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首筋から汗がしたたりおちてくるのを、乱暴に腕で拭う。
真夏の昼下がりだからか、ほとんど人のいない小さなこのホームには、むわっと熱がたちこめていて、頭がくらくらしそうだ。
もう帰ってきてしまったからには仕方がない。
ふぅ、とため息をついてスーツケースの持ち手に触れた瞬間、
「かえで?」
男にしては声が高く、語尾が幼なげに跳ねる懐かしい声。
体が硬直した。振り向かなくてもわかる。
聞き慣れた、でももう二度と触れるはずは、触れてはいけないと思い続けてきたその声。
なんで、あいつがここにいるんだよ。怖くて顔があげられない。
「…んーと、久しぶり。かえでだよな、俺おばさんに今日この時間、お前が到着するって聞いたからさ」
あんのクソババア。俺はスーツケースの取手を、破壊しそうなほどの力で思わず握りしめる。こいつには言うなって念を押したのに、いや、それが余計だったか、あークソ…。
もじもじと何か言いたそうにしている気配が、背中越しに伝わる。やっぱり勝手に何も言わずに、連絡もとらなくなったことを怒って…るよな。当たり前だ、そんなの。
「おかえり!」
軽快な足音とともに響くその声に、俺は思わず弾かれるように顔をあげた。あの頃より大人びたシンプルなシャツの似合う、でも変わらず屈託のない笑顔を浮かべる悠也がそこにいた。思わず、顔が歪みそうになる。
なんで、俺を怒らないんだという苛立ちと、今も馬鹿みたいにやさしい笑みを俺にむけてくるんだな、という情けない安堵とが、ぐるぐる胸の中に駆け巡る。
…やばい、泣きそうだ。今泣くなんてダサすぎる。あの時だって我慢できたんだから、大丈夫だ。ぐうっと喉から溢れそうな思いを必死に抑えた。
「…元気だったか?」
悠也のやさしい声は不安げに揺れながらも、まっすぐ俺を捉えてくる。
「俺、一応サプラーイズって感じでわってさせようかと思ったんだけどさ、なんか、かえでが思ったより大人っぽくてびっくりして、普通に声かけちゃった」
照れくさそうに、でも心細げに揺らめいた瞳がちらちらと綺麗に光っていて、何年経っても俺はやっぱりこいつが好きなんだと思い知らされる。
やさしいところも気にしぃなところも、瞳が眩しくて抱きしめたくなるところも。何も変わってない。いや、そんなの錯覚で、こいつはきっともう大人びていて、俺だけが何も…。
「なんか雰囲気、ちょっと変わってたからびっくりしたぞ。本当さぁ、すらっとしちゃって、東京人!?みたいな」
その声に、思わず息が詰まりそうになる。見上げると、嬉しそうに俺をみつめる瞳がそこにあった。
あーあ、本当に何も変わってないんだな、お前は。
「東京人ってなんだよ」
声がからからで、頼りなく震えている。
悠也はそれにまるで気づかないかのように、目をぱちくりさせながら、明るい声で返してきた。
「え、都会の人、みたいな…?ハイテク?」
こいつらしいアホな言葉だなぁと思わず頬を緩めると、「かっこよくなりやがって~」とぶつくさいいながら、悠也が俺の肩をどついてきた。一瞬どきっとして、スーツケースの取手をそっと気付かれないように強く握り直す。
俺はちゃんと自然に笑い返せただろうか?
真夏の昼下がりだからか、ほとんど人のいない小さなこのホームには、むわっと熱がたちこめていて、頭がくらくらしそうだ。
もう帰ってきてしまったからには仕方がない。
ふぅ、とため息をついてスーツケースの持ち手に触れた瞬間、
「かえで?」
男にしては声が高く、語尾が幼なげに跳ねる懐かしい声。
体が硬直した。振り向かなくてもわかる。
聞き慣れた、でももう二度と触れるはずは、触れてはいけないと思い続けてきたその声。
なんで、あいつがここにいるんだよ。怖くて顔があげられない。
「…んーと、久しぶり。かえでだよな、俺おばさんに今日この時間、お前が到着するって聞いたからさ」
あんのクソババア。俺はスーツケースの取手を、破壊しそうなほどの力で思わず握りしめる。こいつには言うなって念を押したのに、いや、それが余計だったか、あークソ…。
もじもじと何か言いたそうにしている気配が、背中越しに伝わる。やっぱり勝手に何も言わずに、連絡もとらなくなったことを怒って…るよな。当たり前だ、そんなの。
「おかえり!」
軽快な足音とともに響くその声に、俺は思わず弾かれるように顔をあげた。あの頃より大人びたシンプルなシャツの似合う、でも変わらず屈託のない笑顔を浮かべる悠也がそこにいた。思わず、顔が歪みそうになる。
なんで、俺を怒らないんだという苛立ちと、今も馬鹿みたいにやさしい笑みを俺にむけてくるんだな、という情けない安堵とが、ぐるぐる胸の中に駆け巡る。
…やばい、泣きそうだ。今泣くなんてダサすぎる。あの時だって我慢できたんだから、大丈夫だ。ぐうっと喉から溢れそうな思いを必死に抑えた。
「…元気だったか?」
悠也のやさしい声は不安げに揺れながらも、まっすぐ俺を捉えてくる。
「俺、一応サプラーイズって感じでわってさせようかと思ったんだけどさ、なんか、かえでが思ったより大人っぽくてびっくりして、普通に声かけちゃった」
照れくさそうに、でも心細げに揺らめいた瞳がちらちらと綺麗に光っていて、何年経っても俺はやっぱりこいつが好きなんだと思い知らされる。
やさしいところも気にしぃなところも、瞳が眩しくて抱きしめたくなるところも。何も変わってない。いや、そんなの錯覚で、こいつはきっともう大人びていて、俺だけが何も…。
「なんか雰囲気、ちょっと変わってたからびっくりしたぞ。本当さぁ、すらっとしちゃって、東京人!?みたいな」
その声に、思わず息が詰まりそうになる。見上げると、嬉しそうに俺をみつめる瞳がそこにあった。
あーあ、本当に何も変わってないんだな、お前は。
「東京人ってなんだよ」
声がからからで、頼りなく震えている。
悠也はそれにまるで気づかないかのように、目をぱちくりさせながら、明るい声で返してきた。
「え、都会の人、みたいな…?ハイテク?」
こいつらしいアホな言葉だなぁと思わず頬を緩めると、「かっこよくなりやがって~」とぶつくさいいながら、悠也が俺の肩をどついてきた。一瞬どきっとして、スーツケースの取手をそっと気付かれないように強く握り直す。
俺はちゃんと自然に笑い返せただろうか?
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