最強勇者の物語2

しまうま弁当

文字の大きさ
上 下
218 / 265
第5章 アグトリア動乱

バトロア教区

しおりを挟む
今日はパルゲア歴752年7月10日である。

ここはアグトリア法国の首都にあるアグトリア大神殿の中央礼拝堂である。

そこで司教達が集まり話し合いをしていた。

トロイズ司教がやって来たバローネ司祭に尋ねた。

「バローネ司祭、遠路遥々ご苦労だった。それで火急の用件とは一体何かな?」

バローネ司祭がトロイズ司教に答えた。

「この度は謁見をお許し頂きありがとうございます。実はわが教区にドロメ盗賊団が大挙して侵攻してきたのです。」

するとトロイズ司教が驚いてバローネ司祭に尋ねた。

「何?ドロメ盗賊団がバトロワ教区に侵攻してきたのか?」

バトロワ教区にはバトロワ鉱山という魔法石を採掘している鉱山があった。

バローネ司祭がトロイズ司教に答えた。

「はっ、バトロワ教区の責任者であるガイコ司教様が僧兵達と共にバトロワ鉱山近郊にて防衛戦を行っております。ですが敵は多勢にて我が方が苦戦を強いられております。なにとぞご加勢をお願いします。」

だが司教達は口をつぐんでしまった。

そして重苦しい雰囲気の中でトロイズ司教がバローネ司祭に言った。

「すまないバローネ司祭、援軍を出す事はできないのだ。」

バローネ司祭がトロイズ司教に言った。

「ガイコ司教様をお見捨てにされるおつもりですか?」

トロイズ司教が申し訳なさそうにバローネ司祭に言った。

「本当に申し訳ない。私とてアグトリア僧兵を動かしてでもガルコ司教を助けたい。」

バローネ司祭がトロイズ司教に言った。

「それならば、どうかご加勢を!」

トロイズ司教がバローネ司祭に言った。

「それができぬのだ。」

バローネ司祭がトロイズ司教に尋ねた。

「なぜですか?その理由を教えてください。」

するとボルギ司教がバローネ司祭に言った。

「国庫の金がもうほとんど無いのだ。新たに軍事行動をしようにもお金が無ければどうしようもない。」

バローネ司祭がボルギ司教に尋ねた。

「なぜお金が無いのです?」

ボルギ司教がバローネ司祭に答えた。

「ソラド法王様(アホ勇者)がまた詐欺師達に騙されて金を巻き上げられたのだ。」

バローネ司祭がボルギ司教に大声で言った。

「なんですか?それは?そんなアホな理由でガイコ司教様を見殺しにしようというのですか?」

すると司教達は再び口をつぐんだ。

しばらくの沈黙の後トロイズ司教が他の司教達に言った。

「どうだろう?ガイコ司教にバトロワ教区を放棄させては?」

ボルギ司教がトロイズ司教に言った。

「何を言っているんだ?バトロワ鉱山は我が国にとって貴重な収入源だ。絶対死守しなければならない。」

トロイズ司教がボルギ司教に言った。

「もちろんその事は承知している。だがガイコ司教は得がたい人物だ。」

するとボルギ司教がトロイズ司教に反論した。

「ただでさえアグトリア法国の財政は逼迫しているんだ。この上バトロワ鉱山まで失えばこの先更に苦しくなるぞ!」

今度はトロイズ司教がボルギ司教に反論した。

「鉱山はまた取り返す事ができる。だがボルギ司教を失ったら取り返す事はできない。彼はこのアグトリア法国に必要不可欠な男だ。死なせる訳にはいかない。今すぐにバトロワ教区の放棄の勅書を発するべきだろう。」

すると司教の一人のグリロ司教がトロイズ司教の前に出た。

グリロ司教は小柄で細身の年配の男性司教だった。

グリロ司教がトロイズ司教に言った。

「だがトロイズ司教、勅書を発する権限があるのは法王様、枢機卿様そして大司教だけだ。この場にはそのどなたもいらっしゃらない。勅書を発するのは無理であろう?」

トロイズ司教がグリロ司教に答えた。

「いえ、緊急時に限り司教三人以上の合意で勅書を発する事ができたはずです。」

グリロ司教がトロイズ司教に言った。

「確かに今まで司教権限で勅書を発した例は2つある。だがそのどちらもこのアグトリア法国を揺るがす事態であった。だが今回は果たしてそのような事態か?一司教の問題では無いか?」

するとトロイズ司教がグリロ司教に言った。

「グリロ司教、今の発言はあんまりでしょう。今この時もガイコ司教は苦しい状況で戦っているんです。それにグリロ司教とてガイコ司教の人となりはご存じでしょう?」

グリロ司教がトロイズ司教に答えた。

「それは分かっている。だがなトロイズ司教、そなたは手順や慣例を軽視しすぎだ。我ら司教が率先して手順を守られば、下じもに対して示しがつかんだろう。」

するとトロイズ司教がグリロ司教とボルギ司教に言った。

「分かりましたグリロ司教、ボルギ司教。では貴殿方の主張通りガイコ司教を見殺しにするとしましょう。」

グリロ司教がトロイズ司教に答えた。

「嫌味な言い方をするな。分かっている。ガイコ司教を見捨てる訳にはいかん。我らで勅書を発するとしよう。」

続いてボルギ司教がトロイズ司教に言った。

「全くそんな言い方をされたら反対できないだろう。仕方ない、今回だけは認よう。」

こうして話は纏まり勅書が発せられる運びとなった。

勅書の手続きを完了させたトロイズ司教がグリロ司教に言った。

「賛成ならば、反対のような意見を言わないで頂けますかなグリロ司教?」

グリロ司教がトロイズ司教に言った。

「そなたに釘を刺しておきたかっただけだ。」

勅書を待っていたバローネ司祭にトロイズ司教が言った。

「待たせたなバローネ司祭、すぐにこの勅書をガイコ司教に渡してくれ。」

バローネ司祭がトロイズ司教に言った。

「トロイズ司教様、ありがとうございます。」

バローネ司祭は勅書を受けとるとすぐにバトロワ教区へと戻っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

東海敝国仙肉説伝―とうかいへいこくせんじくせつでん―

かさ よいち
歴史・時代
17世紀後半の東アジア、清国へ使節として赴いていたとある小国の若き士族・朝明(チョウメイ)と己煥(ジーファン)は、帰りの船のなかで怪しげな肉の切り身をみつけた。 その肉の異様な気配に圧され、ふたりはつい口に含んでしまい…… 帰国後、日常の些細な違和感から、彼らは己の身体の変化に気付く――― ただの一士族の子息でしなかった彼らが、国の繁栄と滅亡に巻き込まれながら、仙肉の謎を探す三百余年の物語。 気が向いたときに更新。

いずれ最強の錬金術師?

小狐丸
ファンタジー
 テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。  女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。  けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。  はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。 **************  本編終了しました。  只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。  お暇でしたらどうぞ。  書籍版一巻〜七巻発売中です。  コミック版一巻〜二巻発売中です。  よろしくお願いします。 **************

ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ
ファンタジー
とある乙女ゲームの世界で目覚めたのは、原作を知らない一人の少女。 産まれた時点で本来あるべき道筋を外れてしまっていた彼女は、知らない世界でどう生き抜くのか。 母の愛情、突然の別れ、事故からの死亡扱いで目覚めた場所はゴミ捨て場、 捨てる神あれば拾う神あり? 人の温かさに触れて成長する少女に再び訪れる試練。 そして、本来のヒロインが現れない世界ではどんな未来が訪れるのか。 主人公が7歳になる頃までは平和、ホノボノが続きます。 ダークファンタジーになる予定でしたが、主人公ヴィオの天真爛漫キャラに ダーク要素は少なめとなっております。 同作品を『小説を読もう』『カクヨム』でも配信中。カクヨム先行となっております。 追いつくまで しばらくの間 0時、12時の一日2話更新予定 作者 非常に豆腐マインドですので、悪意あるコメントは削除しますので悪しからず。

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる

シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。 そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。 なんでも見通せるという万物を見通す目だった。 目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。 これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!? その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。 魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。 ※他サイトでも連載しています。  大体21:30分ごろに更新してます。

ホスト異世界へ行く

REON
ファンタジー
「勇者になってこの世界をお救いください」 え?勇者? 「なりたくない( ˙-˙ )スンッ」 ☆★☆★☆ 同伴する為に客と待ち合わせしていたら異世界へ! 国王のおっさんから「勇者になって魔王の討伐を」と、異世界系の王道展開だったけど……俺、勇者じゃないんですけど!?なに“うっかり”で召喚してくれちゃってんの!? しかも元の世界へは帰れないと来た。 よし、分かった。 じゃあ俺はおっさんのヒモになる! 銀髪銀目の異世界ホスト。 勇者じゃないのに勇者よりも特殊な容姿と特殊恩恵を持つこの男。 この男が召喚されたのは本当に“うっかり”だったのか。 人誑しで情緒不安定。 モフモフ大好きで自由人で女子供にはちょっぴり弱い。 そんな特殊イケメンホストが巻きおこす、笑いあり(?)涙あり(?)の異世界ライフ! ※注意※ パンセクシャル(全性愛)ハーレムです。 可愛い女の子をはべらせる普通のハーレムストーリーと思って読むと痛い目をみますのでご注意ください。笑

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...