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#44 金欠
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あれから2週間が経った。
その間アリサとは会話も交流もなくなり、すっかりエアフレと化している。かと言ってフレンドが切られたわけでもないので、時折フレンドリストからアリサの行動を観察していると、昔と変わった行動を取っていることに気が付いた。
いつも俺の学校が終わる前にはログインしているアリサが、火曜日には何故か遅れてログインする。そして、その後すぐにパーティを組んでいるということだ。組んでいる相手はフィロソフィで間違いないだろうな。そして、ログインしたかと思ったら1時間ほどでログアウトしてしまう。
以前、俺がフィロソフィとアリサの2人と炭鉱でレベル上げをしたときも火曜だったことを思い出す。その時も時間を気にしていたようだったし、不可解な行動を取っていた。
どうしてこのような行動を取っているのか……まあ大体予想は出来るんだけど、これからも観察してみようと思う。何か発見があるかもしれない。
◇
ユリア、もちこ、モフモフ、この3人で固定パーティを組み、この2週間は交流を深める意味合いも込めて、レベル上げや、ダンジョンの攻略、レアドロップアイテムを狙ったりと、冒険らしい冒険を久しぶりに行った。
そうそう、ギルドの制服ってやつも作ってみたんだ。まあ制服って言ってもディアボロスのロゴが入ったマントを羽織るくらいなのだけど、個性を大事にしていく方針なのでこれくらいがちょうどいいだろう。これでチーム感を出すことが出来たと思う。
俺のレベルは46から57まで上がり、上級プレイヤーにもギリギリ食い込めるくらいのレベルだ。固定パーティの良いところは、仲間の行動に遠慮なくアドバイス出来るという点だ。野良パーティだとこうはいかないし、口を出してしまうと指示厨として嫌われてしまうのが関の山。
俺の指導は自分でもスパルタだと思うけど、3人とも嫌な顔をせず、しっかりとついて来てくれていた。そうしているのも、みんな理由があるからなのだろう。
俺は復讐のため、もちこは強豪ギルドを目指すために、モフモフは遊び相手が欲しいため。ユリアは……なんだか俺に依存しているように見える。
理由はバラバラだけど、こうやって一緒に行動することにそれぞれ意味がある。思えば奇妙な関係だ。それでもお互いに信頼し合っているんだよね。
信頼できる仲間がいるって本当に素晴らしいことだ。小学生のときなんかは親友と一緒に居るだけで、なんでも出来るような気がしたものだけど、今もそれに近いものを感じる。この一体感は久しぶりの感覚だ。
そんな冒険の途中で魔法使いのスキルをある程度習得し、魔剣士へとランクアップが可能になったので、せっかくだし魔剣士になろうかなと、職業変更が出来るハローワークもとい、世界樹へと向かったのだった。
≪世界樹≫
鮮やかな緑の草原の中に大きな樹木が聳え立っている。ビルで言ったら30階ほどの高さで、見上げていると首が痛くなってくる。DOM内の設定ではこの世界樹に職業の精霊が宿っているんだとかなんとか。俺が就職活動をする際は是非、この樹の精霊の御利益を授かりたいものだね。
世界樹に来れば一か月に一度限定だが転職することが出来る。専用スキルはその職業でしか使えないが、レベルは転職しても変わらないので、割とプレイヤーには優しい設計だ。
そんな俺が今回転職するのは、知っての通り魔剣士という上級職。
「魔法使いでもいいのに、どうしてわざわざ魔剣士に?」
ユリアが訊いてきたので、
「魔剣士だけに敵に負けんし(魔剣士)!」
俺は渾身のギャグを披露したつもりでいたのだが……。
「シエル、つまんなーい」
残念なことにモフモフにはウケませんでした。ああ見えて割とドライな性格なんですかね。
しかし、もちこは「ププ……」と笑いをこらえているご様子。意外にも彼女は笑いの沸点が低いらしい。だがそれでいい。こういう人の方が幸せな人生を送れると思う。
「おい、もちこが笑っているぞ!」
「う、うるさいな、笑ってなんかいないぞ!」
もちこは顔を真っ赤にして否定する。
「なあ、ユリアは見ていたよな?」
「はい、もちこさんは確かに笑っていました」
「ほら見ろ。天知る、地知る、ユリア知るだ!」
「う~~!」
更に顔を赤らめるもちこでした。
仲間との絡みもほどほどに、世界樹の根元に立ち、俺は魔剣士に転職するために祈りをささげる。
魔剣士とは文字通り、剣を装備することが出来て魔法も使えるという、戦略の幅が広いとも言えるし、器用貧乏とも言える。長所と短所は表裏一体、まあ使い手次第ってことだ。
【魔法使い→魔剣士に転職しました!】
うん、やっぱり剣持ちって男の子のロマンだよな。悪者を倒すときなんかは剣を突き付けると決まっているので、予定調和である。しかし、持っているのは魔法使いの杖と短剣だけで、剣なんか持っちゃいなかった。これじゃ魔剣士じゃなくてただの魔士ですよ。帰ったら剣を買わねーと。
「シエルぅ、剣が必要なら作ってあげるよ~」
「マジで?」
「うん!」
ギャグには厳しいが、他のことでは優しいモフモフだった。
≪わたあめハウス≫
「出来た! オートクレール!」
モフモフは某猫型ロボットのような言い方で、完成した剣を持ち上げる。銀色の刀身がきらりと輝き、ユリアともちこから「おおーっ」と感嘆の声が漏れる。
「ちょっ、これってかなり高価な武器じゃないか」
「ふふん、モフモフ製だからね」
モフモフ製ということにブランド的な価値があるかは不明だが、ファンタジーモノの小説でもよく目にする名前の剣で、DOM内でもなかなかハイレベルな装備品である。
――――――――――――――――――――
【アイテム名】オートクレール+3
【レア度】A
【攻撃力】135(+5,+5,+5)
●片手剣……魔法の詠唱時間を25%カットし、攻撃時10%で相手の攻撃力をダウンさせる。
――――――――――――――――――――
効果も魔剣士向きだし、武器の強化まで行ってくれた。
タダで貰う訳にもいかないし、せめて素材代だけでも支払わないとな。
そう思い、財布を開くと所持金が全然無いことに気が付く。思えば支出ばかりで金策を全くしていなかったのだ。これなら当然金欠になってしまうよね。うわー、恥ずかしいな。
「モフモフ、悪い! 金が全然無くて払えません!」
両手を合わせ、頭を下げる。すると、
「お金はいいって、ほら前に鉄鉱石くれたでしょ! そのお礼だから!」
と、言ってくれた。これが友情ってやつなのか。俺は感動した。
「その代わり~……カジノに行ってみたいんだよね!」
今度は金欠の俺をどん底に落とすようなことを言い出してきた。お前は悪魔か。
「カジノってどこにあるんでしょうか? DOMにそんな施設があるなんて知らなかったです」
「ゴーラク島ってところにカジノがある。シャルーアから乗る船で行けるし、たまには遊ぶのもいいかもしれないな」
もちこが解説してくれる。
「行こう行こう!」
「いいですね!」
周りはすっかりカジノに行くぞって雰囲気になってしまった。金の無い俺に首を吊れと申すか。
「ちょっと待ってくれよ、今金が無いしカジノなんかで遊んでいる余裕ないって」
俺があわてて止めると、
「お金のことは心配しないで! みんなに100万ヴィルずつ渡すからカジノで好きなだけ遊ぼうよ!」
そう言って、ポンポンと100万ヴィルを俺たち3人に配り始めた。100万を稼ぐなんて相当苦労するはずなのだが、こんな簡単に渡してしまってもいいのだろうか。
正直なところ、賭け事はあまり好きではないので、この100万をカジノで使わずに懐に入れてしまいたい気分だった。
はっ、もしかして、ただ100万を渡すだけでは俺のメンツが潰れると思ったから、わざわざカジノで遊ぼうと提案を? モフモフ、お前はそんな気遣いが出来る子だったのか。
「カジノで稼いで大富豪になるぞぉ~!」
……いや、まさかな。
その間アリサとは会話も交流もなくなり、すっかりエアフレと化している。かと言ってフレンドが切られたわけでもないので、時折フレンドリストからアリサの行動を観察していると、昔と変わった行動を取っていることに気が付いた。
いつも俺の学校が終わる前にはログインしているアリサが、火曜日には何故か遅れてログインする。そして、その後すぐにパーティを組んでいるということだ。組んでいる相手はフィロソフィで間違いないだろうな。そして、ログインしたかと思ったら1時間ほどでログアウトしてしまう。
以前、俺がフィロソフィとアリサの2人と炭鉱でレベル上げをしたときも火曜だったことを思い出す。その時も時間を気にしていたようだったし、不可解な行動を取っていた。
どうしてこのような行動を取っているのか……まあ大体予想は出来るんだけど、これからも観察してみようと思う。何か発見があるかもしれない。
◇
ユリア、もちこ、モフモフ、この3人で固定パーティを組み、この2週間は交流を深める意味合いも込めて、レベル上げや、ダンジョンの攻略、レアドロップアイテムを狙ったりと、冒険らしい冒険を久しぶりに行った。
そうそう、ギルドの制服ってやつも作ってみたんだ。まあ制服って言ってもディアボロスのロゴが入ったマントを羽織るくらいなのだけど、個性を大事にしていく方針なのでこれくらいがちょうどいいだろう。これでチーム感を出すことが出来たと思う。
俺のレベルは46から57まで上がり、上級プレイヤーにもギリギリ食い込めるくらいのレベルだ。固定パーティの良いところは、仲間の行動に遠慮なくアドバイス出来るという点だ。野良パーティだとこうはいかないし、口を出してしまうと指示厨として嫌われてしまうのが関の山。
俺の指導は自分でもスパルタだと思うけど、3人とも嫌な顔をせず、しっかりとついて来てくれていた。そうしているのも、みんな理由があるからなのだろう。
俺は復讐のため、もちこは強豪ギルドを目指すために、モフモフは遊び相手が欲しいため。ユリアは……なんだか俺に依存しているように見える。
理由はバラバラだけど、こうやって一緒に行動することにそれぞれ意味がある。思えば奇妙な関係だ。それでもお互いに信頼し合っているんだよね。
信頼できる仲間がいるって本当に素晴らしいことだ。小学生のときなんかは親友と一緒に居るだけで、なんでも出来るような気がしたものだけど、今もそれに近いものを感じる。この一体感は久しぶりの感覚だ。
そんな冒険の途中で魔法使いのスキルをある程度習得し、魔剣士へとランクアップが可能になったので、せっかくだし魔剣士になろうかなと、職業変更が出来るハローワークもとい、世界樹へと向かったのだった。
≪世界樹≫
鮮やかな緑の草原の中に大きな樹木が聳え立っている。ビルで言ったら30階ほどの高さで、見上げていると首が痛くなってくる。DOM内の設定ではこの世界樹に職業の精霊が宿っているんだとかなんとか。俺が就職活動をする際は是非、この樹の精霊の御利益を授かりたいものだね。
世界樹に来れば一か月に一度限定だが転職することが出来る。専用スキルはその職業でしか使えないが、レベルは転職しても変わらないので、割とプレイヤーには優しい設計だ。
そんな俺が今回転職するのは、知っての通り魔剣士という上級職。
「魔法使いでもいいのに、どうしてわざわざ魔剣士に?」
ユリアが訊いてきたので、
「魔剣士だけに敵に負けんし(魔剣士)!」
俺は渾身のギャグを披露したつもりでいたのだが……。
「シエル、つまんなーい」
残念なことにモフモフにはウケませんでした。ああ見えて割とドライな性格なんですかね。
しかし、もちこは「ププ……」と笑いをこらえているご様子。意外にも彼女は笑いの沸点が低いらしい。だがそれでいい。こういう人の方が幸せな人生を送れると思う。
「おい、もちこが笑っているぞ!」
「う、うるさいな、笑ってなんかいないぞ!」
もちこは顔を真っ赤にして否定する。
「なあ、ユリアは見ていたよな?」
「はい、もちこさんは確かに笑っていました」
「ほら見ろ。天知る、地知る、ユリア知るだ!」
「う~~!」
更に顔を赤らめるもちこでした。
仲間との絡みもほどほどに、世界樹の根元に立ち、俺は魔剣士に転職するために祈りをささげる。
魔剣士とは文字通り、剣を装備することが出来て魔法も使えるという、戦略の幅が広いとも言えるし、器用貧乏とも言える。長所と短所は表裏一体、まあ使い手次第ってことだ。
【魔法使い→魔剣士に転職しました!】
うん、やっぱり剣持ちって男の子のロマンだよな。悪者を倒すときなんかは剣を突き付けると決まっているので、予定調和である。しかし、持っているのは魔法使いの杖と短剣だけで、剣なんか持っちゃいなかった。これじゃ魔剣士じゃなくてただの魔士ですよ。帰ったら剣を買わねーと。
「シエルぅ、剣が必要なら作ってあげるよ~」
「マジで?」
「うん!」
ギャグには厳しいが、他のことでは優しいモフモフだった。
≪わたあめハウス≫
「出来た! オートクレール!」
モフモフは某猫型ロボットのような言い方で、完成した剣を持ち上げる。銀色の刀身がきらりと輝き、ユリアともちこから「おおーっ」と感嘆の声が漏れる。
「ちょっ、これってかなり高価な武器じゃないか」
「ふふん、モフモフ製だからね」
モフモフ製ということにブランド的な価値があるかは不明だが、ファンタジーモノの小説でもよく目にする名前の剣で、DOM内でもなかなかハイレベルな装備品である。
――――――――――――――――――――
【アイテム名】オートクレール+3
【レア度】A
【攻撃力】135(+5,+5,+5)
●片手剣……魔法の詠唱時間を25%カットし、攻撃時10%で相手の攻撃力をダウンさせる。
――――――――――――――――――――
効果も魔剣士向きだし、武器の強化まで行ってくれた。
タダで貰う訳にもいかないし、せめて素材代だけでも支払わないとな。
そう思い、財布を開くと所持金が全然無いことに気が付く。思えば支出ばかりで金策を全くしていなかったのだ。これなら当然金欠になってしまうよね。うわー、恥ずかしいな。
「モフモフ、悪い! 金が全然無くて払えません!」
両手を合わせ、頭を下げる。すると、
「お金はいいって、ほら前に鉄鉱石くれたでしょ! そのお礼だから!」
と、言ってくれた。これが友情ってやつなのか。俺は感動した。
「その代わり~……カジノに行ってみたいんだよね!」
今度は金欠の俺をどん底に落とすようなことを言い出してきた。お前は悪魔か。
「カジノってどこにあるんでしょうか? DOMにそんな施設があるなんて知らなかったです」
「ゴーラク島ってところにカジノがある。シャルーアから乗る船で行けるし、たまには遊ぶのもいいかもしれないな」
もちこが解説してくれる。
「行こう行こう!」
「いいですね!」
周りはすっかりカジノに行くぞって雰囲気になってしまった。金の無い俺に首を吊れと申すか。
「ちょっと待ってくれよ、今金が無いしカジノなんかで遊んでいる余裕ないって」
俺があわてて止めると、
「お金のことは心配しないで! みんなに100万ヴィルずつ渡すからカジノで好きなだけ遊ぼうよ!」
そう言って、ポンポンと100万ヴィルを俺たち3人に配り始めた。100万を稼ぐなんて相当苦労するはずなのだが、こんな簡単に渡してしまってもいいのだろうか。
正直なところ、賭け事はあまり好きではないので、この100万をカジノで使わずに懐に入れてしまいたい気分だった。
はっ、もしかして、ただ100万を渡すだけでは俺のメンツが潰れると思ったから、わざわざカジノで遊ぼうと提案を? モフモフ、お前はそんな気遣いが出来る子だったのか。
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