。」
ロイは大声で怒鳴った。
「あの脳なしは一体何をやってやがるんだ!追撃をかけなきゃ敵の右翼部隊が体勢を立て直して反撃してくるだけだろうが!」
部下がロイに尋ねた。
「どうされます?伝令を送って攻撃を止めさせますか?」
ロイが部下に言った。
「うーん、どうするかな?」
ロイはガブロに伝令を送るかどうか迷っていた。
ロイのこの戦いでの目的はミルゲ砦の奪取である。
ガブロが状況を見て動く事ができる人間でない事はロイも知っていた。
確かにガブロの行動は敵に挟撃されかねない危ない行動であったが、ガブロに勢いがあるのもまた事実であった。
このまま勢いに乗じてミルゲ砦を奪取できるのではないか。そんな期待を持っていたため伝令を送るかどうか迷ってしまったのである。
するとロイの元に部下が報告にやって来た。
「ロイ様、敵の左翼部隊が反転攻勢に出ました。我が部隊があちこちで押し返されております。」
ロイが部下に言った。
「ちっ!さすがに息切れしてきたか。」
すると別の部下が慌てて報告にきた。
「大変です、ロイ様、敵の新手です。敵の新手が現れました。」
するとロイは驚いた様子で聞き返した。
「本当か?」
その部下がロイに言った。
「はっ!およそ二千ほどの部隊がこちらに向かってきております。」
すると別の部下がロイに尋ねた。
「ロイ様、もしや敵の新手は我々の側面に回り込むつもりなのではありませんか?」
ロイが部下に言った。
「ああ、確かにその可能性はあるな。」
部下がロイに言った。
「それでは我々は敵に半包囲されてしまいます。」
ロイは部下に言った。
「分かっている。」
ロイの部隊も全力で戦っており、ジフロル団長の部隊への迎撃に出せる戦力は残っていなかった。
だがロイはこの時退却するかどうか判断を迷っていた。
それはガブロが予想以上の善戦をしていたからに他ならなかった。
このまま苦戦しつつも耐えていればガブロがミルゲ砦を奪取できるのではないか?その考えがまだ頭の中にあったからである。
ロイは部下に尋ねた。
「おい、ガブロの方はどうなっている?ミルゲ砦の方は攻略できそうなのか?」
部下がロイに言った。
「はっ!それがミルゲ砦より激しい反撃を受けており、あまり芳しくはないようです。」
そこに新たに伝令が入ってきた。
そしてロイに報告した。
「申し上げます。敵の右翼部隊が再び攻勢に転じたようです。ガブロ様の部隊が挟撃されております。」
これを聞いたロイは舌打ちをしながら言った。
「ちっ!やはりガブロの方も無理そうだな。」
この報告を聞いたロイはついに決断を下した。
「まあいい、これで作戦通りだしな。」
部下が訝しげに言った。
「ロイ様?」
そしてロイが部下に指示を出した。
「後退するぞ!」
部下がロイに尋ねた。
「後退するのですか?」
ロイが部下に大声で言った。
「そうだ!全軍を後退させろ!ガブロにも退却せよと伝令を出しておけ!」
ロイの部下達が一斉に言った。
「はっ!」
すぐにロイの部下達が退却を伝えに行った。
こうしてロイの部隊は退却を始めた。
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