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第三章 はじめての
2 デート!
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その日も、悠也との散歩から帰ってきた後に、シャワーを浴びて、まどろみながらベッドに寝転がった。目覚ましをセットしようとして携帯をぼんやり開くと、悠也からメッセージの通知が来ている。
「デート行こうぜ!」
見た瞬間、携帯が手から滑り落ちた。
「痛っ」
顔面をしたたかにうちつけ、俺はうめきながら鼻をさすった。 混乱したままベッドに転がった携帯を拾い上げ、もう一度通知を見ながらおそるおそるタップする。
悠也に返信しようとチャット欄を開いたものの、動揺してうまく頭が回らない。 一体なんて返信しようか考えあぐねていると、いきなり悠也から電話がかかってきた。
「…もしもし」
「楓、ねてたー?」
「ねてない、けど」
思わず緊張して低い声が出てしまう。
「な、明日空いてたらさぁ、デートしようぜ」
まるで、 幼い子どもが、あーそぼって言うようなノリで、デート誘ってくるやつがあるかよ。
「デートって、どこ、行くんですか?」
「ゲーセン!」
なんで急に堅苦しい言葉になってんだよー、と笑いながら悠也が言う。
ゲーセンって!俺は思わずがっくりと肩を落とした。
「あのさびれた建物ぉ…」
「さびれたって言うなよー」
電話越しでも悠也が、ぷくうと頬を膨らませているのがわかる。俺は「悪い悪い」と笑いながら、
「てか、なんで急に?」
と聞いてみた。
「んー、 いや、俺からさぁ、付き合おうって言ったじゃん?」
「んあ?」
思わずすっとんきょうな声が出る。
「んー、でも、なんか近所一緒に散歩したりとかだとさ、変わり映えしないっていうか… 昔と一緒だよなぁって思ってさ。で、さっき夕飯食べながら、突撃インタビューを観てたんだけど」
「突撃インタビュー」って、地方番組の特集か。久々にその名前を聞くので、懐かしく感じる。
「で、今日の特集がさ、ザ・若者デートスポット!だったんだよ」
ザ・デートスポットって、だ、だせえ…。
「で、それ見て、デートしようと思ったわけ?」
こいつらしいなと思い、 つい笑みがこぼれてしまう。
「ん、それで人気ランキング三位が、ゲーセンとカラオケだったんだよ!ゲーセンだったら俺らの近くにもあるじゃん、と思ってさ」
多分そのランキングのゲーセンは、 もっと大きいショッピングモールだとか、少なくともあんな寂れた小さな建物のような場所ではない…と思ったが、こいつなりにいろいろ考えてくれたんだろうな、と思うと頬が緩んだ。
「いいよ、行こうぜ」
そう言うとすかさず悠也が、
「へへ、やったぁ」
と無邪気に楽しげな声をあげるものだから、変に心臓がどぎまぎしてくる。
悠也が「じゃあ時間と待ち合わせ場所は~」と話しだすので、首をかしげる。
「え、てか、わざわざ待ち合わせ?」
散歩する時だって、正確な時間なんか決めなくても、悠也の家の前にふらっと行って、 既にあいつが手を振りながら走ってくることもあるし、まだ出て来なさそうな時は電話したりインターホンを鳴らして、いつも適当に落ち合っている。
「その方が特別って感じしねぇ?」
いきなり言うので、心臓がさらにぎゅんっと飛び跳ねた。 それを悟られないように、俺は「ん」と手短に返事をする。
電話を終えると、俺はベッドにつっぷした。やばい、にやけが止まらねぇ。脳内を「デート」という単語がぐるぐると駆け巡る。
あ、 服どうしよう。
上半身をがばっと起こして、 俺は顔をしかめながら思い悩む。気合い入れすぎたら、はずいっていうか、 さすがに気持ち悪いよなぁ。
そうだ、大学の合コンで使ったやつとか? シンプルだけどかっこよくて洒落ている、と周りの奴らに評判だった。…いやいや、こんなど田舎でゲーセン行くのにもっと当たり障りないやつにしないと、それこそ浮くだろ。
やっばい、ほんとに浮かれてんな俺。
無意識に口元を抑え顔を引き締めようとしても、またすぐに自然とにやけてしまう。
ああ、 本当どんな格好にしよう。正直悠也の好みなんてわからない。というか、あいつはおしゃれに疎いところがあるので、 センスも何も気にしないだろう。 わかっているし、あまりに気張ってもいかにも下心がある服装というか、変に意識しすぎている感じがして格好悪いとも思う。
いや、悠也のことだから、そもそも気づいたり気にすることもないかもしれないが…。
どうせならいつもよりさりげなく、 でもかっこよくみせたい。 無難に着こなせる服を東京に置いてきてしまったことを悔やんだ。
ああでもない、こうでもない、とさんざん悩みながらも、俺の心は弾んでいた。この尊い時間が全部嘘みたいに思ったりもして。
だけど、携帯の画面には、何度見ても「デート行こうぜ!」という文字が紛れもなくそこにあって、それだけでもう気持ちが弾けんばかりに嬉しくなってしまう。
結局、服はなかなか決められそうになかったので、 明日朝起きてから最終決断をしよう、 と心に決める。床に散らばった服をそのままにして、俺はベッドに勢いよく飛び込んだ。
その日は、どうにもなかなか寝つけそうになく、明日待ち合わせ場所であったら、まずは最初になんて言おう、と考えるだけで いっそう落ち着かなくなってしまった。
何度も寝返りを打っては、まるで遠足前日の子どもさながらにそわそわして、それでも何とか目をつむっているうちに、やがていつの間にかとろとろと眠りに落ちていった。
「デート行こうぜ!」
見た瞬間、携帯が手から滑り落ちた。
「痛っ」
顔面をしたたかにうちつけ、俺はうめきながら鼻をさすった。 混乱したままベッドに転がった携帯を拾い上げ、もう一度通知を見ながらおそるおそるタップする。
悠也に返信しようとチャット欄を開いたものの、動揺してうまく頭が回らない。 一体なんて返信しようか考えあぐねていると、いきなり悠也から電話がかかってきた。
「…もしもし」
「楓、ねてたー?」
「ねてない、けど」
思わず緊張して低い声が出てしまう。
「な、明日空いてたらさぁ、デートしようぜ」
まるで、 幼い子どもが、あーそぼって言うようなノリで、デート誘ってくるやつがあるかよ。
「デートって、どこ、行くんですか?」
「ゲーセン!」
なんで急に堅苦しい言葉になってんだよー、と笑いながら悠也が言う。
ゲーセンって!俺は思わずがっくりと肩を落とした。
「あのさびれた建物ぉ…」
「さびれたって言うなよー」
電話越しでも悠也が、ぷくうと頬を膨らませているのがわかる。俺は「悪い悪い」と笑いながら、
「てか、なんで急に?」
と聞いてみた。
「んー、 いや、俺からさぁ、付き合おうって言ったじゃん?」
「んあ?」
思わずすっとんきょうな声が出る。
「んー、でも、なんか近所一緒に散歩したりとかだとさ、変わり映えしないっていうか… 昔と一緒だよなぁって思ってさ。で、さっき夕飯食べながら、突撃インタビューを観てたんだけど」
「突撃インタビュー」って、地方番組の特集か。久々にその名前を聞くので、懐かしく感じる。
「で、今日の特集がさ、ザ・若者デートスポット!だったんだよ」
ザ・デートスポットって、だ、だせえ…。
「で、それ見て、デートしようと思ったわけ?」
こいつらしいなと思い、 つい笑みがこぼれてしまう。
「ん、それで人気ランキング三位が、ゲーセンとカラオケだったんだよ!ゲーセンだったら俺らの近くにもあるじゃん、と思ってさ」
多分そのランキングのゲーセンは、 もっと大きいショッピングモールだとか、少なくともあんな寂れた小さな建物のような場所ではない…と思ったが、こいつなりにいろいろ考えてくれたんだろうな、と思うと頬が緩んだ。
「いいよ、行こうぜ」
そう言うとすかさず悠也が、
「へへ、やったぁ」
と無邪気に楽しげな声をあげるものだから、変に心臓がどぎまぎしてくる。
悠也が「じゃあ時間と待ち合わせ場所は~」と話しだすので、首をかしげる。
「え、てか、わざわざ待ち合わせ?」
散歩する時だって、正確な時間なんか決めなくても、悠也の家の前にふらっと行って、 既にあいつが手を振りながら走ってくることもあるし、まだ出て来なさそうな時は電話したりインターホンを鳴らして、いつも適当に落ち合っている。
「その方が特別って感じしねぇ?」
いきなり言うので、心臓がさらにぎゅんっと飛び跳ねた。 それを悟られないように、俺は「ん」と手短に返事をする。
電話を終えると、俺はベッドにつっぷした。やばい、にやけが止まらねぇ。脳内を「デート」という単語がぐるぐると駆け巡る。
あ、 服どうしよう。
上半身をがばっと起こして、 俺は顔をしかめながら思い悩む。気合い入れすぎたら、はずいっていうか、 さすがに気持ち悪いよなぁ。
そうだ、大学の合コンで使ったやつとか? シンプルだけどかっこよくて洒落ている、と周りの奴らに評判だった。…いやいや、こんなど田舎でゲーセン行くのにもっと当たり障りないやつにしないと、それこそ浮くだろ。
やっばい、ほんとに浮かれてんな俺。
無意識に口元を抑え顔を引き締めようとしても、またすぐに自然とにやけてしまう。
ああ、 本当どんな格好にしよう。正直悠也の好みなんてわからない。というか、あいつはおしゃれに疎いところがあるので、 センスも何も気にしないだろう。 わかっているし、あまりに気張ってもいかにも下心がある服装というか、変に意識しすぎている感じがして格好悪いとも思う。
いや、悠也のことだから、そもそも気づいたり気にすることもないかもしれないが…。
どうせならいつもよりさりげなく、 でもかっこよくみせたい。 無難に着こなせる服を東京に置いてきてしまったことを悔やんだ。
ああでもない、こうでもない、とさんざん悩みながらも、俺の心は弾んでいた。この尊い時間が全部嘘みたいに思ったりもして。
だけど、携帯の画面には、何度見ても「デート行こうぜ!」という文字が紛れもなくそこにあって、それだけでもう気持ちが弾けんばかりに嬉しくなってしまう。
結局、服はなかなか決められそうになかったので、 明日朝起きてから最終決断をしよう、 と心に決める。床に散らばった服をそのままにして、俺はベッドに勢いよく飛び込んだ。
その日は、どうにもなかなか寝つけそうになく、明日待ち合わせ場所であったら、まずは最初になんて言おう、と考えるだけで いっそう落ち着かなくなってしまった。
何度も寝返りを打っては、まるで遠足前日の子どもさながらにそわそわして、それでも何とか目をつむっているうちに、やがていつの間にかとろとろと眠りに落ちていった。
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