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第4話 出発
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「あ、あぶねえ……ルナ、ありがとうな」
回避に成功したというのに、ルナは俺に覆いかぶさったまま動こうとしない。
そのままルナは「ハァハァ」と息を荒くしている。その吐息は病的なものではなく、気分が高揚しているときのものだと俺はすぐに気が付いた。
「わたしがカケルくんを守ってあげる……絶対にカケルくんを死なせたりしないから」
俺の耳元でルナが囁くように呟いた。
ルナの柔らかい胸が俺の胸に当たり、意外すぎる彼女の行動に俺は頭が真っ白になってしまった。……彼女に恥じらいはないのだろうか。俺はこんなに恥ずかしいというのに!
「カケルくんが見落としていたこともルナがしっかりと見てあげる。カケルがルナの目で、ルナのがカケルくんの武器になってあげる。カケルくんとルナがいれば死角なんてない。わたしたちは最強だよ」
ルナの声には溢れんばかりの自信に満ちていた。まるで俺とルナがいれば敵はいない、誇るような表情で俺を見つめていた。
「カケルくんは、ルナの前で無理して強がったりしなくてもいいんだよ? カッコ悪いカケルくんでも、弱っちいカケルくんでも、ルナは絶対に嫌いになったりしないんだから。……だからね、カケルくんはいっぱいルナに甘えて欲しいの」
ルナの表情はまるで愛する我が子に向けるように慈愛に満ちていた。
……言われて嫌な気分はしないが、女の子にそう言われるのは男の俺からすれば複雑な気持ちだった。
蕩けるような声で囁くもんだから、頭がクラクラとしてしまう。
彼女は一体、なんなんだ……。
まるで俺の心を惑わせようとする悪魔のようだ……。
そんな彼女に対し、俺の心は警鐘を鳴らしている。
彼女はどこかヤバいと俺の本能が告げているのだ。
「ちょ、抱き着くなって! どうしたんだよ急に!」
「カケルくんが好きなの!」
「は、はあ!? 突然お前は何を言ってるんだ?」
「カケルくんはずっと目が見えなかったルナの光になってくれた。ルナに世界を見せてくれた。だから好きなの!」
「俺は別になりたくてルナと視界を共有しているわけじゃない」
親切心でやったわけじゃないのに、感謝されたりするのは好きじゃなかった。
「カケルくんはルナのこと好き?」
「助けてくれたことには感謝しているけど、会って少ししか経っていないし、お前ストーカーだし……」
俺がそう言うと、ルナはゆっくりと立ち上がり、地面に転がっている棍棒を手にする。
もしかして、選択肢をミスったか?
頭のぶっ飛んでるルナのことだ。何をしてくるか分からない。
俺は腰を落とし、いつ襲いかかってきても対応出来るよう気を集中させる。
「カケルくんがわたしのことを嫌いになったなら……もう生きている意味なんてない。このまま死んじゃおうかなぁ……」
次にとった彼女の驚愕の行動に俺はしばらく反応が出来なかった。
なんということか、ルナは不気味な笑みを浮かべながら棍棒を激しく自分の顔に打ちつけ始めたのだ。額からは血が噴き出している。
「ま、待て待て! 俺はルナのこと嫌いになったわけじゃないぞ!!」
慌てて俺がそう叫ぶとルナの手の動きはピタリと止まった。
「ほんと?」
「……ああ、本当だ」
好きになったわけでもないがな、と心の中で付け加える。
野生動物をなだめるように慎重に答えると、ルナは棍棒を片手で持ったまま子供のように無邪気な笑顔を作ってみせた。額からは血がたらりと垂れてきている。
「とにかく、ここが危ないということだけは分かった。一刻も早くここから抜け出そう」
「抜け出すって、どうやって?」
「分からない……でも、ここがダンジョン第一層っていうことは上の階層を目指していけばいつかゴールに辿り着けるんじゃないか?」
「ふうん」
ルナはどうでも良さそうに返事をする。
「カケルくんがそうしたいならルナはそれに従うよ」
危険なモンスターが出現するうえに、トラップもあるのは確認済みだ。彼女がどんな人物であれ、別行動するよりは良い。
「ルナが協力してくれるなら心強いぜ。さっさとこのワケの分からないダンジョンを攻略しちまおう」
俺がそう意気込むと、ルナは「おー」と可愛い声で拳を上に伸ばした。
回避に成功したというのに、ルナは俺に覆いかぶさったまま動こうとしない。
そのままルナは「ハァハァ」と息を荒くしている。その吐息は病的なものではなく、気分が高揚しているときのものだと俺はすぐに気が付いた。
「わたしがカケルくんを守ってあげる……絶対にカケルくんを死なせたりしないから」
俺の耳元でルナが囁くように呟いた。
ルナの柔らかい胸が俺の胸に当たり、意外すぎる彼女の行動に俺は頭が真っ白になってしまった。……彼女に恥じらいはないのだろうか。俺はこんなに恥ずかしいというのに!
「カケルくんが見落としていたこともルナがしっかりと見てあげる。カケルがルナの目で、ルナのがカケルくんの武器になってあげる。カケルくんとルナがいれば死角なんてない。わたしたちは最強だよ」
ルナの声には溢れんばかりの自信に満ちていた。まるで俺とルナがいれば敵はいない、誇るような表情で俺を見つめていた。
「カケルくんは、ルナの前で無理して強がったりしなくてもいいんだよ? カッコ悪いカケルくんでも、弱っちいカケルくんでも、ルナは絶対に嫌いになったりしないんだから。……だからね、カケルくんはいっぱいルナに甘えて欲しいの」
ルナの表情はまるで愛する我が子に向けるように慈愛に満ちていた。
……言われて嫌な気分はしないが、女の子にそう言われるのは男の俺からすれば複雑な気持ちだった。
蕩けるような声で囁くもんだから、頭がクラクラとしてしまう。
彼女は一体、なんなんだ……。
まるで俺の心を惑わせようとする悪魔のようだ……。
そんな彼女に対し、俺の心は警鐘を鳴らしている。
彼女はどこかヤバいと俺の本能が告げているのだ。
「ちょ、抱き着くなって! どうしたんだよ急に!」
「カケルくんが好きなの!」
「は、はあ!? 突然お前は何を言ってるんだ?」
「カケルくんはずっと目が見えなかったルナの光になってくれた。ルナに世界を見せてくれた。だから好きなの!」
「俺は別になりたくてルナと視界を共有しているわけじゃない」
親切心でやったわけじゃないのに、感謝されたりするのは好きじゃなかった。
「カケルくんはルナのこと好き?」
「助けてくれたことには感謝しているけど、会って少ししか経っていないし、お前ストーカーだし……」
俺がそう言うと、ルナはゆっくりと立ち上がり、地面に転がっている棍棒を手にする。
もしかして、選択肢をミスったか?
頭のぶっ飛んでるルナのことだ。何をしてくるか分からない。
俺は腰を落とし、いつ襲いかかってきても対応出来るよう気を集中させる。
「カケルくんがわたしのことを嫌いになったなら……もう生きている意味なんてない。このまま死んじゃおうかなぁ……」
次にとった彼女の驚愕の行動に俺はしばらく反応が出来なかった。
なんということか、ルナは不気味な笑みを浮かべながら棍棒を激しく自分の顔に打ちつけ始めたのだ。額からは血が噴き出している。
「ま、待て待て! 俺はルナのこと嫌いになったわけじゃないぞ!!」
慌てて俺がそう叫ぶとルナの手の動きはピタリと止まった。
「ほんと?」
「……ああ、本当だ」
好きになったわけでもないがな、と心の中で付け加える。
野生動物をなだめるように慎重に答えると、ルナは棍棒を片手で持ったまま子供のように無邪気な笑顔を作ってみせた。額からは血がたらりと垂れてきている。
「とにかく、ここが危ないということだけは分かった。一刻も早くここから抜け出そう」
「抜け出すって、どうやって?」
「分からない……でも、ここがダンジョン第一層っていうことは上の階層を目指していけばいつかゴールに辿り着けるんじゃないか?」
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