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赤い瞳の姫君

アホにアホと言うことの、なにがいけないのですか?

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 田園風景広がる田舎のど真ん中。遠くにぽつんと一つだけ、立派な城が建っている。

「ねー、ヴァン。あの城ちっさくなーい?」

 ローティーンに見える旅装束の子供が、もう一人の旅の連れを見上げて言った。

「マスター。アホですか、貴方は? 城が小さいのではなく、我々と城との距離が遠いのです。さあ、キビキビ歩いてください。夕方までには着きたいのですからね」

 子供をマスターと呼んだのは、黒い執事服をまとった人物。マスターと呼び掛ける割には、呆れを全く隠すことなく、歯に衣着せぬ物言いをする。

「ヴァン~、主のボクを捕まえて、よくもアホだなんて言えるよねっ? 全くもうっ」

 ぷぅと頬を膨らませる子供。

「はい。私は正直なのです。正直であることは美徳なのですよ? マスター」

 執事服は意にも介さない。

「ヴァンの毒舌~」
「毒舌とは心外ですね? 私は単に、思っていることを素直に垂れ流しているだけなのですから」
「・・・つまり?」
「アホにアホと言うことの、なにがいけないのですか? マスター」

 真顔で主への質問。

「主を敬えー」
「無理ですね。アホは敬えません」

 執事服は即答した。

「ヒドいよ~っ!」

 そんなこんなで・・・やれ、「疲れたー」だの、「喉渇いたー」、「もう一歩も歩けなーい」などと戯言たわごとのたまう主へ、(早く歩け、このバカマスターが)という暴言を抑えつつ、えっちらおっちらと歩き続けた二人だった。

 ちなみに、執事服…ヴァンが一番ツラかったのは、暴言を抑えることだったとか・・・

 二人が城へ辿たどり着いたのは、夕日が落ちてしばらく経ってからのこと。

 城としては規模が小さくても、子供が最初に思っていたよりは大きかった。

 閉じた城門の前に立つこと数分。
 辺りを見回すが、見える場所に門番はいない。

「さて、マスター」
「なーに?」
「どう声をかけましょうか?」
「どうもこうも、素直にホントのこと言うしかないでしょー?」
「本気ですか?」
「すみませ~んっ!旅のモノですけど、しばらく泊めてもらえませんか~っ!?」

 と、大声で叫ぶ子供に、ヴァンは溜息を吐いて暮れた空を見上げた。

※※※※※※※※※※※※※※※

『親愛なる妖精さんへ。

 元気にしているでしょうか?
 あなたには、感謝してもしきれませんね。

 突然のお手紙、不審に思ったでしょうが・・・
 実は、わたしはもう長くないのです。
 いきなりこんな切り出しで、あなたを驚かせてしまったかしら?ごめんなさいね?
 でも、冗談なんかじゃないのですよ?
 寄る年波には勝てませんもの。
 旅立つ準備を進めています。

 けれど、わたしにはどうしても心残りがあるのです。心配で心配で堪らないことが・・・
 なので、わたしの親愛なる妖精さんに頼もうと、筆を執った次第です。

 わたしが逝くと、あの子が独りになってしまうのです。それが気掛かりでなりません。
 どうか、年若く孤独なあの子を気に掛けてやっては頂けないでしょうか?

 これが、わたしの最期の願いです。
 どうか、叶えてください。

 あなたにあの子を気にして頂けるのなら、わたしは安心して旅立つことができます。

 妖精さんへ。愛をこめて。ジャンヌより』
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