上 下
27 / 66

#26 旅は道連れ

しおりを挟む

≪シャルーア街道≫

 ウェスタンベルから出発した俺たちは、寄り道をすること無く、次の町シャルーアへと向かって歩いていた。最初は俺一人で行くつもりだったのだけれど、俺が好きにすればいいと言ったせいで、ユリアと一緒に行く羽目になってしまった。

 旅は道連れ世は情け

 そんなことわざを思い出す。仲間が居るのは良いことだと思うけれど、ゲーム内で出会っただけの人を信用していいものなのだろうか。アリサやさくらひめみたいに、平気で人を裏切ったり、周囲にいい顔をして他人を利用することばかりを考えているプレイヤーを見てきた俺としては、人を信じてもいいのか分からなくなってきた。

 所詮この世界は偽りの世界。そして、この俺も初心者のフリをしている偽りの住人。結局、俺も同じ穴の狢。自己嫌悪に同族嫌悪、そんな偽りにまみれた世界で何を信じればいいのだろうね。何が悪で何が善なのか分からないよ。

 これから俺は何を指標にしていけばいいのだろう。これだけは絶対に信じられるという何かが欲しい。

「シエルさん……大丈夫ですか?」

 横を向いたら心配そうな顔をしているユリアと目が合った。俺はそんなに心配になるような顔をしていたのだろうか。

「大丈夫だよ」

 なんだかいたたまれない気持ちになり、おもわず前を向き、目を瞑ってしまった。

 目を閉じるのは良いね。一瞬で嫌な現実から目を背けられる。例えそれが仮初でも。

 そういえば視覚情報がシャットアウトされると音や匂いに敏感になるって話を聞いたことがある。

 仮想世界でもそれは当てはまるらしくて、なんだか歩いているうちに懐かしい潮の香りを感じ始めてきた。俺が住んでいる町の近くには海が無いので実際に潮の香りというものを嗅いだことが無いのだけれど、以前DOMで海の近くのエリアに居たときにはこんな香りがしていた。

「シエルさん、これ潮の香りですよ! 私の家は海の近くなので間違いないです! ゲームの中でも再現出来るなんてすごいなぁ……ここからは見えませんが、近くに海があるんですよね」

「……ああ、次の町シャルーアは港町だからな。町に入れば海が見えるよ。その町には大きな船が停泊してあるんだ。船に乗れば大陸間を移動出来るし、行動範囲がかなり広がるぞ」

「わぁー! 楽しみ!」

 すっかりテンションが上がっているユリアだった。そういや人見知りだって言っていたけれど、こんな風にテンションの高いユリアを見るのは初めてだな……なんだか光の冒険団を抜けたことで吹っ切れたようにも見える。それとも俺を気遣っているからなのだろうか。

 もっと強く自分を持たなければ。



 しばらく歩いていると町の入り口である門が見えてきた。ウェスタンベルの街に入るときと同じように、シャルーアの町の門には門番NPCが厳つい顔で立っている。恐らく王様から貰ったエンブレムの提示を求められるんだと思う。

「冒険者よ、ここを通るには……」

 言い終わる前に俺たちは門番にエンブレムを見せつけてやる。そんな長い台詞を全部聞くまで待っていられるかよ。

「……よろしい、通り給え」

 なんて門番はお決まりの台詞を吐いて、門の中へと通してくれた。

≪シャルーアの町≫

 中世ヨーロッパ風の建物が建ち並ぶ港町。進行の早いプレイヤーは既にこの町にも辿り着いているようで、町の出入り口ではパーティの募集が行われていた。奥には大きな船。一度でいいから現実でもあんな船に乗って旅行でも行ってみたいものだね。そして見上げれば澄み渡る青い空。

 そんな青空向こうで、カモメのつがいが飛んでいた。絵文字にすると「^^」といった具合に。普通の人なら「あ、カモメが並んで飛んでいるー」なんて平和な光景に見えるのだろうけど、俺にはフィロソフィが嗤っているように見えてしまって、どうもいい気分じゃない。ここまで来ると病気だな。

 あの青空を飛ぶカモメに当然、俺の手は届かない。今の俺はフィロソフィに手が届くだろうか。いいや、届かないだろうね。

 俺のレベルは45。アイツを倒すにはもっと強くなる必要がある。最初から始めて、トップに肩を並べるのは思ったよりも厳しいものだ。

 フィロソフィ関連でアリサのことを思い出す。

 そういやアリサはまだログインしていないのか? ギルドのゴタゴタがあったせいでフレンドリストを確認するのをすっかり忘れていた。

 メニューコマンドを開いて、急いでフレンドリストを確認すると、既にアリサがログインしているじゃありませんか。しかも、既にパーティを組んでいる。なんたる失態。

 ログインしているなら挨拶くらいしろよ! って思ったけど、今の俺とアリサは最近知り合ったただのフレンドであり、特別な関係でもなんでもないのだ。ならば誰かに誘われる前に誘うのが勝者である。それに当てはめると、今の俺は敗者なのかもしれないけど、俺は事前に“約束”というものをしてある。約束の効力は舐めてはならない。破った者は問答無用で悪者に出来るのだから。

「ユリア、悪い。用事出来たから俺ちょっと行くわ」

「えっ、これから町を一緒に見て回ろうと思ったのに……」

【パーティから抜けました】

 俺が町の中に消えて行く途中、ふと振り向くとユリアが一人悲しそうな顔をしたのが見えて心が痛む。

 町を一緒に見て回る、か……。

 俺もユリアと同じ純粋な初心者なら一緒に回って楽しめたんだと思う。でも俺にはやるべきことがあるんだ。ごめんね。



 サーバーを変えるために一旦ログアウトする。そして一般サーバーで再びログイン。

 レベルを大幅に上げるチャンスを無駄には出来ない。心を鬼にして貪欲になり、チャンスには自ら食らいつかねば。それが強者になる為の条件なのだ。

『こんにちは! アリサ、昨日の約束は覚えてるかな?』

 俺は純粋な初心者の仮面を被り、昨日に引き続き、フレンドチャットで爽やかに挨拶をする。こういうのは第一印象が大事なのだ。

『こんにちは、シエル君。覚えているよ。今日は何をして遊ぶの?』

 約束を覚えているのに、他の人とパーティ組んでいるんじゃねーよ。……というのは心の中にしまっておく。俺の心の中はもう満杯です。

『実はシャルーアの町にも行けるようになったんだ。今日も昨日と同じようにレベル上げを手伝ってほしいな』

 手伝うっていうか、全てアリサがモンスターを倒していたけど。

『うん、いいよ! 今日は私のギルドの人も一緒だけどいいかな?』


 アリサの快い返事に安心するも、後半聞こえた「ギルドの人も一緒」という言葉に緊張感が走る。恐らく今組んでいる人のことだろう。

 一体誰なんだ……。

 俺は目の前のウィンドウに表示されているフレンドリストを睨む。そこには一人、アリサと組んでいることを示すピンが表示されている。

 セレスティアスのギルドメンバーでアリサと組むような相手……どうしてもアイツのことを思い浮かべてしまう。

 ――フィロソフィ。

 別に会ったからって殺されるわけでもないし、正体がバレることも無いだろう。けど今はまだ心の準備が出来ていない。フィロソフィを前に平静を装う自信があまり無い。

 かといって、こっちは手伝ってもらう立場だし、断ることなんて出来ないよな……。

 俺は頭を抱える。

『ああ、全然問題ないよ』

 問題ありまくりだが、今の俺に出来る返事はそれだけだった。

『それじゃ誘うねっ!』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

異世界帰りの勇者は現代社会に戦いを挑む

大沢 雅紀
ファンタジー
ブラック企業に勤めている山田太郎は、自らの境遇に腐ることなく働いて金をためていた。しかし、やっと挙げた結婚式で裏切られてしまう。失意の太郎だったが、異世界に勇者として召喚されてしまった。 一年後、魔王を倒した太郎は、異世界で身に着けた力とアイテムをもって帰還する。そして自らを嵌めたクラスメイトと、彼らを育んた日本に対して戦いを挑むのだった。

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...