【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ

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プロローグ

3 変わらない街並み

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「荷物もつよ」
 と悠也が、俺の方に両手を差し出してきた。俺はいい、と言って、スーツケースを自分の方に引き寄せる。不服そうに横に並ぼうとした悠也に、思わず声を漏らす。
「ごめん」
 俺は視線をそらしながら、思ったより低い声が出てしまったことにあせった。これではまるで怒っているみたいだ。

「ん?」
 悠也は首を軽くかしげ、俺の言葉を待ってくれている。

「連絡とらなかったことも、その」
 だめだ、全然上手く言葉がでてこない。何を言おうかぐるぐる考えようとしたが、 頭が真っ白になる。

 しばらく黙っていた悠也が、ふいに俺のスーツケースをぐいっと引っ張った。驚いて目を見張る。
「まぁ、理由があったんだろ」
 悠也はそう言うと、幼い時と変わらない無邪気さでにかっと笑った。

「…なんで怒んねーの」
 呆然として掠れた声を出す俺に、悠也は困ったように首を傾げた。
「んー」
 と生返事しながら、手際よくスーツケースを持ち上げ、駅の階段を上っていく。あわてて俺も駆け足で追いつくと、悠也は
「俺はずっと会いたかったよ」
 そうぽつりとつぶやいた。ふいに寂しげに放たれた声音にどきりとして、俺は何も答えられなかった。


 それきり会話は途切れて、気まずさを抱えたまま、悠也と一緒にバスに乗った。スーツケースをずっと運んでもらっていることに気づき、「自分でもつ」と言ったが、いいから、と悠也は頬を膨らませる。

 俺は手持ち無沙汰にバスからみえる田んぼをぼんやり眺めた。本当に何も変わらない。あのさびれた駅も、あたり一面田んぼだけが広がる田舎道も。俺だけが、この場所に馴染めない。

 勝手にここから逃げて、悠也を傷つけた。でもきっとその本当の理由を言ったら、悠也はもっと深く傷つくだろう。俺の感情なんて、ずっと秘めたこのマグマみたいな思いなんて、言えるわけがなかった。
 この罪悪感はずっと一人で抱えて生きていけば、離れてしまえば、誰にも迷惑はかけずにすむ。そう思っていたのに、結局またこうしてそばにいる。馬鹿みたいだ。
 この気持ちを打ち明けなければ、俺はまた悠也と一緒にいられるのか、と甘ったるい思考を胸にぶらさげている。

 じっと窓の外をみつめる俺に、悠也は声をかけはしなかったけれど、こちらをそっと盗み見る視線を背中越しに感じた。頬杖をついてみつめる窓の外は、日光が眩しいくらいに降り注いでいた。
 小さく息をついて目を閉じる。悠也が落ち着かなさげに身体を動かすせいで、肩がとん、と俺の腕にあたった。

 あーあ、早く着けばいいのに、バス。
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