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『わたし』は、ゲームの暗殺者。

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「…………」

 ああ、さっきから懸命に動かそうとして頑張っていたお陰か、今指先がぴくりと小さく動いた。

 反応速度は酷く遅くて鈍いけど、どうやら身体は動いてくれるらしい。

 まぁ、『シナリオ通り』に行くなら、『わたし』のこの身体は暗殺者として動ける筈だが・・・そう悠長なことも言ってられない。今、身体が動いてもらわないとわたし・・・が非常に困るのだ。

 『わたし・・・』の、死亡エンドを避ける為にっ!!

 ということで、根性で動けぇぇぇっ!?!?

「……ツェーン。今からお前には、貴族令嬢としての教育を受けてもらう」

 どうにか身体を動かそうと四苦八苦していると、首領っぽいオッサン……ああ、いや、コイツがこの組織のボスだわ。が、わたしへ命令した。

 ツェーンというのは、十という意味。名前ではなく、番号だ。名前を呼ばれなくなり、『わたし』は自分の名前を忘れて久しい……いや、もしかしたら名前なんて最初から無かったのかもしれないけど。

 ちなみに、先程からピクリとも身動ぎせずに倒れている彼女はノインと呼ばれている。九という意味だ。うん、ちょっと思い出した。番号が近いせいか、地獄のような訓練を一緒に受けさせられて……互いに助け合った仲だ。家族、のような関係かもしれない。

 九、十という番号から判るように、彼らにはノインや『わたし』達のようなモノは単なる消耗品。現に、コイツらは倒れている彼女には見向きもしない。『わたし』と年が近い中で、唯一生き残っているのはもう、彼女だけ。

 前世を思い出した今なら、判る。『わたし』達は、コイツらには人間扱いされていないのだと・・・

「では、これより処置をして、動ける状態になればすぐにでも移動をさせる」

 なら、もういいよね?

 『わたし』を、彼女を、ヒロインを人間扱いしない連中に従う必要は無いと思う。彼らに拾われ、彼らに従うように洗脳のような教育を受けて来た『わたし』なら、彼らへ逆らうことなど考えもしなかっただろうけど。

 生憎と、わたし・・・はコイツらに殺された『わたし』とは違う。

 『わたし』の死亡フラグを、『ゲームのシナリオ』が始まる前に、叩き折ってやろう。

 『わたし・・・』は、ゲームの暗殺者。

 『ゲームの中』でヒロイン達がエンカウントしたバトルパートで、『暗殺者』は自分の状態異常を魔術で治したり、HPを回復したりするような厄介な相手だったと記憶している。

 それならきっと、素質がある。今のわたし・・・にも、できる筈だ。目を閉じて、イメージしろ。あのとき、『暗殺者』が使っていた魔術を……

「……解毒デトフィシケイション……」

 吐息のような幽かな音が唇から洩れる。と、今まで動きが鈍かった手が、ぐっと力強く握れるようになった。どうやら、解毒の魔術は成功したようだ。

「なにをしてい、るっ……」
「ぐ、っ……!」

 わたしの動きを察知したオッサンの急所へと拳を叩き込み、もう一人のオッサンへの喉を絞め上げて二人の意識を刈り取る。

「ふぅ……」

 小さく息を吐く。身体動いてよかった~っ!?

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