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#30 ギルド結成
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「グレープジュースを1つ、あとフライドポテトも」
シャルーアの町にある酒場のカウンターで、俺は1枚の羊皮紙と睨めっこをしていた。睨めっこの勝負がなかなかつかないので、少しつまめるものを注文したのだが出されたポテトが予想以上の山盛りで、一人で食べられるか不安になってきた。それはともかく、どうしてもこの羊皮紙のある項目だけが埋まらない、でもポテトは美味い。しかし埋まらない。困った。
目の前にあるのはギルド登録書と書かれた羊皮紙。
復讐のためにギルドを結成し、強豪ギルドを決めた俺だが、ギルド名を決めるところで俺の手は止まってしまった。ギルド名はギルドの顔であり、強豪ギルドにすれば多くの人に注目されることになるのだから真面目に考えなければならない。真面目に、真面目に……ってプレッシャーから真面目という言葉が頭の中をグルグルと巡るだけで、結局何も思いつかない。俺には発想力が足りないんだと思う。他のギルドマスターはよくこんなの思いつくものだと心から尊敬するね。
口に何か入れて考えようとフライドポテトに手を伸ばした時、白い腕が後ろから伸びてきて俺のポテトをつかみ取る。
「おいっ! これ俺のポテトなんだけど――」
振り向いて言いかける、そこに居たのはユリアだった。さっきパーティを抜けた時のユリアの悲しそうな顔を思い出して、なんだか気まずい。
「さっき私を置いて行った仕返しです。町を一緒に回るの楽しみにしていたのに」
頬を膨らませ、不機嫌な表情のユリア。
「ごめん」
俺は素直に謝った。
「……でもいいんです。私が勝手にシエルさんについて行っただけですから」
そう付け足して笑って見せるユリアだが、その表情にはどこか哀しみの色を含んでいた。
「ポテト一緒に食べよう。俺にはちょっと多すぎる」
◇
俺の隣の席にユリアを座らせ、山盛りのポテトを2人でつまんでいたのだがポテトは一向に減る様子は無い。つか、どんだけ多いんだよ、このポテト。
ポテトが無くなるのが先か、ギルド名が決まるのが先か、それは神のみぞ知る。
「シエルさん、それはなんですか?」
俺の目の前に置いてある羊皮紙が気になるようで不思議そうに訊いてきた。
「これはギルド登録書。ギルドを作ろうと思ったんだけど、名前がなかなか決められなくてね」
「ギルド……!? ということはシエルさん、ギルドマスターになるんですよね、すごい!」
「作るだけなら誰でも出来るし、別にすごくはないよ」
俺は半笑いで答える。
「でも、どうして突然作ろうと思ったんですか?」
この流れからしたらその理由を訊くのが当然だ……でも、どう答えたらいいものか。
実はこのシエルっていうアカウントは2垢目なんだ。前のアカウントで、フィロソフィっていうネカマのギルドマスターに彼女を寝取られちゃってさ、しかも、せっかく育てた強いステータスのアカウントもフィロソフィの策略に嵌められて垢BANされたんだよね。もう許せない。俺はあの時からフィロソフィってやつに復讐をするって決めたんだ。だからギルドを作ってじわじわとフィロソフィのギルドを侵略していくのさ。そして、悪評を広めてアイツを社会的に殺してやるんだ、どうだい、俺って悪魔的だろう? ハハハ!
――なんてこと言えるはずもない。それに2垢なんて言ったらこのアカウントが凍結されるかもしれないのだ。復讐を遂げるまではなるべく危険を回避するのが賢い選択ってやつだろう。
「……私には言えないことなんですか?」
捨てられたペットのような表情で訊ねてくるユリア。
そんな顔をしないでくれ。あまりにも黙っている時間が長かったせいで、余計な心配をさせてしまったな。
しかし、ユリアを信用出来ないというのもまた事実だ。別に彼女が悪いわけではない。アリサやフィロソフィに裏切られたことが原因で、俺は根本的に人を信用するということが出来なくなっているのだ。
これ以上の沈黙はユリアを傷つけてしまう。とりあえず何か言わねば。
「……そんなことはない。俺にはあるプレイヤーを超える目標があるんだよ。そのプレイヤーもギルドマスターなんだけど、対抗するには同じようにギルドを作る必要があるだろう? 俺のレベルも上がって来たし、そろそろ自分でギルドを作ってもいい頃合いだと思ってね」
って感じに少し穏やかな内容に改変して伝えた。嘘ではない。
「そのプレイヤーっていうのはシエルさんのライバルみたいなものなんですね。競い合えるような人が居るのっていいなぁ、憧れてしまいます」
すっかり目を輝かせてしまった。
「ライバルなんて響きのいいもんじゃないけどな……」
ユリアはまだこのDOMの闇を知らないのだろう。
「シエルさん、私もそのギルドに入れてくれませんか? 私もシエルさんと一緒にそのお手伝いがしたいです! ……あまり力にはなれないかもしれませんが」
内容は謙虚だが、力強く言うユリア。
復讐に巻き込むのもどうかと思ったけど、自分で言っているんだしいっか。それに一人で強豪ギルドにするのは難しいだろうし、人手が必要になるのは事実だ。後はそうだな……ギルドはチームプレイになるのだから、信頼関係が重要になってくる。これからは俺も彼女を信じるよう努力しないといけないな。
「ありがとう。ユリアが居てくれたらとても助かるよ」
「本当ですか? シエルさんとご一緒できて嬉しいです!」
こういうとき何かしら儀式のようなものをしたいなあってことでユリアもジュースを注文する。やることは決まって一つ。
「じゃあ、乾杯」
カチーンって音が静かに響く。あ、こういうの雰囲気出ていいね。
「……って言ってもギルド名がまだ決まらないんだ。何かいい案は無いかな?」
「うーん……ギルド名、迷いますよね……」
結局2人で悩んでも何も思いつかない。思いつかないから、ついついポテトに手を伸ばしてしまう。ギルド名が思いつかないまま時間が経ち、そんなポテトもついに無くなってしまった。なんか一生決まらないような気がしてきたぞ……。いっそのことテキトーに決めてしまおうか、と思い始めた時、ユリアがこう提案してきた。
「シエルさん、そのライバルのプレイヤーの運営しているギルドの名前は何ていうのですか?」
「セレスティアス」
なるべく感情が出ないようにギルド名だけ答えた。
「セレスティアスですか……神々しいとか、神聖な感じのイメージがありますね」
思わず吹き出しそうになる。神々しい、神聖な? あのオッサンの見た目や、やっていることとか全然それとかけ離れているのだが。
「その名前と対となるものをギルド名にするのはどうでしょうか?」
「ほう、対となるものね……神聖の反対、悪魔的なものかな」
「なるほど、悪魔っていうことは……“ディアボロス”はいかがですか?」
「あ、いい感じかも。それで決定!」
俺は指をパチンと鳴らす。
「えっ、本当にいいんですか?」
自分で提案したのに驚くユリア。
「もちろん。早速記入して提出しよう」
俺はギルド名の欄に『ディアボロス』と記入して酒場のマスターにギルド登録書を渡す。自分で考えても、色々悩んでしまうものだけど、他人の提案したものは割とすんなりと受け入れられるのが自分でも不思議だった。
「ギルド登録書、確かに受け取りました。登録料5000ヴィルを頂きます」
言われた通り登録料と、注文した料理の代金を支払い、すぐに自分のステータス欄を確認。すると、所属ギルドの欄には≪ディアボロス≫と書かれていた。
ディアボロス……これが俺のギルドか、なんだかダークな感じで中二病っぽい気がするけど、復讐する俺には合っているかな。
「シエルさん、私も早くギルドに誘ってくださいよー」
「おう、今誘うなー」
ユリアもギルドに誘い、これでギルドメンバーは俺とユリアの2人になった。
酒場から出ると、外は既に闇に包まれ、遠くに見える船の明かりが光り輝いていた。当たり前だけどギルドを結成したからって特別何かが起こるわけではないのだ。
「ギルドを作ったってのに、なんだかあまり実感が湧かないもんだね」
「ふふ、まだ2人だけですからね。でもこういうのもいいかも」
俺の先をゆっくりと歩き始めるユリア。
「それじゃ強豪ギルドにはなれないよ」
「じゃあ、まだギルドメンバーが2人だけのうちに、これから町を一緒に見て回りましょう。さっきは出来なかったので今度こそ2人きりで」
ユリアは立ち止まり、振り向いてそう言った。
俺は、頭をポリポリと掻く。
「しょうがないな」
シャルーアの町にある酒場のカウンターで、俺は1枚の羊皮紙と睨めっこをしていた。睨めっこの勝負がなかなかつかないので、少しつまめるものを注文したのだが出されたポテトが予想以上の山盛りで、一人で食べられるか不安になってきた。それはともかく、どうしてもこの羊皮紙のある項目だけが埋まらない、でもポテトは美味い。しかし埋まらない。困った。
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復讐のためにギルドを結成し、強豪ギルドを決めた俺だが、ギルド名を決めるところで俺の手は止まってしまった。ギルド名はギルドの顔であり、強豪ギルドにすれば多くの人に注目されることになるのだから真面目に考えなければならない。真面目に、真面目に……ってプレッシャーから真面目という言葉が頭の中をグルグルと巡るだけで、結局何も思いつかない。俺には発想力が足りないんだと思う。他のギルドマスターはよくこんなの思いつくものだと心から尊敬するね。
口に何か入れて考えようとフライドポテトに手を伸ばした時、白い腕が後ろから伸びてきて俺のポテトをつかみ取る。
「おいっ! これ俺のポテトなんだけど――」
振り向いて言いかける、そこに居たのはユリアだった。さっきパーティを抜けた時のユリアの悲しそうな顔を思い出して、なんだか気まずい。
「さっき私を置いて行った仕返しです。町を一緒に回るの楽しみにしていたのに」
頬を膨らませ、不機嫌な表情のユリア。
「ごめん」
俺は素直に謝った。
「……でもいいんです。私が勝手にシエルさんについて行っただけですから」
そう付け足して笑って見せるユリアだが、その表情にはどこか哀しみの色を含んでいた。
「ポテト一緒に食べよう。俺にはちょっと多すぎる」
◇
俺の隣の席にユリアを座らせ、山盛りのポテトを2人でつまんでいたのだがポテトは一向に減る様子は無い。つか、どんだけ多いんだよ、このポテト。
ポテトが無くなるのが先か、ギルド名が決まるのが先か、それは神のみぞ知る。
「シエルさん、それはなんですか?」
俺の目の前に置いてある羊皮紙が気になるようで不思議そうに訊いてきた。
「これはギルド登録書。ギルドを作ろうと思ったんだけど、名前がなかなか決められなくてね」
「ギルド……!? ということはシエルさん、ギルドマスターになるんですよね、すごい!」
「作るだけなら誰でも出来るし、別にすごくはないよ」
俺は半笑いで答える。
「でも、どうして突然作ろうと思ったんですか?」
この流れからしたらその理由を訊くのが当然だ……でも、どう答えたらいいものか。
実はこのシエルっていうアカウントは2垢目なんだ。前のアカウントで、フィロソフィっていうネカマのギルドマスターに彼女を寝取られちゃってさ、しかも、せっかく育てた強いステータスのアカウントもフィロソフィの策略に嵌められて垢BANされたんだよね。もう許せない。俺はあの時からフィロソフィってやつに復讐をするって決めたんだ。だからギルドを作ってじわじわとフィロソフィのギルドを侵略していくのさ。そして、悪評を広めてアイツを社会的に殺してやるんだ、どうだい、俺って悪魔的だろう? ハハハ!
――なんてこと言えるはずもない。それに2垢なんて言ったらこのアカウントが凍結されるかもしれないのだ。復讐を遂げるまではなるべく危険を回避するのが賢い選択ってやつだろう。
「……私には言えないことなんですか?」
捨てられたペットのような表情で訊ねてくるユリア。
そんな顔をしないでくれ。あまりにも黙っている時間が長かったせいで、余計な心配をさせてしまったな。
しかし、ユリアを信用出来ないというのもまた事実だ。別に彼女が悪いわけではない。アリサやフィロソフィに裏切られたことが原因で、俺は根本的に人を信用するということが出来なくなっているのだ。
これ以上の沈黙はユリアを傷つけてしまう。とりあえず何か言わねば。
「……そんなことはない。俺にはあるプレイヤーを超える目標があるんだよ。そのプレイヤーもギルドマスターなんだけど、対抗するには同じようにギルドを作る必要があるだろう? 俺のレベルも上がって来たし、そろそろ自分でギルドを作ってもいい頃合いだと思ってね」
って感じに少し穏やかな内容に改変して伝えた。嘘ではない。
「そのプレイヤーっていうのはシエルさんのライバルみたいなものなんですね。競い合えるような人が居るのっていいなぁ、憧れてしまいます」
すっかり目を輝かせてしまった。
「ライバルなんて響きのいいもんじゃないけどな……」
ユリアはまだこのDOMの闇を知らないのだろう。
「シエルさん、私もそのギルドに入れてくれませんか? 私もシエルさんと一緒にそのお手伝いがしたいです! ……あまり力にはなれないかもしれませんが」
内容は謙虚だが、力強く言うユリア。
復讐に巻き込むのもどうかと思ったけど、自分で言っているんだしいっか。それに一人で強豪ギルドにするのは難しいだろうし、人手が必要になるのは事実だ。後はそうだな……ギルドはチームプレイになるのだから、信頼関係が重要になってくる。これからは俺も彼女を信じるよう努力しないといけないな。
「ありがとう。ユリアが居てくれたらとても助かるよ」
「本当ですか? シエルさんとご一緒できて嬉しいです!」
こういうとき何かしら儀式のようなものをしたいなあってことでユリアもジュースを注文する。やることは決まって一つ。
「じゃあ、乾杯」
カチーンって音が静かに響く。あ、こういうの雰囲気出ていいね。
「……って言ってもギルド名がまだ決まらないんだ。何かいい案は無いかな?」
「うーん……ギルド名、迷いますよね……」
結局2人で悩んでも何も思いつかない。思いつかないから、ついついポテトに手を伸ばしてしまう。ギルド名が思いつかないまま時間が経ち、そんなポテトもついに無くなってしまった。なんか一生決まらないような気がしてきたぞ……。いっそのことテキトーに決めてしまおうか、と思い始めた時、ユリアがこう提案してきた。
「シエルさん、そのライバルのプレイヤーの運営しているギルドの名前は何ていうのですか?」
「セレスティアス」
なるべく感情が出ないようにギルド名だけ答えた。
「セレスティアスですか……神々しいとか、神聖な感じのイメージがありますね」
思わず吹き出しそうになる。神々しい、神聖な? あのオッサンの見た目や、やっていることとか全然それとかけ離れているのだが。
「その名前と対となるものをギルド名にするのはどうでしょうか?」
「ほう、対となるものね……神聖の反対、悪魔的なものかな」
「なるほど、悪魔っていうことは……“ディアボロス”はいかがですか?」
「あ、いい感じかも。それで決定!」
俺は指をパチンと鳴らす。
「えっ、本当にいいんですか?」
自分で提案したのに驚くユリア。
「もちろん。早速記入して提出しよう」
俺はギルド名の欄に『ディアボロス』と記入して酒場のマスターにギルド登録書を渡す。自分で考えても、色々悩んでしまうものだけど、他人の提案したものは割とすんなりと受け入れられるのが自分でも不思議だった。
「ギルド登録書、確かに受け取りました。登録料5000ヴィルを頂きます」
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ディアボロス……これが俺のギルドか、なんだかダークな感じで中二病っぽい気がするけど、復讐する俺には合っているかな。
「シエルさん、私も早くギルドに誘ってくださいよー」
「おう、今誘うなー」
ユリアもギルドに誘い、これでギルドメンバーは俺とユリアの2人になった。
酒場から出ると、外は既に闇に包まれ、遠くに見える船の明かりが光り輝いていた。当たり前だけどギルドを結成したからって特別何かが起こるわけではないのだ。
「ギルドを作ったってのに、なんだかあまり実感が湧かないもんだね」
「ふふ、まだ2人だけですからね。でもこういうのもいいかも」
俺の先をゆっくりと歩き始めるユリア。
「それじゃ強豪ギルドにはなれないよ」
「じゃあ、まだギルドメンバーが2人だけのうちに、これから町を一緒に見て回りましょう。さっきは出来なかったので今度こそ2人きりで」
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