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一章
感心喪失
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7月13日の正午過ぎになった。
九木礼警察署の中には明井田警察署が間借りをしている部屋いくつかあり、明井田警察署のトップである浜本警視正はその部屋の一つにデスクを置いていた。
そして九木礼町の各所には明井田の下瀬地区から避難してきた人々がやってきていた。
そんな中浜本警視正のデスクに明井田の下瀬地区から避難してきた村上という名前の年配夫婦がやってきていた。
夫の方が村上雅也(むらかみまさや)という名前で少し荒々しい性格でこの時は機嫌も悪かった。
妻の方が村上早苗(むらかみさなえ)という名前の女性で機嫌の悪そうな夫とは正反対のやさしそうな感じだった。
この村上夫婦には浜本警視正と笹岡刑事が対応にあたっていた。
雅也(まさや)が声を張り上げる。
「おい、ガス漏れ事故はどうなったんだ!!!まだ安全にならないのか?いつ頃帰れそうなんだ?」
早苗(さなえ)がそれをなだめていた。
「あなたそんな喧嘩越しに言ってはダメですよ。」
すると笹岡刑事が浜本警視正に尋ねた。
「お二人にあの話しをされてはどうでしょうか?」
浜本警視正が笹岡刑事に言った。
「そうだな、教えた方がいいだろうな。」
雅也(まさや)がいぶかしげに尋ねた。
「何の話をしてるんだ?」
すると浜本警視正が雅也(まさや)と早苗(さなえ)に言った。
「お二人にお話ししておきたい事があります。実はガス漏れ事故というのは嘘です。ガス漏れ事故は実際には起こっていません。」
雅也が浜本警視正に尋ねた。
「ガス漏れ事故が嘘だと??どういう事だ??」
浜本警視正が雅也に言った。
「我々はあなた方をガス漏れ事故だと騙してこの場所まで連れてきたという事です。その事をまずお詫び致します。」
雅也(まさや)が浜本警視正に大声で言った。
「騙して連れてきただと!!そんな事していいと思ってるのか。」
早苗もこれには驚いて浜本警視正に言った。
「それじゃあ誘拐と変わりませんよ??」
浜本警視正は落ち着いた様子で二人に言った。
「お怒りはごもっともですが、まずはご自身のスマホで明井田市の画像や映像を見てもらえますでしょうか?SNSでも自分で撮った画像でも何でも構いませんので。」
雅也が浜本警視正に大声を張りあげた。
「ふざけるな!!そんなもん確認してどうするんだ!!話をすり替えるんじゃない!!」
雅也は怒り心頭で浜本警視正のいう事を聞かなかったが、早苗は浜本警視正のいう通りにスマホで画像を確認したのだった。
すると早苗がひきつった表情で雅也に言ったのだった。
「ちょっとあなた??」
雅也が早苗に言った。
「なんだ??」
早苗が雅也に言った。
「おとといのお昼に栗田(くりた)さんがやってるラーメン亭あきらに一緒にラーメン食べに行ったわよね??」
雅也が早苗に言った。
「確かにおとといに彰(あきら)の店にラーメンを一緒に食べに行ったな??それがどうかしたか??」
「あの時私がスマホで写真を撮ったでしょ?」
「ああ、そういえば早苗が彰(あきら)の店で写真を撮ってくれたな。」
「写真に栗田さんが写ってるのよ?ちょっと見てくれない。」
「何を言ってるんだ?その写真は昨日俺に見せてくれたじゃないか。俺が味噌ラーメンの麺をすすっている写真だろう??彰(あきら)なんてどこにも写ってなかったぞ。」
雅也はそう言いながら早苗が握っているスマホに顔を近づけて画面を覗きこんだのだった。
そして雅也は驚愕したのだった。
「なんだこれは???」
雅也が浜本警視正に大声で言った。
「おい!!この写真はどういう事だ?」
浜本警視正も笹岡刑事も何も言わなかった。
「ふざけるな!!!彰が店の中で首吊りしてるじゃないか!!どういう事だ!!!」
早苗が写した画像の中にはラーメン店内のテーブル席で美味しそうにラーメンを頬張る雅也が大きく写っており、その左上の所に店主の格好をした男が首を吊っている様子が写し出されていたのだった。
早苗が雅也に言った。
「あなたはやく栗田さんに連絡をした方が。」
「そうだな。」
雅也はそう言うと慌ててスマホを取り出して連絡を取ろうとした。
だが電話は繋がらなかった。
仕方なく留守番電話に伝言を残すのだった。
「おい!!彰、悪いがすぐに連絡をくれ!!!」
その後メールやSNSも使って連絡を試みたが一向に返事が返ってこなかった。
早苗が心配そうな顔で雅也に言ったのだった。
「あなた栗田さんは大丈夫なの??」
雅也が早苗に言った。
「大丈夫に決まってるだろう!!図太い奴だ。すぐにこのスマホに連絡がくるはずだ。」
だがやはりいくら待っても雅也にも早苗にも連絡はなかったのだった。
雅也が大声で言った。
「彰のやつ??さっさと連絡をよこせ!!!不安になるだろうが!!!」
すると沈黙していた浜本警視正が口を開いたのだった。
「残念ですがこの写真に写っている彰(あきら)さんはすでに亡くなっているものと思われます。」
雅也が大声で浜本警視正に言った。
「亡くなっているだと??適当な事を言うんじゃねえぞ!!!」
浜本警視正が雅也に言った。
「確かに彰さんが亡くなっているという確認はとれませんのであくまで推測ではあります。」
雅也が浜本警視正に言った。
「そうだろう。彰にはラーメン亭あきらを北海道一の人気店にするっていう夢があるんだ。その夢を叶える前に死ぬ訳ないんだよ!!」
浜本警視正が雅也に言った。
「ですがその写真を見る限り彰さんは首を吊ってすでに亡くなっている可能性が高いと思われます。」
雅也が浜本警視正に言った。
「そもそもこの写真はどういう事なんだ??テメエは何か知ってる口ぶりだったな。どういう事かちゃんと説明しろ。」
浜本警視正が尋ねた。
「この写真が撮られた時の状況を詳しく教えてもらえますか?」
雅也が浜本警視正に言った。
「おとといだから7月11日の昼過ぎだ。明井田の杉根(すぎね)にあるラーメン亭あきらに味噌ラーメンを食べに行ったんだ。ラーメン亭あきらの店主の彰(あきら)とは昔からの馴染みで仕事が休みの日はこいつと一緒によく食べに行くんだ。」
早苗が雅也に同意しながら言った。
「ええ、私もこの人と一緒によく栗田さんの店に行きます。おとといもそんな感じで食べに行ったんです。」
雅也が浜本警視正に言った。
「それがなんで彰(あきら)が首を吊ってる姿が写ってるんだ!!!しかも俺がラーメンをすすっている後ろで!!!」
すると早苗が雅也に言った。
「ねえあなた??もしかしてこれは心霊写真か何かじゃないの?」
雅也が早苗に聞き返した。
「心霊写真だと??早苗、突然何を言い出すんだ??」
早苗が雅也に言った。
「栗田さんになにか良くないものが憑いてるんじゃない。それでこんな写真が撮れてしまったのよ。」
「幽霊が憑りついてるだと、早苗まで馬鹿な事を言わないでくれ。」
「だってあなたの後ろでロープで首を吊ってる栗田さんが写ってるのよ。私が写した時は栗田さんは元気だったわ。」
「そんな事言うまでもないだろう。俺達はおとといも彰(あきら)の店に行って、いつもと同じようにくだらない話をしながらラーメンを食べて、それで何事もなく帰ってきたはずだ。」
「そうでしょう。それじゃあこの写真は何なの??」
「分かるわけないだろう。」
「だからこの写真は心霊写真じゃないかって思うのよ。」
「そもそも俺は昨日この写真を見てるだぞ??昨日見た時は何も写ってなかったぞ。早苗だってこの画像を何度も見てるだろう。その時は首を吊った彰の姿なんてどこにも写ってなかっただろう。」
「ええ私が見た時も首を吊った栗田さんはどこにも写ってなかったわ。だからこの写真自体に悪い物が憑いてるとしか考えられないでしょう。」
「うーんそうだな。そう言われるとそんな気もしてきたな。確かに何か悪い物に取り憑かれているとしか考えられないか。俺が見た時も彰が首を吊ってる所なんて写ってなかったもんな。」
「そうよ、何か悪い物が憑いていてそれでこんな心霊写真ができてしまったのよ。」
「なら彰も連れてお祓いに行かないとな。」
「ええそうしましょう。」
すると浜本警視正が雅也に言った。
「先ほども申し上げましたが彰さんはすでに亡くなっていると思われます。」
雅也が浜本警視正に大声で言った。
「おいあんたはどうして彰が死んだ死んだと言うんだ!!そんなに俺の親友に死んでいてほしいのか??」
浜本警視正が雅也に言った。
「厳しい事を言っているのは承知していますが、どうか冷静に私の話を聞いてもらえませんか?」
雅也が浜本警視正に言った。
「冷静に聞いているだろうが!!」
早苗が雅也に言った。
「あなた??警視正さん達はきっと何か勘違いをされてるだけよ。」
雅也が早苗に言った。
「ふん。どうだかな。根性が腐ってるだけじゃないのか。」
すると早苗が警視正に尋ねた。
「警視正さん、すいませんがお祓いする場合は神社とかに行けばいいんでしょうか?こういう事は初めてなもので教えてもらえると助かります。」
浜本警視正が早苗に言った。
「残念ですがその必要はないと思われます。」
早苗が浜本警視正に聞き返した。
「どういう事ですか?」
浜本警視正が早苗に言った。
「この写真が心霊写真ではないからです。」
すると雅也が浜本警視正に大声で尋ねた。
「じゃあどういう事なんだ??」
浜本警視正がゆっくりと二人に言った。
「まずあなた方はおとといの7月11日の正午頃にラーメン亭あきらに味噌ラーメンを食べに行った。店内で味噌ラーメンを注文して店主である彰(あきら)さんがそれを持ってきてくれた。そこまではいいですか?」
雅也が浜本警視正に言った。
「ああ、そうだ。あいつは店を一人で切り盛りしてるからな。」
早苗が頷きながら浜本警視正に言った。
「はい。」
浜本警視正が少し言いづらそうに二人に言った。
「ここからが大変申し上げにくいのですが、恐らく店主の彰(あきら)さんがあなた達が味噌ラーメンを食べている間にあなた達が座ったテーブルの後ろの場所で首を吊って死んでしまった。そしてあなた方はそれを気にせずに味噌ラーメンを食べて彰(あきら)さんが首吊りをしているのを気にもとめずにそのまま家に帰ってしまった。そういう事だと思われます。」
これを聞いた雅也は激高したのだった。
大声で浜本警視正を怒鳴りつけた。
「ふざけるな!!俺が彰(あきら)が首を吊るのを笑顔で見てたとでも言いたいのか!!」
早苗が涙目で浜本警視正に言った。
「ひどいですよ、警視正さん。そんな事を言うなんてあんまりです。私達はそんな事をしません。」
雅也が浜本警視正に大声で言った。
「そうだ、俺たちがそんなひどい人間に見えるのか!!彰(あきら)が首を吊ろうとしたら全力で止めるに決まってるだろう!!」
早苗が浜本警視正に言った。
「人としての最低限の心は持っているつもりです。」
雅也が浜本警視正に言った。
「早苗のいう通りだ。それに昨日俺達はあの写真をすでに見てるんだ。昨日見た時は何も写ってなかったぞ。」
雅也が早苗に尋ねた。
「なあ早苗?」
早苗が浜本警視正に言った。
「はい、この人のいう通り何も写っていませんでした。」
浜本警視正が二人に言った。
「恐らくこの画像には最初から彰さんの首吊りが写っていたと思われます。ですがあなた方は昨日この画像を見た時に栗田さんの首吊りが写っているにも関わらずそれを気にも止めなかっただけと思われます。」
雅也が浜本警視正に言った。
「どうやら貴様は俺達を何が何でも人でなしと決めつけたいようだな!!!俺達を貶めてそんなに楽しいか!!」
早苗が浜本警視正に言った。
「警視正さん、なんでそんなひどい事ばかり言うんですか。」
するとここまで沈黙を守ってきた笹岡刑事が二人に言ったのだった。
「店は彰さんが一人で切り盛りしてるんですね?でしたら味噌ラーメンを注文した代金をちゃんと彰さんに支払って帰りましたか??」
雅也が今度は笹岡刑事を睨みながら怒鳴りつけた。
「なんだと、テメエは俺が食い逃げをしたと言いたいのか?失礼にも程があるぞ貴様ら!!!」
だが笹岡刑事は雅也に続けて言った。
「非礼は承知でお尋ねしています。栗田さんが一人で店を切り盛りしていたのなら首を吊ってしまうと店の会計はできなくなるはずです。ちゃんとお金を払って店を出ましたか??よく思い出してください。」
雅也は笹岡刑事を睨みつけながら言った。
「ふん、そんなもの聞かれるまでもない。」
雅也と早苗は記憶の糸をたぐりながら思い出し始めるのだった。
するとさきほどまで怒りくりっていた夫婦の顔色が嘘のように青ざめていった。
青ざめた顔で雅也が早苗に尋ねた。
「俺は・・・・払ってないぞ??・・・・早苗お前が払ってくれたのか??」
同じく顔を青くしている早苗が雅也に言った。
「私は・・・・払ってないわ。」
早苗が雅也に尋ねた。
「あなた??なんでお金を払わなかったの?」
雅也が困惑した様子でしどろもどろに答えるのだった。
「だって払いたくても、・・・あれっ??・・・あれっ?・・・なんで俺はあの時お金を払わなかったんだ?」
今度は雅也が早苗に尋ねた。
「早苗こそなんでお金を払ってくれなかったんだ。」
早苗が雅也に言った。
「えっ??だってそれは?あれ?・・・・あれ?・・・・なんで私は払わなかったのかしら??」
早苗が恐る恐る雅也に尋ねた。
「ねえ??おとといに店から出る時に栗田さんに声をかけたかしら??あなたいつも会計を済ませたらレジ前で栗田さんと話してるでしょ??」
雅也の顔はすでに顔面蒼白になっていた。
その顔面蒼白の顔で早苗に言った。
「・・・・・・話してないな。」
早苗が雅也に尋ねた。
「あなた?なんであの日は栗田さんと話をしなかったの??」
雅也が早苗に言った。
「話ようがないだろう?・・・あれっ??・・あの日なんで俺は帰るときに彰と話をしなかったんだ??なんで俺はあの日は会計をしなかったんだ?」
雅也と早苗は必死に記憶をたぐりよせていった。
そしてとんでもない記憶をどんどん思い出していったのだった。
雅也が言った。
「そうだ、彰は俺たちに味噌ラーメンを持ってきた後で急に無言になって床に座り込むと持っていたペンで店の床に何かを書き始めたんだ。」
早苗が言った。
「そうよ、それでしばらく床に何かを書き続けた後で、栗田さんはロープを厨房から持ってくると主人の横を歩いていったんです。それで天井の柱が出ている所にロープを通すとそのままテーブルの上に上がってそのまま首を吊ったんです。」
雅也が言った。
「なんで俺は彰(あきら)が首を吊るのを黙って見ていたんだ?なんで俺は彰(あきら)が首を吊ってたのにそれを気にもかけずにそのまま帰ってきたんだ??」
早苗が言った。
「どうしてあの時の私は栗田さんが首を吊るのを黙って見ていたの??」
雅也が言った。
「どうして俺は彰が首を吊った写真を見て何とも思わなかったんだ??」
早苗が言った。
「どうして私は栗田さんが首吊りの写真を気にもとめなかったの?」
早苗が悲しそうな表情で雅也に言った。
「私どうかしちゃったのかしら?」
雅也が早苗に言った。
「それは俺の方だ。俺はいつからこんなクズ野郎になってしまったんだ。親友が首を吊って死んでしまったのに、いつの間にかそれに気にもかけないクズ野郎になり果ててしまった。俺の方がどうかしてしまってる。」
雅也が苦しそうな表情で言った。
「すまない彰(あきら)!!俺がすぐに救急車を呼んでいれば助かったかもしれないのに!!!俺は親友を見殺しにしてしまった!!俺はなんてひどい奴なんだ。」
すると笹岡刑事が雅也に言った。
「村上さん、あまりご自身を責めないでください。実はこの状況に陥っているのは村上さん達だけではないのです。」
早苗が笹岡刑事に尋ねた。
「そうなんですか?」
雅也が早苗に言った。
「それじゃあこのおかしな状況は俺達だけじゃないのか?」
笹岡刑事が二人に言った。
「はい。我々は明井田市にいる全ての人々が村上さんと同じ状況に陥っていると考えています。現在明井田では異常な集団首吊りによってたくさんの人々が死んでいっています。ですが明井田にいる人々はこの異常な集団首吊りを全く気にしていません。」
二人は笹岡刑事に聞き返した。
「明井田中の人間が?」
笹岡刑事が二人に言った。
「はい、明井田中の人々全てがです。おそらくこれは抗う事はできない事なのでしょう。」
雅也が尋ねた。
「そうだったのか?それじゃあまさか俺達をこの異常な状況から助けるためにこんな事をしたのか?」
浜本警視正が雅也に言った。
「はい、その通りです。明井田の中にいてはこれに気づいてもらう事はできないので、この状況を理解してもらう為には何とかして明井田から出てもらう必要があったのです。その為に今回のガス漏れ事故の芝居をしたという訳です。」
笹岡刑事が二人に言った。
「先ほどは厳しい事ばかり言って申し訳ありませんでした。」
雅也が浜本警視正と笹岡刑事に言った。
「いや謝らなければならないのは俺の方だ。警視正さん、それに刑事さんもさっきは怒鳴ってすまなかった。明井田から俺と早苗を助け出してくれて感謝するよ。ありがとう。」
早苗も深々とお辞儀をしながら言った。
「助けてくださって本当にありがとうございました。」
浜本警視正が二人に言った。
「いえ職務を果たしただけです。」
このような説明は九木礼署にいる刑事達によって避難してきた他の人々にも順次行われていった。
避難してきた人々は最初こそ激高していたが明井田での画像や動画を見て明井田市内の異常な状況を理解していくと怒りに支配されていた人もすぐに恐怖に包み込まれていったのだった。
その日の夕方明井田の下瀬から避難してきた人々が九木礼警察署に集まってきていた。
避難してきた人々の意志を確認する為に集まってもらったのだった。
浜本警視正がみんなに言った。
「ではお尋ねします。明井田に戻りたいと考える方はいらっしゃいますか?明井田に戻りたい方は遠慮なく手を挙げてください。」
避難してきた人々は誰も手を上げなかった。
「明井田に戻ったら頭がおかしくなってしまう。二度と行くもんか。」
「あんな場所に二度と戻りたくないです。」
「明井田に戻るのだけは絶対にごめんだ。」
すると避難してきた人の一人が尋ねた。
「ところでこの九木礼は大丈夫なのか?」
浜本警視正がその人に言った。
「はい、この九木礼では安全が確認されており、明井田ような状況に陥る事はありません。ご安心ください。」
その人は安堵した様子で言った。
「なら良かった。」
浜本警視正がみんなに言った。
「では今後のお話をさせて頂きます。」
九木礼警察署の中には明井田警察署が間借りをしている部屋いくつかあり、明井田警察署のトップである浜本警視正はその部屋の一つにデスクを置いていた。
そして九木礼町の各所には明井田の下瀬地区から避難してきた人々がやってきていた。
そんな中浜本警視正のデスクに明井田の下瀬地区から避難してきた村上という名前の年配夫婦がやってきていた。
夫の方が村上雅也(むらかみまさや)という名前で少し荒々しい性格でこの時は機嫌も悪かった。
妻の方が村上早苗(むらかみさなえ)という名前の女性で機嫌の悪そうな夫とは正反対のやさしそうな感じだった。
この村上夫婦には浜本警視正と笹岡刑事が対応にあたっていた。
雅也(まさや)が声を張り上げる。
「おい、ガス漏れ事故はどうなったんだ!!!まだ安全にならないのか?いつ頃帰れそうなんだ?」
早苗(さなえ)がそれをなだめていた。
「あなたそんな喧嘩越しに言ってはダメですよ。」
すると笹岡刑事が浜本警視正に尋ねた。
「お二人にあの話しをされてはどうでしょうか?」
浜本警視正が笹岡刑事に言った。
「そうだな、教えた方がいいだろうな。」
雅也(まさや)がいぶかしげに尋ねた。
「何の話をしてるんだ?」
すると浜本警視正が雅也(まさや)と早苗(さなえ)に言った。
「お二人にお話ししておきたい事があります。実はガス漏れ事故というのは嘘です。ガス漏れ事故は実際には起こっていません。」
雅也が浜本警視正に尋ねた。
「ガス漏れ事故が嘘だと??どういう事だ??」
浜本警視正が雅也に言った。
「我々はあなた方をガス漏れ事故だと騙してこの場所まで連れてきたという事です。その事をまずお詫び致します。」
雅也(まさや)が浜本警視正に大声で言った。
「騙して連れてきただと!!そんな事していいと思ってるのか。」
早苗もこれには驚いて浜本警視正に言った。
「それじゃあ誘拐と変わりませんよ??」
浜本警視正は落ち着いた様子で二人に言った。
「お怒りはごもっともですが、まずはご自身のスマホで明井田市の画像や映像を見てもらえますでしょうか?SNSでも自分で撮った画像でも何でも構いませんので。」
雅也が浜本警視正に大声を張りあげた。
「ふざけるな!!そんなもん確認してどうするんだ!!話をすり替えるんじゃない!!」
雅也は怒り心頭で浜本警視正のいう事を聞かなかったが、早苗は浜本警視正のいう通りにスマホで画像を確認したのだった。
すると早苗がひきつった表情で雅也に言ったのだった。
「ちょっとあなた??」
雅也が早苗に言った。
「なんだ??」
早苗が雅也に言った。
「おとといのお昼に栗田(くりた)さんがやってるラーメン亭あきらに一緒にラーメン食べに行ったわよね??」
雅也が早苗に言った。
「確かにおとといに彰(あきら)の店にラーメンを一緒に食べに行ったな??それがどうかしたか??」
「あの時私がスマホで写真を撮ったでしょ?」
「ああ、そういえば早苗が彰(あきら)の店で写真を撮ってくれたな。」
「写真に栗田さんが写ってるのよ?ちょっと見てくれない。」
「何を言ってるんだ?その写真は昨日俺に見せてくれたじゃないか。俺が味噌ラーメンの麺をすすっている写真だろう??彰(あきら)なんてどこにも写ってなかったぞ。」
雅也はそう言いながら早苗が握っているスマホに顔を近づけて画面を覗きこんだのだった。
そして雅也は驚愕したのだった。
「なんだこれは???」
雅也が浜本警視正に大声で言った。
「おい!!この写真はどういう事だ?」
浜本警視正も笹岡刑事も何も言わなかった。
「ふざけるな!!!彰が店の中で首吊りしてるじゃないか!!どういう事だ!!!」
早苗が写した画像の中にはラーメン店内のテーブル席で美味しそうにラーメンを頬張る雅也が大きく写っており、その左上の所に店主の格好をした男が首を吊っている様子が写し出されていたのだった。
早苗が雅也に言った。
「あなたはやく栗田さんに連絡をした方が。」
「そうだな。」
雅也はそう言うと慌ててスマホを取り出して連絡を取ろうとした。
だが電話は繋がらなかった。
仕方なく留守番電話に伝言を残すのだった。
「おい!!彰、悪いがすぐに連絡をくれ!!!」
その後メールやSNSも使って連絡を試みたが一向に返事が返ってこなかった。
早苗が心配そうな顔で雅也に言ったのだった。
「あなた栗田さんは大丈夫なの??」
雅也が早苗に言った。
「大丈夫に決まってるだろう!!図太い奴だ。すぐにこのスマホに連絡がくるはずだ。」
だがやはりいくら待っても雅也にも早苗にも連絡はなかったのだった。
雅也が大声で言った。
「彰のやつ??さっさと連絡をよこせ!!!不安になるだろうが!!!」
すると沈黙していた浜本警視正が口を開いたのだった。
「残念ですがこの写真に写っている彰(あきら)さんはすでに亡くなっているものと思われます。」
雅也が大声で浜本警視正に言った。
「亡くなっているだと??適当な事を言うんじゃねえぞ!!!」
浜本警視正が雅也に言った。
「確かに彰さんが亡くなっているという確認はとれませんのであくまで推測ではあります。」
雅也が浜本警視正に言った。
「そうだろう。彰にはラーメン亭あきらを北海道一の人気店にするっていう夢があるんだ。その夢を叶える前に死ぬ訳ないんだよ!!」
浜本警視正が雅也に言った。
「ですがその写真を見る限り彰さんは首を吊ってすでに亡くなっている可能性が高いと思われます。」
雅也が浜本警視正に言った。
「そもそもこの写真はどういう事なんだ??テメエは何か知ってる口ぶりだったな。どういう事かちゃんと説明しろ。」
浜本警視正が尋ねた。
「この写真が撮られた時の状況を詳しく教えてもらえますか?」
雅也が浜本警視正に言った。
「おとといだから7月11日の昼過ぎだ。明井田の杉根(すぎね)にあるラーメン亭あきらに味噌ラーメンを食べに行ったんだ。ラーメン亭あきらの店主の彰(あきら)とは昔からの馴染みで仕事が休みの日はこいつと一緒によく食べに行くんだ。」
早苗が雅也に同意しながら言った。
「ええ、私もこの人と一緒によく栗田さんの店に行きます。おとといもそんな感じで食べに行ったんです。」
雅也が浜本警視正に言った。
「それがなんで彰(あきら)が首を吊ってる姿が写ってるんだ!!!しかも俺がラーメンをすすっている後ろで!!!」
すると早苗が雅也に言った。
「ねえあなた??もしかしてこれは心霊写真か何かじゃないの?」
雅也が早苗に聞き返した。
「心霊写真だと??早苗、突然何を言い出すんだ??」
早苗が雅也に言った。
「栗田さんになにか良くないものが憑いてるんじゃない。それでこんな写真が撮れてしまったのよ。」
「幽霊が憑りついてるだと、早苗まで馬鹿な事を言わないでくれ。」
「だってあなたの後ろでロープで首を吊ってる栗田さんが写ってるのよ。私が写した時は栗田さんは元気だったわ。」
「そんな事言うまでもないだろう。俺達はおとといも彰(あきら)の店に行って、いつもと同じようにくだらない話をしながらラーメンを食べて、それで何事もなく帰ってきたはずだ。」
「そうでしょう。それじゃあこの写真は何なの??」
「分かるわけないだろう。」
「だからこの写真は心霊写真じゃないかって思うのよ。」
「そもそも俺は昨日この写真を見てるだぞ??昨日見た時は何も写ってなかったぞ。早苗だってこの画像を何度も見てるだろう。その時は首を吊った彰の姿なんてどこにも写ってなかっただろう。」
「ええ私が見た時も首を吊った栗田さんはどこにも写ってなかったわ。だからこの写真自体に悪い物が憑いてるとしか考えられないでしょう。」
「うーんそうだな。そう言われるとそんな気もしてきたな。確かに何か悪い物に取り憑かれているとしか考えられないか。俺が見た時も彰が首を吊ってる所なんて写ってなかったもんな。」
「そうよ、何か悪い物が憑いていてそれでこんな心霊写真ができてしまったのよ。」
「なら彰も連れてお祓いに行かないとな。」
「ええそうしましょう。」
すると浜本警視正が雅也に言った。
「先ほども申し上げましたが彰さんはすでに亡くなっていると思われます。」
雅也が浜本警視正に大声で言った。
「おいあんたはどうして彰が死んだ死んだと言うんだ!!そんなに俺の親友に死んでいてほしいのか??」
浜本警視正が雅也に言った。
「厳しい事を言っているのは承知していますが、どうか冷静に私の話を聞いてもらえませんか?」
雅也が浜本警視正に言った。
「冷静に聞いているだろうが!!」
早苗が雅也に言った。
「あなた??警視正さん達はきっと何か勘違いをされてるだけよ。」
雅也が早苗に言った。
「ふん。どうだかな。根性が腐ってるだけじゃないのか。」
すると早苗が警視正に尋ねた。
「警視正さん、すいませんがお祓いする場合は神社とかに行けばいいんでしょうか?こういう事は初めてなもので教えてもらえると助かります。」
浜本警視正が早苗に言った。
「残念ですがその必要はないと思われます。」
早苗が浜本警視正に聞き返した。
「どういう事ですか?」
浜本警視正が早苗に言った。
「この写真が心霊写真ではないからです。」
すると雅也が浜本警視正に大声で尋ねた。
「じゃあどういう事なんだ??」
浜本警視正がゆっくりと二人に言った。
「まずあなた方はおとといの7月11日の正午頃にラーメン亭あきらに味噌ラーメンを食べに行った。店内で味噌ラーメンを注文して店主である彰(あきら)さんがそれを持ってきてくれた。そこまではいいですか?」
雅也が浜本警視正に言った。
「ああ、そうだ。あいつは店を一人で切り盛りしてるからな。」
早苗が頷きながら浜本警視正に言った。
「はい。」
浜本警視正が少し言いづらそうに二人に言った。
「ここからが大変申し上げにくいのですが、恐らく店主の彰(あきら)さんがあなた達が味噌ラーメンを食べている間にあなた達が座ったテーブルの後ろの場所で首を吊って死んでしまった。そしてあなた方はそれを気にせずに味噌ラーメンを食べて彰(あきら)さんが首吊りをしているのを気にもとめずにそのまま家に帰ってしまった。そういう事だと思われます。」
これを聞いた雅也は激高したのだった。
大声で浜本警視正を怒鳴りつけた。
「ふざけるな!!俺が彰(あきら)が首を吊るのを笑顔で見てたとでも言いたいのか!!」
早苗が涙目で浜本警視正に言った。
「ひどいですよ、警視正さん。そんな事を言うなんてあんまりです。私達はそんな事をしません。」
雅也が浜本警視正に大声で言った。
「そうだ、俺たちがそんなひどい人間に見えるのか!!彰(あきら)が首を吊ろうとしたら全力で止めるに決まってるだろう!!」
早苗が浜本警視正に言った。
「人としての最低限の心は持っているつもりです。」
雅也が浜本警視正に言った。
「早苗のいう通りだ。それに昨日俺達はあの写真をすでに見てるんだ。昨日見た時は何も写ってなかったぞ。」
雅也が早苗に尋ねた。
「なあ早苗?」
早苗が浜本警視正に言った。
「はい、この人のいう通り何も写っていませんでした。」
浜本警視正が二人に言った。
「恐らくこの画像には最初から彰さんの首吊りが写っていたと思われます。ですがあなた方は昨日この画像を見た時に栗田さんの首吊りが写っているにも関わらずそれを気にも止めなかっただけと思われます。」
雅也が浜本警視正に言った。
「どうやら貴様は俺達を何が何でも人でなしと決めつけたいようだな!!!俺達を貶めてそんなに楽しいか!!」
早苗が浜本警視正に言った。
「警視正さん、なんでそんなひどい事ばかり言うんですか。」
するとここまで沈黙を守ってきた笹岡刑事が二人に言ったのだった。
「店は彰さんが一人で切り盛りしてるんですね?でしたら味噌ラーメンを注文した代金をちゃんと彰さんに支払って帰りましたか??」
雅也が今度は笹岡刑事を睨みながら怒鳴りつけた。
「なんだと、テメエは俺が食い逃げをしたと言いたいのか?失礼にも程があるぞ貴様ら!!!」
だが笹岡刑事は雅也に続けて言った。
「非礼は承知でお尋ねしています。栗田さんが一人で店を切り盛りしていたのなら首を吊ってしまうと店の会計はできなくなるはずです。ちゃんとお金を払って店を出ましたか??よく思い出してください。」
雅也は笹岡刑事を睨みつけながら言った。
「ふん、そんなもの聞かれるまでもない。」
雅也と早苗は記憶の糸をたぐりながら思い出し始めるのだった。
するとさきほどまで怒りくりっていた夫婦の顔色が嘘のように青ざめていった。
青ざめた顔で雅也が早苗に尋ねた。
「俺は・・・・払ってないぞ??・・・・早苗お前が払ってくれたのか??」
同じく顔を青くしている早苗が雅也に言った。
「私は・・・・払ってないわ。」
早苗が雅也に尋ねた。
「あなた??なんでお金を払わなかったの?」
雅也が困惑した様子でしどろもどろに答えるのだった。
「だって払いたくても、・・・あれっ??・・・あれっ?・・・なんで俺はあの時お金を払わなかったんだ?」
今度は雅也が早苗に尋ねた。
「早苗こそなんでお金を払ってくれなかったんだ。」
早苗が雅也に言った。
「えっ??だってそれは?あれ?・・・・あれ?・・・・なんで私は払わなかったのかしら??」
早苗が恐る恐る雅也に尋ねた。
「ねえ??おとといに店から出る時に栗田さんに声をかけたかしら??あなたいつも会計を済ませたらレジ前で栗田さんと話してるでしょ??」
雅也の顔はすでに顔面蒼白になっていた。
その顔面蒼白の顔で早苗に言った。
「・・・・・・話してないな。」
早苗が雅也に尋ねた。
「あなた?なんであの日は栗田さんと話をしなかったの??」
雅也が早苗に言った。
「話ようがないだろう?・・・あれっ??・・あの日なんで俺は帰るときに彰と話をしなかったんだ??なんで俺はあの日は会計をしなかったんだ?」
雅也と早苗は必死に記憶をたぐりよせていった。
そしてとんでもない記憶をどんどん思い出していったのだった。
雅也が言った。
「そうだ、彰は俺たちに味噌ラーメンを持ってきた後で急に無言になって床に座り込むと持っていたペンで店の床に何かを書き始めたんだ。」
早苗が言った。
「そうよ、それでしばらく床に何かを書き続けた後で、栗田さんはロープを厨房から持ってくると主人の横を歩いていったんです。それで天井の柱が出ている所にロープを通すとそのままテーブルの上に上がってそのまま首を吊ったんです。」
雅也が言った。
「なんで俺は彰(あきら)が首を吊るのを黙って見ていたんだ?なんで俺は彰(あきら)が首を吊ってたのにそれを気にもかけずにそのまま帰ってきたんだ??」
早苗が言った。
「どうしてあの時の私は栗田さんが首を吊るのを黙って見ていたの??」
雅也が言った。
「どうして俺は彰が首を吊った写真を見て何とも思わなかったんだ??」
早苗が言った。
「どうして私は栗田さんが首吊りの写真を気にもとめなかったの?」
早苗が悲しそうな表情で雅也に言った。
「私どうかしちゃったのかしら?」
雅也が早苗に言った。
「それは俺の方だ。俺はいつからこんなクズ野郎になってしまったんだ。親友が首を吊って死んでしまったのに、いつの間にかそれに気にもかけないクズ野郎になり果ててしまった。俺の方がどうかしてしまってる。」
雅也が苦しそうな表情で言った。
「すまない彰(あきら)!!俺がすぐに救急車を呼んでいれば助かったかもしれないのに!!!俺は親友を見殺しにしてしまった!!俺はなんてひどい奴なんだ。」
すると笹岡刑事が雅也に言った。
「村上さん、あまりご自身を責めないでください。実はこの状況に陥っているのは村上さん達だけではないのです。」
早苗が笹岡刑事に尋ねた。
「そうなんですか?」
雅也が早苗に言った。
「それじゃあこのおかしな状況は俺達だけじゃないのか?」
笹岡刑事が二人に言った。
「はい。我々は明井田市にいる全ての人々が村上さんと同じ状況に陥っていると考えています。現在明井田では異常な集団首吊りによってたくさんの人々が死んでいっています。ですが明井田にいる人々はこの異常な集団首吊りを全く気にしていません。」
二人は笹岡刑事に聞き返した。
「明井田中の人間が?」
笹岡刑事が二人に言った。
「はい、明井田中の人々全てがです。おそらくこれは抗う事はできない事なのでしょう。」
雅也が尋ねた。
「そうだったのか?それじゃあまさか俺達をこの異常な状況から助けるためにこんな事をしたのか?」
浜本警視正が雅也に言った。
「はい、その通りです。明井田の中にいてはこれに気づいてもらう事はできないので、この状況を理解してもらう為には何とかして明井田から出てもらう必要があったのです。その為に今回のガス漏れ事故の芝居をしたという訳です。」
笹岡刑事が二人に言った。
「先ほどは厳しい事ばかり言って申し訳ありませんでした。」
雅也が浜本警視正と笹岡刑事に言った。
「いや謝らなければならないのは俺の方だ。警視正さん、それに刑事さんもさっきは怒鳴ってすまなかった。明井田から俺と早苗を助け出してくれて感謝するよ。ありがとう。」
早苗も深々とお辞儀をしながら言った。
「助けてくださって本当にありがとうございました。」
浜本警視正が二人に言った。
「いえ職務を果たしただけです。」
このような説明は九木礼署にいる刑事達によって避難してきた他の人々にも順次行われていった。
避難してきた人々は最初こそ激高していたが明井田での画像や動画を見て明井田市内の異常な状況を理解していくと怒りに支配されていた人もすぐに恐怖に包み込まれていったのだった。
その日の夕方明井田の下瀬から避難してきた人々が九木礼警察署に集まってきていた。
避難してきた人々の意志を確認する為に集まってもらったのだった。
浜本警視正がみんなに言った。
「ではお尋ねします。明井田に戻りたいと考える方はいらっしゃいますか?明井田に戻りたい方は遠慮なく手を挙げてください。」
避難してきた人々は誰も手を上げなかった。
「明井田に戻ったら頭がおかしくなってしまう。二度と行くもんか。」
「あんな場所に二度と戻りたくないです。」
「明井田に戻るのだけは絶対にごめんだ。」
すると避難してきた人の一人が尋ねた。
「ところでこの九木礼は大丈夫なのか?」
浜本警視正がその人に言った。
「はい、この九木礼では安全が確認されており、明井田ような状況に陥る事はありません。ご安心ください。」
その人は安堵した様子で言った。
「なら良かった。」
浜本警視正がみんなに言った。
「では今後のお話をさせて頂きます。」
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