上 下
48 / 50
赤い瞳の姫君

この城からお暇しましょうか。

しおりを挟む
 朝。スッキリと目覚めて、気付く。

 昨夜の夕食後からの記憶が曖昧だ。

 どうやら、出された白ワインが美味しくて少々飲み過ぎたようだ。

 恥ずかしい・・・

 そして、今日もまた晴れ渡る快晴。

 吸血鬼という噂があった領主のサファイアだが・・・まあ、十中八九ガセだろう。

 そもそも、彼女が領主になってから不作続きというのも、偶々のことだ。領主へ就任して二年目というのだから、とんだ濡れ衣と言ったところ。
 そりゃあ、二年続けて不作という年くらいあるだろう。凶作で飢饉が起きるというレベルでもなく、もし飢饉が起こったとしても、城に備蓄してある穀類で数ヶ月程は近隣住民達が暮らせるという。

 そんな風に領民のことを考えているサファイアは、紛れもなく優秀な領主だ。

 彼女を疑ったことを、恥ずかしく思う。

 もう、この城に用は無い。

 この陽気なら、道もすっかり乾いていることだろう。今日、城を出立しよう。

 そう考えながら、支度を整えて食堂へ。

 相変わらず豪華な料理が並ぶ朝食の席で、サファイアとフィン君へいとまを告げる。

「そうですか。では、お気を付けて」

 にこりと微笑むサファイア。

 その瞳は、やはり・・・サファイアという名前に・・・そぐわない・・・・・美しいエメラルド。

「ひをふへへれー」

 もごもごと行儀悪く、なにかを話すフィン君。

「フィン君、行儀が悪いぞ?」

 もぐもぐ、ゴックン!

「バイバイ、テオ。気を付けてねー」

 こうしてわたしは、吸血鬼の住むという噂の城の真相を確かめた。

 領主のサファイアは吸血鬼などではなく、見事な空振りだったワケだが・・・

 不当に苦しめられている人がいなかったことを、今は喜ぼうじゃないか。

 きっと、これも良い経験だろう。

 わたしの目標は、偉大な先人達のように、人を救えるような人物になることだ。

 まだ、人を救ったことは無いが・・・

※※※※※※※※※※※※※※※

「・・・ようやく、あのポンコツ神父が出立しましたか」

 冷ややかな視線で階下を見下ろすのは、ドレスから普段着の執事服へ着替えたヴァン。

「あははっ、もうっ、ヴァンってば辛辣なんだからっ♪ポンコツなんて言ったら可哀想だよ~」

 クスクスと笑うフィン。

「事実だと思いますが? 貴方が近くにいて、全く反応しないだなんて、鈍いにも程がありますよ。だって貴方、教会には邪悪なモノ・・・・・だと認定されているでしょう? ホーリー・ヒュー」
「えへっ☆」

 にぱっと、いい顔で笑うフィン。

「それを、妖精や・・・悪魔と・・・称される・・・・こともある貴方を、お菓子で餌付けするとは・・・あの神父、鈍い上にポンコツで、才能の欠片も無いアホですね」
「え~? 問答無用でボクらのこと消しに掛かるエクソシストなんかより、テオの方が可愛いと思うな♪たくさんキャンディくれたし♪」
「そう簡単に消される貴方ではないでしょうに」
「まあねー♪」

 フィンは、人間に取り憑いて悪さをするようなちゃちな存在ではない。

 エクソシストを行う教会という組織ができるより以前から存在しているモノだ。なので、フィンには教会の言う神の威光など、効きはしない。
 けれど、だからこそ教会は、フィンを邪悪な存在として認定している。

 ヴァンはそんなフィンとは数百年来の友人で、十数年前からとある契約に拠って、フィンの従者となっている。

 悪魔と称されることもあるフィンと、そんな彼の従者という立場のヴァン。
 ヴァン自身は悪魔や妖精とされる存在ではないが、神や天使、聖霊以外の存在を異端とする教会とは、関わると面倒なことになるのは必至。なので、なるべく接触はしない方が賢明だ。

「普通の神父として、あんまり危ないことしないで暮らせばいいのにねっ☆」
「まあ、通常の神父としてならば、あのテオドール神父はいい人だと思いますよ。少々思い込みが強そうではありますけど」
「あははっ☆テオみたいな聖職者が増えたら、ボクらももう少し楽なんだけどねー♪」
「では、マスター。そろそろ彼女達へ挨拶をして、この城からおいとましましょうか」
「・・・美味しくて豪華なご飯がっ・・・」
「では、さっさと行きましょう」

 絶望したような顔をするフィンを醒めた瞳で放置し、ヴァンは部屋を出るべくドアを開けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

薔薇と少年

白亜凛
キャラ文芸
 路地裏のレストランバー『執事のシャルール』に、非日常の夜が訪れた。  夕べ、店の近くで男が刺されたという。  警察官が示すふたつのキーワードは、薔薇と少年。  常連客のなかにはその条件にマッチする少年も、夕べ薔薇を手にしていた女性もいる。  ふたりの常連客は事件と関係があるのだろうか。  アルバイトのアキラとバーのマスターの亮一のふたりは、心を揺らしながら店を開ける。  事件の全容が見えた時、日付が変わり、別の秘密が顔を出した。

笛智荘の仲間たち

ジャン・幸田
キャラ文芸
 田舎から都会に出てきた美優が不動産屋に紹介されてやってきたのは、通称「日本の九竜城」と呼ばれる怪しい雰囲気が漂うアパート笛智荘(ふえちそう)だった。そんな変なアパートに住む住民もまた不思議な人たちばかりだった。おかしな住民による非日常的な日常が今始まる!

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

警視庁の特別な事情2~優雅な日常を取り戻せ~

綾乃 蕾夢
キャラ文芸
友達と出かけた渋谷のスクランブル交差点で運悪く通り魔事件に遭遇したあたしは、何というか、止むに止まれず犯人を投げ飛ばしちゃった。  SNSやらニュースなんかに投稿されたその動画が元で、何やら過去の因縁が蘇る。  ちょっとっ! 人に怨みを買うような記憶は……ないとは言わないけど……。 平日は現役女子高生。間宮香絵。  裏の顔は警視庁総監付き「何でも屋」。  無愛想なイチ。  頭は良いけど、ちょっと……。なジュニア。  仲間思いなのに報われないカイリ(厨二ぎみ)。  世話のやけるメンバーに悩みの絶えないリカコ。  元気でタチの悪いこの連中は、恋に仕事に学業に。毎日バタバタ騒がしい!  警視庁の特別な事情1~JKカエの場合~ 完結済みで、キャラ文芸大賞にエントリー中です。 ~JKカエの場合~共々、ぜひ投票よろしくお願いします。

まほろば荘の大家さん

石田空
キャラ文芸
三葉はぎっくり腰で入院した祖母に替わって、祖母の経営するアパートまほろば荘の大家に臨時で就任した。しかしそこはのっぺらぼうに天狗、お菊さんに山神様が住む、ちょっと(かなり?)変わったアパートだった。同級生の雷神の先祖返りと一緒に、そこで巻き起こる騒動に右往左往する。「拝啓 おばあちゃん。アパート経営ってこんなに大変なものだったんですか?」今日も三葉は、賑やかなアパートの住民たちが巻き起こす騒動に四苦八苦する。

「お節介鬼神とタヌキ娘のほっこり喫茶店~お疲れ心にお茶を一杯~」

GOM
キャラ文芸
  ここは四国のど真ん中、お大師様の力に守られた地。  そこに住まう、お節介焼きなあやかし達と人々の物語。  GOMがお送りします地元ファンタジー物語。  アルファポリス初登場です。 イラスト:鷲羽さん  

ぬらりひょんのぼんくら嫁〜虐げられし少女はハイカラ料理で福をよぶ〜

蒼真まこ
キャラ文芸
生贄の花嫁は、あやかしの総大将と出会い、本当の愛と生きていく喜びを知る─。 時は大正。 九桜院さちは、あやかしの総大将ぬらりひょんの元へ嫁ぐために生まれた。生贄の花嫁となるために。 幼い頃より実父と使用人に虐げられ、笑って耐えることしか知らぬさち。唯一の心のよりどころは姉の蓉子が優しくしてくれることだった。 「わたくしの代わりに、ぬらりひょん様に嫁いでくれるわね?」 疑うことを知らない無垢な娘は、ぬらりひょんの元へ嫁ぎ、驚きの言葉を発する。そのひとことが美しくも気難しい、ぬらりひょんの心をとらえてしまう。 ぬらりひょんに気に入られたさちは、得意の洋食を作り、ぬらりひょんやあやかしたちに喜ばれることとなっていく。 「こんなわたしでも、幸せを望んでも良いのですか?」 やがて生家である九桜院家に大きな秘密があることがわかり──。 不遇な少女が運命に立ち向い幸せになっていく、大正あやかし嫁入りファンタジー。 ☆表紙絵は紗倉様に描いていただきました。作中に出てくる場面を元にした主人公のイメージイラストです。 ※エブリスタと小説家になろうにも掲載しておりますが、こちらは改稿版となります。

Even[イーヴン]~楽園10~

志賀雅基
キャラ文芸
◆死んだアヒルになる気はないが/その瞬間すら愉しんで/俺は笑ってゆくだろう◆ 惑星警察刑事×テラ連邦軍別室員シリーズPart10[全40話] 刑事の職務中にシドとハイファのバディが見つけた死体は別室員だった。死体のバディは行方不明で、更には機密資料と兵器のサンプルを持ち出した為に手配が掛かり、二人に捕らえるよう別室任務が下る。逮捕に当たってはデッド・オア・アライヴ、その生死を問わず……容疑者はハイファの元バディであり、それ以上の関係にあった。 ▼▼▼ 【シリーズ中、何処からでもどうぞ】 【全性別対応/BL特有シーンはストーリーに支障なく回避可能です】 【ノベルアップ+にR無指定版/エブリスタにR15版を掲載】

処理中です...