婚約破棄をしてくれてありがとうございます~あなたといると破滅しかないので助かりました (完結)

しまうま弁当

文字の大きさ
上 下
3 / 9

03

しおりを挟む
 
 神殺しの剣テュルファングと出会って以降、地味に呪い関連の事案が絡んでくる機会が増えた気がする。
 ルーシーによれば「わたしの魔力の波長に反応しているのかも」とのこと。
 ほら、幽霊とかって視える人のところに寄ってくるって話を聞いたことない?
 自分のことが視えているのならば、きっと話も聞いてくれるだろうと、すがる想いにて、うらめしやー。
 わたしを取り巻く状況は、どうやらそれに近いものらしい。
 いくら健康スキルの恩恵にて、呪いなんてへっちゃらな体質の女とはいえ、なんて迷惑な! ノットガルドにはネクロマンサーがいるんだから、そっちへ行けよ! こっち来んな!
 それでもって、今回はコレだよ。
 井戸の底から聞こえてくるのは「ピチピチギャルとデートしてえ」とか「おっぱいの大きな未亡人に囲われてえ」とかいうふざけた台詞。
 そんなもの、わたしだって囲われたいよ! そして膝マクラにて存分に甘やかしておくれ!

 井戸の底にはロープを括りつけたルーシーさんに行ってもらった。
 だってわたしだと、その辺にロープを括りつけて降りることになる。そして引き上げてもらえないので、自力でよじ登ることになる。しかも荷物をかついで。
 作業効率を考えた結果が、この配役である。
 ゆっくりとルーシーが吊るされたロープを下ろしていく。
 ある程度いったところでロープが向こうからクイクイと反応。
 すぐさま引き上げたところ、ルーシーの手には小さな石のコケシみたいなのが握られてあった。井戸の底が横に掘られており、一番奥の祭壇にて飾られてあったという。
 五百ミリリットルのステンレスケトルぐらいの大きさ。重さもちょうどそれぐらい。
 その石のコケシがお天道さまの下に出たとたんに「夏の太陽は嫌いだ。あとビーチのカップルども、うぜー。全員爆ぜろ。もしくはモゲろ」と言った。

「これがアルチャージルに災いをもたらす……、邪悪?」

 わたしが首をかしげるとルーシーも「たぶん」と自信なさげに首をかしげた。
 だが当の石のこけしはやたらと自信に満ち充ちていた。

「おうとも、オレさまがその気になれば、リゾートだのバカンスだのと浮かれているバカどもなんぞ、あっという間に不幸のどん底へと叩きおとしてやるわ」

 ちょろちょろ漏れる呪染だけで、いろいろと災いを招いているところからも、実力はある。まんざら大言壮語というわけでもないのかもしれない。
 だからとっとと叩き壊そうとしたら、ルーシーに止められた。

「いけません、リンネさま。この手のトラップは迂闊に手を出すと爆発すると相場が決まっているので」
「なら埋めるか? コンクリートでがっちりと固めて」
「おそらくですが、それとても一時しのぎでしょう。どうやら封印されている間に、身に染みついた呪いが薄まるどころか、ますます熟成されて濃くなっている様子。ヘタに埋めて放置していたら、次はとんでもないことになるかもしれません」
「えー、めんどくせー。でもそうしたらどうすればいいのよ」
「そうですね……。当人にきいてみるのが手っ取り早いかと」
「?」
「呪いというモノは強い想いの残滓。その想いを成就してやれば、呪いも自然と霧散するというもの」
「なるほど、そういうことか。よし、わかった。じゃあ、とりあえず石のコケシにたずねてみよう」

「コケシさん、コケシさん、どうすれば穏便に逝ってくれますか? 教えてください」

 主従してめっちゃへりくだって教えを請うたら、「しょうがねえなぁ」とコケシ。「そうだな、オレさまデートがしたい」とか言い出した。
 これにはさしものルーシーの青い目も点となる。あまりにもしょうもない願いだったからだ。
 だがわたしには彼の気持ちがちょっぴりわかる。
 いや、いささか見栄を張った。悲しいことに、むしろガッツリわかってしまう。
「カップル爆ぜろ」とか「リア充くたばれ」とか悪態をついてる人ほど、じつは内心でとっても彼らをうらやましがっている。
 自分の殻に閉じこもり、斜にかまえることで、夏をやり過ごし聖なる夜に息を潜め、どうにか己のちっぽけな自尊心を守っているにすぎないのだ。
 その殻とて、ほぼほぼ紙装甲。
 だからやさしくしてちょうだい。すぐに破けちゃうから。
 自分もイチャコラしたい。でも出来ない。相手がいない。ならば自分から動け。そんな真似が出来れば誰も苦労してねえよ! スズメ並みのチキンハートを舐めんな! 
 あー、自分から行く意気地なんてないし、誰か告白してくれないかなぁ。
 いまならフリーよ。浮気もギャンブルも酒もタバコもしない。暴力なんてもってのほか。こう見えてマジメで一途な優良物件だよ。早い者がちだよ。ウエルカム、ラバー!
 しかし、現実はどこまでもしょっぱい塩対応。
 基本的に棚からボタ餅は降ってこない。大口を開けてバッチこーいと待っていても、口の中がカラカラに乾燥し、ノドがいがらっぽくなるだけ。
 この石像を彫っていた古代の勇者も、はじめのうちは怨念を込めるかのようにして彫り進めていたのであろうけれども、歳月が経つうちに、そこに憧れやうらやましいという気持ちが上塗りされていったと。
 誰かに愛されたい。
 誰かに必要とされたい。
 そして誰かを愛したい。

「デートがしたい」

 石のコケシの、しようもない願いに込められた、切実なる心情。
 これをくみ取ったわたしはひと肌ぬぐことにした。

「しようがないね。そういうことなら、このピッチピチのわたしが相手をしてやるよ」

 報われない野郎の魂を鎮めるために、いま乙女が立ちあがる!
 だというのに、石のコケシは「えー、オレは胸の大きな子が好みなんだけど」とかぬかしやがったから、すかさずスコーピオン断罪トゥーキック。
 つい反射的に蹴飛ばしてしまい、森の奥へと飛んでいく石のコケシ。
 おかげで探す手間が増えた。
 だがこの一撃が功を奏す。

「へへっ、オレは気の強い女も嫌いじゃないぜ。ツンデレ、いいじゃないか」だってさ。

 どうやらコイツを彫った男は、かなり守備範囲が広いらしい。
 それから石のコケシが阿呆で助かった。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

理不尽に追放された神の加護を持つ娘、隣国で幸せになる

四季
恋愛
神の加護を持つ娘フルレイヌ・アンドラは自国の王子と婚約したのだが、王子から責められ、しまいには追い出されてしまった……。

【完結】双子の妹にはめられて力を失った廃棄予定の聖女は、王太子殿下に求婚される~聖女から王妃への転職はありでしょうか?~

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
 聖女イリーナ、聖女エレーネ。  二人の双子の姉妹は王都を守護する聖女として仕えてきた。  しかし王都に厄災が降り注ぎ、守りの大魔方陣を使わなくてはいけないことに。  この大魔方陣を使えば自身の魔力は尽きてしまう。  そのため、もう二度と聖女には戻れない。  その役割に選ばれたのは妹のエレーネだった。  ただエレーネは魔力こそ多いものの体が弱く、とても耐えられないと姉に懇願する。  するとイリーナは妹を不憫に思い、自らが変わり出る。  力のないイリーナは厄災の前線で傷つきながらもその力を発動する。  ボロボロになったイリーナを見下げ、ただエレーネは微笑んだ。  自ら滅びてくれてありがとうと――  この物語はフィクションであり、ご都合主義な場合がございます。  完結マークがついているものは、完結済ですので安心してお読みください。  また、高評価いただけましたら長編に切り替える場合もございます。  その際は本編追加等にて、告知させていただきますのでその際はよろしくお願いいたします。

【完結】あなたの瞳に映るのは

今川みらい
恋愛
命を救える筈の友を、俺は無慈悲に見捨てた。 全てはあなたを手に入れるために。 長年の片想いが、ティアラの婚約破棄をきっかけに動き出す。 ★完結保証★ 全19話執筆済み。4万字程度です。 前半がティアラside、後半がアイラスsideになります。 表紙画像は作中で登場するサンブリテニアです。

【完結】結婚初夜。離縁されたらおしまいなのに、夫が来る前に寝落ちしてしまいました

Kei.S
恋愛
結婚で王宮から逃げ出すことに成功した第五王女のシーラ。もし離縁されたら腹違いのお姉様たちに虐げられる生活に逆戻り……な状況で、夫が来る前にうっかり寝落ちしてしまった結婚初夜のお話

サレ妻王太子妃は実家に帰らせていただきます!~あなたの国、滅びますけどね???

越智屋ノマ@甘トカ【書籍】大人気御礼!
恋愛
小国の王女だったヘレナは、大陸屈指の強国「大セルグト王国」の王太子妃となった。 ところが夫である王太子はふしだらなダメ男。怜悧なヘレナを「お高くとまった女」と蔑み、ヘレナとは白い結婚を貫きながらも他の女を侍らせている。 ある日夫の執務室を訪ねたヘレナは、夫が仕事もせずに愛妾と睦び合っている【現場】を目撃してしまう。 「殿下。本日の政務が滞っておいでです」 どこまでも淡々と振る舞うヘレナに、罵詈雑言を浴びせる王太子と愛妾。 ――あら、そうですか。 ――そこまで言うなら、実家に帰らせていただきますね? あなたの国、滅びますけどね??? 祖国に出戻って、私は幸せになります。

第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい

麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。 しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。 しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。 第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。

処理中です...