あなた達を異世界の勇者として召喚してあげますよ?

しまうま弁当

文字の大きさ
上 下
41 / 135
一章

山ノ上

しおりを挟む
麻衣子は神社内を調べて回った後で、美咲と由香が待つ拝殿の前に戻った。

麻衣子が戻ると美咲が尋ねてきた。

「ねえ、麻衣子?何か見つかった?」

麻衣子が美咲に言った。

「ええ、ここの場所の見当はついたわ。」

美咲が麻衣子に尋ねた。

「本当?」

麻衣子が美咲に言った。

「たぶん九木礼町の中だと思うわ。あっちの鳥居の前から九木礼の町が見えたから。そしてここは封木神社よ。」

美咲が麻衣子に尋ねた。

「なんでそんな事が分かるのよ?」

麻衣子が美咲に言った。

「社務所の中に古びた看板があったのよ。その看板にこう書いてあったの。封木神社上社(ふうきじんじゃかみやしろ)ってね。」

由香が麻衣子に言った。

「えっそれじゃあ?」 

麻衣子が由香に言った。

「たぶん、私達がさっきまでいたのが、封木神社の下社(しもやしろ)で今いるのが上社(かみやしろ)なんだと思う。」

麻衣子が美咲と由香に言った。

「封木神社は二つあるって事だと思う。二つで一つの神社なんだよ、きっと。私達がさっきまでいたのが下社、そして今いるのが上社。そう考えればつじつまがあうわ。だとすると私達は封木山の頂上付近にいると思うの。」

由香が麻衣子に尋ねた。

「じゃあこの山を下っていけば、帰れるって事ですか?」

麻衣子が由香に言った。

「うん、たぶんね。」

美咲が麻衣子に尋ねた。

「ちょっと待ってよ!そもそも私達なんでこんな所にいるのよ?」

麻衣子が美咲に言った。

「そう確かにそこは大問題なのよ。さっきまで封木神社の下社にいたのよ?それが上社にいるのはどう考えてもおかしいわよね。」

美咲が麻衣子に尋ねた。

「まさか、誘拐されたんじゃないの私達?」

由香が美咲に言った。

「ええっ?そうなんですか?」

麻衣子が美咲に言った。

「その可能性はあるとは思うけど?ねえ私達以外に誰か見かけた?」

美咲が麻衣子に言った。

「えっ?なんでよ?見かけてないけど?」

麻衣子が美咲に言った。

「そうすると誘拐の可能性は低いんじゃないかな。」

美咲が麻衣子に尋ねた。

「どうしてよ?」

麻衣子が美咲に言った。

「それなら犯人がいるはずでしょ?私はここで美咲と由香以外は誰も見てないわ。」

美咲が麻衣子に言った。

「わかんないわよ?どっかから隠れて私達を見てるんじゃないの?」

由香が心配そうに美咲に言った。

「ええっ?そうなんですか?」

麻衣子が美咲に言った。

「ちょっと美咲?怖くなるからそんな事言わないでよ?」

だが麻衣子はその可能性がほぼないと考えていた。

三人の靴や服にたくさんの泥や土が付着していたからだ。

土が付着しているという事は自分達で登ってきた事を意味していた。

だがそんな事を言えば二人は今以上に怖がってしまうだろう。

だからその事を麻衣子は黙っている事にした。

麻衣子は話題を変える事にした。

「それよりもこの後どうするかを考えましょう?」

だが美咲は麻衣子に返事をしなかった。

麻衣子が美咲の方を見ると美咲が麻衣子の方を凝視していた。

麻衣子は不思議に思い美咲に尋ねた。

「どうしたの美咲?」

だが美咲は何も答えなかった。

すると麻衣子は一つの事に気がついた。

美咲は麻衣子の方を見ていなかった。

麻衣子のいる場所とは別の方向を見て固まっていたのだ。

隣にいる由香も美咲と同じ方向を見て固まっていた。

そして美咲がゆっくりと手を上げて何かを指さして言った。

「ま、麻衣子、あっあれ?」

その時、動物の鳴き声とも人間の雄叫びとも違う音が耳に入ってきた。

・・・グーオーン!!!

麻衣子は美咲が指さしている方角をゆっくりと顔を振り向けた。

美咲が指を指していたのは、先ほど雷が落ちた大木の前辺りだった。

麻衣子が振り向くとそこには誰もいなかった。

だが別の何かがそこに存在していた。

大人の人間がすっぽり入ってしまうぐらいの大きさの黒い球体の物が地表から数メートルの所に浮いていたのだ。

その黒い物は雷が落ちた大木の前に浮いていた。

麻衣子はその不思議な光景を眺めていた。

そしてある事に気がついた。

黒い物が浮いているのではなく、真っ黒い闇が浮いているのだ。

何かの黒色の物が浮いているなら光の反射などがあるはずだ。

だがこの黒い物にはそういった反射は一切無かった。

その球体のなかにはどこまでも底なしに引きづり込まれそうな闇が広がっているのだ。

麻衣子達の周囲は日暮れ前でまだかなり明るかった。

だがその球体の中にはただ純粋な闇が広がっているのだ。

一切の光を通さない球体の形をした闇が雷の落ちた大木の前の宙に浮いているのだ。

麻衣子はこの様子を見ていて次第に恐怖を感じ始めていた。

すると再び不気味な音が響き渡った。

・・・・グオーン!!!

麻衣子はこの音は黒い物の中から発させられたような気がしたのだった。

そしてさきほどよりも大きな音量で不気味な音が響き渡った。

・・・・グオーン!!!

麻衣子は固まってしまった。

間違いない!この不気味な音はこの黒い物の中から聞こえてくる。

麻衣子はそう感じていた。

するとさきほどとは比べものにならない大きな音が響いた。

・・・グオーン!!!

そして間髪あけずに再び響き渡った。

まるで回りにいる全ての者を威圧するように!!

・・・グオーン!!!・・・グオーン!!!

そして麻衣子はこの黒い物には意思があると確信したのだった。

つまりこれは音ではなく声なのだ!!

黒い物がまるで私を威圧するように、まるでその暗闇に私達を引きづり込もうとしているように、私達に向けて発せられているのだ!!

するとその黒い物が不気味な声をあげながら、麻衣子達のいる方に向かってゆっくりと宙に浮きながら近づいてきた。

不気味な声を叫びながら!!

・・・グオーン!!・・・グオーン!!

・・・グオーン!!・・・グオーン!!

ゆっくりとその黒い物は麻衣子達に近づいてきた。

麻衣子は恐怖のあまりその場から走って逃げ出したかった。

だがなぜだかは分からないが、体を動かす事ができなくなっていた。

足を動かす事もせずに視線をそらす事もせずにじっとその黒い物が近づいてくるのを見つめていた。

ただ、ただじっと見つめていた。

それは美咲と由香も同様で黒い物が近づいてくるのをただ黙って見つめていた。

・・・グオーン!!!・・・グオーン!!!

・・・グオーン!!!・・・グオーン!!!

ゆっくりとしかし確実にそいつは不気味な声をあげながら麻衣子達に近づいていった。

そして麻衣子達の目の前までやって来た。

黒い物の不気味な声が周囲に響き渡った。

・・・グオーン!!!・・・グオーン!!!・・・グオーン!!!・・・グオーン!!!・・・グオーン!!!・・・グオーン!!!・・・グオーン!!!

そしてそいつは姿を消したのだった。

するとまるで呪縛が解けたかのように、麻衣子と由香と美咲は動けるようになった。

麻衣子はその場に座り込み、美咲と由香はしばらくの間震えていた。

少しして美咲が沈黙を破って言った。

「い、今のなんだったの?!!!あの黒い奴、何よ?」

麻衣子が美咲に言った。

「分かる訳ないでしょ。」

美咲が大きな声で言った。

「もうやだーー!!一体なんだって言うのよ!」

麻衣子自身もさきほどの事が怖くて仕方がなかった。

だが私がしっかりしなきゃとも考えていた。

だから美咲や由香よりは冷静さを保つ事ができていた。

麻衣子が美咲に言った。

「美咲!!今の事は忘れて!!きっと何かの見間違いよ!」

美咲が麻衣子に言った。

「あれが見間違いな訳ないでしょ?」

麻衣子が美咲に言った。

「きっとカラスか何かよ?」

美咲が麻衣子に言った。

「あれのどこがカラスだって言うの!!」

麻衣子は美咲の両肩に手を置いて諭すように言った。

「いい、美咲!今は冷静にならなきゃダメ!!だから落ち着いて息をして!」

美咲は麻衣子に言葉で冷静さを取り戻した。

「そうね。」

そして麻衣子が由香に言った。

「由香、大丈夫?」

心配そうに麻衣子が由香を見つめた。

由香は地面に座って震えていた。

麻衣子が由香に言った。

「由香!大丈夫だから!!」

由香が恐怖に震えた顔で麻衣子に言った。

「で、でも!!麻衣子さん!!」

麻衣子が優しい口調で由香に言った。

「きっと何かの見間違いだから。ねっ?そうに決まってるわ。」

麻衣子は必死に由香を落ち着かせた。

麻衣子は由香にやさしく話しかけて、由香も落ち着きを取り戻した。

すると麻衣子が美咲と由香に言った。

「さっきの事はもう忘れましょ。話題にするのも禁止?どう美咲?由香?」

由香も美咲も頷いて、さきほどの黒い物の事は話さないように決めた。

そして麻衣子が美咲と由香に言った。

「さてとそれじゃあこれからどうする?」

美咲が麻衣子に言った。

「もう一度三緒さんに電話してみてよ?」

麻衣子がスマホを取り出して画面を操作した。

麻衣子が美咲に言った。

「やっぱりダメだね。つながらない。圏外表示になってる。」

美咲が麻衣子に言った。

「なんでつながらないの?」

麻衣子が美咲に言った。

「さあ?なんでだろうね?」

美咲が麻衣子に言った。

「もう一度かけてみてよ?」

麻衣子が美咲に言った。

「もう何度もかけてるでしょ?」

美咲が麻衣子に言った。

「もう一回だけ、もしかしたら繋がるかもしれないじゃない?」

麻衣子が美咲に言った。

「まあ、別にいいけど。」

麻衣子は再び自分のスマホを操作した。

だが画面にはやはり圏外の表示がされていた。

通話ができるかも試したが通話もできなかった。

麻衣子が美咲に言った。

「もしかして壊れちゃったのかな?まだ買ってもらったばっかりなのに?」

美咲が麻衣子に言った。

「それじゃあ仕方ないわ、下山しましょ。」

麻衣子が驚いた様子で美咲に言った。

「ちょっと美咲?まさか今から下山する気なの??もうすぐ日没よ?下山してる途中で真っ暗になっちゃうわよ。この上社(かみやしろ)で明日の朝まで待ってた方がいいわ。」

美咲が麻衣子に言った。

「ちょっとそれ本気で言ってるの??こんな所にいたい訳ないでしょ??」

麻衣子が美咲に言った。

「いやもちろん分かるんだけど。暗くなると山道ってかなり危ないわ。時間も遅いしここは動かない方がいいと思うわ。」

美咲が麻衣子に言った。

「いやよ、こんな所で一晩過ごせる訳ないでしょ?」

麻衣子が美咲に言った。

「もちろん私だってそう思うわ。でも美咲は山道をなめすぎよ?暗くなったらどうやって移動するつもりなの?」

美咲が麻衣子に言った。

「暗くなる前に下山すればいいだけでしょ?はやく行きましょ?」

麻衣子が美咲に言った。

「いや、だから!下山しない方がいいって!」

美咲が麻衣子に言った。

「急いで下山すれば間に合うわ!だから下山しましょう?」

麻衣子が美咲に言った。

「もう午後6時過ぎてるんだよ?下山してる途中で真っ暗になるに決まってるわ!」

美咲が麻衣子に言った。

「何としても今日中に下山したいの!!お願いよ、麻衣子!!」

結局美咲に押しきられる形で下山する事になった。

麻衣子達は下山をすぐに始めたが、麻衣子の心配通りすぐに日が暮れてしまった。

そして夜のとばりに包まれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...