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第3章 逃亡生活
思案
しおりを挟むエーメ男爵はダンピエール伯爵の手駒になって、他にも様々な事を行ってきたこと。しかし、愚かな男爵本人は、いつでもダンピエール伯爵ひいてはエヴルー侯爵家が守ってくれると信じていたそう。
今回の件についても私に向かって堂々と「揉み消してもらう」などとのたまっていたが、彼は本気でそう思っていたんだろう。当のエヴルー侯爵は「知らない」と当然のようにトカゲのしっぽ切りをして男爵を見捨てたわけだが。
エヴルー侯爵が、孫娘ルイーズを王太子の正妃にするために一番邪魔なのは、ルテール公爵令嬢アリス。
馬車の事故を装って、邪魔なアリスを消そうとしたが、幸いなことにかすり傷ですんでしまった。その後、学園までの通学に、公爵家は護衛を増やしたので次の機会を伺っていたそう。
そこに偶然、エーメ男爵が下町でアリスと遭遇したことを聞いたダンピエール伯爵は、男爵夫人を使ってアリスをお茶会に招き、男爵邸にて拉致・略取することを計画した。
ちなみに殺害を指示されたが、男爵は私を奴隷として売るつもりだったらしい。
それが男爵が口にしていた「取引」なのかな?
もしかしたら、お金が欲しかったのかもしれない。殺したふりをして、実際は殺さないかわりに国に戻って来るなという「取引」をしようとしたのかも……もうどうでもいいけど……。
「現段階で物的証拠は何もなく、ただ、男爵の自白のみ。だが、そもそも王太子殿下が正妃をまだ決めていない事に端を発したわけだから、殿下がこうおっしゃったそうだ……」
私は、手を握り締めて沈黙していた。
断りたい。是非ともお母様に力添え頂いて断りたい!!
王家からの遣いによる伝言はこうだった。
「アリスと結婚したい」
「僕がアリスの立場をはっきりさせていたら、今回のような事件は起きなかったかもしれない」
「許されるならば、正式に婚約の申し出をしたいので、明日にでも公爵家を訪問したい」
書面ではなく口頭での使者だが、王太子付きの侍従長自らが来たそうだから、ラファエル様は本気なんだろう。
彼なりに心配してくれたんだろうけど……
……だから私の気持ちを考えろと言ったはずだが?
しかも明日? ……って今日じゃん!!!
「ルテール公爵家としては断る理由はない」
父の言葉に私と母は黙った。公爵家としてはない。アリス個人としてはあるけれど。
なんとか声を絞り出して言った。
「……体調がすぐれないということで保留できませんか?」
浅知恵しか浮かばない。体調が回復したら、返事はしなくてはならない。
「分かった。急ぐ理由もなくなったし、ひとまずはそう返事しよう」
てっきりお父様は一刻も早く返事したいのではと思っていたから、驚いて聞いた。
「急ぐ理由がなくなったとは……?」
「アリスには伝えておこう。これもまだ内々のことで国王陛下にも王太子殿下にもお伝えしていない……」
何だろうと思ってお父様を見ると、父はにっこりと笑っていた。
「マクシムはルイーズ嬢と婚約することになるよ」
その言葉に目の前が真っ暗になった気がした。
……嗚呼、お兄様……。
王太子妃の第二候補者がいなくなってしまった……。
確かに、お父様の言う通り、私とラファエル様の婚約を急ぐ必要はない。こうなれば、必然的に私が王太子妃になるのだろうから。
エヴルー侯爵とダンピエール伯爵の画策も、ルイーズ嬢の恋によって何の意味もなくなってしまったという事かあ……。
お茶会の日程が重なったのは、偶然だったんだ。
これがもし、ルイーズ嬢のお茶会が一週でも早かったら、事態は変わっていただろう。
さらわれ損じゃん、私……。
うなだれた私の頭の中には「バッドエンド」の文字が踊り、今度こそ思考回路がショートした。
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