【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ

文字の大きさ
上 下
11 / 27
第三章 はじめての

2 デート!

しおりを挟む
 その日も、悠也との散歩から帰ってきた後に、シャワーを浴びて、まどろみながらベッドに寝転がった。目覚ましをセットしようとして携帯をぼんやり開くと、悠也からメッセージの通知が来ている。

「デート行こうぜ!」

 見た瞬間、携帯が手から滑り落ちた。
「痛っ」
 顔面をしたたかにうちつけ、俺はうめきながら鼻をさすった。 混乱したままベッドに転がった携帯を拾い上げ、もう一度通知を見ながらおそるおそるタップする。

 悠也に返信しようとチャット欄を開いたものの、動揺してうまく頭が回らない。 一体なんて返信しようか考えあぐねていると、いきなり悠也から電話がかかってきた。

「…もしもし」
「かえで、ねてたー?」
「ねてない、けど」
 思わず緊張して低い声が出てしまう。

「な、明日空いてたらさぁ、デートしようぜ」
 まるで、 幼い子どもが、あーそぼって言うようなノリで、デート誘ってくるやつがあるかよ。

「デートって、どこ、行くんですか?」
「ゲーセン!」
 なんで急に堅苦しい言葉になってんだよー、と笑いながら悠也が言う。
 ゲーセンって!俺は思わずがっくりと肩を落とした。

「あのさびれた建物ぉ…」
「さびれたって言うなよー」
 電話越しでも悠也が、ぷくうと頬を膨らませているのがわかる。俺は「悪い悪い」と笑いながら、
「てか、なんで急に?」
 と聞いてみた。
「んー、 いや、俺からさぁ、付き合おうって言ったじゃん?」
「んあ?」
 思わずすっとんきょうな声が出る。

「んー、でも、なんかこのへん散歩するだけとかだとさ、変わらないっていうか… 昔と一緒だよなぁって思ってさ。で、さっき夕飯食べながら、突撃インタビューを観てたんだけど」

「突撃インタビュー」って、地方番組の特集か。久々にその名前を聞くので、懐かしく感じる。
「で、今日の特集がさ、ザ・若者デートスポット!だったんだよ」
 ザ・デートスポットって、だ、だせえ…。

「で、それ見て、デートしようと思ったわけ?」
 こいつらしいなと思い、 つい笑みがこぼれてしまう。
「ん、それで人気ランキング三位が、ゲーセンとカラオケだったんだよ!ゲーセンだったら俺らの近くにもあるじゃん、と思ってさ」

 多分そのランキングのゲーセンは、 もっと大きいショッピングモールだとか、少なくともあんなおんぼろの小さな建物のような場所ではない…と思ったが、こいつなりにいろいろ考えてくれたんだろうな、と思うと頬が緩んだ。

「いいよ、行こうぜ」
 そう言うとすかさず悠也が、
「へへ、やったぁ」
 と無邪気に楽しげな声をあげるものだから、変に心臓がどぎまぎしてくる。
 悠也が「じゃあ時間と待ち合わせ場所は~」と話しだすので、首をかしげる。

「え、てか、わざわざ待ち合わせ?」
 散歩する時だって、正確な時間なんか決めなくても、悠也の家の前にふらっと行って、 既にあいつが手を振りながら走ってくることもあるし、まだ出て来なさそうな時は電話したりインターホンを鳴らして、いつも適当に落ち合っている。

「その方が特別って感じしねぇ?」 

 突然言うので、心臓がさらにぎゅんっと飛び跳ねた。 それを悟られないように、俺は「ん」と手短に返事をする。

 電話を終えると、俺はベッドにつっぷした。やばい、にやけが止まらねぇ。脳内を「デート」という単語がぐるぐると駆け巡る。
    
 あ、 服どうしよう。 
 上半身をがばっと起こして、 俺は顔をしかめながら思い悩む。気合い入れすぎたら、はずいっていうか、 さすがに気持ち悪いよなぁ。
 そうだ、大学の合コンで使ったやつとか? シンプルだけどかっこよくて洒落ている、と周りの奴らに評判だった。…いやいや、こんなど田舎でゲーセン行くのにもっと当たり障りないやつにしないと、それこそ浮くだろ。

 やっばい、ほんとに浮かれてんな俺。 
 無意識に口元を抑え顔を引き締めようとしても、またすぐに自然とにやけてしまう。

 ああ、 本当どんな格好にしよう。正直悠也の好みなんてわからない。というか、あいつはおしゃれに疎いところがあるので、 センスも何も気にしないだろう。 わかっているし、あまりに気張ってもいかにも下心がある服装というか、変に意識しすぎている感じがして格好悪いとも思う。
 いや、悠也のことだから、そもそも気づいたり気にすることもないかもしれないが…。

 どうせならいつもよりさりげなく、 でもかっこよくみせたい。無難に着こなせる服を東京に置いてきてしまったことを悔やんだ。

  ああでもない、こうでもない、とさんざん悩みながらも、俺の心は弾んでいた。この尊い時間が全部嘘みたいに思ったりもして。
 だけど、携帯の画面には、何度見ても「デート行こうぜ!」という文字が紛れもなくそこにあって、それだけでもう気持ちが弾けんばかりに嬉しくなってしまう。
 
 結局、服はなかなか決められそうになかったので、 明日朝起きてから最終決断をすることにした。床に散らばった服をそのままにして、俺はベッドに勢いよく飛び込んだ。

 その日は、どうにもなかなか寝つけそうになく、明日待ち合わせ場所で会ったら、まずは最初になんて言おう、と考えるだけで いっそう落ち着かなくなってしまった。

 何度も寝返りを打っては、まるで遠足前日の子どもさながらにそわそわして、それでも何とか目をつむっているうちに、やがていつの間にかとろとろと眠りに落ちていった。


 
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

待っていたのは恋する季節

冴月希衣@商業BL販売中
BL
恋の芽吹きのきっかけは失恋?【癒し系なごみキャラ×強気モテメン】 「別れてほしいの」 「あー、はいはい。了解! 別れよう。じゃあな」  日高雪白。大手クレジットカード会社の営業企画部所属。二十二歳。  相手から告白されて付き合い始めたのに別れ話を切り出してくるのは必ず女性側から。彼なりに大事にしているつもりでも必ずその結末を迎える理不尽ルートだが、相手が罪悪感を抱かないよう、わざと冷たく返事をしている。  そんな雪白が傷心を愚痴る相手はたった一人。親友、小日向蒼海。  癒し系なごみキャラに強気モテメンが弱みを見せる時、親友同士の関係に思いがけない変化が……。 表紙は香月ららさん(@lala_kotubu) ◆本文、画像の無断転載禁止◆ Reproducing all or any part of the contents is prohibited without the author's permission.

手紙

ドラマチカ
BL
忘れらない思い出。高校で知り合って親友になった益子と郡山。一年、二年と共に過ごし、いつの間にか郡山に恋心を抱いていた益子。カッコよく、優しい郡山と一緒にいればいるほど好きになっていく。きっと郡山も同じ気持ちなのだろうと感じながらも、告白をする勇気もなく日々が過ぎていく。 そうこうしているうちに三年になり、高校生活も終わりが見えてきた。ずっと一緒にいたいと思いながら気持ちを伝えることができない益子。そして、誰よりも益子を大切に想っている郡山。二人の想いは思い出とともに記憶の中に残り続けている……。

草食ワンコ系に一目惚れしたはいいけれど

多田光希
BL
ある日突然、自分の勤める会社に、保険の営業にやってきたクリクリのキラキラした瞳に、サラサラの栗色の髪に透き通ったような白い肌の持ち主、道守瑞城に、柿崎晴天は一目惚れをしてしまう。さりげなくアプローチを掛けようとするものの、なかなかうまくいかず、撃沈する日々だった。しかし、あることがキッカケで、2人の距離が急に縮まる。幸せを噛み締めながら、距離を縮めていく柿崎だったが、道守には、ある秘密があり…

「誕生日前日に世界が始まる」

悠里
BL
真也×凌 大学生(中学からの親友です) 凌の誕生日前日23時過ぎからのお話です(^^ ほっこり読んでいただけたら♡ 幸せな誕生日を想像して頂けたらいいなと思います♡ →書きたくなって番外編に少し続けました。

サンタからの贈り物

未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。 ※別小説のセルフリメイクです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

うまく笑えない君へと捧ぐ

西友
BL
 本編+おまけ話、完結です。  ありがとうございました!  中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。  一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。  ──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。  もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

処理中です...