あなた達を異世界の勇者として召喚してあげますよ?

しまうま弁当

文字の大きさ
上 下
53 / 135
一章

情報不足

しおりを挟む
 外出禁止はとりあえず解除になった。屋敷に戻れるとのことなので、早く家に帰ってマーサのお茶を飲んでゆっくりしたい。元は庶民なのだ。やはりお城なんて緊張するものである。

「リィ、もう帰るのか」

 殿下が寂しそうに呟く。そりゃ、帰りますよ。ここは自宅ではないですし。でもそう言うと、いずれは自宅になるのだからとか言い出すので黙っておく。

「明日また来たらいいから。明日は1日休みにしてゲームをして遊ぼう」

 そんなに遊んでばっかりでいいのか?魔物が出て大変だったんだから、もう少し働かないと国民から不満が出るぞ。と、微笑みながらも心の中で文句を言う。結婚して大丈夫なのだろうかと、不安にもなってきた。

「なりません、今は国民のために事態の終息を目指す時です」

 思わず言ってしまった。真理子時代、忙しい時に呑気にお茶を飲んでいた上司を思い出してしまったのだ。

「リィ・・・」

 殿下がやや涙目になったのを見て、やってしまったと後悔した。だが言ってしまったものはしょうがない。

「で、殿下・・・」
「リィ、なんて・・・なんて・・・」

 婚約破棄か、初の大げんかに発展するか。だが間違っていないぞ。私は殿下の前に立ち、殿下の目を見た。小動物のように可愛らしく見えてきた。

「なんて、素晴らしいんだ!」

 殿下が興奮したように叫ぶ。

「すでに国民のためを思い、殿下に意見できる。最高の伴侶だ!」

 横で聞いていたドミニク様は胸に手を当てプルプル震えている。

「さすがマリアンヌちゅあん。今すぐにでも婚姻を成立させようか」

 陛下、戯れも過ぎますぞ。と、私は時代劇で見た家老の気分になった。

「聞いたか、アレン。妃とはこんなに素晴らしい意見を出せるものなのだ」
「はい、この耳でしかと拝聴しました。マリアンヌ様は国の宝です」

 たかだか働けと言っただけでこの反応。どうなっているんだか。とにかくこの馬鹿騒ぎが早く終わって、無事に家でお茶を飲みたいわ。

「妃教育も始まるのだから、マリアンヌちゃんのお部屋も早く用意しないと」
「やはり、部屋は我々の隣にしようか。夜中に目が覚めてパパとママがいないって泣くかもしれないからな」
「南の庭園が見渡せる部屋にしましょう、あそこなら私の私室と近いもの」
「母上、リィは私の妻となるんですよ。母上の私室の近くに住まわせたら、私が遠くなるではないですか」
「壁紙はピンクで金をあしらおうか。ピンクだけで200色はあるからな。マリアンヌちゅあんのピンクを見つけ出さないと」

 全員無駄に張り切りだした。仕事が忙しすぎると、おかしなことを言って現実逃避をするものなのだ。と、思うようにした。これはもうキリがない。一国の国王陛下を相手にして不敬かとは思うが、仕方がない。いずれは舅となる人なのだ。今から慣れよう。

 王族の一員になるのも不安があるが、それよりも心配なことがある。お妃教育である。勉強など10年以上やっていない。ついていけるのか不安でしかない。だが不安を口にすると、寄ってたかって大丈夫だよと慰められるだろう。慰められるだけならいいが、やらなくてもいいと言い出しかねない。そうなると将来的に困るのは自分自身だ。何も知らない妃など国民からすれば不要な存在。国家に不審をもたらすきっかけにだってなる。

 とにかくやるしかない。私は不安を心の奥に隠し、部屋をどうするかなどと揉めている王族に笑顔を見せた。笑ってたらどうにかなる。そう思うしかない。それで・・・。

 顔の筋肉が死んだように固くなるくらいに笑顔を見せて立っていた。心はとっくにどこかへ行ってしまった。ようやく自宅のお屋敷に戻ってきた時は、すでに自分は放心状態を通り越して宇宙の彼方に飛んでいっていたと思った。お城に1泊しただけなのだが。

「お嬢様!」
「よくぞご無事で・・・」
「お帰りなさいませ」

 セバスチャン、マーサ、メアリが迎えてくれる。マーサが涙ぐんでいる。よくぞご無事って、魔物が出たからだよね。王族と会っていたからじゃないよね。

「怖いご経験をされたと伺っております。すぐお休みになってください」

 気づくとセバスチャンの手が震えている。どんな報告を聞いたかわからないけど、魔物が出現して知らない令嬢に怪我させられたわけだから驚くのは仕方がない。

 私はセバスチャンの手を握った。

「ありがとう、でも私は大丈夫。それよりマーサのお茶を飲みたいわ」

 にっこり笑うと

「お・・・お嬢様」
「私のお茶なら・・・すぐにご準備いたします」
「さぁ、こちらへどうぞ」

 3人が動き出した。お城の人たちもいい人たちだったけど、うちの使用人もすごいよね。できる使用人は違う。私はソファに座った。大きなため息が出てしまう。やっぱりうちはいいなぁ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...