7 / 27
第二章 告白
1「恋情」
しおりを挟む
「な、覚えてるか?むかしうっかり帰りのバス逃しちゃってさ、あの頃道とかよくわかんなくて迷子になってさあ」
悠也の声は弾んでいて、真っ暗闇には似合わない。朗らかな響きが心地よく夜気に吸い込まれていく。
「覚えてるよ」
覚えてるに決まってる。お前とのことは、全部。
「俺さ、あのときかえでとだったら、大丈夫なんだなって思った」
「え?」
思わず悠也をみる。
「俺が泣いたら、かえであわてて手え繋いで引っ張ってくれたじゃん」
「そうだったか」
俺は曖昧に笑ってうつむく。そうだよ、と返す悠也の優しい声に胸がチクリと痛んだ。
悠也だって、会えなくなれば俺のことなんて、そのうちにどうでもよくなるだろうと思っていた。いや、思いこもうとしていた。きっと俺も、いつかは忘れて楽になれるんだと思いたかったから。
会わないままでも、俺は何にも変われなかった。結局この街に戻ってきて、今だってまるで空白の数年をなかったかのように振る舞っている。
なのに、こいつはどうして。
「…お前はさ、よく怒んなかったよな。 俺はずっと何も言わずに、今まで帰ってこなかったのに」
喉元からこぼれ落ちるように出た言葉は、 案外夜の静寂にはっきり響き渡ってしまい、居心地が悪くなる。
「え~」
悠也はちょっと首をかしげるように俺を見て、目を細め笑った。一瞬俺の心臓はドキリと跳ね上がる。
「だって、それは、やっぱり俺かえでのことすきだし」
は?唐突なその言葉に体がこわばった。柔らかな悠也の声が、俺の胸を突いてくる。
「そんなん連絡とらなくたって、俺らずっと親友じゃん。ちっちゃい頃からさ」
にかっと俺に笑いかける悠也を直視できない。
一生、このまま、なのだろうか。
ぱりん、と 耳の奥で何かがひび割れていくような、 心がバラバラになっていくような感覚がした。悠也のことを、ひどく裏切っているような気分を消したい。こいつの、言葉の全てに、俺は報いることができない。どうにかなりそうだ。心臓が、痛い。ずっと、ずっとひりひりと音をたて、小さな悲鳴をあげている。
「まあ東京でどんなことがあった、とか、離れてたかえでのこと俺は何にも知らないけどさ。でも、俺はかえでと出会った時から、ただ嬉しかったんだよなぁ」
「そんなの、俺は」
悠也、お前の嬉しいと俺の嬉しいは違うんだよ。幼い頃からずっと近くにいるのに、お前は今も今までも俺のことを何にも知らないままだ。知らないくせに、馬鹿みたいに信じて。
嫌われたくなかった。叶うなら、せめて一番の親友であり続けたかった。 だけど、もう苦しくて自分の心を知られたくなくて、 埋め尽くせない寂しさから目を背けるように、東京の大学に行った。
それなのに、なんでお前は俺を許すんだ。またなって笑って嘘をついて、それっきり、お前の連絡を何もかも拒絶した、どうしようもない男のことをどうして親友だなんて呼ぶんだ。
こんなすきは、壊れてなくなって欲しい。全部、消えちまえ。
「ねーよ。お前のこと、親友だなんて思ってねーから」
自分の吐いた鋭く冷たい息の音に、はっと我に返る。しん、と空気が凍りついたのを感じた。
ああ、やってしまった。身体は冷え切って喉もからからなのに、それでも言葉がとまらない。
「ずっとそうだったよ」
笑いながら話す自分の声が、どこか遠くから響いているように感じた。悠也がただじっとこちらをみている視線が、みなくてもヒリヒリと俺の喉に突き刺さってくる。
「俺はお前のことをずっとそうやって、恋情的にみてたんだよ。おかしいだろ、笑っちゃうよな」
悠也の声は弾んでいて、真っ暗闇には似合わない。朗らかな響きが心地よく夜気に吸い込まれていく。
「覚えてるよ」
覚えてるに決まってる。お前とのことは、全部。
「俺さ、あのときかえでとだったら、大丈夫なんだなって思った」
「え?」
思わず悠也をみる。
「俺が泣いたら、かえであわてて手え繋いで引っ張ってくれたじゃん」
「そうだったか」
俺は曖昧に笑ってうつむく。そうだよ、と返す悠也の優しい声に胸がチクリと痛んだ。
悠也だって、会えなくなれば俺のことなんて、そのうちにどうでもよくなるだろうと思っていた。いや、思いこもうとしていた。きっと俺も、いつかは忘れて楽になれるんだと思いたかったから。
会わないままでも、俺は何にも変われなかった。結局この街に戻ってきて、今だってまるで空白の数年をなかったかのように振る舞っている。
なのに、こいつはどうして。
「…お前はさ、よく怒んなかったよな。 俺はずっと何も言わずに、今まで帰ってこなかったのに」
喉元からこぼれ落ちるように出た言葉は、 案外夜の静寂にはっきり響き渡ってしまい、居心地が悪くなる。
「え~」
悠也はちょっと首をかしげるように俺を見て、目を細め笑った。一瞬俺の心臓はドキリと跳ね上がる。
「だって、それは、やっぱり俺かえでのことすきだし」
は?唐突なその言葉に体がこわばった。柔らかな悠也の声が、俺の胸を突いてくる。
「そんなん連絡とらなくたって、俺らずっと親友じゃん。ちっちゃい頃からさ」
にかっと俺に笑いかける悠也を直視できない。
一生、このまま、なのだろうか。
ぱりん、と 耳の奥で何かがひび割れていくような、 心がバラバラになっていくような感覚がした。悠也のことを、ひどく裏切っているような気分を消したい。こいつの、言葉の全てに、俺は報いることができない。どうにかなりそうだ。心臓が、痛い。ずっと、ずっとひりひりと音をたて、小さな悲鳴をあげている。
「まあ東京でどんなことがあった、とか、離れてたかえでのこと俺は何にも知らないけどさ。でも、俺はかえでと出会った時から、ただ嬉しかったんだよなぁ」
「そんなの、俺は」
悠也、お前の嬉しいと俺の嬉しいは違うんだよ。幼い頃からずっと近くにいるのに、お前は今も今までも俺のことを何にも知らないままだ。知らないくせに、馬鹿みたいに信じて。
嫌われたくなかった。叶うなら、せめて一番の親友であり続けたかった。 だけど、もう苦しくて自分の心を知られたくなくて、 埋め尽くせない寂しさから目を背けるように、東京の大学に行った。
それなのに、なんでお前は俺を許すんだ。またなって笑って嘘をついて、それっきり、お前の連絡を何もかも拒絶した、どうしようもない男のことをどうして親友だなんて呼ぶんだ。
こんなすきは、壊れてなくなって欲しい。全部、消えちまえ。
「ねーよ。お前のこと、親友だなんて思ってねーから」
自分の吐いた鋭く冷たい息の音に、はっと我に返る。しん、と空気が凍りついたのを感じた。
ああ、やってしまった。身体は冷え切って喉もからからなのに、それでも言葉がとまらない。
「ずっとそうだったよ」
笑いながら話す自分の声が、どこか遠くから響いているように感じた。悠也がただじっとこちらをみている視線が、みなくてもヒリヒリと俺の喉に突き刺さってくる。
「俺はお前のことをずっとそうやって、恋情的にみてたんだよ。おかしいだろ、笑っちゃうよな」
14
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
風紀委員長様は王道転校生がお嫌い
八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。
11/21 登場人物まとめを追加しました。
【第7回BL小説大賞エントリー中】
山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。
この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。
東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。
風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。
しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。
ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。
おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!?
そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。
何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから!
※11/12に10話加筆しています。
王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる