【完結】護衛騎士と令嬢の恋物語は美しい・・・傍から見ている分には

月白ヤトヒコ

文字の大きさ
上 下
5 / 8

護衛騎士と令嬢の恋物語は美しい・・・

しおりを挟む


「ぁ……まっ、待ってくださいっ!?」
「まだなにか?」
「そ、その、妊娠はわたくしの間違いだったかもしれません! だ、だからそのっ、婚約解消の話はなかったことにしてくださいっ!?」
「え? な、なにを言ってるんだっ?」

 彼女の上げた声に、ぎょっとした顔をする男。

 まぁ、彼女の今の発言に関しては、俺も『なに言ってんだ?』に激しく同意する。

「結構です。自分で俺との交流を拒んでおきながら、寂しい・・・からと不貞を犯し、金もコネも無いと判った途端に不貞相手を捨てて、その直前に捨てたに縋るような女は、こちらの方から願い下げだ」
「待って! わたくし、本当はあなたのことを愛していたのっ!?」
「それが本当なら、更に軽蔑するが?」
「え?」

 なんでショックを受けた顔をするんだか? 全く・・・

「俺が忙しく働いていたのは、あなたと結婚するためだ。そのための準備をしていた。なのに、その努力を踏みにじったのは君だ」

 そもそも、俺は自分が冷遇されて悦ぶような特殊な性癖を持っていない。年下の貴族令嬢として、尚且つ婚約者として遇していただけだ。

「そして、その不貞理由が『寂しい』から? 幾ら本意ではない婚約とは言え、俺のことを商人風情と見下していようとも、だ。婚前に、婚約者以外の男の子を孕むような女は、貴族令嬢失格ではないのか? 仮令たとえ、婚前の妊娠で孕んでしまった子が婚約者の子であったとしても、多少の白い目で見られるというのに。それを、『寂しいから』という理由で不貞して妊娠した? その理屈だと、君は寂しいと、そこらの男に身体で慰めてもらうと宣言しているようなものだ。平民でも、そんな逞しくて図々しい女はなかなか見ないぞ。俺は、生まれた子が本当に自分の子か? だなんて、そんな風に一生疑いながら生きて行きたくはない。厚顔無恥も大概だな」
「そんなっ、酷いわっ!!」

 酷いのはどっちだか? こういう女を母親に持って生まれて来る子供の方が可哀想だとは思わないのか? 全く。

 まぁ、結婚する前に、彼女がそういう女であると知れてよかったかもしれないが。

「では、追って婚約解消と領地の権利譲渡に関しての書類は送りますので。俺はこれで失礼します。ああ、君はもう馘だ。うちの商会で雇うことはない。荷物を取るなら、三日以内に取りに来るがいい」

 と、そう言い残して俺は彼女の家を辞そうとして・・・

「お、お待ちください!」

 と、青い顔で焦る執事に呼び止められた。

「まだなにか?」
「申し訳ございませんでしたっ、どうかお許しを! お嬢様も反省しております、なので、どうか当家をお見捨てにならないでください!」

 必死に頭を下げる執事は、

「護衛騎士と令嬢の恋物語は美しい・・・はたから見ている分には、だがな?」

 俺の言葉に、ハッとしたように顔を上げた。

「そもそもの話、貴族令嬢が、身籠る程の不貞は、一人じゃできないんだよ」
「っ!?」

 無論、相手の男が要ることが前提ではあるが。そういう意味ではなく・・・

「俺のスケジュールを把握していたのは誰だ? 俺の予定を、伯爵よりも知っていたのは誰だ? 俺が、不貞現場にかち合わないように調整していた奴がいるだろう」

 だらだらと執事の額から汗が流れる。

「彼女とあの男を、二人きりにしたのは誰だ? 通常、貴族令嬢が男と密室で二人きりになるなどありえない。相思相愛の婚約者同士でも、婚姻前の男女が完全に二人きりになることは忌避すべきことなのに? ドアを開けておかなかったと? 使用人の誰一人として、そのような気遣いはせず、一切咎めもしなかった、と? 更に言うなら、事後・・の始末や後片付けは誰がした? まさか、彼女が自分でシーツやら服やらを洗濯したとでも? それはそれで、仕えている家の娘をぞんざい……いや、虐待と言っても過言ではない扱いをしていることになるが? 男に襲わせるために、二人きりにした、と?」
「そ、そんなことは滅相もございません! わたくし達使用人一同は決して、お嬢様をぞんざいになど扱ってはおりません!」
「では、お前達が総出で彼女の不貞を手伝っていた、ということだな」


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

それは確かに真実の愛

恋愛
レルヒェンフェルト伯爵令嬢ルーツィエには悩みがあった。それは幼馴染であるビューロウ侯爵令息ヤーコブが髪質のことを散々いじってくること。やめて欲しいと伝えても全くやめてくれないのである。いつも「冗談だから」で済まされてしまうのだ。おまけに嫌がったらこちらが悪者にされてしまう。 そんなある日、ルーツィエは君主の家系であるリヒネットシュタイン公家の第三公子クラウスと出会う。クラウスはルーツィエの髪型を素敵だと褒めてくれた。彼はヤーコブとは違い、ルーツィエの嫌がることは全くしない。そしてルーツィエとクラウスは交流をしていくうちにお互い惹かれ合っていた。 そんな中、ルーツィエとヤーコブの婚約が決まってしまう。ヤーコブなんかとは絶対に結婚したくないルーツィエはクラウスに助けを求めた。 そしてクラウスがある行動を起こすのであるが、果たしてその結果は……? 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

ずっとお慕いしております。

竹本 芳生
恋愛
婚約破棄される令嬢のお話。 アンハッピーエンド。 勢いと気分で書きました。

【完結】土壇場で交代は困ります [おまけ1話更新]

himahima
恋愛
婚約破棄⁈いじめ?いやいや、お子様の茶番劇に付き合ってる暇ないから!まだ決算終わってないし、部下腹ペコで待ってるから会社に戻して〜〜 経理一筋25年、社畜女課長が悪役令嬢と入れ替わり⁈ 主人公は口が悪いです(笑) はじめての投稿です♪本編13話完結、その後おまけ2話の予定です。

断罪されそうになった侯爵令嬢、頭のおかしい友人のおかげで冤罪だと証明されるが二重の意味で周囲から同情される。

あの時削ぎ落とした欲
恋愛
学園の卒業パーティで婚約者のお気に入りを苛めたと身に覚えの無いことで断罪されかける侯爵令嬢エリス。 その断罪劇に乱入してきたのはエリスの友人である男爵令嬢ニナだった。彼女の片手には骨付き肉が握られていた。

勘違いって恐ろしい

りりん
恋愛
都合のいい勘違いって怖いですねー

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。

キーノ
恋愛
 わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。  ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。  だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。  こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、押しと穏やかに過ごしますわ。 ※さくっと読める悪役令嬢モノです。 2月14~15日に全話、投稿完了。 感想、誤字、脱字など受け付けます。  沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です! 恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

お花畑な人達には付き合いきれません!

ハク
恋愛
作者の気まぐれで書いただけ。

処理中です...