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第一章 悠也との日々

3 最後の夏

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 それからは、結局ほとんど毎日悠也と会う日々が続いた。
 ここに帰ってくるまでは、たとえ悠也に遭遇してしまったとしても、気づかないふりをして、とにかく何とか逃げてやり過ごそうなんて無茶なことを考えていた。

 でもよく考えたら、そもそも家が近所で、約束をしなくても会う確率が高いのは当たり前だった。東京でたまたま誰かとすれ違うことなんてめったにないけど、確かに高校時代まではどこに行っても同級生に会うことが多かったのを思い出す。

 母からおつかいと称し雑用を頼まれ、しぶしぶ足を伸ばしたスーパーマーケットでも、メモとにらめっこしながら買い物をしている時、タタタっと軽快な足音がしたかと思うと、いきなり膝カックンされることもあった。
 結局俺は悠也の無邪気な瞳には叶わなくて、一度会ってしまえば避けてやり過ごすなんてできるわけがなかった。だからここを離れたのに。

 あの時、東京に逃げて、ずるいことをたくさん考えた。このまま、連絡をとらずに月日がたって、そうしたら、悠也も俺のことをいつか忘れてくれるんじゃないか、そう思いながらあいつから送られてきたメールをブロックした。

 きっと会わなければ俺だって忘れられる、この気持ちを塗りつぶしてなかったことにできる、そう言い聞かせていた。それでもこの三年、ずきん、ずきん、と痛む胸は、まるでうみが出るようにじくじくと悲鳴をあげて、ずっと苦しいままだった。

 自分でも本当に何をやっているんだろうと思う。でもどうせ夏休みの間だけだ。卒業後だってここに帰ってくるつもりはないし、これが最後だ。
 情けないことにそんなことを何度も脳で反芻しながら、それでも今が、悠也と久々に言葉を交わす瞬間がたまらなく嬉しくなってしまう自分がいた。


「こんな時間に散歩しても、曇ってるし何も見えねーぞ」
 雲に覆われて濁った夜空。何のロマンも変哲もない、人通りもなく、虫の声と草葉を揺らす風の音だけが響く風景。

 それでもなんだか悠也は楽しそうな足取りで、 まるでこれから遊園地にでも行くみたいだ。

「そんなことないって、ほら」
 雲間からわずかに顔をだす月を指差しながら、悠也が笑う。
 
 お互いの徒歩圏内に唯一ある小さなコンビニでばったりと会った帰り道、悠也は不意に散歩に行こう、と言いだしたのだった。

 コンビニから出ると住宅も少なく、草木がぼうぼうと茂る道のりを歩いた。虫の音が四方八方に飛び交い、夜になっても真夏の匂いが立ち込める。 むわっと体中にまとわりついてくるそれらが正直うっとうしい。 だけど、悠也とだったら、まあ悪くないか、そんなふうに思ってしまう自分もいた。




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