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どうしたのっ!? 実験に明け暮れてまた不摂生したのっ!?
しおりを挟む「で、あなたはどうするの?」
研究所へ入ると、にっこりと麗しいお顔に微笑みを浮かべた所長が質問しました。
「どう、と言われましても……」
まあ、至極迷惑ですねとしか思いません。
「・・・ま、まさか、あなたあの獣人と番うつもりっ!?」
なぜか所長の顔がさっと青褪めました。
「アタシ、余計なことしたかしらっ? で、でも、ほら! 他種族が獣人に番認定されても、迷惑というか誘拐とか監禁とか犯罪チックな展開になることが多いじゃないっ!? アタシ、あなたにはそんなつらい思いをしてほしくなくてついっ!?」
「ああ、いえ。どうやってあのヒトを帰らせようかと困っていたので助かりました」
「そ、そう? なら、よかった……のよね?」
「はい。ありがとうございます、所長」
「いえ、アタシの可愛いあなたが困っているならなにを置いても助けるのは当然だもの」
ほっと落ちる溜め息。
「とりあえず……そうですね。試したい実験ができました。なので、一月程お休みをください先生」
「え? 実験って、なにをするつもり?」
「『番関係』の破棄はできるのか、と思いまして」
「……その実験の為に、一月の時間が必要なの?」
「ええ。一月もあれば……多分」
「わかったわ。でも、どんな実験をするのか教えてちょうだい」
心配そうな顔がわたしを見下ろします。先程、あの獣人の彼を冷ややかに見ていた顔とは思えない程の変わりようです。
「……」
「あ、違うのよ? あなたの研究を横取りしようとか、そういうことは考えてないの。ただ、あなたのことが心配なだけなの」
あわあわと表情を変え、わたしを伺う所長。
「ほら、『ツガイダーツガイダー』って五月蠅いさっきのあの獣があなたを連れ去ろうとするかもしれないし……だから、ね? アタシにはなにをするのか教えてほしいなぁ、って。ダメ?」
悲しそうにわたしを見詰め、こてんと首が傾げられます。
全く、先生は……なぜかわたしに甘いのですよね。まあ、種族特性と言えばそうかもしれませんが……先生は、ちょっとやそっとじゃ他人には興味を持たない種族です。
それがなぜか、わたしのことをとても気に入ってくれて……わたしが子供の頃から甘やかしてくれるんですよね。まあ、わたしが研究職に進もうとしたら、先に就職して所長になって……呼び寄せられたときには驚きましたが。先生は……長命種で豊富な知識を有しているので、こうしてわたしを可愛がってくれるのもある種の娯楽の一環なのかもしれませんけど。
「『番』とはなにを以て『番』たらしめているのか、という確認をしたいと思っています」
「んもう、つれない返事ね……」
つんと、色の薄い艶やかな唇が尖ります。
「でも、いいわ。それじゃあ、これだけは約束してちょうだい。危なくなったら、アタシを呼んで。どこにいても、絶対に駆け付けるから」
「はい」
「あ、危なくなくても全然気軽に呼んでくれていいわよ? あなたに呼ばれるのは大歓迎だもの。寂しいとか、ちょっとお喋りしたいときとかでもいいの。ね?」
「ありがとうございます。もう一つ、お願いしてもいいでしょうか?」
「いいわよ。なぁに?」
にこりと優しげに微笑む先生。
「先程の彼とは、実験中は顔を合わせたくないのです」
「ふふっ、大丈夫よ。あなたにお願いされなくても、あの獣のことはこちらで対応するつもりだったもの」
「そうですか。では、宜しくお願いします」
「でも……本当に一月でいいの? 一生顔を見なくて済むようにした方がよくない?」
「はい。実験結果を知りたいので」
「……わかったわ。でも、次にあの獣と顔を合わせる場には、アタシも立ち会うから。これは譲れないわ。『ツガイガー、ツガイガー』って鳴き喚く獣人は危険なんだから」
「わかりました。ご迷惑をお掛けします」
「ううん、迷惑なんかじゃないわ。それじゃあ、行ってらっしゃい」
「はい。行って来ます」
と、わたしは実験を行うことにした。
それから一月後。
「ああ、やっと来た! もう、全然アタシのこと呼んでくれないし、心配したの……って、なんだか窶れてないっ!? どうしたのっ!? 実験に明け暮れてまた不摂生したのっ!?」
研究所に戻ったわたしを見て、おろおろとする先生。
「いえ、不摂生ではないのですが……」
ある意味、人体実験になりますかね。わたし自身の身で。
「では、所長。あの彼を呼び出して頂けますか?」
「そんな顔して、あの五月蠅い獣と会うつもりなのっ!? 無理しないで休んでなさいよ!」
「いえ、大丈夫です」
「大丈夫じゃないわよ! あの獣、番と引き離されたって、相当荒れてるらしいのよ? そんな状態の獣にあなたを引き合わせたらどうなるかわからないじゃないっ!?」
「先生。わたしは、自分の実験結果が知りたいのです。彼の誤認や詐欺ではなかったと仮定して。わたしが彼の『番』であったとして。わたしは彼の『番』を外れられたのか」
「……ああもう、わかったわよ! それじゃあ、武装した警備員も同席させること! そして、相手の態度如何によっては武力行使も問わないこと! これが最低条件よ!」
「ありがとうございます。無理を言ってすみません」
「いいわ。番から外れることができるなら、きっとどんなことをしても番をやめたいであろう人は沢山いると思うから。そういう人達の一助になるかもしれないものね」
こうして、わたしは獣人の彼と再び会うことになった。
厳重警戒の中、わたしを見た彼は――――
「あ、れ? 一体、どういうことなんだっ!?」
不可解という顔をし、次いで怒りを乗せて怒声を上げました。
「貴様っ、俺の番であることを偽っていたのかっ!?」
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